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人事/労務社会保険 2020/07/02

社会保険5分野の基礎をマスターせよ!

日本の社会を支えている制度の一つである「社会保険」は、経理業務で登場することも多く、特に給与計算や社会保険事務も行っている経理担当者はよく目にするのではないでしょうか。
社会保険に関する業務を正しく行うためには、それぞれの社会保険の目的や会社の負担額、用途などを理解しておく必要があります。今回は、社会保険を構成する医療・年金・雇用・保険・労災の5分野と、仕訳の仕方を解説します。

5つの社会保険

日本には、国や地方自治体などの公的な機関が運営する5つの社会保険があります。医療費の一部を負担する「公的医療保険」、老後の生活を支える「公的年金」、失業時の生活を安定させる「雇用保険」、要介護者が対象の「介護保険」、通勤・労働中の災害を保障する「労災保険(労働者災害補償保険)」の計5種類です。

■公的医療保険
公的医療保険とは、加入者やその扶養者(家族など)が病気や怪我をした際に、医療費の一部を負担してもらえる制度です。下記のように、加入対象者によってさらに分類されています。

公的医療保険の種類 対象者
健康保険 会社員など
国民健康保険 自営業者・フリーランス・専業主婦など
共済組合 公務員・教職員
船員保険 船員

公的医療保険は種類によって保障内容が異なりますが、その中でも特に経理担当者と関係が深いのが「健康保険」です。健康保険は、従業員と事業者が折半して負担するもので、金額は個人の年齢・収入や、納付先の自治体によって異なります。保障内容は共済組合、船員保険と類似点が多い一方で、国民健康保険と比較すると、傷病手当や出産手当金の有無において、保障が手厚い傾向があります。

■公的年金
加入者の老齢・障害・死亡に対して保険給付を行い、対象者や遺族の生活の安定、福祉の向上を図るための保険制度です。日本では全国民が加入する必要があり、これを「国民皆年金」と言います。
公的年金は自営業者・会社員・公務員の加入者別に以下の3種類に分けられます。

公的年金 対象者
国民年金保険 20歳以上、60歳未満の日本国内の在住者
厚生年金保険 厚生年金保険の適用を受けている企業に勤務する人
共済年金保険 公務員、私立・公立学校の教職員

厚生年金保険の対象は会社で働く従業員で、先述した健康保険料と同様、会社と従業員が折半して負担します。パートなどの非正規社員も対象になりますが、日雇いなど、雇用期間が2カ月以下の場合は適用されません。

■介護保険
介護保険は、65歳以上、もしくは関節リウマチなど「16の特定疾病」に該当する病気により、要介護認定を受けた人に対して生活を支えるための給付やサービスを提供する制度です。加入対象は40歳以上の健康保険加入者で、40歳になった月から保険料の支払義務が発生します。介護保険料については、会社員の場合は健康保険料に上乗せして天引き、自営業者の場合は国民健康保険料に上乗せして納付します。

※参考:厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」

■労災保険(労働者災害補償保険)
パートやアルバイトを含んだ、会社に務めているすべての従業員を対象に、仕事・通勤中の病気や怪我の際に保障されるのが労災保険(労働者災害補償保険)です。保険料は事業主(会社)が100%負担します。加入は義務とされており、1人でも労働者を雇った場合、事業主は労災保険料を納付しなければなりません。

■雇用保険
先述した労災保険と合わせて「労働保険料」として会計処理されるのが、雇用保険です。雇用保険は、失業して収入が不安定になった求職者の生活を支えることを目的としています。原則、すべての従業員が対象ですが、パート・アルバイトにおいては「1週間の所定労働時間が20時間以上」、「31日以上、引き続き雇用されることが見込まれる」という2つの条件を満たしている場合に対象となります。雇用保険料は労働者と事業主のそれぞれが負担し、それぞれの負担額は年度ごとに更新されます。

※出典:厚生労働省「令和2年度の雇用保険料率について」

社会保険料の仕訳例

上記で紹介した社会保険は、仕訳の際、社会保険料と労働保険料に分けられます。それぞれの括りは以下の通りです。

  • 社会保険料…健康保険、厚生年金保険、介護保険
  • 労働保険料…労災保険、雇用保険

社会保険料は先述の通り会社と従業員が折半するものです。支払いのタイミングは毎月で、当月分の社会保険料は翌月の従業員の給料から差し引き、翌月に納付します。つまり、6月分の社会保険料は従業員の7月の給料から差し引き、7月末までに支払うことになります。この時、企業は6月分の社会保険料の折半分を「未払費用」として6月に計上する必要があります。
上記のように、実際に支払っていないにも関わらず支出(もしくは収入)の予定が発生した時点で費用を計上することを「発生主義」、対して、現金預金を支払ったタイミングで計上することを「現金主義」といいます。

なお、社会保険料は「従業員の給料から天引きする分」と「会社が負担する分」で、それぞれ勘定科目が異なります。

  • 従業員の給料から天引きする分…預り金
  • 会社が負担する分…法定福利費

続いて、実際に社会保険料を経費処理する際の3ステップを解説します。

条件:給料25万円の従業員における6月分の社会保険料4万円を処理する。
ポイント:7月に納付する社会保険料(6月分)を6月末に計上する。その際、従業員の給料は7月分の給与から差し引いて計上する。

■ステップ1:会社の折半分2万円を「6月末日」に計上する
借方 金額 貸方 金額
法定福利費 20,000 未払費用 20,000

6月の社会保険料は7月の従業員の給料から差し引き、上記の会社負担分と合わせて7月末に納付する必要があります。そのため、7月の給与支払時には以下のように計上します。

■ステップ2:従業員の折半分2万円を「7月の給与」から天引きする
借方 金額 貸方 金額
給与 250,000 現金預金 230,000
預り金(社会保険料) 20,000

7月の給与から天引きした2万円は「6月分の社会保険料」として、預り金勘定で計上します。ステップ1・2で計上したそれぞれの折半分を7月末に納付する際の仕訳は以下の通りです。

■ステップ3:6月の社会保険料4万円を納付する
借方 金額 貸方 金額
預り金(社会保険料) 20,000 現金預金 40,000
未払費用 20,000

なお、社会保険料は発生主義で経費処理することは先述の通りですが、場合によっては現金主義のルールで仕訳することもあります。その際は、会社の折半分の金額を7月に納付した時点で「福利厚生費」として計上します。

■別例:7月納付時の現金主義による仕訳
借方 金額 貸方 金額
預り金(社会保険料) 20,000 現金預金 40,000
福利厚生費 20,000

労働保険料の仕訳例

労働保険料はまとめて処理するものですが、先述の通り労災保険は「100%事業主が負担」、雇用保険は「事業主と被保険者双方が負担」と、負担者が異なっています。支払いのタイミングは原則年1回(例外で年3回)で、毎月6月1日~7月10日の期間に当年分の見込み額である「概算保険料」を事前に納付し、次年度に実際の保険料との差額を精算します。

労働保険料の仕訳は、毎月の「従業員の給料からの天引き時(雇用保険料)」と年1回の「概算保険料の納付」、「精算」の計3回発生します。処理方法は複数ありますが、今回はそのなかでも「法定福利費」の勘定科目を使ったシンプルな仕訳例を紹介します。

条件:概算保険料が1万2000円、確定保険料が1万5000円であり、精算時に3000円の不足が発生した。また、月々の預り金の金額は1000円とする。

■ステップ1:概算保険料の支払時の仕訳
借方 金額 貸方 金額
法定福利費 12,000 現金預金 12,000


■ステップ2:給与預かり時(社員の負担分)
借方 金額 貸方 金額
給料 1,000 現金預金 1,000


■ステップ3:精算時(確定拠出金との差異を調整)
借方 金額 貸方 金額
給料 3,000 法定福利費 3,000

上記の方法以外にも前払費用を使い精算時に振り替えるパターンなど、労働保険料の処理方法は企業によって異なります。

※関連記事:労働保険料に関する会計の基礎知識
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保険には複数の分野があるため、経理処理が複雑という印象がつきやすいですが、それぞれを整理して特徴を把握すると全体像が見えやすくなります。まずは本文で紹介したような基本的な概要や仕訳方法から理解を深め、続いて社内での仕訳ルールなどの応用力を身につけることで、実務がスムーズになります。

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