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人事/労務労務管理 2022/12/26

労働保険料とは?申告・納付・還付の方法から仕訳まで徹底解説!

毎月の給与から天引きを行う労働保険料ですが、計算の流れや仕訳について理解できているでしょうか。
今回は、労働保険料の基礎的な会計処理や、還付になる場合の取り扱いについて解説します。初心者も実務担当者も必見です!

労働保険とは?

労働保険とは、労災保険と雇用保険を合わせたものです。
労災保険は、業務や通勤途中で受けた怪我などに保険給付を行い、被災した労働者の社会復帰の促進を行う制度です。一人でも労働者がいる場合には、事業主が加入して適用する必要があります。
雇用保険は、労働者が働けなくなった時やスキルアップを目指して職場を離れる際に給付を行い、生活や雇用の安定を維持するための制度です。要件を満たす労働者を1人でも雇用している事業主は、雇用保険の手続きを行う必要があります。
労働保険のうち、労災保険は保険料の全額を企業が負担しますが、雇用保険は従業員と企業の双方が保険料を負担します。給付はそれぞれ別々で行われますが、保険料の納付や申告などの手続きは一体となっています。


労働保険料の計算の流れ(年度更新)
労働保険料は毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間に支払われる賃金に対して保険料率を掛けて算定されます。この期間のことを保険年度といいます。
労働保険料の手続きは特殊で、毎年6月1日から7月10日までの期間でその年の保険料の申告と納付を概算で行い、その後、翌年度の確定申告で概算分の精算を行う流れとなっています。
そのため、事業主側では、前年度の確定保険料の申告・納付と新年度の概算保険料を納付するための申告・納付の手続きが必要となります。
これが年度更新とよばれる手続きです。
年度更新の手続きは、管轄の労働基準監督署にて行われます。
この手続きが遅れた場合、追徴金が課される場合もあります。


労働保険料の算定方法
労働保険料は、支払った給与の額に対して、業種によって異なる保険料率を掛けて計算します。

労働保険料=支払った給与の額×(労災保険料率+雇用保険料率)

2022年度の労働保険料率は、一般の事業の場合、以下の通りです。(一般の事業のうち、その他の各種事業を前提としています。)
企業負担分 本人負担分
労災保険料率 3/1000
雇用保険料率 6.5/1000 3/1000
※参考資料:厚生労働省「雇用保険料率について

なお、保険料率は、年度や業種によって異なるため、詳細については厚生労働省のホームページを確認してください。

労働保険料の支払いに使用する勘定科目

先述の通り、労働保険料は、全額を事業主が負担する労災保険と、事業主と従業員の双方が負担する雇用保険の2つから構成され、年度更新の際に概算で納付します。
年度更新で支払いは発生しますが、費用として計上すべき時期は保険料の発生時(各月の給与支給時)ですので、概算保険料の納付時点では「前払費用」として会計処理することになります。
その後、毎月の給与を支払ったタイミングで企業が負担する保険料分について「法定福利費」を計上することになります。
なお、従業員が負担する分についても、企業が給与の支給時に保険料相当額を天引きしていますが、これは企業にとって費用になるものではありません。そのため、従業員への給与支給時には「立替金」などの費用ではない勘定科目を使って処理することになります。

労働保険料の納付に係る仕訳

労働保険料の仕訳について、以下を例に解説します。

【例1】
  • 2021年時点の概算の労働保険料:6,000円
  • 2022年時点に2021年分について確定した労働保険料:7,000円
※今回の例では仕訳のイメージをつかんでいただくために、2021年の1年間分のみを考慮して前後の年度の計算については省略することとし、従業員負担分は2,000円とします。

2021年度の年度更新時の仕訳(概算計上)
概算支払時には労働保険料のうち企業負担分を前払費用、従業員負担分を立替金として計上します。
借方 金額 貸方 金額
前払費用 2,400 現預金 6,000
立替金 3,600
※実際は、2021年より前の年度分の確定保険料の支払いなどの仕訳も生じますが、今回の例では省略しています。

2021年中の毎月の給与支払い時の仕訳
毎月の給与の支払時に、企業負担分の労働保険料が費用として確定するので、前払費用から法定福利費に振り替えることになります。
この仕訳のタイミングは、企業の規模によって1年間で精算する場合もあります。今回の例では毎月費用計上することを前提に、2,400÷12=200を法定福利費に計上します。
また、従業員負担分についても同様に、給与の支払い時に従業員から天引きすることになるため、その分、概算支払時の立替金を減少させることになります。

企業負担分の仕訳
借方 金額 貸方 金額
法定福利費 200 前払費用 200
従業員負担分の仕訳
借方 金額 貸方 金額
給料 XX 現預金 XX
立替金 300

2022年度の年度更新時の仕訳(2021年の確定計上)
2021年の確定保険料7,000円は、概算保険料6,000円よりも1,000円分多くなりました。
今回の例ではすべてが企業負担分なので、ここまでで2021年の概算分について費用計上が終わっていると仮定すると、確定時に1,000円だけ法定福利費の追加計上をする必要があります。
借方 金額 貸方 金額
法定福利費 1,000 現預金 1,000
以上が仕訳の流れとなります。使用する勘定科目や途中での仕訳のやり方については、各社で様々ですが、最終的には、損益計算書で法定福利費が7,000円計上されて、貸借対照表でその分の現預金が7,000円減少していることは共通になります。


労働保険料が還付になった場合の処理
続いて労働保険料が還付となった場合の仕訳を解説します。

【例2】
  • 2021年時点の概算の労働保険料:6,000円
  • 2022年時点に2021年分について確定した労働保険料:5,000円
※今回の例では仕訳のイメージをつかんでいただくために、2021年の1年間分のみを考慮して前後の年度の計算については省略することとし、従業員負担分は2,000円とします。

2021年度の年度更新時と毎月の給与支払い時の仕訳は【例1】と同様になります。
2021年の確定保険料5,000円は、概算保険料6,000円よりも1,000円分少なくなりました。今回の例ではすべてが企業負担分なので、ここまでで2021年の概算分について費用計上が終わっていると仮定すると、費用が1,000円分過大に計上されているため、還付時に法定福利費を減少させることになります。
従って2021年の保険料還付時の仕訳は以下の通りです。
借方 金額 貸方 金額
現預金 1,000 法定福利費 1,000
以上から、損益計算書で法定福利費が5,000円計上されて、その分の現預金が5,000円減少しているのが確認できます。
なお、労働保険料の還付金を受取るためには、別途「労働保険料還付請求書」の提出が必要になりますのでご注意ください。

労働保険料の還付額が発生する場合

一般的に、労働保険料の還付額が発生するのは、以下のようなケースです。

概算保険料>確定保険料で、かつ、その差額を、進行年度の概算保険料か一般拠出金の両方またはどちらかに充当しても、その差額に残額が生じる場合

※「一般拠出金」とは、「石綿による健康被害の救済に関する法律」によりアスベスト兼行為被害者の救済費用に充てるため、業種を問わずすべての事業主が負担しなければならないもので、労働保険の年度更新時に併せて申告・納付されます。

このほか、事業を廃止して労働保険料を精算した場合などにも、概算の労働保険料と確定した保険料との差額次第で、還付額が発生することがあります。

労働保険料の還付が発生する場合
さきほどの【例2】でも仕訳を確認しましたが、さらに計算の流れを詳しくした以下の【例3】の前提に基づき、2022年の年度更新時に企業側の還付額がいくらになるかを算出します。

【例3】
  • 概算で納付済の2021年分の労働保険料:2,300,000円
  • 確定した2021年分の労働保険料:600,000円
  • 概算の2022年分の労働保険料:701,000円(うち確定した一般拠出金1,000円)

2022年の年度更新の時点では、企業側で2021年分の概算保険料の精算と確定保険料の精算が行われますが、今回の場合は、2,300,000円から600,000円を差し引いた1,700,000円分が多く納付されていることがわかります。
ただし、この金額すべてが還付になるわけではありません。
1,700,000円から、一般拠出金1,000円か概算の労働保険料700,000円のどちらか、もしくは両方の金額を差し引いた際に、余る金額が発生した場合に還付請求ができます。
この、一般拠出金と概算の労働保険料のどちらを充てるのかは、企業側で選ぶことができます。
仮に両方充当したとすると、1,700,000円から701,000円を差し引いて999,000円の余りが生じることになりますので、999,000円が企業に還付されることになります。

なお、還付額が生じた場合であっても、「労働保険料・一般拠出金還付請求書」を期限内に提出して還付の請求をしない限り、還付はされませんので注意してください。


労働保険料の還付を受けるための手続き
労働保険料の還付を受けるためには、「労働保険料・一般拠出金還付請求書」を管轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
この還付金を受ける権利は2年間とされており、2年を超えるとたとえ還付請求書を提出したとしても還付を受けることはできません。
年度更新の際に還付額が発生した場合には、確定保険料の申告書と併せて、還付請求書を提出してください。また、事業廃止時には事業を廃止した日から50日以内に保険料の申告の提出が必要ですので、その際に還付請求書も併せて提出しておくとよいでしょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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労働保険料についてご理解いただけたでしょうか。労働保険料の計算は、はじめに概算で納付した後に確定した金額と精算を行う必要があるのが、複雑なところです。今回の記事を参考に、会計処理や還付となった場合の手続きについて、実務の参考にしてください。

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