監査現場はミスが許されない現場であり、問題を見落とさないため、あるいはミスを起きにくくするために公認会計士が使っている仕事術があります。
ただし、いくらミスが許されない現場だと言っても、ミスをしなければどんなに時間をかけても良いわけではありません。「スピード」重視、これも監査現場における重要な課題の1つです。
そこで今回は、スピードが重視される現場である点にスポットを当て、期限オーバーを防ぐ仕事術を取り上げることにします。
経理/財務公認会計士の仕事術 2024/10/11
第5回 「段取り」で期限オーバー防止
前回はミスを限りなく少なくするための仕事術をお送りしました。今回はその上で素早く仕事を行う「スピード」についての仕事術をお届けします。
1.はじめに
2.スピード重視の監査現場、期限オーバーにならないために行われていたこととは?
監査現場に見る数々の課題の1つとして「スピード重視の監査現場」であることが挙げられます。
監査というのは、法令などで期限が決まっており、絶対に遅れることができない仕事です。しかも3月決算会社が圧倒的に多く、監査のメンバーもそれぞれがいくつものクライアントを受け持っているため、万が一1つのクライアントの業務が期限に完了しないといった事態になったら、他のクライアントの業務にも大きな影響が出かねません。いわば限られた時間の中で業務を完了させなければならないという「スピード」重視の仕事でもあったのです。
仕事を速く行うためには、「自分自身の作業を速くこなす」ことと、「段取りよく仕事を進めること」が重要となります。作業を速くこなすためには、自分自身の知識や実務経験を増やすといった仕事の土台となる部分によるところが大きいでしょう。そこで、ここでは後者の方にスポットを当て、段取りよく仕事を進めるための仕事術を紹介することにします。
手待ち時間の発生を回避する上で特に重視したいのは「事前依頼」です。当たり前のことではあるのですが、案外おろそかになってしまいがちなところでもあります。ここでは、新人会計士の失敗の様子を描いた【シーン1】を使って説明しましょう。
【シーン1】
【シーン2】
その他、次回に同じ失敗をしないように、事前依頼すべき事項などの情報を引き継ぐといったことも大事です。
【シーン3】
ここで大切になるのが「できるうちにやっておく」、つまり「前倒し」という考え方です。今回のケースで「前倒し」でできることはなかったのでしょうか?このケースでは、決算月である3月末ではなく、前月末あるいは前々月末などを基準日として滞留債権や滞留在庫を検証するという選択もできたはずなのです。例えば、1カ月前倒しして、2月末を基準にして、5ヶ月以上滞留している債権や在庫を抽出し検証を進めておくのです。この中には3月に回収したり販売したりして、滞留が解消されてしまうものも含まれるでしょうが、基準日を1カ月前倒しすることで、時間の取れるうちに必要な検証を済ませておくことができ、結果として期限に余裕を持って業務を完了することができるという訳です。
決算に関連した前倒しの例として、次のようなものも考えられます。
監査というのは、法令などで期限が決まっており、絶対に遅れることができない仕事です。しかも3月決算会社が圧倒的に多く、監査のメンバーもそれぞれがいくつものクライアントを受け持っているため、万が一1つのクライアントの業務が期限に完了しないといった事態になったら、他のクライアントの業務にも大きな影響が出かねません。いわば限られた時間の中で業務を完了させなければならないという「スピード」重視の仕事でもあったのです。
仕事を速く行うためには、「自分自身の作業を速くこなす」ことと、「段取りよく仕事を進めること」が重要となります。作業を速くこなすためには、自分自身の知識や実務経験を増やすといった仕事の土台となる部分によるところが大きいでしょう。そこで、ここでは後者の方にスポットを当て、段取りよく仕事を進めるための仕事術を紹介することにします。
(1)手待ち時間の発生を回避する ~事前依頼~
手待ち時間の発生、これは段取りよく仕事を進める上でできる限り回避しなければならないことです。どんなに個々の検証業務を効率的に進めようとも、それぞれの業務の間に多くの手待ち時間が発生していたら、とても仕事のスピードを速くすることはできません。手待ち時間の発生を回避する上で特に重視したいのは「事前依頼」です。当たり前のことではあるのですが、案外おろそかになってしまいがちなところでもあります。ここでは、新人会計士の失敗の様子を描いた【シーン1】を使って説明しましょう。
【シーン1】
とあるクライアントの監査で、販売取引の検証を担当することになっている新人会計士のSさん。現場に入って早速、販売取引明細など関連する帳簿類を用意して頂くようクライアントの担当者に依頼しました。しかし、担当者も忙しいようで帳簿類が揃ったのは2時間後でした。
次にSさんはこの帳簿類から検証対象とする販売取引のサンプルを25件ピックアップしました。各サンプルについて、受注・出荷・検収・請求・回収といった一連の業務に関連した証憑類を用意して頂くよう依頼しました。
Sさんは、証憑類が出てくるのを今か今かと待っていますが一向に出てくる気配がありません。その日のうちに出てきたのは一部の取引の請求書と回収に関する証憑だけでした。結局、依頼した証憑類がそろったのは翌日の午後遅くなってからでした。
だいぶ焦りが出ているSさんは、急いでこれらの証憑類のチェックを始めました。合わせて、クライアントの担当者に対してヒアリングをしようと連絡したところ、あいにく外出しているとのこと。翌日も会議の予定がつまっており、時間がないようです。「夕方20分だけなら何とか時間が取れます」と言われ、Sさんはヒアリングを行ったものの、あっという間に20分が経過。そうこうしているうちに期限オーバーとなってしまいました。
いかがだったでしょうか?Sさんの仕事に欠けていたのは「事前依頼」です。事前依頼をしていなかったがために、帳簿類を用意して頂く際の手待ち、証憑類を用意して頂く際の手待ち、そして担当者にヒアリングする際の手待ちなどが発生してしまい、とうとう期限内にやるべき業務を終えることができなかったのです。次にSさんはこの帳簿類から検証対象とする販売取引のサンプルを25件ピックアップしました。各サンプルについて、受注・出荷・検収・請求・回収といった一連の業務に関連した証憑類を用意して頂くよう依頼しました。
Sさんは、証憑類が出てくるのを今か今かと待っていますが一向に出てくる気配がありません。その日のうちに出てきたのは一部の取引の請求書と回収に関する証憑だけでした。結局、依頼した証憑類がそろったのは翌日の午後遅くなってからでした。
だいぶ焦りが出ているSさんは、急いでこれらの証憑類のチェックを始めました。合わせて、クライアントの担当者に対してヒアリングをしようと連絡したところ、あいにく外出しているとのこと。翌日も会議の予定がつまっており、時間がないようです。「夕方20分だけなら何とか時間が取れます」と言われ、Sさんはヒアリングを行ったものの、あっという間に20分が経過。そうこうしているうちに期限オーバーとなってしまいました。
【シーン2】
とあるクライアントの監査で、販売取引の検証を担当することになっている中堅会計士のTさん。販売取引のサンプルをピックアップするために必要となる販売取引明細など関連する帳簿類をいついつまでに用意しておいて頂くよう、余裕を見てクライアントの担当者に依頼します。用意できていることを確認の上、クライアントを訪問し、販売取引のサンプルをピックアップし、関連する証憑類をいついつまでに用意して頂くよう依頼します。
また、これらの証憑類をチェックした上で担当者にヒアリングする必要があるので、担当者と事前にヒアリングの日程調整をしておきます。
事前依頼をしておいたので、Tさんは現場に入ってすぐに証憑類のチェックに取り掛かることができ、業務はスムーズに進みます。証憑類をチェックする過程で出てきた疑問点も、担当者へのヒアリングの日程調整ができていますから順調に行うことができました。Tさんは、チェックすべきことをしっかりと行ったうえ、期限内に業務を終えることができたのです。
このように、事前依頼をすることで手待ち時間の発生を回避することができますので、監査以外の現場においても徹底したいところですが、事前依頼をする上では次のような点に留意して、ボトルネックになりそうな部分に特に気を付けるようにすると良いでしょう。また、これらの証憑類をチェックした上で担当者にヒアリングする必要があるので、担当者と事前にヒアリングの日程調整をしておきます。
事前依頼をしておいたので、Tさんは現場に入ってすぐに証憑類のチェックに取り掛かることができ、業務はスムーズに進みます。証憑類をチェックする過程で出てきた疑問点も、担当者へのヒアリングの日程調整ができていますから順調に行うことができました。Tさんは、チェックすべきことをしっかりと行ったうえ、期限内に業務を終えることができたのです。
- ・準備に時間がかかるかどうか
- ・その業務の遅れが、他の業務に多大な影響を及ぼすような業務かどうか
- ・その人がいないと進まないような業務かどうか
その他、次回に同じ失敗をしないように、事前依頼すべき事項などの情報を引き継ぐといったことも大事です。
(2)できるうちにやっておく ~前倒し~
3月決算のクライアントが圧倒的に多い監査現場では、3月の決算数値が固まった後に何でもかんでも検証しようとしたら、とても期限内に仕事を終えることはできません。そのため、「できるうちにやっておく」ということが大切で、会計士というのは、業務を進める際には絶えず「前倒し」でやっておけることがないかを考えていました。ここでは、新米現場主任の会計士の失敗の様子を描いた【シーン3】を使って説明しましょう。【シーン3】
とある3月決算のクライアントの監査で、はじめて現場主任を担当することになったM会計士。滞留債権や滞留在庫について必要な評価損が計上されているかどうかを部下の会計士に検証させることにしました。3月の決算数値が締まるのを待って、クライアントの売掛金や商品在庫の帳票類から6ヶ月以上滞留している債権や在庫を抽出するように指示し、滞留状況や債権の回収可能性、商品在庫の販売可能性を検証させることにしました。3月の決算数値が締まったのが4月下旬、検証対象とする滞留債権・滞留在庫を抽出するための元データをクライアントに用意してもらい、そこからようやく検証対象を抽出できた頃にはもう5月になっていました。部下の会計士がクライアントの担当者に滞留状況や債権の回収可能性、商品在庫の販売可能性をヒアリングしようにも、担当者はゴールデンウィークで連休を取っているとのこと。検証作業が進まないまま監査期限はもう目の前に迫っていました……。
さて、【シーン3】では、新米現場主任のM会計士が滞留債権・滞留在庫の検証を、3月の決算数値が締まるのを待ってから行うように部下の会計士に指示しました。結果的に監査期限が目前に迫っているにもかかわらず、部下の会計士の検証作業は満足に進まない状況に陥ってしまいました。部下に指示する立場の現場主任のM会計士は、どうすれば良かったのでしょうか?ここで大切になるのが「できるうちにやっておく」、つまり「前倒し」という考え方です。今回のケースで「前倒し」でできることはなかったのでしょうか?このケースでは、決算月である3月末ではなく、前月末あるいは前々月末などを基準日として滞留債権や滞留在庫を検証するという選択もできたはずなのです。例えば、1カ月前倒しして、2月末を基準にして、5ヶ月以上滞留している債権や在庫を抽出し検証を進めておくのです。この中には3月に回収したり販売したりして、滞留が解消されてしまうものも含まれるでしょうが、基準日を1カ月前倒しすることで、時間の取れるうちに必要な検証を済ませておくことができ、結果として期限に余裕を持って業務を完了することができるという訳です。
決算に関連した前倒しの例として、次のようなものも考えられます。
(例)
このように、前倒しを心掛ければ、期限ギリギリになって大慌てすることがなくなりますので、決算業務に限らず、繁忙期に偏りがある部門などにおいても、前倒しでできることがないか検討して頂ければと思います。
- ・経理部門が、決算月の前月末を基準日として売掛金の残高確認を実施する
- ・経理部門が、固定資産の増減取引などについては、期中の段階で会計処理を固めておく
- ・経理部門が、損益項目の月次推移の変動原因の調査を、期中のうちにできる月まで進めておく
- ・期末における実地棚卸の直前になって倉庫内の商品の整理整頓を始めるのではなく、日頃から整理整頓しておく
- ・営業管理部門が、決算日を基準に滞留売掛金を調査するのではなく、決算日前に調査を進めておく
- ・経理部門が、従業員に対して行った仮払金を未精算のまま放置せずに、適時に精算させる
3.期限オーバーを防ぐ、スピード重視の仕事術
ここまで「事前依頼」と「前倒し」を挙げて、期限オーバーを防ぐために会計士が行っている仕事術について紹介してきました。
ポイントは次のとおりです。
ポイントは次のとおりです。
①手待ち時間の発生を回避する(=事前依頼)
②できるうちにやっておく(=前倒し)
手待ち時間の発生を回避する、できるうちにやっておくといったことを心掛けて段取りよく仕事をすることで、期限オーバーを防ぎ、スピード重視の仕事に対応できると思いますので、読者の皆様の現場でも進めてみてはいかがでしょうか。②できるうちにやっておく(=前倒し)
(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。いかにミスをしないように気を付けていても、スピードを求められる仕事もやってきます。そんなときに対応するための仕事術を今回はお送りしました。
次回は公認会計士の仕事術で初のシリーズ編になります。お楽しみに!
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。
税経システム研究所