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経理/財務消費税 2022/08/09

簡易課税制度とは?インボイス制度導入前に押さえておきたい消費税の計算の仕組み

2023年のインボイス制度導入を見据えて、消費税の課税事業者となる事業者が増えています。
しかし、これまで消費税を免除されていた事業者にとって、消費税額の計算を行う負担は大きなものです。そのような負担の対策として、簡易課税制度があります。
今回は、簡易課税制度における一般的な消費税の計算との違いや、適用を受けるための手続き・注意点を解説します!

簡易課税制度とは

消費税は、様々な取引のタイミングで重複して納税されないように、「課税売上げに係る消費税額」から「課税仕入れ等に係る消費税額」を控除する仕組みが採用されています。
これを仕入税額控除といい、控除される税額を仕入控除税額といいます。
簡易課税制度は、対象となる中小事業者や個人事業主の事務負担軽減を目的として、仕入控除税額の計算を通常の課税方法である一般課税よりも簡易にした制度です。


一般課税と簡易課税制度の計算の違い
一般課税
一般課税の場合、課税仕入れ等に係る消費税額そのものが、仕入控除税額にあたります。
そのため、消費税の納付税額は、売上取引で購入者から預かった消費税(課税売上げに係る消費税額)から、仕入取引で取引先に支払った消費税(課税仕入れ等に係る消費税額)を差し引いた金額になります。

一般課税の計算式
消費税の納付税額 = 課税売上げに係る消費税額 – 課税仕入れ等に係る消費税額(実額)

この方法では、請求書やレシートなどを集め、それがどのような売上に対応するかを区分したうえで、課税仕入れ等に係る消費税額を計算することになります。
これを一つ一つ行うのはかなりの重労働です。

簡易課税
一方、簡易課税では、仕入控除税額が、課税売上に係る消費税額に対して「事業に応じた一定の割合(みなし仕入率)」を掛けた金額となります。
そのため、計算は以下の通りとなります。

簡易課税の計算式
消費税の納付税額 = 課税売上げに係る消費税額 – 課税売上げに係る消費税額 × みなし仕入率

簡易課税制度のメリットは、売上げに関する消費税の情報のみで消費税の計算を行えるということにあります。
また、簡易課税制度の適用を受けている事業者は、請求書などの金額を使用しないで消費税の納付税額を計算することもできます。
これはインボイス制度導入前の規定ではあるものの、現段階では導入後も維持される予定となっています。
そのため、初めて消費税の計算・納税を行う事業者や、複雑な消費税の計算が苦手な事業者にもおすすめの制度です。

※参考資料:国税庁「帳簿の記載事項と保存


簡易課税制度の適用を受けられる事業者
簡易課税制度の適用を受けられる事業者は以下の通りです。

  • 基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円以下であること
  • 適用を受ける年の前事業年度末日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すること
基準期間は、基本的には2年前(創業年などは特例があります)となります。
2年前の課税売上高が5,000万円以下であることを確認したうえで、適用を受けるための届出を行います。これについては後ほど詳しく解説します。

みなし仕入れ率について
簡易課税制度では、売上に係る消費税に対して「みなし仕入れ率」を掛けることで仕入控除税額を計算します。
みなし仕入れ率は、事業形態ごと、第一種から第六種までの6つの事業に区分されます。

事業区分 みなし仕入率 該当する事業
第一種事業 90% 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業)
第二種事業 80% 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)
第三種事業 70% 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するもの、加工賃などに類する料金を対価とする役務の提供を除く。
第四種事業 60% 飲食店業などの、第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業および第六種事業以外の事業
第五種事業 50% 運輸通信業、金融・保険業 、飲食店業以外のサービス業(第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除く)
第六種事業 40% 不動産業
※事業区分の判断は、基本的には取引ごとに行います。

※出典:国税庁「簡易課税制度の事業区分


卸売業では、みなし仕入れ率が90%となりますので、売上に係る消費税のうち10%分だけを納税すればいいことになります。
売上よりも実際の仕入額のほうが少ないというケースも考えられますので、企業によっては、一般課税で計算するよりも、簡易課税制度を適用したほうが、消費税の納付税額が少なくなる場合もあります。
なお、飲食店をやりながら小売業も行っているなど、2つ以上の業種を営んでいる場合は、業種ごとに課税売上げに係る消費税額を区分して、それぞれの業種に対応した割合で計算するような調整計算を行うことになります。
複数の事業を行う場合の計算方法については、国税庁のホームページも参考にしてください。

※参照:国税庁「簡易課税制度

簡易課税制度の適用を受ける際の手続き・やめる際の手続き

簡易課税制度の適用を受けるためには、前事業年度末日までに税務署長に届出を提出する必要があります。
そのために、まずは適用年の前事業年度時点での1年前の課税売上高(適用年の2事業年度前の課税売上高)の情報を参考に、自社が来年、簡易課税制度の適用を受けることができるかどうかを判定します。
上の図の通り、2023年4月1日から2024年3月末までの課税期間で適用を受けるには、2023年3月末までの事業年度中に簡易課税制度の適用を受けられるかを判断し、届出を行う必要があります。


「消費税簡易課税制度選択届出書」の提出
簡易課税制度の適用が受けられる場合は、「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用年の前事業年度の末日までに提出します。
例えば、3月決算企業が2023年4月から簡易課税制度の適用を受けるための提出期限は、2023年3月末となります。
ただし、事業を開始したての事業者や、合併や分割があった事業者については、適用を受ける事業年度に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しても適用を認めるという特例もあります。


簡易課税制度の選択をやめる場合
簡易課税制度の適用をやめる際にも、届出が必要となります。
この場合、適用をやめる事業年度の前事業年度の末日までに「消費税課税制度選択不適用届出書」を提出します。
なお、簡易課税制度は、2年間の継続適用が必須となります。
そのため、適用を受けた後2年間は、簡易課税制度の適用を続けなければならない点にご注意ください。

簡易課税制度の適用にあたっての留意点

最後に、簡易課税制度の注意点とインボイス制度についてお伝えします。


計算が簡単だが還付は受けられない
一般課税の消費税の計算では、売上げに係る消費税よりも仕入れに係る消費税の方が多くなった場合には、消費税の還付を受けることができます。
しかし簡易課税制度では、仕入れに係る消費税を簡易的に計算しているため、計算式の仕組み上、消費税の還付を受けることができません。
そのため、多額に設備投資を行うなど、売上取引よりも仕入取引の方が多くなる年には、一般課税を選択したほうが有利になる可能性もあります。
※消費税でいう仕入取引は、棚卸資産の取引に限らず、経費の支払いや備品の購入など消費税を支払う取引全般を指します。


インボイス制度を見据えての、免税事業者が課税事業者になる際の検討
2023年10月から導入されるインボイス制度導入以降は、消費税の仕入税額控除の適用を受けられるインボイスを発行できるのは、課税事業者に限定されます。
これまで、売上規模の小さい多くの事業者は、免税事業者を選択することが多かったと思いますが、今後、取引先が仕入税額控除の適用を受けるためにはインボイスを発行できる課税事業者になる必要があります。
その際は毎年の消費税計算が必要になりますが、一般課税での計算が負担に感じる場合も、簡易課税制度を選択できる可能性があるということを覚えておいてください。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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簡易課税制度は、消費税の計算を売上にかかる情報のみで完結できるため、事務手続きが楽になります。また、業種によっては、納付する税負担も軽減できる可能性がある制度です。
一方で、事前の届出や2年間の継続適用など、注意が必要な細かな要件もありますので、今回紹介した内容を参考に、自社での消費税の計算方法についても一度見直してみてくださいね。

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