2022年1月1日から対応必須とされていた電子取引に関するデータ保存の義務化は、宥恕規定により2023年12月31日まで期限が伸びました。
しかし、宥恕とはやむを得ない場合を前提にしたものであり、延期と捉えて対応を先延ばしにすることはできません。
電子取引というと請求書や領収書の処理を真っ先に思い浮かべる人も多いかと思いますが、もちろん電子契約についても対応が必要です。
今回は電子契約において電子取引の観点から宥恕期間終了までに準備しておきたい内容を解説します。
電子取引の電子データでの保存義務に対して2023年12月までにできること
まずは大前提として「電子取引の電子データでの保存義務」を説明します。
電子取引の電子データでの保存義務とは、簡単にいえば「電子取引で使用する国税関係書類は、紙に印刷せずに電子データのまま保存しなければならない」というものです。
一見、簡単そうに見えるものの、対象範囲の広さや保存要件の確保などから、対応にはそれなりの労力が必要です。
電子取引の電子データでの保存義務については、当初は2022年からの対応が求められていたものの、2023年12月31日まで宥恕期間が設けられました。
しかし、対応が不要になったわけではありません。
現在、まだ対応が済んでいないという事業者は、この宥恕期間で電子取引対応の準備を完了させる必要があります。
では、宥恕期間終了までにはどのような対応をすればよいのでしょうか。
※関連記事:どこにどう保管する?保存が義務化される電子取引データ
現在行われている電子取引の状況確認
自社でどのような取引が行われているのか、全体像は把握していますか?
まずは契約・仕入れ・売上・代金回収など各段階で、現在、電子取引が行われているかどうかの確認をしましょう。
電子取引が行われているのであれば、既に電子データ保存で運用されているのかどうかも確認することが大切です。
※参考資料:国税庁「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)」
今後電子化できる取引がないかの確認
さらに、個別の取引のうち、今後は電子データで作成・保存をした方が効率的になるものがないかを確認します。
この作業は、経理部のみではなく、営業部や製造部など各事業部の担当者も含めて行うのがよいでしょう。
電子取引のルールを共有したうえで確認を行えば、各事業部の担当者自身が電子データで領収書や請求書を受け取った場合でも、保存義務を満たすよう処理してもらうことができます。
電子化を進めるにあたって必要なシステム導入についての検討
毎回、保存要件を満たした電子データを作成・保管するのは大きな負担です。
そのため、この作業をシステム化して提供するクラウドサービスも増えてきました。
対象の電子取引が多いなど、対処の負荷が大きい場合はシステムの導入も検討してみるとよいでしょう。
電子契約の場合
先述した電子取引の電子データでの保存義務は、もちろん電子契約取引にも該当します。
電子契約とは、インターネット上の電子ファイルで事業者間の契約を締結し、企業のサーバーもしくはクラウドストレージなどに契約書のデータを保存する契約方法です。
契約書は本人の意思で作成された文書であることを証明する必要があるため(文書の真正性)、電子契約ではこれを担保できる電子契約システムを利用するのが一般的です。
電子契約システムには「当事者署名型」と「事業者署名型」があり、電子証明書の発行など手間がかかることの多い当事者署名型に比べて、クラウド上で署名をするだけで契約を締結できる事業者署名型は高い工数削減効果が期待できます。
ただし、たとえシステムを利用したとしても、電子契約をする際に重要となる法律やルールは担当者としてきちんと把握しておきましょう。
※関連記事:契約の手続きが1日でできる!?電子契約を使って劇的稼働削減
電子署名法
電子署名法とは、電子契約であっても、書面上の署名・押印と同様の法的効力を与えるために策定された法律です。
電子契約で特に重要なのは、電子署名法第3条です。
電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
※出典:e-Gov法令検索「平成十二年法律第百二号 電子署名及び認証業務に関する法律」
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法とは、決算関係書類や各種帳簿などの税務関係帳簿・書類を電子データで保存することを認めた法律です。
以下の要件に基づき、いつ・誰が・何を行ったのか、後からでも迅速・正確に確認できるよう対応する必要があります。
システム概要書類の備付け |
電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け
※自社開発のプログラムを使用する場合にのみ必要な要件をなります。
|
見読可能装置の備付けなど |
電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備付け |
検索機能の確保 |
取引データの検索ができること |
真実性の確保 |
真実性確保の措置のいずれかを行うこと |
※参考資料:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】 問9」
特に重要なのは「真実性の確保」となります。
ここで行うべき措置は次のいずれかです。
- タイムスタンプを付与した後で、取引情報の授受を行う
- 取引情報の授受後は速やかにタイムスタンプを付与し、保存関係者に関する情報を確認できるようにする
- 訂正・削除ができない、もしくは訂正・削除の履歴を確認できるシステムで取引情報の授受・保存を行う
- 正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理の規定を定めたうえで運用する
例えば、自社でシステムを構築して真実性の確保の措置をする場合には、4が該当するように開発する必要があるでしょう。
また、システム会社が構築した電子取引用のシステムを利用すれば、基本的には1から3までの少なくとも1つを満たしていることが想定されます。
特に公益社団法人日本文書情報マネジメント協会の認証を受けたシステムであれば、必ず要件を満たしているため、安心して導入できるでしょう。
※参考資料:国税庁「JIIMA認証情報リスト」
印紙税
契約を紙の文書から電子に切り替えた場合は印紙税が不要になります。
契約書を紙でやり取りする場合、基本的には印紙税の課税文書に該当するものですので、契約の内容や契約金額に応じて、印紙を購入して契約書に貼付する必要があります。
しかし、このやり取りを電子契約に切り替えた場合、電子契約書は印紙税の課税対象文書とはならないため、印紙税が課税されません。
※関連記事:その収入印紙、実は貼らなくていいかも?領収書に貼付する収入印紙の基礎をチェック!
電子取引を導入する際は
先述の通り、電子契約では、契約のやりとりがクラウド上で完結する事業者署名型(クラウド署名)の活用が便利です。
リモートでの対応に活用できる他にも、システムによっては以下のような機能が搭載されており業務効率化を図ることができます。
- 契約書の締結状況を可視化
- 取引先へのリマインドの実施
- 電子データでの保存要件に従った契約書の保管
契約の締結作業だけではなくその後の作業まで見据えてどのような機能を使いたいかを検討し、自社に合ったシステムを選定するようにしましょう。
※関連記事:契約の手続きが1日でできる!?電子契約を使って劇的稼働削減
電子契約を導入する際に検討すべきこと
最後に、実際に電子契約を導入する準備段階で押さえておきたいポイントを紹介します。
1. どの部署でどのような契約が締結されているのか現状分析を行う
頻繁に契約書を送付している部署や案件がある場合には、電子契約システムの導入効果が高くなります。
2. 電子契約に変更する取引の範囲と導入時期を明確にしておく
電子契約を取り入れる部署や案件などの範囲を確認のうえ、スケジュールを策定します。
導入時期は宥恕期間の終了より前(2023年12月31日まで)となるようにし、対象となる部署・担当者と協議のうえ、混乱が生じないようにしましょう。
3. IT面の確認をしておく
システム会社とともに、システム導入における技術的な要件を満たせているのかなど、IT面の確認を行います。
この際、基本的には多くの企業がシステム会社からサポートを受けるかと思いますが、社内IT部門との協力も含めて、スムーズにやりとりできるよう調整を行いましょう。
4. 導入後の手順のシミュレーションを行う
システム導入後にどのような手順で契約を行うのかを確認し、処理フローを作成したうえで従業員に周知します。
取引先についても案内文書の作成を行い、場合によっては社内と同様の処理フローを共有しておくとよいでしょう。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
**********
今後、契約締結の手続きについても電子化の流れは進んでいくことが予想されます。
今回の記事を参考に、電子契約のみならず電子取引全般の導入を進められるよう検討してみてください。社内業務もより効率化できるでしょう。