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経営上場(IPO) 2022/12/06

東京証券取引所「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の 3区分への見直しで何が変わるのか?

2022年、東京証券取引所は「プライム」、「スタンダード」、「グロース」の3つの区分に見直されました。
市場区分の変更はどういった理由で行われたのでしょうか。新市場区分のコンセプトや上場基準など、IPOを目指す企業や経営企画の目線からチェックしておくべき内容を解説します!

東京証券取引所の区分見直しの理由と市場区分の概要

これまで東京証券取引所には「市場第一部」、「市場第二部」、「マザーズ」、「JASDAQスタンダード」、「JASDAQグロース」の5つの市場区分がありました。
この5つの区分は、2013年に東京証券取引所と大阪証券取引所が市場を統合した際に、それぞれの市場の区分を変更せずそのまま引き継いだものです。
これらの市場区分については、次のような課題が指摘されていました。

  • 各市場区分のコンセプトが曖昧で、投資者にとっての利便性が低い
  • 上場企業の持続的な企業価値向上への動機づけに乏しい
  • 新興市場の役割が重複している
これまでの市場区分は、それぞれのコンセプトの違いがわかりにくく、投資家にとって便利とは言えない状況になっていました。
また、上場企業であっても株式の多くが安定株主で占められており、市場に流通している株の量が少ない、株式の流動性が低いなどといった状態の企業が多く見られました。
さらに、上場廃止基準が新規上場基準よりも大幅に低いことで上場後に成長が停滞してしまう企業が多いことや、一部市場への新規上場よりも他市場からの移行の基準が緩く、上場企業が企業価値を向上しにくいなど、企業の成長に対して市場が十分に役立てていないことが指摘されていました。


市場区分見直しの概要
指摘されてきた課題を踏まえてこれまでの市場区分を廃止し、「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」という3つの市場区分を2022年からスタートすることになりました。
旧区分でもともと上場していた企業であっても、そのまま新区分に移るということはなく、新区分の市場で上場するにはそれぞれの市場で求められている上場基準を満たす必要があります。

※「TOKYO PRO Market」については区分見直し後も運用されますが、主な投資家が特定投資家などに限られている市場のため、解説を省略しています。

新市場区分について(コンセプト、上場基準)

今回の市場区分の見直しは、上場企業の持続的な成長と企業価値の中長期的な向上を支え、国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な市場を提供する、という目的で行われました。
各市場のコンセプトは以下の通りです。

プライム市場 多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
スタンダード市場 公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場
グロース市場 高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場
※出典:東京証券取引所「市場区分見直しの概要

プライム市場は、新市場区分のうち最上位の市場です。流動性やガバナンス水準などで一定の高い基準が設けられており、それをクリアした企業のみが上場を許されます。
スタンダード市場は、新市場区分のうち中間に位置づけられており、十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場とされています。上場基準はプライム市場よりは少し緩和されているものの一定の基準が設けられています。
グロース市場は、新市場区分のうち、比較的規模の小さいベンチャー企業などが参加する市場です。高い成長可能性を有する企業である一方、事業実績などではまだリスクの高い企業向けの市場とされています。


新市場区分における新規上場基準
新たな市場では、各市場がコンセプトを満たせるよう、市場ごとに定められている新規上場基準や、上場維持基準などの上場基準を満たす必要があります。
上場基準を考えるにあたってまず重要なのが、株式の流動性です。
経営者などの一部の株主だけで支配されている企業は投資を避けられる傾向にあるため、より上位の市場に上場する企業ほど、流通株式比率などの流動性についても高い水準で維持することが求められます。
なお、流通株式比率の要件については、JASDAQなどの旧市場では求められなかった基準のため、オーナー系企業では新たな対応が求められることとなります。
また、市場によって原則は異なるものの、コーポレートガバナンス・コード(2015年から適用されている上場企業が守るべきガイドライン)についても、全上場企業での遵守が求められます。
ほかに経営成績や財政状態についても、各市場のコンセプトに沿った異なる基準が設けられています。
各市場で新規上場するにあたっての基準は以下の通りです。

プライム市場 スタンダード市場 グロース市場
流通株式比率 35%以上 25%以上 25%以上
流通株式時価総額 100億円以上 10億円以上 5億円以上
コーポレートガバナンス・コードの適用 一段高い水準の内容を含むコードの全原則 コードの全原則 基本原則のみ適用
経営成績
財政状態
  • 直近2年間の利益合計が25億円以上、または、売上髙100億円以上かつ時価総額1,000億円以上
  • 純資産が50億円以上
  • 最近1年間の利益が1億円以上
  • 純資産がプラス
  • 事業計画及び成長可能性に関する事項が適切に開示されていること
事業継続年数 3年以上 3年以上 1年以上
※出典:東京証券取引所「市場区分見直しの概要

このほか、実質基準といわれる、企業内容の開示などの基準も満たす必要がありますので注意してください。
2022年11月時点では、プライム上場企業が1,837社、スタンダード上場企業が1,450社、グロース上場企業が498社となっており、1月の事前アンケートと比べるとグロース上場企業を選ぶ企業が増えたという結果となりました。

なお、既存の上場企業については、当面は上記基準を満たしていない企業でも「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出することで、暫定的に融和された基準で市場に残ることができます。ただし、今後の猶予期間は未定です。

※参考資料:三井住友DSアセットマネジメント「東証が新市場区分の選択結果を発表」

各市場で必要な対応

市場の再編にあたって、これまでは上場に不要だった対応が新たに求められるようになりました。


プライム市場の英文開示
上場企業に適用されるコーポレートガバナンス・コードについて、区分見直し前と見直し後を比較すると以下の通りです。

区分見直し前
基本原則 原則 補充原則
市場第一部・第二部
マザーズ
JASDAQスタンダード
JASDAQグロース
区分見直し後
基本原則 原則 補充原則
プライム市場
(より高水準なコードも遵守)

(より高水準なコードも遵守)
スタンダード市場
グロース市場
コーポレートガバナンス・コードは全上場企業に適用されますが、プライム市場上場企業では、より高い水準での遵守が求められています。
特に実務で話題になっているのが、プライム市場上場企業は開示書類の情報について英語での開示・提供を行うべきとされている点です。
東京証券取引所が行った調査によると、特に海外投資家から英文開示の要望が強かった決算短信については、プライム市場移行企業の73.3%が英文開示を行うとしており、前年比で10%以上向上しています。
このほか、IR説明会資料や株主総会招集通知についても、英訳を提供する企業が増えています。
新市場への移行を機に、上場企業での取り組みが改善しているといえるでしょう。

※参考資料:東京証券取引所「英文開示実施状況調査結果(2021年度)の公表について


グロース市場の流通株式比率
先述したコーポレートガバナンス・コードの遵守表からもわかる通り、マザーズ上場企業やJASDAQグロース上場企業の多くは、より基準の近いグロース市場を選択しています。
今後上場を考えている企業は、まずは、グロース市場を目指すことが多いかと思います。
これまで最初に目指すことが多かったマザーズ市場やJASDAQグロース市場は、市場一部・二部上場企業と比較して上場基準が緩やかでしたが、グロース市場では「流通株式比率が25%以上」という条件を満たす必要があります。
そのため、上場を検討する際には流通株式比率流通株式をはじめとした、株式の流動性についても意識しておきましょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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東京証券取引所の新たな市場区分についてご理解いただけたでしょうか。株式市場はグローバルに展開されているため、今回の市場区分の見直しは日本だけでなく海外でも大きく注目されることになりました。新市場では、日本の上場企業に投資がしやすくなる様々な基準が設けられていることから、より日本の市場への安心感が増し、国内外からの投資が活発になるものと考えられます。

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