とある中小企業のA社は、 今期3,000万円の売上高に対して原価2,000万円、 1,000万円の粗利をあげました。経費の600万円を差し引いて400万円の利益を計上することができました。利益も伸びて社長も満足顔です。ところが、
貸借対照表(B/S)を眺めて一変します。
「預貯金が300万円も減っているじゃないか」社長は、みるみる顔を赤らめます。預貯金の増減しか見ない社長って、意外と多いのです。会社の資産はすべて自分のものと勘違いしている困った社長です。さて、「オレの300万円はどこにいったのだ?」と鼻息荒い社長に、経理担当であるあなたはどう説明しますか?下記の表は、A社の
損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)を簡略化したものです。2つの表から答えを導いてください。
A社の損益計算書(P/L)簡易版(万円)
売上高 |
3,000 |
売上原価 |
2,000 |
経費 |
600 |
利益 |
400 |
A社の貸借対照表(B/S)簡易版(万円)
|
前期末 |
当期末 |
現預金 |
800 |
500 |
売掛金 |
500 |
900 |
在庫 |
200 |
500 |
資本金 |
100 |
100 |
剰余金 |
1,000 |
1,400 |
気になる答えは…
貸借対照表(B/S)に隠れていた!
A社の貸借対照表(B/S)をよく見てください。 確かに預貯金は前期に比べて300万円減っています。その他、数値に変化のある項目があるのに気づきましたか。まず、売掛金が300万円増えています。在庫が200万円増えています。
「何なのだ、この売掛金というやつは」そんな社長の嘆きが聞こえてきたら、要注意です。ていねいに説明していきましょう。一般的なビジネスで採用されている後払いの信用取引のことを「掛取引」と言います。商品・サービスを提供してから、入金されるまで1〜2カ月のタイムラグが発生します。
このタイムラグの期間に商品・サービスの提供企業が保有している「代金を受け取る権利のこと」を売掛金と言います。ちなみに売掛金の反対は買掛金、商品・サービスを受けた企業がもつ「代金を支払う義務のこと」を指します。
会社の資産は、現金だけじゃない
「会社の資産は、現金だけじゃないの?」そんな社長の言にも、決して冷静さを失わないこと。それが経理担当の務めです。会社の資産は1年以内に換金可能な流動資産、1年以内に換金することを想定していない
固定資産に大別されます。その他、繰延資産もありますが、ここでは割愛しておきます。
先ほどとり上げた売掛金も流動資産に含まれます。在庫は棚卸資産としてやはり流動資産に該当します。ちなみに、固定資産は工場の設備や店舗、社屋などがこれにあたります。
さて、A社の例で預貯金以外の資産をみてみましょう。
〈資産〉
売掛金 500万円→900万円(+400万円)
在庫 200万円→500万円(+300万円)
資産が700万円増えています。にもかかわらず、預貯金が減っているのはなぜでしょう。売掛金の意味をもう一度振り返ってみましょう。売掛金は、商品・サービスの提供企業が保有している「代金を受け取る権利のこと」。つまり、売上として計上されているのに、まだ入金されていない金額なのです。
利益とキャッシュの違い
利益は、売上として帳簿に計上された記録としての金額。売掛金が回収されて初めてキャッシュとなる。このタイミングのズレが、利益が上がっているにも関わらずキャッシュが減っているなどの現象を生み出します。
さらに、在庫は仕入れとして代金を支払いながら、まだ販売されていないもの。着実にキャッシュを減少させていきます。もちろん、売上の拡大により在庫が増えることは自然なことで一概に問題とは言えません。
今回の演習問題の解答としては、
●売掛金増400万円が、利益とキャッシュのズレ(未回収金が増えている)
●在庫増300万円によるキャッシュアウト増
上記2つの要因で預貯金が減っていたのです。
なお、減った預貯金300万円の導き出し方については以下の通りになります。
前期末の現預金800万円に利益400万円をプラスした1200万円から、未回収金増である売掛金増400万円とキャッシュアウト増の一因である在庫増300万円をマイナスすることで、当期末の預貯金500万円を算出します。
前期末の現預金800万円 + 利益400万円 = 1200万円
1200万円 − (売掛金増400万円 + 在庫増300万円) = 当期末の現預金500万円
続いて前期末の現預金から、割り出した当期末の預貯金500万円を引くと下記の通りとなります。
前期末の現預金800万円 − 当期末の預貯金500万円 = 300万円
こうして減少した預貯金300万円を導き出すことができました。