基幹業務システムを使って経理業務を行っている企業では、売上や仕入、在庫、固定資産といった数字は、現場の業務データがシステムを通じて会計へ引き継がれることで作られています。
その流れを裏側で支えているのがSAPです。
こうした仕組みを前提に経理業務が成り立っている企業にとって、今、無視できないのが「SAPの2027年問題」です。
本記事では、SAPを使って経理業務を行っている企業を前提に、数字がどのように作られているのか、2027年以降に何が変わるのか、そして経理担当者として何を意識すべきかを整理します。
SAPの2027年問題とは
SAP(エス・エー・ピー)とは、ドイツのSAP社が提供している基幹業務システム(ERP)の名称です。
SAPは日本国内でも主要ERPベンダーの一角を占めており、基幹業務を支える中核システムとして広く利用されています。
また、SAP公式の発表によれば、世界中の商取引売上の87%はSAPの顧客企業によって生み出されているとされており、グローバルでも大きな影響力を持っています。
SAPは販売や仕入、在庫、固定資産など、会社のさまざまな業務データを一つの仕組みで管理し、会計の数字へと連動させるために使われています。
会計ソフトのように経理部門だけが使うものではなく、企業全体の業務を一つの流れとして管理する役割を担っており、具体的には次のような日々の業務で使われています。
- 現場で入力された受注や出荷の情報
- 仕入や検収の情報
- 在庫の増減や移動の記録
- 固定資産の取得や除却の管理
これらの情報は、個別にバラバラに管理されているのではなく、SAPを通じて集約され、あらかじめ決められたルールに従って自動的に会計の数字へと変換されます。
その結果、経理担当者が一つ一つ仕訳を入力しなくても、日々の業務の積み重ねとして決算書の数字が作られていく仕組みになっています。
このようにSAPは、経理担当者が数字を入力するためのツールというよりも、企業全体の業務から数字が生まれる流れそのものを支える存在だといえるでしょう。
※参考資料:SAP Japan Co., Ltd. 「SAP、2024年度第1四半期の業績を発表」
SAP ERP 6.0(ECC)のサポート終了
SAPの2027年問題とは、2027年末をもって、SAP社による「SAP ERP 6.0(ECC 6.0)」の通常サポートが終了することを指します。
SAP ERP 6.0は、現在多くの企業で利用されているSAPの基幹業務システムです。
サポート終了と聞くと、「問い合わせができなくなる」、「新しい機能が追加されなくなる」といったIT面の影響を想像するかもしれません。
しかし、SAP ERP 6.0は日々の業務データを会計の数字へ変換する中核的な仕組みであるため、そのサポート終了は、経理業務にも無関係ではありません。
なお、SAPはSAP ERP 6.0に対して一定期間の延長保守(Extended Maintenance)を提供する方針を示しています。
ただし、追加費用や制限があるため、長期的な利用は現実的ではありません。
※参考資料:SAP Japan Co., Ltd.「未来を舵取りする:SAPとともに歩むクラウドジャーニー」
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SAP ERP 6.0の保守終了が経理業務に与える影響
SAP ERP 6.0の保守終了は、単なるシステムの期限ではなく、経理業務の進め方そのものに影響を及ぼす問題です。
この章では、なぜ保守終了が経理担当者の業務を直撃するのか、そして現場でどのような実務リスクが生じるのかを整理します。
SAP ERP 6.0の保守終了が経理業務を直撃する理由
基幹業務システムを使って経理業務を行っている企業では、仕訳入力の前に、現場の業務や各種システムの処理が動いています。
会計の数字は、こうした現場の業務を経て、経理部門に流れ込んでくる仕組みになっています。
例えば、日々の業務の裏側では、次のような流れが常に動いています。
- 受注や出荷の情報が、売上や売掛金の数字になる
- 仕入や検収の情報が、仕入や買掛金の数字になる
- 在庫の移動が、棚卸資産の金額に反映される
- 固定資産の取得が、減価償却の計算につながる
これらの処理は、経理担当者が一件ずつ仕訳を手入力しているわけではありません。
現場で発生した取引データがSAPに集められ、あらかじめ決められた勘定科目や税区分、計上ルールに従って、自動的に会計の数字へと変換されています。
つまりSAPは、各部門で発生する業務データを会計へ流し込む「数字の出発点」です。
経理担当者はその下流で、集約された数字に誤りがないかを確認し、決算関連の数値として確定させ、その内容を経営層や監査人に説明する役割を担っています。
この仕組みが安定しているからこそ、経理担当者は数字の正確性や再現性を前提に、決算や税務、監査対応を行うことができます。
しかし、この前提となる仕組みが不安定になると、経理業務の負担は一気に増えます。
これが、SAP ERP 6.0の保守終了が、単なるシステム上の問題にとどまらず、経理業務そのものに直接的な影響を及ぼす理由です。
SAP ERP 6.0の保守終了がもたらす実務上のリスク
保守終了が近づくと、経理担当者の現場では、すぐに大きなトラブルが起きるわけではないものの、これまで当たり前にシステムに任せていた処理が、少しずつ成り立たなくなっていきます。
税務や制度対応への影響
消費税区分の判定やインボイス制度、電子帳簿保存法などについて、制度改正にシステムが追いつかなくなる可能性があります。
その結果、システムで自動処理されていた内容を、Excelで補正したり、目で確認したりする作業が増えていきます。
不具合の修正やセキュリティ対応
不具合の修正やセキュリティ対応が十分に行われなくなることで、決算期にトラブルが起きても、システム側で対応できない場面が出てきます。
原因がわかっていても手を入れられず、経理担当者が暫定対応で乗り切らざるを得ない状況も増えていきます。
周辺システムとの連携
請求や入金、経費精算などの周辺システムとの連携が不安定になることで、数字の不整合が発生しやすくなります。
その都度、原因を調べ、データを突き合わせる作業に時間を取られるようになります。
こうした状態が続くと、次第に「SAP上の数字をそのまま信じられない」、「最終的にはExcelで補正した数字が正解になる」といった状況が常態化します。
これが毎月・毎期続けば、決算の進め方そのものが担当者頼みとなり、再現性が失われていきます。
その結果、なぜその数字になったのかを説明できない、担当者が変わると同じ決算を再現できない、監査や税務調査で追加説明が増えるといった問題が起こりやすくなります。
これらの影響は、単に「システムが使いにくくなる」「手間が増える」という話ではありません。
決算の正確性、再現性、説明可能性といった、経理業務の根幹を直接揺るがす問題です。
だからこそSAPの2027年問題は、単なるITの更新期限ではなく、経理の信頼性そのものに直結する経営課題として捉える必要があるのです。
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SAP ERP 6.0の保守終了後に選ぶ、基幹業務システムの選択肢
SAP ERP 6.0の保守終了後も、引き続き基幹業務システムを使って経理業務を行うためには、システムの見直しが必要になります。
その対応として、企業が選べる選択肢は大きく分けて二つです。
一つは、SAPの後継システムであるSAP S/4HANA(エス・エー・ピー エスフォー・ハナ)へ移行することであり、もう一つは、SAP以外のERPへ移行することです。
どちらを選ぶかによって、経理担当者の業務の進め方や、数字との向き合い方は大きく変わってきます。
SAP S/4HANAへの移行
SAP S/4HANAは、これまで使われてきたSAP ERP 6.0の後継となる、新しい基幹業務システムです。
単なるバージョンアップではなく、データの持ち方や画面構成が見直され、経理が扱う数字の見え方そのものが変わります。
経理担当者の立場で見ると、主に次のような変化が期待できます。
- 売上や原価、損益といった財務データを、よりリアルタイムに把握できる
- 月次や四半期決算を、これまでより早く締められるようになる
- 仕訳の起票や照合といった作業の自動化が進む
- 「いつ・誰が・どの数字を扱ったか」といった履歴管理が強化され、監査対応がしやすくなる
これにより、経理担当者は「締めることに追われる役割」から、数字を早く把握し、経営判断を支える役割へと、仕事の幅を広げる余地が生まれます。
SAP以外のERPへの移行
一方で、SAPにこだわらず、国産ERPやクラウド型のERPへ移行する企業も増えています。
これらのシステムには、次のような特徴があります。
- 日本の税務制度や商習慣への対応が比較的早い
- 画面や操作がわかりやすく、現場になじみやすい
- 導入や運用の負担を抑えやすい
ただし注意が必要なのは、SAPで行っていた管理を、すべて同じように引き継げるとは限らない点です。
原価管理やグループ企業の管理などについて、必要性を整理しないまま移行すると、後になって「欲しい数字が取れない」、「経営に使えない」といった問題が起きやすくなります。
そのため、どのERPを選ぶかは、「今の経理業務で何を管理しているのか」、「経営にとってどの数字が重要なのか」を基準に、経理担当者自身が関与して判断することが重要です。
経理部門が今すぐ取り組むべき実務対応
ここからは、SAP ERP 6.0保守終了に備えるうえで、経理担当者が行うべき実務対応を紹介します。
現行SAP ERP 6.0の「依存点」を整理する
経理担当者がまず取り組むべきことは、現在の経理業務が、どの数字を、どのシステム機能やデータ連携に依存して成り立っているのかを把握することです。
SAPを使っている企業では、日々の経理業務がシステムの裏側に強く支えられており、その依存関係を正しく理解しないまま移行を進めると、後から大きな混乱が生じやすくなります。
具体的には、次のような項目について整理しておくことが重要です。
- 売上や仕入の計上
- 在庫の管理や評価
- 固定資産の管理と減価償却
- 消費税区分や税計算の処理
- 決算や管理に使っている帳票
- 請求・入金・経費精算などの周辺システムとの連携
これらを棚卸しすることで、「どの業務が止まると決算に直結するのか」、「移行時に特に注意が必要なポイントはどこか」が見えてきます。
決算と税務を軸に、経理要件を定義する
ERPの移行で最も重要なのは、新しいシステムで正しく決算ができるか、そして税務や監査に耐えられるかです。
画面の使いやすさや導入コストだけを基準にすると、移行後に経理の負担が一気に増えるケースも少なくありません。
経理部門としては、次の視点を軸に要件を整理していく必要があります。
- この仕組みで、毎月・毎期きちんと締められるか
- なぜその数字になったのかを、後から説明できるか
こうした観点から、経理が主体となって要件を定義し、システム選定や移行プロジェクトに関与することが、移行後の混乱を防ぐうえで重要です。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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SAPの2027年問題は、SAP ERP 6.0の保守終了という単なるIT課題ではありません。
経理・決算・税務・監査などといった「企業の数字」の信頼性そのものを揺るがしかねない重大な問題です。
重要なのは、どのシステムを選ぶかではなく、経理部門が主体となって自社の業務と数字の作り方を整理し、準備を進めておくことです。
これは、2027年を見据えて「これからの経理をどう設計するか」を考える経営課題だといえるでしょう。