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経理/財務消費税 2024/06/25

出張旅費特例で経理業務の負担減!インボイス制度導入後の交通費・宿泊費の精算に活用したい特例とは? 

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インボイス制度導入後、経理業務において様々な課題が発生している中、特に出張旅費の取り扱いについては多くの企業で適切な対応を模索している状況かと思います。
今回の記事では、インボイス制度下の出張旅費の処理について、インボイス不要で仕入税額控除が認められる特例の内容を中心に解説します。

インボイス制度導入後の仕入税額控除に関する特例

インボイス制度では、原則として、帳簿と請求書などのインボイスの保存が仕入税額控除の要件とされています。
しかし、公共交通機関の利用代金や出張旅費については様々な理由でインボイスの交付を受けることが難しい場合もあります。
このような実情を踏まえて、次のような取引については一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなっています。

  • インボイスの交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送(公共交通機関特例)
  • インボイスの記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券などが使用の際に回収される取引(公共交通機関特例を除く)
  • 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物(古物営業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
  • 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物(質屋を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の取得
  • 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物(宅地建物取引業を営む者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
  • 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品(購入者の棚卸資産に該当するものに限る)の購入
  • インボイスの交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入など
  • インボイスの交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
  • 従業員などに支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当などの出張旅費など(出張旅費特例)
上記のような取引では、インボイスの取得・保存がなくとも、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。
なお、これらの特例は消費税法での仕入税額控除の例外規定として位置づけられているものです。

※参考資料:国税庁「出張旅費、宿泊費、日当等に係る仕入税額控除の適用要件


特例を適用する場合の帳簿への記載
帳簿への記載・保存のみで仕入税額控除の適用を受けられる特例について、帳簿に記載が必要な事項は以下の通りです。

  • 相手方の氏名または名称
  • 取引年月日
  • 取引内容(軽減税率対象の場合、その旨)
  • 税率の異なるごとに区分した支払対価の額
  • 摘要欄に特例の適用がある旨の記載
上記のうち、1~4については、通常通り帳簿記入をしていれば記載される項目ですので、摘要欄への追記を忘れないようにしましょう。
なお、記載例は以下の通りです。

公共交通機関特例を適用する場合
摘要欄に「3万円未満の鉄道料金」、「入場券」と記載

出張旅費特例を適用する場合
摘要欄に「出張旅費特例の適用対象」と記載

出張に関する公共交通機関特例と出張旅費特例

先の事例の通り、帳簿への記載・保存のみで仕入税額控除の適用を受けられる特例の中には出張に関する公共交通機関特例と出張旅費特例があります。


公共交通機関特例
公共交通機関特例とは、従業員などが業務で使用する3万円未満の公共交通機関に対する支払いにおける仕入税額控除について、インボイスの取得を不要とする特例です。


出張旅費特例
出張旅費特例とは、従業員などに支給する交通費(タクシー、電車、飛行機)、宿泊費、日当、通勤手当などの出張旅費などについて、インボイスの取得を不要とする特例です。
この特例の適用を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 従業員などの出張に直接関連しており、支払いは従業員によって行われていること。
  • 支出額が適正であると認められる範囲内(所得税の非課税範囲内)であること。
  • 会社の帳簿に必要条件を記載のうえ、出張旅費特例を適用する旨を明記していること。
上記を満たした場合、旅費規程に基づき、企業が従業員に立て替え分の費用を支払う際には帳簿の記載だけで仕入税額控除が認められます。
なお、出張旅費特例に金額制限はありませんが、「その旅行に通常必要であると認められる部分」として所得税の非課税範囲内であることは示されています。
所得税の非課税の範囲は、所得税基本通達9-3に記載されている非課税旅費の範囲の例に基づいて判定されます。

【所得税基本通達 9-3 非課税とされる旅費の範囲】(一部抜粋)
非課税とされる金品は、旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、旅行者の職務内容・地位などからみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか

※出典:国税庁「出張旅費、宿泊費、日当等

企業では旅費規程で出張旅費や日当を決めたうえで支払いを行っているかと思いますが、それによって出張に通常必要と認められる範囲内であれば、非課税と考えて良いでしょう。
また、そのような規定がない場合であっても、その従業員の職位や業務の内容に応じて、一般的に必要であると認められる金額の範囲内であれば特に問題ないと考えられます。
例えば交通費であればWeb検索で最適な経路として表示された方法・金額に従っているなどの状況が挙げられます。
なお、従業員などに対する支給については、概算払いでも実費精算でも問題ないとされています。

※参考資料:国税庁「インボイス制度における特例②(出張旅費等特例)


公共交通機関特例と出張旅費特例の違い
公共交通機関特例と出張旅費特例は似た内容の特例ではありますが、以下の点に違いがあります。
公共交通機関特例 出張旅費特例
対象費目 対象が電車などの公共交通機関の利用に限定されており、タクシーや飛行機については公共交通機関に含まれないため特例の適用対象となっていません。
そのため、タクシーや飛行機については金額にかかわらずインボイスを取得する必要があります。
特に費目は限定されていません。
そのため、タクシーや飛行機代など公共交通機関に含まれないものについても、インボイスの取得がなくとも特例の適用対象となります。
金額 支払いが3万円未満の場合に限り適用されます。
そのため、公共交通機関である新幹線であっても支払額が3万円以上の場合、原則としてインボイスを取得する必要があります。
金額の制限は設けられていません。
そのため支払額が3万円以上であっても、特例の適用対象となります。
支払者 支払者が企業であるか従業員などであるかについては問われていません。 「企業の業務上必要な支出を従業員などが支払い、その支出に対して従業員などに支給する場合」に適用されるため、会社が直接、鉄道会社などに支払いを行った際には適用できません。
例えば、従業員個人のカードで立て替え払いを使用した精算分については特例の適用対象ですが、会社のコーポレートカードを使用して鉄道会社との決済が行われた場合には、適用されません。

実務におけるポイント

最後に、公共交通機関特例や出張旅費特例における実務上のポイントを紹介します。


会計処理において摘要欄への記載を忘れずに行う
出張旅費特例を適用させたい経費については、帳簿の摘要欄に「出張旅費特例適用」と明記し、ほかの支出とは区分しておく必要があります。
この記載を忘れないようにしましょう。


支出目的や金額の合理性を示す書類を保存しておく
公共交通機関特例、出張旅費特例はあくまでも消費税法での特例です。
消費税法でインボイスの保存は不要とされても、法人税法などでは領収書やその他の書類の保存が必要とされています。
例えば、インボイスを取得できない出張経費があった場合でも、出張旅費精算書の発行に代えて金額や支出が正しいものか確認することは、会計・税法いずれの面からも非常に重要です。
最終的に税務調査で支出の根拠に合理性がなく否認されることがないよう、インボイスが特例の適用で不要になった場合であっても、その他の書類についてはこれまで通り入手・保存をしておくことが重要です。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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インボイス制度導入後でも、出張旅費特例や公共交通機関特例を適切に活用することで、日々の経理業務の負担を軽減することができるかと思います。
特に出張旅費特例は金額や費目に制限がないため、柔軟に対応できることが大きなメリットです。
経理担当者として、こうした特例は積極的に活用し、自社に合った形で経理処理を効率化させていくことが今後の実務で重要になるでしょう。

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