この記事のポイント
- 包括利益とは、当期純利益とその他の包括利益(OCI)の合計であり、資本取引を除いた純資産の変動全体を示す指標である。
- その他の包括利益は、その他有価証券評価差額金・繰延ヘッジ損益・為替換算調整勘定・退職給付に係る調整額の4項目が中心であり、株主資本等変動計算書や貸借対照表を通じて純資産への影響を確認できる。
- 包括利益は当期純利益では把握できない含み損益や為替などの影響を把握するために重要であり、包括利益計算書・株主資本等変動計算書・貸借対照表を併せて確認することで、企業の財政状態や純資産の変動をより正確に把握できる。
当期純利益にはなじみがあっても、包括利益についてはよくわからないという担当者もいるのではないでしょうか。
また、決算書に表示される「その他有価証券評価差額金」をはじめとするその他の包括利益(OCI)は、どのような項目で構成され、どのように処理されるのかイメージしにくい項目です。
本記事では、包括利益と当期純利益の違いを整理したうえで、その他の包括利益を構成する主な4項目の概要や仕訳例、株主資本等変動計算書・貸借対照表での読み取り方までわかりやすく解説します。
包括利益とは
包括利益とは、資本取引(株主との直接的な取引) を除いた純資産の変動全体を示す数値です。
当期純利益とその他の包括利益(OCI)を合計して算出します。
- 包括利益:
当期純利益とその他の包括利益の合計
- 当期純利益:
売上や費用など、損益計算書で認識される利益
- その他の包括利益(OCI:Other Comprehensive Income):
有価証券の評価差額や為替換算差額など、当期純利益には含まれないものの、純資産の変動として認識される損益
例えば、当期純利益が100億円、その他の包括利益が20億円であれば、その期の包括利益は120億円です。
※参考資料:企業会計基準委員会「企業会計基準第25号 包括利益の表示に関する会計基準」
当期純利益との違い
当期純利益と包括利益の主な違いは、当期純利益に含まれない純資産の変動まで反映するかどうかにあります。
例えば、保有株式の時価が取得時より上昇しても、売却するまで当期純利益には反映されません。
一方、その値上がり分のうち、その他の包括利益として処理される評価差額は、包括利益に反映されます。
包括利益は純資産の増減額と一致する(クリーン・サープラス関係)
包括利益は、資本取引を除いた貸借対照表上の純資産の増減と一致するという性質を持ちます。
これを「クリーン・サープラス関係」といいます。
例えば、期首の純資産が1,000億円で、当期の包括利益が200億円だったとします。配当や増資など株主との直接的な取引がなければ、期末の純資産は1,200億円になります。
日本基準とIFRSにおける包括利益の取り扱いの違い
日本基準とIFRS(国際財務報告基準)では、その他の包括利益の取り扱いに違いがあります。
包括利益は、IFRSとの整合を図る目的で日本の会計基準に取り入れられた経緯があります。
その代表的な違いが、「リサイクリング(組替調整)」です。
リサイクリングとは、過去にその他の包括利益として計上した損益を、実現した期に当期純利益へ振り替える処理を指します。
日本基準では、含み損益の二重計上を防ぐため、原則としてリサイクリングを行います。
一方、IFRSでは項目によって取り扱いが異なり、一部ではリサイクリングが認められていません。
例えば、前期にその他の包括利益へ計上した保有株式を当期に売却すると、売却益は当期純利益に計上されます。
そのため、日本基準では、その他の包括利益から同額を減額し、利益の二重計上を防ぎます。
※関連記事:近年導入が広がる国際会計基準「IFRS」とは
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その他の包括利益を構成する主な4項目
その他の包括利益は、主に「その他有価証券評価差額金」、「繰延ヘッジ損益」、「為替換算調整勘定」、「退職給付に係る調整額」の4項目で構成されます。
- その他有価証券評価差額金:
その他有価証券に区分される有価証券の時価評価による評価差額
- 繰延ヘッジ損益:
ヘッジ取引の評価差額を、ヘッジ対象の損益と対応させるために繰り延べるもの
- 為替換算調整勘定:
海外子会社などの外貨建財務諸表を円換算する際に生じる差額
- 退職給付に係る調整額:
退職給付債務や年金資産に関する数理計算上の差異など
これらの項目に共通するポイントは以下の通りです。
- 当期純利益には含めず、その他の包括利益として表示される
- 貸借対照表では、純資産の部の「その他の包括利益累計額」として表示される
- 将来、一定の条件を満たすと当期純利益へ振り替えられる(リサイクリング)ものがある
- 株主資本等変動計算書では、当期変動額として表示される
包括利益計算書における表示方法
その他の包括利益は、包括利益計算書や連結財務諸表で開示されます。
包括利益計算書とは、企業の包括利益を表示するための財務諸表であり、原則として連結決算で作成されます。
連結決算に係る財務諸表では、親会社と子会社の包括利益を合算して、連結包括利益として表示します。
特に、為替換算調整勘定と退職給付に係る調整額は、連結決算で計上される代表的な項目です。
なお、子会社の包括利益は、親会社株主持分(親会社帰属分)と非支配株主持分に分けて表示されます。
これは、子会社を親会社が100%出資しているとは限らず、外部株主が存在する場合があるためです。
その他の包括利益における仕訳例
ここからは、その他の包括利益に関する仕訳例を解説します。
主に連結精算表上での修正仕訳としてイメージしてください。
その他有価証券評価差額金
その他有価証券評価差額金は、売買目的以外で保有する有価証券の評価差額を、税効果控除後に純資産へ直入する項目です。
すぐに売却して損益を確定させるものではないため、時価変動を当期の損益に含めません。
例えば取引先との関係維持のために保有する株式の時価が、取得時より100万円上昇したとします。
実効税率30%の場合、将来の売却時に課税される見込み額として30万円を繰延税金負債に計上し、残る70万円をその他有価証券評価差額金として計上します。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 投資有価証券 |
100万円 |
繰延税金負債 |
30万円 |
|
|
その他有価証券評価差額金 |
70万円 |
※含み益100万円・実効税率30%の簡略化した仕訳例。税効果会計により30万円を繰延税金負債、残り70万円を評価差額金として計上。
繰延ヘッジ損益
繰延ヘッジ損益は、為替や金利の変動リスクを回避するヘッジ取引で生じる項目です。
ヘッジ手段(デリバティブなど)の評価差額を、ヘッジ対象の損益が実現するまで繰り延べ、両者の損益を同一期間に対応させます。
例えば将来の輸出取引に備えて為替予約を行った場合、期末時点の評価益は、実際の輸出売上が計上されるまで繰延ヘッジ損益として処理します。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| デリバティブ資産 |
××× |
繰延ヘッジ損益 |
××× |
※評価益が生じた場合の例。理解しやすいよう税効果仕訳は省略。評価損の場合は借方・貸方が入れ替わる。
為替換算調整勘定
為替換算調整勘定は、海外の子会社や支店の外貨建財務諸表を連結のために円換算する際、生じる為替差額を調整する項目です。
資産負債と純資産で適用する為替レート(期末レートと取得時レート)が異なり、貸借に不一致が生まれるためです。
例えばアメリカの子会社の純資産を連結へ取り込む際、円安ドル高が進んでいれば換算差額はプラスとなり、為替換算調整勘定が増加します。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 換算差額(資産負債・純資産の換算差) |
××× |
為替換算調整勘定 |
××× |
※海外子会社の純資産を円換算した結果、換算差額が生じた場合の例。実際には連結精算表上での修正仕訳として処理されるため、ここでは概念を示す。連結手続で生じる差額のため、原則として税効果は認識しないこととされている。
退職給付に係る調整額
退職給付に係る調整額は、退職給付債務や年金資産に関する未認識額を計上する項目です。見積りの変更や運用実績の差異(数理計算上の差異など)から生じ、これを純資産へ反映して隠れ負債を可視化します。
例えば企業年金の運用利回りが想定を大きく下回った場合、その損失分はただちに当期純利益を圧迫しません。
一旦この調整額に計上され、その後、一定期間にわたり損益へ振り替えられ、費用として処理されます。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 退職給付に係る調整額 |
××× |
退職給付に係る負債 |
××× |
※数理計算上の差異が発生した場合の例。理解しやすいよう税効果仕訳は省略。差異の内容により借方・貸方が入れ替わる。
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株主資本等変動計算書・貸借対照表での読み取り方と実務活用
当期のその他の包括利益は、株主資本等変動計算書で「当期変動額」として表示され、その結果が期末残高として貸借対照表の「その他の包括利益累計額」に反映されます。
フロー(当期の変動額)とストック(蓄積された残高)の対応関係です。
この対応を押さえると、二つの計算書を突き合わせて含み損益の動きを読み取れます。
決算実務では、両者の整合性を確認することが重要です。
株主資本等変動計算書では当期変動額として記載される
株主資本等変動計算書では、その他有価証券評価差額金などの各項目が「当期変動額」として表示されます。
期首残高に当期変動額を加減したものが期末残高となります。
期首と期末のあいだで、その期にいくら増減したかが一目でわかる作りです。
例えば、その他有価証券評価差額金の期首残高が50億円、当期変動額が10億円なら、期末残高は60億円です。
これにより、その他の包括利益の各項目が、その期にどれだけ増減したかを確認できます。
※関連記事:株主資本等変動計算書で資本構成の変化をつかめ!ほかの財務諸表では見えない「動き」に注目
貸借対照表ではストックの累計残高として読み取る
貸借対照表の純資産の部「その他の包括利益累計額」は、過去から現在までに蓄積された含み損益の合計残高(ストック)を示します。
各期のその他の包括利益(フロー)が積み上がった結果が、この残高に反映されます。
その他の包括利益累計額は、実務では「前期末残高+当期のその他の包括利益=当期末残高」という関係で確認できます。
また、株主資本等変動計算書の当期変動額と貸借対照表の残高の整合も確認できます。
この整合性を確認することが、包括利益開示の正確性を担保するポイントです。
計算書方式の選択と実務での包括利益の見方
包括利益計算書の表示には、損益計算書と包括利益計算書を一つの計算書として表示する1計算書方式と、両者を別々に表示する2計算書方式があります。
日本の上場企業の多くは、従来の損益計算書の形式を維持しやすい2計算書方式を採用しています。
どちらの方式でも、算出される包括利益の金額は変わりません。
当期純利益と包括利益の乖離が大きい場合は、為替や保有資産の含み損益など、その変動要因を確認するとよいでしょう。
特に、以下のような企業では、その他の包括利益が大きく変動することがあります。
- 海外子会社を有し、為替換算の影響を受けやすい企業
- その他有価証券を多く保有する企業
- 企業年金制度を採用している企業
該当する企業では、包括利益の金額だけでなく、その他の包括利益を構成する各項目の変動にも注意して確認しましょう。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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包括利益は、当期純利益にその他の包括利益を加えたものであり、当期純利益だけでは把握できない純資産の変動も反映した指標です。
その他の包括利益を構成する主な4項目や仕訳例、株主資本等変動計算書・貸借対照表での表示方法を理解することで、決算書をより正確に読み取れるようになります。
包括利益計算書や連結財務諸表も確認しながら、決算実務や財務分析に役立ててください。