この記事のポイント
- 財務レバレッジとは、自己資本に対してどの程度の総資産を運用しているかを示す指標で、「総資産÷自己資本」で算出する。
- 財務レバレッジを高めると、ROAが借入金利を上回る場合はROEを押し上げる一方、下回る場合はROEを押し下げるほか、借入れの増加に伴い、返済や利払いなどの財務リスクも高まる。
- 金利上昇局面では、有利子負債や変動金利による借入れが多い企業ほど影響を受けやすいため、借入残高や金利上昇による影響額を試算し、D/Eレシオなどとあわせて管理することが重要である。
金利上昇が続く中、企業にとって借入金を含む資本構成の管理は、これまで以上に重要になっています。
その際に押さえておきたい指標の一つが「財務レバレッジ」です。
特に借入金や社債などの有利子負債が多い企業は、借入コスト増加の影響を受けやすいため、その仕組みを理解しておく必要があります。
本記事では、財務レバレッジの計算方法やROEとの関係、負債比率、D/Eレシオとの違い、金利上昇局面での考え方について解説します。
財務レバレッジとは
財務レバレッジとは、借入金などの有利子負債を含む他人資本を活用することで、自己資本に対してどの程度の総資産を運用しているかを示す指標です。
自己資本だけの場合よりも大きな規模の資産を運用できることから、「てこの原理(レバレッジ)」になぞらえて財務レバレッジと呼ばれます。
財務レバレッジが高いほど、少ない自己資本で多くの資産を動かしていることを意味します。
一方、財務レバレッジが低い企業は、借入れなどへの依存度が低い反面、他人資本を活用する企業と比べて、成長投資のスピードが緩やかになる場合もあります。
財務レバレッジの計算式
財務レバレッジの計算式は以下の通りです。
財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本 = 1 ÷ 自己資本比率
財務レバレッジは、総資産が自己資本の何倍にあたるかを示す指標で、一般的に「倍」で表します。
例えば自己資本が5,000万円、総資産が2億円の企業の場合、以下となります。
2億円 ÷ 5,000万円 = 4倍
つまり、この企業は自己資本の4倍にあたる総資産を運用していることになります。
また、自己資本比率は「自己資本÷総資産」で計算するため、財務レバレッジとは逆数の関係になります。
この場合、自己資本比率は以下の通りです。
1 ÷ 4 = 25%
自己資本に対して他人資本が多いほど、財務レバレッジは高くなります。
2倍前後が一つの目安として挙げられることもありますが、一律の適正水準があるわけではなく、業種や事業モデルなどによって異なります。
そのため、自社の過去の推移や同業他社と比較して判断することが重要です。
自社の財務レバレッジを試算する際は、貸借対照表から総資産と自己資本の金額を確認するだけで簡単に算出できます。
数値の推移を把握しやすいため、自社の財務状況を管理するための指標として活用しやすく、経営目標の一つとして設定することもできます。
ROEとの関係(デュポンシステム)
財務レバレッジが重視される理由の一つが、ROE(Return on Equity:自己資本利益率)との関係です。
ROEの計算式は以下の通りです。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
なお、財務レバレッジとROEの関係を見るうえでは、総資産に対する収益性を示すROA(Return on Assets:総資産利益率)も重要な指標となります。
※関連記事:ROEとROAはどう違う?収益性分析するなら知っておきたい両者の違い
ROEを構成する3つの要素の関係
ROEは、「売上高純利益率」、「総資産回転率」、「財務レバレッジ」の3つの要素に分解できます。
この分析手法は、米国のデュポン社が考案したことから「デュポンシステム」と呼ばれています。
それぞれの指標の計算式と確認できる内容は以下の通りです。
| 指標 |
計算式 |
確認できること |
| 売上高純利益率 |
当期純利益÷売上高 |
売上高に対してどの程度の利益を生み出しているか |
| 総資産回転率 |
売上高÷総資産 |
資産をどの程度効率的に売上につなげているか |
| 財務レバレッジ |
総資産÷自己資本 |
自己資本に対してどの程度の総資産を運用しているか |
これら3つの要素とROEの関係を数式で表すと、以下の通りです。
右辺を掛け合わせると「売上高」と「総資産」がそれぞれ約分され、最終的に「当期純利益÷自己資本」となるため、ROEと一致します。
この式から、ROEは本業の収益性や資産の回転率だけでなく、財務レバレッジ、つまり企業の資本構成によっても左右されることがわかります。
財務レバレッジとROEの関係
では、借入金を活用して財務レバレッジを高めると、ROEはどのように変化するのでしょうか。
この関係は、ROAと借入金利、D/Eレシオを用いた次の数式で、より詳しく確認できます。
- t=税率
- r=ROA
- i=借入金利
- D/E=有利子負債÷自己資本
※この数式におけるROA(r)は、支払利息控除前・税引前の利益を総資産で割った収益率とします。
ROE =(1 - t)×[r +(r-i)× D/E]
着目すべきは(r-i)とD/Eの関係です。
ROAが借入金利を上回っている(r>i)場合、D/Eが大きいほどROEを押し上げる方向に働きます。
反対に、ROAが借入金利を下回っている(r<i)場合、D/Eが大きいほどROEを押し下げる方向に働きます。
金融機関による融資審査でも、企業の収益性や有利子負債、自己資本の状況は重要な確認項目となります。
そのため、経理担当者が自社のROEを経営者や金融機関に説明する際にも、財務レバレッジとの関係を理解しておくことが重要です。
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負債比率とD/Eレシオ
財務レバレッジとあわせて押さえておきたいのが、「負債比率」と「D/Eレシオ」です。
いずれも企業の財務構造を分析する際に用いられる指標ですが、財務レバレッジとは計算対象や着目するポイントが異なります。
それぞれの違いを理解しておくことで、自社の財務状況を複数の角度から分析できるようになります。
負債比率とは
負債比率とは、自己資本に対して負債がどの程度あるかを示す指標です。
算式は以下の通りです。
負債比率 = 負債 ÷ 自己資本 × 100
負債比率は、100%以下が財務安定性を判断する一つの目安として挙げられることもあります。
ただし、適正水準は業種や事業モデルによって異なります。
例えば、掛け仕入れが多い業種では買掛金が多くなり、負債比率が高くなる場合があります。
D/Eレシオとは
D/Eレシオ(Debt Equity Ratio)は、有利子負債に着目し、自己資本との比率を見る指標です。
有利子負債とは、金融機関からの借入金や社債など、利息の支払いを伴う負債を指します。
D/Eレシオの算式は以下の通りです。
D/Eレシオ(倍)= 有利子負債 ÷ 自己資本
※D/Eレシオは、資料や分析目的によって算定に用いる負債や自己資本の範囲が異なる場合があります。
負債比率が買掛金なども含めた総負債を対象とするのに対し、D/Eレシオは借入金や社債などの有利子負債を対象とする点が異なります。
D/Eレシオは、1倍以下が財務健全性を判断する一つの目安として挙げられることもあり、金融機関が企業の財務状況を確認する際にも活用される指標です。
ただし、成長段階にある企業や設備投資負担の大きい製造業などではD/Eレシオが高くなる場合もあるため、業種や成長段階を踏まえて判断する必要があります。
財務レバレッジとの関係
財務レバレッジ、負債比率、D/Eレシオは、いずれも自己資本に対してどれだけ他人資本を使っているかを、異なる切り口から捉えるための指標です。
それぞれの違いは以下の通りです。
| 指標 |
確認すべきポイント |
| 財務レバレッジ |
自己資本に対する総資産の比率 |
| 負債比率 |
自己資本に対する総負債の比率 |
| D/Eレシオ |
自己資本に対する有利子負債の比率 |
これらの違いを押さえておけば、銀行の担当者などとの会話でも混同せずに使い分けられるようになります。
先ほどの例と同様、自己資本が5,000万円、総資産が2億円の企業の場合、負債1億5,000万円のうち有利子負債が1億円であれば、財務レバレッジは4倍、負債比率は300%、D/Eレシオは2倍となります。
このように、同じ企業でも異なる切り口から財務状況を分析できます。
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財務レバレッジが高い企業のメリット・デメリット
財務レバレッジは、高ければよい、低ければよいと一概に判断できるものではありません。
他人資本を活用することで、少ない自己資本でも事業規模を拡大し、ROEを高める効果が期待できる一方、借入金の返済や利息の支払いによる財務リスクも大きくなります。
ここでは、財務レバレッジが高い企業のメリット・デメリットについて確認していきましょう。
メリット
財務レバレッジを効かせるメリットの一つは、少ない自己資本でもROEを高める効果が期待できる点です。
また、有利子負債にかかる支払利息は会計上費用として計上され、税務上も原則として損金算入されるため、税負担を抑える効果も期待できます。
さらに、他人資本を活用することで、自己資本だけでは難しい規模やスピードで、新たな設備投資や事業拡大を進められるという利点もあります。
デメリット
財務レバレッジにはROEを押し上げる効果が期待できる反面、ROEの振れ幅を大きくする側面もあります。
借入金を増やすということは、事業そのもののリスクに加えて、元本の返済や利息の支払い、金利変動に伴う財務リスクを負うことを意味します。
そのため、ROAが借入金利を下回ると、財務レバレッジは逆にROEを押し下げる方向に働きます。
特に業績が悪化した局面では、返済負担がキャッシュフローを圧迫し、金融機関からの信用にも影響する可能性があります。
財務レバレッジを効かせた経営では、こうした財務リスクも高まることを意識する必要があります。
財務レバレッジの高低によるROEの違い
借入れの有無によってROEにどのような違いが生じるのか、具体的な数値で比較してみましょう。
- 企業A:無借金経営(D/E=0)
- 企業B:自己資本の3倍の有利子負債を保有(D/E=3倍)
- 借入金利(i):3%
- 税率(t):30%
業績が好調でROA(r)が10%の場合
企業AのROEは以下の通りです。
(1 - 0.3)× 10% = 7%
一方、企業Bは以下の通りとなり、ROEは21.7%となります。
(1 - 0.3)×[10% +(10% - 3%)× 3]=21.7%
業績が悪化してROA(r)が2%まで落ち込んだ場合
企業AのROEは以下の通り、1.4%となります。
(1 - 0.3)× 2% = 1.4%
一方、企業BのROEは以下の通り、マイナスに転じます。
(1 - 0.3)×[2% +(2% - 3%)×3]= -0.7%
このように、同じROAの変化でも、財務レバレッジの大きい企業Bのほうが、その変化によるROEの振れ幅が大きくなることが確認できます。
2026年の金利上昇局面における影響と対策
財務レバレッジの「諸刃の剣」ともいえる性質が表れやすいのが、金利上昇局面です。
日銀は2026年6月の金融政策決定会合で政策金利を0.75%から1.00%へ引き上げ、主要行の貸出金利も上昇傾向にあります。
今後も追加利上げの可能性があることから、企業は借入金利の動向を注視する必要があります。
特に、変動金利による借入れが多い企業や、有利子負債が多く財務レバレッジやD/Eレシオが高い企業は、金利上昇による影響を受けやすくなります。
ROAが改善しないまま借入コストだけが上昇すれば、財務レバレッジがROEを押し下げる方向に働く可能性もあります。
そのため経理担当者は、まず変動金利による借入残高を洗い出し、金利上昇による影響額を試算しておくことが重要です。
そのうえで、必要に応じて金融機関に金利条件や固定金利への切り替えを相談するとともに、本業の収益改善によるROAの向上にも目を向ける必要があります。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
会計業務の効率化に、柔軟性と迅速性を発揮
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財務レバレッジは、企業の資本構成やROE、財務リスクを分析するうえで役立つ指標です。
高ければよいというものではなく、負債比率やD/Eレシオなどの関連指標とあわせて、自社の財務状況を把握することが重要です。
金利上昇による影響も見据えながら、適切な財務管理につなげていきましょう。