監査現場は「ミスが許されない監査現場」であり、公認会計士は「念には念を」入れる仕事術で問題を見落とさないようにしています。
今回は、「ミスが許されない監査現場」である点にスポットを当て、誰が担当しようとミスを起こしにくくする仕事術、「標準化」について取り上げることにします。
経理/財務公認会計士の仕事術 2024/09/13
第3回 標準化でミス防止
前回は自身が現場でミスをしないようにするための仕事術をお届けしました。今回は、自分以外の人が担当になってもミスを起こしにくくするための公認会計士の仕事術をお届けしていきます。
1.はじめに
2.ミスが許されない監査現場、ミスしないために行われていたこととは?
業務を遂行する上で個々人の仕事のやり方に任せている場合、ある人はやるべき仕事の一部をやっていない、別の人はやらなくていい仕事までやっているといった事態になることがあります。また、注意が必要なポイントにもかかわらず何となく業務を行ってしまう人が出てくることもあり得ます。このような状態では、どうしてもミスが起きやすくなります。そして、自分の考えで仕事をする人が増えれば増えるほど、その人が実施した作業に問題がないか確認するのも難しくなり、さらにミスが起きやすい状態になっていきます。以下では、こんな問題を避けるために会計士が活用していた仕事術を紹介しましょう。
ここでは、もし監査を始めて間もない新人会計士が、手続書なしに業務を進めたらどうなるのかを、ちょっと見てみましょう。
【シーン1】
【シーン1】は極端な例ではありますが、このような状況に陥らないために、実際の監査現場で行われていたのが手続書の活用です。手続書には、やるべきことややり方が明確に記載されているので、手続書の各項目(やるべき仕事)を着実につぶしていくことができます。手続書の例を示すと次のとおりです。
【手続書の例】
<現金及び預金>
現金及び預金の監査を割り当てられたのが新人会計士であっても、この手続書に従って、実施すべき項目を1つ1つつぶしながら監査業務を進めることができます。実際、私が監査法人の新人だった頃、上司は他の現場に行っており1人で監査を進めなければならない場面もありましたが、手続書があったことで迷うことなく業務を進めることができました。
なお、手続書があれば、上司は部下に対して、必要に応じて各手続きの意味を説明した上で、実際の業務は部下に任せることができます。そして、最後に手続書の各監査手続がすべて実施されたことを確かめることで、ミスが起きにくい仕組みを効率的に構築することができます。
それでは、監査現場でチェックリストが使われる様子を見てみましょう。
【シーン2】
【チェックリストの例】
<計算書類の注記>
上記の【チェックリストの例】にあるように、各チェック項目を点検していき、そのとおりになっていればYes欄に「✔」を入れます。そもそもそのような項目に当てはまる事象がないのであれば該当なし欄に「✔」を入れます。万が一No欄に「✔」が入ったとしたら、クリアすべきポイントがクリアできていないということになりますので、このままではダメだということで、修正などが必要になります。【シーン2】のMさんは、チェックリストに従って点検したからこそ、クライアントの記載漏れを発見することができ、ミスが起きずに済んだといえるでしょう。
上記は監査におけるチェックリストの例ですが、一般の企業などでも大いに役立つものです。「同じ失敗を繰り返すな」とはよくいわれることですが、過去に失敗があったのなら、二度と同じ失敗をしないように、その項目を新たにチェックリストの1項目として加えるようにします。また、慣れてくれば「どこに注意すればいいか自然と頭に入るものだ」とお考えの方もいるかもしれませんが、チェック項目が10個も20個もあったら、記憶に頼った点検ではどうしたって漏れが出てしまいます。少し面倒だと思ってもきちんとチェックリストを更新するとともに、それを参照しながら点検することが大事です。こうして磨きのかかったチェックリストは、ミスが起きないようにする仕組みとして本当に重宝します。なお、あまりにも些末な項目までチェック項目に加えると、ムダな業務を増やしかねないので、チェック項目に入れるか否かは良く検討した上で決めた方が良いでしょう。
上司は部下がチェックしたチェックリストを点検し、しっかりとチェックが行われたかを確認します。
(1)公認会計士はみんな同じことができる!? ~手続書~
会計士が業務を行う際には必ずといって良いほど、「手続書」というものを使っていました。やるべき作業が分かる、正しい手順が分かる、作業の抜けモレを防ぐ、作業のやり過ぎも防ぐ、結果として誰が担当するかに関わらずミスを起こしにくくする、そんな目的で使われていたのが手続書です。ここでは、もし監査を始めて間もない新人会計士が、手続書なしに業務を進めたらどうなるのかを、ちょっと見てみましょう。
【シーン1】
監査を始めて間もない新人会計士Kさんが監査現場に来ています。割り当てられたのは「現金及び預金」。つまり、クライアントの決算書に載っている「現金及び預金」の残高が妥当かどうかを検証するのですが、今日はあいにく上司が現場に来ていません。検証のために必要な各種の帳簿や明細表、証憑類は揃っているのですが、さて、何をどう検証したらいいのやら…。
その2日後、上司がやってきてKさんのやった作業を確認することになりました。
「あれっ、まだこれしか進んでないの? しかも、この明細表の合計額、決算書の数値と合ってないじゃないか! 一体何をチェックしてたんだよ。この部分のチェックが漏れてる割には必要ない部分までチェックしてるし……。このまま進めてたら大問題になるとこだぞ!」
上司に矢継ぎ早にいろいろと指摘されてしまいました。
実はこの2日間、Kさんはそもそも何をどこまでどのようにやればいいかよく分からず、固まってしまい無駄に過ごす時間、作業間違いや作業モレ、不要な作業が結構あったのでした。
その2日後、上司がやってきてKさんのやった作業を確認することになりました。
「あれっ、まだこれしか進んでないの? しかも、この明細表の合計額、決算書の数値と合ってないじゃないか! 一体何をチェックしてたんだよ。この部分のチェックが漏れてる割には必要ない部分までチェックしてるし……。このまま進めてたら大問題になるとこだぞ!」
上司に矢継ぎ早にいろいろと指摘されてしまいました。
実はこの2日間、Kさんはそもそも何をどこまでどのようにやればいいかよく分からず、固まってしまい無駄に過ごす時間、作業間違いや作業モレ、不要な作業が結構あったのでした。
【シーン1】は極端な例ではありますが、このような状況に陥らないために、実際の監査現場で行われていたのが手続書の活用です。手続書には、やるべきことややり方が明確に記載されているので、手続書の各項目(やるべき仕事)を着実につぶしていくことができます。手続書の例を示すと次のとおりです。
【手続書の例】
<現金及び預金>
No | 監査手続 | 実施者/実施日 | 調書番号 |
---|---|---|---|
1 | 現金及び預金残高明細表を入手し、合計調べの上、補助元帳、総勘定元帳及び試算表と突合する。 | ||
2 | 期末残高について期間比較等の分析的手続を実施し、著増減の有無及びその理由が、会社の経営環境等に照らして合理的であることを確かめる。 | ||
3 | 預金残高明細表と、取引金融機関からの確認状とを突合する。 | ||
4 | ・・・・・・・ |
現金及び預金の監査を割り当てられたのが新人会計士であっても、この手続書に従って、実施すべき項目を1つ1つつぶしながら監査業務を進めることができます。実際、私が監査法人の新人だった頃、上司は他の現場に行っており1人で監査を進めなければならない場面もありましたが、手続書があったことで迷うことなく業務を進めることができました。
なお、手続書があれば、上司は部下に対して、必要に応じて各手続きの意味を説明した上で、実際の業務は部下に任せることができます。そして、最後に手続書の各監査手続がすべて実施されたことを確かめることで、ミスが起きにくい仕組みを効率的に構築することができます。
(2)公認会計士は同じ失敗を繰り返さない!? ~チェックリスト~
会計士の業務の要所では「チェックリスト」というものを使った点検作業が行われていました。同じミスは繰り返さない、間違いやすい所には細心の注意を払う、結果としてミスを起こしにくくする、そんな目的で使われていたのが「チェックリスト」です。それでは、監査現場でチェックリストが使われる様子を見てみましょう。
【シーン2】
監査業務のいよいよ最終段階に近付き、クライアントの有価証券報告書に記載される財務諸表が所定の規則に則って適切に表示されているかをチェックする段階となりました。会計士のMさんはクライアントから提示された財務諸表の原稿のチェックを始めます。財務諸表には、その元になった会計方針や各種の注記項目を記載することも求められています。記載しなければならない項目の記載が漏れたり、誤ったりしていると大変です。
ここでMさんは「財務諸表の開示に関するチェックリスト」というものを使って、クライアントから提示された財務諸表を点検していきます。
「あれっ、あの規則で注記が求められている項目の記載がないぞ。記載が漏れてるじゃないか! クライアントに指摘しなければいけないな」
ここでMさんは「財務諸表の開示に関するチェックリスト」というものを使って、クライアントから提示された財務諸表を点検していきます。
「あれっ、あの規則で注記が求められている項目の記載がないぞ。記載が漏れてるじゃないか! クライアントに指摘しなければいけないな」
【チェックリストの例】
<計算書類の注記>
No | 内容 | Yes | No | 該当なし | コメント |
---|---|---|---|---|---|
1 | 重要な会計方針に係る事項に関する注記がされているか。 | ||||
①資産の評価基準及び評価方法 | ✔ | ||||
②固定資産の減価償却の方法 | ✔ | ||||
③・・・・・ | |||||
2 | 会計方針の変更に関する注記がされているか。 | ||||
①当該会計方針の変更の内容 | ✔ | ||||
②当該会計方針の変更の理由 | ✔ | ||||
③・・・・・ | |||||
3 | 表示方法の変更に関する注記がされているか。 | ||||
①当該表示方法の変更の内容 | ✔ | ||||
②当該表示方法の変更の理由 | ✔ | ||||
4 | ・・・・・ |
上記の【チェックリストの例】にあるように、各チェック項目を点検していき、そのとおりになっていればYes欄に「✔」を入れます。そもそもそのような項目に当てはまる事象がないのであれば該当なし欄に「✔」を入れます。万が一No欄に「✔」が入ったとしたら、クリアすべきポイントがクリアできていないということになりますので、このままではダメだということで、修正などが必要になります。【シーン2】のMさんは、チェックリストに従って点検したからこそ、クライアントの記載漏れを発見することができ、ミスが起きずに済んだといえるでしょう。
上記は監査におけるチェックリストの例ですが、一般の企業などでも大いに役立つものです。「同じ失敗を繰り返すな」とはよくいわれることですが、過去に失敗があったのなら、二度と同じ失敗をしないように、その項目を新たにチェックリストの1項目として加えるようにします。また、慣れてくれば「どこに注意すればいいか自然と頭に入るものだ」とお考えの方もいるかもしれませんが、チェック項目が10個も20個もあったら、記憶に頼った点検ではどうしたって漏れが出てしまいます。少し面倒だと思ってもきちんとチェックリストを更新するとともに、それを参照しながら点検することが大事です。こうして磨きのかかったチェックリストは、ミスが起きないようにする仕組みとして本当に重宝します。なお、あまりにも些末な項目までチェック項目に加えると、ムダな業務を増やしかねないので、チェック項目に入れるか否かは良く検討した上で決めた方が良いでしょう。
上司は部下がチェックしたチェックリストを点検し、しっかりとチェックが行われたかを確認します。
3.「標準化」でミスを起こしにくくする
ここまで「手続書」と「チェックリスト」を挙げて、誰が担当しようとミスを起こしにくくするために会計士が行っている仕事術について紹介してきました。
ポイントはつぎのとおりです。
やるべき仕事ややり方、注意しなければならないところなどを定めることで “標準化”を図り、 誰が担当してもミスを起こしにくいような仕組みにしているのです。手続書やチェックリストを作るのにはそれなりの手間暇がかかりますが、これらがあることで誰が担当するかに関わらず、格段にミスが起きにくくなることも事実です。
各人各様に行っている仕事を標準化する、また過去に失敗が起きた、あるいは失敗が起こりそうなポイントをピックアップして注意すべき点を標準化するなど、「標準化」の仕事術を進めてみてはいかがでしょうか。
ポイントはつぎのとおりです。
①やるべき仕事やそのやり方を定め、共有した上で仕事を進める(=手続書)
②注意しなければならないところなどを予めピックアップし、確実に点検する(=チェックリスト)
②注意しなければならないところなどを予めピックアップし、確実に点検する(=チェックリスト)
やるべき仕事ややり方、注意しなければならないところなどを定めることで “標準化”を図り、 誰が担当してもミスを起こしにくいような仕組みにしているのです。手続書やチェックリストを作るのにはそれなりの手間暇がかかりますが、これらがあることで誰が担当するかに関わらず、格段にミスが起きにくくなることも事実です。
各人各様に行っている仕事を標準化する、また過去に失敗が起きた、あるいは失敗が起こりそうなポイントをピックアップして注意すべき点を標準化するなど、「標準化」の仕事術を進めてみてはいかがでしょうか。
(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。この仕事術も公認会計士でなくどのような業種の人にも活用できそうですね。
次回は実施した業務を「見える化」することでミスを削減する仕事術をお届けします。
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。
税経システム研究所
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