企業に勤める従業員は、一定の条件を満たした場合、社会保険の被保険者となります。
社会保険料には健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料、労災保険料などがあり、毎月の給与から差し引かれます。
毎月の社会保険料の計算は制度ごとに異なりますが、例えば厚生年金保険料の場合、月額の保険料は「報酬月額」を保険料額表の1等級から32等級までに分けた「標準報酬月額」を基準に決定されます。等級は社会保険料によって異なり、健康保険料の場合は等級は50級まであります。
なお、報酬月額とは、企業から支給される基本給のほか、通勤手当などの各種手当を加えた1カ月の総支給額のことです。
臨時に支払われる報酬や、年3回以下で支給を受ける賞与などは総支給額から除かれます。
定時決定とは
被保険者の標準報酬月額は、毎年7月下旬に年金事務所(日本年金機構)が決定します。
その際、標準報酬月額と実際の報酬の間に大きな差が生じないように、その年の7月1日現在の被保険者全員について報酬月額を決め直す制度を、「定時決定」といいます。
定時決定は、企業から送られてくる「報酬月額算定基礎届(算定基礎届)」に基づき行われます。
算定基礎届とは
算定基礎届とは、被保険者が受け取った報酬を記載した届出のことです。
では、いつの給与が対象になるのでしょうか。
定時決定では、7月1日になる前の3カ月に支払った報酬月額をその期間の月数(3カ月)で割った数字を、標準報酬月額の表に当てはめることで次年度以降の保険料を決め直します。
つまり、算定基礎届には、その年の4月、5月、6月の給与を記載するのです。
算定基礎届提出と定時決定における流れ
毎年の定時決定における流れをまとめると、以下の通りです。
毎年4月~6月 |
企業が対象者の報酬月額を算定 |
毎年7月 |
企業が年金事務所に算定基礎届を提出 |
毎年7月下旬 |
年金事務所が標準報酬を決定 |
このようにして決まった社会保険料の額は、その年の9月から翌年の8月まで使用されます。
言い換えれば、算定基礎届による社会保険料はその年の9月から変更になる、ということになります。
標準報酬月額を決定するタイミング
標準報酬月額は、定時決定以外にも、次のタイミングで決定・変更されます。
タイミング |
内容 |
届出 |
資格取得時 |
新規で被保険者になったとき(雇用・労働者名簿記載時) |
被保険者資格取得届 |
随時改定 |
昇・降級や給与体系の変動により、報酬月額が2等級以上変動したとき(昇給・降級時)
※育児・介護休暇などの終了時には、被保険者の標準報酬月額が1等級以上の変動から改定が可能です。
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被保険者報酬月額変更届 |
資格取得時には、資格取得届の提出はもちろん、新規雇用をした場合には、労働者名簿への記載も忘れずに行うようにしましょう。
また、定時決定以外のタイミングで実行される標準報酬月額の変更手続きは随時改定とよばれますが、この場合は、報酬月額変更届の提出が必要になります。
算定基礎届の提出は、毎年7月1日現在における雇用保険の被保険者全員が対象となります。
ただし、以下の方については、提出が不要になります。
- 6月1日以降に資格取得した人
- 6月30日以前に退職した人
- 7月~9月に随時改定が予定されている人
標準報酬月額の対象となる報酬
標準報酬月額を決定する際は、賃金、給料、俸給、手当、賞与などの名称を問わず、被保険者が労働の対償として受けるすべての報酬が対象となります。
通勤定期券、食事、住宅など現物で支給されるものも含まれますが、臨時に受けるものや、年3回以下支給の賞与などは、報酬に含みません。
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対象 |
非対象 |
金銭支給 |
- 基本給
- 各種手当(残業手当、通勤手当など)
- 年4回以上の賞与
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- 結婚祝金、見舞金
- 退職金、解雇予告手当
- 出張旅費、交際費
- 災害派遣手当
- 年3回以下の賞与
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現物支給 |
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- 本人の負担額が厚生労働省の定める価額の2/3以上の「食事代」
- 本人からの徴収金額が厚生労働省の定める価額以上の「住宅代」
- 制服、作業服
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支払基礎日数について
算定基礎届に記載する報酬月額は、支払基礎日数が17日以上であるものに限られます。
支払基礎日数は、月給制の場合、雇用形態によって、「カレンダーの日数」または「所定労働日数から欠勤日数を差し引いた日数」のいずれかになります。
例えば、4月と6月は通常通り勤務していたが、5月は休職のため16日分しか支払基礎日数がなかったという場合、4月と6月の2カ月分の報酬総額で割り算した額をもとに標準報酬月額が決定されます。
日給・時間給制の場合には、出勤日数そのものが支払基礎日数となります。
短時間労働者の定時決定
パートなどの短時間就労者については、通常の従業員と定時決定の方法が少し異なり、支払基礎日数が11日以上の月を対象に、勤務日数に応じて記載対象となる報酬の取り扱いが変わるため、注意しましょう。
17日以上の月が1カ月以上ある場合 |
該当月の報酬総額の平均を報酬月額として標準報酬月額を決定する |
17日以上の月はなく15~16日の月がある場合 |
支払基礎日数が15日以上17日未満の月の報酬総額の平均を報酬月額として標準報酬月額を決定する |
3カ月すべて15日未満の場合 |
従前の標準報酬月額が引き続き使用される |
なお、短時間労働者とは、1カ月の所定労働日数が通常の労働者の3/4未満など、通常の労働者よりも所定労働日数が短いパートやアルバイトのことを指します。
パートやアルバイトの方の社会保険の加入要件は、2022年10月に改正予定になっており、経理ドリブンでも詳しく解説していますので、そちらの記事もご確認ください。
※参考記事:社会保険の適用拡大とは?従業員数が50人を超えたら要注意!
※参考記事:締め切り迫る!社会保険料の算定基礎届の考え方
算定基礎届(定時決定)の提出方法は、以下の通りです。
届出方法 |
郵送、窓口持参、電子申請
※電子媒体(CD・DVD)による提出も認められていますが、手続きが一部異なります。
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提出書類 |
必須 |
被保険者報酬月額算定基礎届(70歳以上被用者算定基礎届)
※被保険者報酬月額算定基礎届総括表は廃止されたため、提出は不要です。
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該当者がいる場合 |
被保険者報酬月額変更届(70歳以上被用者月額変更届)【7月改定者】 |
提出期間 |
毎年7月10日まで(10日が土日祝日の場合は、翌営業日まで)
※被保険者が随時改定に該当する事実がある場合は、別途、速やかに随時改定の手続きを行う必要があります。
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提出先 |
算定基礎届送付時に同封している返信用封筒により事務センターへ郵送。 または管轄の年金事務所担当窓口。
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郵送や窓口持参による方法も認められていますが、電子申請の方がより迅速に手続きができます。
電子申請には、e-Govや届書作成プログラムなどを利用することができます。
日本年金機構のホームページなどを参考に活用してみてください。
※参考資料:日本年金機構「電子申請・電子媒体申請(事業主・社会保険事務担当の方)」
なお、2022年の算定基礎届(定時決定)の提出期間は、2022年7月1日(金)から7月11日(月)までとなっています。
新型コロナウイルス感染症の影響などで上記の期限までに提出することが困難な場合、11日以降でも受付はされますが、通知書の発送が遅れる場合もあるため、可能な限り迅速に提出しましょう。
年金事務所での処理が終了すると、7月中旬ごろ、企業宛に標準報酬月額決定通知書が届きます。
通知書記載の内容をもとに、9月分の保険料からは、新しい等級での計算を行うようにしましょう。
※参考資料:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。