筆者は公認会計士で、以前、監査法人で財務諸表の監査業務に従事していた人間ですが、読者の皆さんは監査法人とか公認会計士に対してどんなイメージをお持ちでしょうか? 正直あまりイメージが湧かないかもしれません。何故なら、監査法人あるいは公認会計士の仕事は、やるべき仕事がきっちりできているのが当たり前で、問題がないときは話題に上ることはほとんどないからです。逆に、会計不祥事などの問題が起きると、「監査法人は何をやっていたんだ!」と社会的に極めて大きな話題となり、いろいろと問題が取りざたされることになるのです。ひとたび不祥事が発生してしまうと、監査法人の存続にもかかわるため、監査の仕事は何としてもきっちりやり遂げないといけません。そのため、監査の現場は高いクオリティの仕事やハードワークを求められることも多くあります。その一方で、監査の業務は、個々人に任せっきりで各人が何の工夫もなく取り組んでいるようでは、とてもこなすことはできない仕事です。だから監査法人ではこうしたギャップを埋めるため、つまり監査の現場で生じる課題を解決するために、様々なツールや仕組みを創り出し、活用していました。
ところで、皆さんはこの監査法人で活用されている様々なツールや仕組みは、監査法人でしか使えないものだと思われますか? 決してそんなことはありません。私は監査法人で活用されているツールや仕組みは少なからず監査法人以外で使えるものもあると思っています。なぜなら、監査法人でも一般企業でも抱えている課題が同じなら、それを解決するためのツールや仕組みも基本的には同じはずだからです。
だからこそ、監査法人が抱える課題を解決するために創り出し、活用しているツールや仕組みのうち監査法人以外でも使えるものを本シリーズを通じて紹介することで、読者の皆さんの現場で起きている課題解決にも是非役立てて頂きたいのです。
今回は最初なので、「実は課題がいっぱいの監査現場 」として、まずは監査現場で起きている課題をいくつか取り上げることにします。皆さんの現場にもこんな課題はないか考えてみてください。
経理/財務公認会計士の仕事術 2024/08/09
第1回 実は課題がいっぱいの監査現場
今回から新しいコラムシリーズが始まります。その名も「公認会計士の仕事術講座」です。バックオフィス担当者が気になる、公認会計士の現場の声をお届けしていきます。
1.はじめに
2.向き合うべき課題がいっぱい! 監査現場に見る課題の数々
(1)ミスが許されない監査現場
最近は企業の会計不祥事に関連して、監査法人の監査の問題が取りざたされることも目に付きます。私が監査法人で携わってきた財務諸表の監査業務は、ザックリと表現してしまえば、クライアントの決算書がおかしくないか証明する仕事です。会社の株主や債権者、投資家など様々な人たち(利害関係者といいます)が利用する決算書。それにお墨付きを与えるのが公認会計士です。公認会計士が「決算書はおかしくない!」といったのに、実際はおかしな所だらけの決算書だったら、決算書を信じた利害関係者に大損害を及ぼしかねず、社会的な影響は計りしれません。つまり、監査というのは大きなリスクを伴う仕事で、ミスが許されない状況下で業務を行っていたわけです。監査は「ミスが許されない仕事」なのです。
(2)「スピード」重視の監査現場
監査のやっかいな所は、ミスをしないことだけ重視していれば良いのではないことです。監査業務の期限は会社法や金融商品取引法などの規制を受け、クライアントの取締役会や株主総会など諸々のスケジュールもこうした法規制に沿って設定されます。監査というのは、お尻が決まっており、絶対に遅れることができない仕事です。しかも3月決算会社が圧倒的に多く、上場企業の監査では四半期決算などへの対応が出てきたりもします。監査のメンバーもそれぞれがいくつものクライアントを受け持っているため、万が一1つのクライアントの業務が期限に完了しないといった事態になったら、他のクライアントの業務にも大きな影響が出かねません。「仕事が終わりませんでした」「期限に間に合いませんでした」なんて決して許されないことなのです。いわば限られた時間の中で業務を完了させなければならないという「スピード」重視の仕事でもあったのです。(3) 「ミスなし」と「スピード」の両立が求められる監査現場
上記(1)と(2)で説明してきたように、監査現場ではミスが許されない仕事を、スピード感を持って遂行することが求められました。『「ミスなし」と「スピード」、この相反するような課題を達成しなければならない』、私自身も絶えずこうしたプレッシャーを感じながら監査業務を行っていたように思います。「働き方改革」が声高に唱えられる今だからこそ、監査法人の仕組みをヒントにして、この難しい課題である「ミスなし」と「スピード」の両立を実現して頂きたいと思うのです。
(4)「情報共有・コミュニケーション」が必須の監査現場
監査法人では非常に多くのクライアントの監査業務を、限りある人員をやりくりしながらこなしていきます。このため、ある人はA社・B社・C社の監査を担当し、別の人はA社・D社・E社の監査を担当し、また別の人はB社・F社・G社の監査を担当するといった具合に、監査クライアントごとに監査チームの構成メンバーががらりと変わるのが、監査法人における仕事の特徴でもあります。また、同じクライアントの監査チームのメンバーであっても、監査の期間中、常に監査現場で顔を合わせているということではなく、監査法人内で仕事をしている人もいれば、他の監査クライアントの現場にいる人もいるなど、監査チームのメンバーが一堂に会することはむしろ稀です。つまり、監査業務は、監査チームのメンバーの間での情報共有やコミュニケーションの必要性が非常に高い業務でもあったわけです。(5)「証跡」を残さなければならない監査現場
監査では、ただ業務を実施すれば良いのではなく、やったことの証跡をしっかり残すことが必要でした。実施した業務については、監督官庁である金融庁などの厳しいチェックも受けます。「実際に監査を実施して問題がなかったのなら構わないじゃないか」といった考えは通りません。ある意味、証跡が残っていなければやらなかったのと同じです。つまり、やったことの「証跡」を残さなければならないということが監査現場の課題の1つだったわけです。(6)「採算性」は決して二の次ではない監査現場
監査法人は一般の企業ほど利益追求が大きな目的ではないかもしれません。しかし監査法人は、妥協せず仕事を極めようとするたくさんのスペシャリストたちを抱えながら、たくさんのクライアントの業務を行っているために、放っておいたら大きな不採算に陥るおそれも十分にあるのです。そのため、クライアントごとの採算性を確保することも課題の1つとなっていました。ここまで、監査現場に見る課題の数々を挙げてきましたが、読者の皆さんの現場にもこんな課題はないでしょうか? 「結構うちの会社でも同じような状況があるな」という方は、これらの課題を解決するために監査法人において準備されたいろいろなツールや仕組みが、ご自分の会社でもきっと使えるはずです。
次回からは、監査法人で実際に使われていた具体的なツールや仕組みを紹介していきますので、是非それらをどう活かすか考えて頂ければと思います。
(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。今回は緊張感のある公認会計士の現場の様子をお届けしました。
次回はそんな現場でミスをしないような仕事術をお送りいたします。
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。
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