この記事のポイント
- 2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で前年比56円増の1,177円となり、2026年10月以降、都道府県ごとに順次適用される。
- 2026年10月には短時間労働者の社会保険加入における月額8.8万円以上の賃金要件が撤廃され、企業規模要件も2027年10月以降、段階的に縮小・撤廃される。
- 企業は最低賃金の引き上げ額だけでなく、将来の社会保険料を含む総人件費を試算し、加入対象者の確認や給与計算システムの設定などを事前に進めることが重要である。
2026年10月以降、地域別最低賃金の引き上げや、短時間労働者の社会保険における月額8.8万円以上の賃金要件の撤廃など、企業の人件費に関わる制度変更が続きます。
さらに、2027年以降は社会保険の企業規模要件も段階的に拡大されるため、将来を見据えた準備が必要です。
今回の記事では、制度変更の内容や人件費への影響、給与計算などの実務対応について解説します。
2026年10月以降に起こる制度改正
まずは企業に影響を与える制度改正の内容を具体的に確認していきましょう。
全国で時給の地域別最低賃金が上昇
2026年度(令和8年度)、時給の最低賃金が全国加重平均で前年比56円増の1,177円に改定されます。
これに伴い、東京都で1,280円、宮崎県で1,085円など、すべての都道府県で時給の最低賃金が大幅に上昇します。
発効日は都道府県によって異なり、早い地域では10月1日から、最も遅い地域では12月2日から順次適用される予定です。
引き上げ幅には地域差があり、佐賀県では65円増、鹿児島県では64円増など、これまで水準の低かった県で比較的大きな引き上げとなっています。
企業は、自社の拠点に適用される最低賃金の発効日と引き上げ額を確認しておく必要があります。
※参考資料:厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」
社会保険適用拡大における「106万円の壁」の賃金要件が撤廃
2026年10月から、パート・アルバイトなどの短時間労働者における社会保険の加入要件のうち、月額8.8万円(年収約106万円以上)の賃金要件が撤廃されます。
これまで、社会保険への加入要件には「週の所定労働時間が20時間以上であること」や「月額賃金が8.8万円以上」などの要件がありましたが、最低賃金の上昇により、週20時間以上働く労働者であれば、どの都道府県であっても月額賃金が8.8万円以上となるようになりました。
そのため、「106万円の壁」と呼ばれてきた賃金要件は実質的に意味を失い、2026年10月に撤廃されます。
※参考資料:厚生労働省「社会保険加入対象者の範囲が拡大されるのをご存じですか?」
特定適用事業所の企業規模要件の適用拡大にも注意
特定適用事業所とは、厚生年金保険の被保険者数について一定の企業規模要件を満たし、短時間労働者への社会保険の適用が義務となる事業所です。
一方、企業規模要件を満たしていなくても、労使の合意に基づく申し出により、短時間労働者に社会保険を適用する事業所は任意特定適用事業所とされます。
今後の社会保険の適用拡大を考えるうえでは、企業規模要件の見直しにも注意が必要です。
短時間労働者への社会保険の適用に関わる事業所には、特定適用事業所と任意特定適用事業所があります。
| 特定適用事業所 |
厚生年金保険の被保険者数について一定の企業規模要件を満たし、短時間労働者への社会保険の適用が義務となる事業所 |
| 任意特定適用事業所 |
企業規模要件を満たしていなくても、労使の合意に基づく申し出により、短時間労働者に社会保険を適用する事業所 |
このうち、特定適用事業所の対象となる企業は、今後段階的に拡大していきます。
2026年10月時点で短時間労働者への社会保険適用の対象となるのは、原則として厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です。
しかし、この規模要件は2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上、そして2035年10月にはすべての企業へと段階的に縮小・撤廃されていきます。
つまり、現在36~50人規模の企業では、2027年10月からの適用拡大が約1年後に迫っています。
企業は単年度の時給アップ対応だけでなく、2027年以降を見据えた中長期的な総人件費の試算と雇用構造の見直しも必要です。
※関連記事:社会保険の適用拡大とは?従業員数が50人を超えたら要注意!
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
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人件費の増加額を試算する
最低賃金改定や今後の社会保険適用拡大に対応するためには、単に時給が数十円上がったことによる支給額の差だけを見るのではなく、将来的に発生する社会保険料の増加分も含めた総人件費で試算することが重要です。
新たに社会保険へ加入する従業員が発生する場合は、企業が負担する社会保険料が給与支給額にどの程度上乗せされるかを、あらかじめ見積もる必要があります。
また、一般的なケースを前提にすると、企業側が負担する社会保険料等の合計割合は給与支給額のおおむね15%前後になります。
新たな加入対象者にかかる法定福利費や、賃金上昇に伴う負担増を織り込んでおかなければ、年間の人件費が想定以上に増加し、企業の資金繰りにも影響する可能性があります。
以下のような対応を行い、早めに準備を進めることが大切です。
- 最低賃金改定による人件費増を試算する
- 週20時間付近の短時間労働者を洗い出す
- 2027年以降の企業規模要件縮小による社会保険料増を試算する
- 給与計算・社会保険手続きの準備を整える
計算例:時給上昇による企業負担コストはどのくらい増えるか
実務での影響を把握しやすいよう、パート従業員が多く働くK社をモデルに、1人あたりの人件費増加額を試算してみましょう。
K社では、時給1,100円・月80時間勤務のパート従業員がいるとします。
この従業員は既に社会保険に加入しており、企業は給与に加えて社会保険料を負担しています。
2026年10月以降、最低賃金改定や社内の賃金バランスを踏まえて、時給を1,150円に引き上げるケースを想定します。
※実際の健康保険料・厚生年金保険料は、標準報酬月額や加入する健康保険、年齢などによって異なります。また、雇用保険料なども発生します。以下では、人件費予算を把握するため、企業負担の社会保険料等を給与支給額の約15.1%と仮定して概算しています。
改定前の状態(時給1,100円)
| 給与支給額 |
88,000円(時給1,100円 × 80時間) |
| 企業負担社会保険料等(約15.1%) |
13,288円 |
| 企業負担コスト合計 |
101,288円 / 月 |
2026年10月以降の状態(時給1,150円へ引き上げ)
最低賃金改定や社内の賃金バランスに合わせて、K社が時給を1,150円に引き上げた場合、月額給与は92,000円となります。
| 改定後時給 |
1,150円(月額給与:92,000円) |
| 給与支給額の増加 |
+4,000円 / 月 |
| 給与上昇に伴う企業負担社会保険料等の概算 |
13,892円(改定前比+604円 / 月) |
| 企業負担コスト合計 |
105,892円 / 月 |
改定による影響額の比較
以下が改定前と後の企業負担額を比較したものです。
| 区分 |
改定前 |
改定後 |
| 時給 |
1,100円 |
1,150円 |
| 給与支給額(時給×80時間) |
88,000円 |
92,000円 |
| 企業負担社会保険料等(約15.1%) |
13,288円 |
13,892円 |
| 企業負担コスト合計 |
101,288円 |
105,892円 |
改定前後を比べると、時給の引き上げに伴うコスト増加額は月4,604円となり、給与の上昇分に加えて、社会保険料の負担額も増加しています。
このため、時給の引き上げ分だけを見ていると、実際のコスト増加を十分に把握できない可能性があります。
資金繰りや予実管理を適切に行ううえでは、こうした増加分をあらかじめ見込んでおくことが重要です。
法定福利費は企業にとって継続的な費用・キャッシュアウトとなるため、10月以降の資金繰り管理では、給与増加額に加え、今後の適用拡大による加入対象者数と社会保険料負担額も確認しておく必要があります。
今後対象になりそうな人の洗い出し
また、現時点で社会保険に入っていないものの、今後加入対象となりそうな従業員の把握も重要です。
契約変更やシフト増で「週20時間以上」になりそうな従業員
現在は週18時間や19時間契約で社会保険対象外だが、人手不足や業務拡大に伴いシフトが増え、実態として週20時間以上の勤務が継続しそうな従業員がいないか確認しましょう。
2027年10月以降に企業規模要件の対象となる企業の事前準備
現在36~50人規模の企業では、2027年10月から企業規模要件に該当することになるため、週20時間以上で働くパート・アルバイトが新たに加入対象となる場合があります。
あらかじめ対象人数と法定福利費の増加額をシミュレーションし、経営層へ報告しておくことが予実管理上の重要なポイントとなります。
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制度改正に向けた給与計算・社会保険の実務対応
最低賃金の改定や社会保険の適用拡大では、給与計算の見直しや将来の負担増に向けた準備も必要です。
ここでは、給与計算上の注意点やシステムを活用した対応、社会保険の適用拡大に伴う支援制度について解説します。
実務でミスが起きやすいポイント
最低賃金の発効日は地域によって10月から12月まで異なるため、給与の締め日との関係で新時給への切り替えタイミングを誤ると、賃金の計算ミスにつながりかねません。
特に、給与計算期間の途中で最低賃金の発効日を迎える場合には注意が必要です。
発効日以降の労働には新しい最低賃金が適用されるため、旧時給と新時給を適切に区分して給与を計算する必要があります。
複数の都道府県に拠点がある企業では発効日も異なるため、各拠点の適用日を確認し、給与計算の設定に反映しておきましょう。
給与計算システムを活用してミスを防ぐ
最低賃金の発効日や新時給への切り替えを正確に管理するためには、給与計算システムの活用が有効です。
単価の一括更新や適用日の設定などに対応したシステムを活用することで、更新漏れや適用ミスを減らし、給与計算業務の効率化にもつなげることができます。
複数の都道府県に拠点がある場合にも、地域ごとに異なる最低賃金や発効日をシステム上で管理することで、スムーズに対応できるようになります。
社会保険の適用拡大には支援制度の活用も
2026年10月以降に任意特定適用事業所となる事業所や、2027年10月以降の企業規模要件の縮小によって新たに特定適用事業所となる事業所では、一定の要件を満たす短時間労働者について、本人の社会保険料負担を最長3年間軽減する「保険料調整制度」を利用できる場合があります。
また、週の所定労働時間の延長・給与増加に取り組む事業主を対象にした「キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)」も活用できます。
給与計算システム内で対象者の労働時間や賃金実績を管理しておけば、こうした制度の利用に必要な情報も確認しやすくなります。
システム対応や制度の判断に迷う場合は、会計ベンダーや社会保険労務士などの専門家に早めに相談できる体制を整えておくと安心です。
※参考資料:日本年金機構「保険料調整制度のご案内」
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
組織の人的資源を最大限に活用!
給与・人事システム
複雑な支給形態を網羅!勤怠管理などのシステムとも連携することで、給与・賞与計算を自動化できます。また、従業員のあらゆる情報を適切に管理することで、組織の人的資源を最大限に活用することができます。
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2026年10月以降の最低賃金改定や社会保険の適用拡大は、企業の人件費や給与計算実務に影響を与えます。
目先の賃金改定だけでなく、2027年以降の適用拡大も見据えて、対象となる従業員の確認や人件費の試算を進めておくことが重要です。
併せて、給与計算システムや支援制度も活用しながら、制度変更にスムーズに対応できる体制を整えておきましょう。