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経理/財務公認会計士の仕事術 最終更新日:2026/03/05

第71回 比較分析のいろいろ(11) ~B/Sの月次推移分析(その8)

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前回に引き続き「比較分析」をテーマに「B/Sの月次推移分析」についてお送りいたします。本テーマは全8回に記事を分けており、今回は第8回目、最終回となります。

1.はじめに

経理部では、B/SやP/Lの比較分析を行い、経営者などに著増減理由の説明を行う場面も少なくありません。年度決算時の比較分析が重要なことは言うまでもありませんが、年度決算に向けて期中の段階で比較分析を実施することも大事です。

本稿では現在、B/Sの月次推移分析に当たっての着眼点について、科目ごとに説明を進めていますが、今回は「純資産」を取り上げることにします。

2.ケースで考えるB/Sの月次推移分析(その8)

まずは、ある経理部での様子を描いた【ケース11】をご覧ください。

【ケース11】
C社では年度決算作業の真っ最中ですが、経理スタッフたちには混乱が生じているようです。

「損益の割に純資産の減少が大きいけど、配当の影響ってこんなに大きかったっけ?」

「えっ、自己資本比率がこんなに下がっていたなんて……」

「……」


はたして所定の期日までに決算作業は終了するのか、心配な状況です。
【ケース11】には、年度決算作業の段階で純資産に関わるいろいろな問題が発覚して、経理スタッフたちが混乱している様子が描かれています。ここで挙がっているような問題について、年度決算を迎えてから対応するのではなく、期中のもっと早い段階から対応するためにも、是非B/Sの月次推移分析を実施したいところです。

以下では、B/Sの月次推移分析について、主要な勘定科目ごとに着眼点を考えてみようと思います。


着眼点9 純資産
本稿ではこれまで、いろいろなB/S項目の月次推移分析について説明してきました。それらの項目と比べると、多くの中小企業では純資産の変動はシンプルと言えるかもしれません。

(1)純資産の増減要因
①損益の計上に伴う純資産の増減

基本的には月々の純利益分が純資産の増加となり、純損失が純資産の減少となります。これが純資産の最も典型的な変動要因です。損益(P/L)には注意を向けていても純資産(B/S)にはほとんど注意を向けていないことがありますが、損益が思った以上に純資産に大きな影響を及ぼしていることもあり得ます。特に損失の計上に伴う純資産の減少を ウォッチしていないと、財務の安全性に懸念が生じているといった事態になりかねません(後述「(2)純資産残高の水準はどれくらいか」参照)。

ただし、月次決算をきっちり行っている中小企業は必ずしも多くはないと思われます。例えば、棚卸資産の受払記録を付けていない場合など月末の棚卸資産残高をつかんでおらず、月々は商品仕入高をそのまま売上原価に計上しているケースがあるでしょう。また、月々は支払時に費用計上していて発生ベースで費用計上してはいないケースもあるでしょう。こうしたケースでは、月々の損益自体が仮の数値といった位置付けになるので、純資産の推移を ウォッチする意味は薄れます。月々の損益算定の精度を高めることが望まれますが、それが難しい場合には、例えば、中間決算や四半期決算など、ある程度の精度で決算を行ったタイミングで、忘れずにその時点での純資産の水準の変動状況を ウォッチすることを心掛けましょう。

②配当に伴う純資産の減少

配当を行っていない企業も少なからずあると思いますが、配当を行っている場合には、株主総会で配当の決議がされた際に、通常は「その他利益剰余金」から「未払配当金」への振替が行われます。つまり「純資産の減少」と「負債の増加」の処理がされます。ただし、配当がある場合でも、その時期は定時株主総会の時期など、限られた時期にだけ生じるので、配当によって純資産が月々変動するわけではありません。

そのため、配当に伴う純資産の減少については、通常、経理部はその事実をつかんでいるはずなので、その認識どおりの動き(=減少)が月次推移に現れているかという観点で ウォッチすれば良いでしょう。なお、配当に関しては、手続きや限度額、配当に伴う利益準備金の積立てなど、会社法の定めに準拠する必要があるので、経理部としてもそうした観点でのチェックをしておいたほうが良いでしょう。

③増資に伴う純資産の増加

増資を行って純資産が増加する場合 、通常、経理部はその事実をつかんでいるはずなので、その認識どおりの動き(=増加)が月次推移に現れているかという観点で ウォッチすれば良いでしょう。なお、増資に関しても会社法の定めに準拠する必要がありますし、増資額によっては中小企業としての税務上の優遇措置の対象から外れてしまうこともあるので、経理部としてはそうした観点でのチェックもしておいたほうが良いでしょう。

④その他の純資産の増減

保有する有価証券の時価評価を行って評価差額を純資産に計上するとか、自己株式の取得・処分を行ったなど、いくつかのケースで純資産が変動しますが、中小企業ではそれほど多くはないでしょう。

(2)純資産残高の水準はどれくらいか
純資産の増減については、以上のような点に注意する必要がありますが、純資産残高がどのくらいの金額水準かは重要なチェックポイントの一つとなります。純資産残高が潤沢な場合はあまり問題とはなりませんが、中小企業では十分な純資産残高が確保されていないことも少なからずあります。

例えば、財務の安全性をみる重要な経営指標として、自己資本比率があります。純資産残高が大きく減少した際などには当該指標もチェックしておくと年度決算で慌てなくて済むかもしれません。

自己資本比率= 自己資本(純資産) ÷ 総資本
損失額は同じでも、純資産が大きい企業と小さい企業とでは、その影響は全く異なると言えます。純資産残高の金額水準を頭においておけば、損失がどのくらい出ると純資産にどのくらいの影響がありそうかを想定しておくこともできます。

3.おわりに

本稿ではここまで8回にわたって、期中の段階で行われるB/Sの月次推移分析について、主要な科目ごとに着眼点を説明してきました。今回の「純資産」をもって、B/Sの月次推移分析の説明は一区切りを付けたいと思います。

B/Sの月次推移分析の説明では、例えば次のようなことを取り上げました。
  • 月次推移で著しい増減が生じているところに着目し変動理由を調査する。
  • 残高だけでなく経営指標なども併せて分析してみる(回転期間など)。
  • 仮の処理や不明確な処理のまま放置しないようにする(仮勘定、その他勘定など)。
  • B/S科目と関連するP/L科目の計上額の整合性をチェックしてみる(借入金と支払利息など)。
必要以上にB/Sの月次推移分析に労力を割く必要はありませんが、期中のうちに分析をし、気になる部分などがあれば対応をしておくことで、年度決算時に集中してしまいがちな業務を前倒しで実施することにもなり、結果的に年度決算時の業務負担の軽減にもつながります。

これまで取り上げた事項から取捨選択し、また自社に合致するようアレンジして、実務の中で活かして頂ければ幸いです。


(提供:税経システム研究所)
**********

いかがでしょうか。「B/Sの月次推移分析」についてのご説明を全8回に渡りお送りしました。
次回は別科目、「第72回 比較分析のいろいろ(12) ~中小企業実態基本調査の活用(その1)」が始まります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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