人事労務や総務の年次業務の一つに、社会保険料における「算定基礎届」の作成と提出があります。会社の規模に関わらず、従業員を一人でも雇用していれば必ず行うものであり、経理担当者がその業務を担うことも珍しくありません。今回は算定基礎届の基本的な知識と記入のポイントをまとめました。期限内にスムーズに届け出るための参考にしてください。
社会保険料の算定基礎届とは
毎月、企業が社員の給料から天引きして納付している社会保険料の金額は、年金事務所などの機関が、社員それぞれの給与や賞与などから決まる「標準報酬月額」に「保険料率」をかけて算出しています。この標準報酬月額を算出するために必要なのが算定基礎届です。
毎年一回、算定基礎届をもとに標準報酬月額を改定することを定時決定と言い、決定した標準報酬月額はその年の9月から1年間使用されます。
算定基礎届は、毎年6月初旬頃に提出先(下記参照)から各企業に送られて来ます。企業側は各社員の報酬を、送られてきた算定基礎届に記入し、返送します。提出期限までに提出しなかった場合、事業主は「6カ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」を科せられることがあります。
■算定基礎届の提出者と対象者
提出者 |
事業主 |
対象者 |
7月1日時点で使用しているすべての被保険者
(休職・育児休業中の者も含む) |
対象期間 |
4~6月 |
提出期限 |
原則、毎年7月10日まで |
提出先 |
加入している健康保険制度によって異なる
■提出先の例
- 全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)… 年金事務所
- 組合管掌健康保険(健康保険組合)… 年金事務所+健康保険組合
- 厚生年金基金 … 厚生年金基金
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提出方法 |
電子申請、郵送、窓口 |
※出典:
日本年金機構「被保険者報酬月額算定基礎届」
算定基礎届の非対象者
算定基礎届の対象者は、「7月1日現在、会社で使用している被保険者全員」ですが、例外もあります。
■算定基礎届の非対象者
- 6月1日以降に被保険者になった人
- 6月30日以前に退職した人
- 7月の「随時改定」を行うため、月額変更届を提出する人
「随時改定」とは、被保険者が大幅に昇給したなど、算定基礎届の基準となる4~6月に支払われた給与と実際の標準報酬月額に2等級以上の差がある場合、定時決定とは別のタイミングで標準報酬月額を改定することです。随時改定が行われる場合、既に標準報酬月額を改定しているため、定時決定の必要はありません。
報酬月額と支払基礎日数
算定基礎届には、4~6月に実際に支払われた社員一人一人の「報酬月額」を記入して提出しますが、その際、給与の支払対象となった日数である「支払基礎日数」を考慮する必要があります。支払基礎日数は、正社員・パートタイマー・短期労働者などの勤務形態によって、それぞれ基準が異なります。
■正社員の報酬月額
4~6月のうち支払基礎日数が17日未満である月は除外する。なお、通常の給与計算では休日や有給休暇も支払基礎日数として数える。
■パートの報酬月額
基本的な考え方は正社員と同様。ただし4~6月のうち支払基礎日数がいずれも17日未満の場合は、15日以上の月が対象となる。
■短期労働者の報酬月額
4~6月のうち、支払基礎日数が11日以上の月が対象となる。
報酬として認められるもの
報酬月額は、社員に支払われたすべての報酬が対象となるわけではありません。また、通貨だけでなく現物で支給するものが対象となるケースもあります。
■対象・非対象の例
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対象 |
非対象 |
通貨 |
- 基本給、各種手当(家族手当、役職手当、休業手当、通勤手当ほか)
- 年4回以上支給される手当(賞与、決算手当など)
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- 結婚祝金、病気見舞金
- 退職金、解雇予告手当
- 出張旅費、交際費
- 年3回まで支給される手当(賞与など)
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現物 |
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- 本人(社員)からの徴収金額が現物の3分の2以上の「食事代」
- 制服、作業服
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ケースバイケースではありますが、基本的に労働者が労働の対価として受け取るものが報酬月額の対象となります。また、恒常的に支払われるものは対象となり、臨時で受け取る報酬は対象とならないのがほとんどです。
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算定基礎届が無事に提出できると、各提出先にて標準報酬月額が算出され、「標準報酬月額決定通知書」が企業に送られてきます。その後は、その通知書をもとに毎月の給与計算を行っていきます。算定基礎届の処理は年に1回の作業のため、基礎知識もつい忘れがちになりますが、今回紹介した対象者や対象報酬をポイントとして押さえておくとよいでしょう。