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経理/財務公認会計士の仕事術 2024/08/23

第2回 「念には念を」で問題を見落とさない仕事術

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前回はミスの許されない緊張感のある監査現場の様子をお届けしました。今回はその現場でいかにミスをしないか、公認会計士の仕事術をお届けしていきます。

1.はじめに

監査現場には向き合うべき課題がいっぱいあり、そしてそれを解決するために監査法人では様々なツールや仕組みを創り出し活用しています。
そして、監査現場には以下のような数々の課題があります。

(1)「ミス」が許されない監査現場
(2)「スピード」重視の監査現場
(3)「ミスなし」と「スピード」の両立が求められる監査現場
(4)「情報共有・コミュニケーション」が必須の監査現場
(5)「証跡」を残さなければならない監査現場
(6)「採算性」は決して二の次ではない監査現場

読者の皆さんの職場でも、多かれ少なかれ似たような課題が起きていないでしょうか?もし同様の課題があるのであれば、監査法人において活用されているツールや仕組みが皆さんの直面する課題の解決に使えるかもしれません。
そこでまずは、上に挙げた課題のうち「(1)「ミス」が許されない監査現場」にスポットを当て、ミスを発生させないために行われていた仕事術についてお話しすることにしましょう。それを通じて、読者の皆さんもミスを発生させないための取り組みの参考にして頂きたいと思います。

2.ミスが許されない監査現場、ミスしないために行われていたこととは?

「第1回 実は課題がいっぱいの監査現場」で説明しましたとおり、万が一監査でミスをしてしまうと社会的な影響が計り知れません。つまり、監査は「ミスが許されない仕事」です。そのため、監査法人ではミスが起きないように様々なツールや仕組みが創り出されていました。今回はこのうち、「念には念を」入れることで、問題を見落としてしまうといったミスをしないための仕組みを取り上げます。

(1)公認会計士の質問は単なる質問ではない! ~確証的質問~
会計士の監査では、クライアントの担当者や責任者に質問する機会が多くあります。しかし、この質問の仕方次第では、クライアントの業務処理の不備を見落とし、重大な監査のミスにつながるおそれがあります。
ここでは、クライアントの経費支払業務が適切に行われているかを確かめるために、新人会計士Sさんが担当者に対して質問するシーンを仮定して説明しましょう。

【シーン1】
S会計士:「届いた請求書をチェックした上で支払っていますか?」
担当者:「はい!」
S会計士:「分かりました」

担当者の回答を鵜呑みにしたS会計士でしたが、後日、経費支払業務で支払金額誤りや二重払いなど多数の誤りがあったことが判明し、上司からきつく叱られるとともに、監査のやり直しをせざるを得なくなってしまいました……。
さて、こんな見落としをしないために、中堅会計士Tさんだったらどんなふうに質問するかを仮定して説明しましょう。

【シーン2】
T会計士:「届いた請求書をチェックした上で支払っていますか?」
担当者:「はい!」
T会計士:「では、請求書のどの部分をどのようにチェックしているのかを具体的に教えてください」
担当者:「え…それは…その…」

突っ込みにボロが出始めました。
さらに、例えば次のような観点から質問が続きます。

・金額の誤った請求書が届いたときにどんな対応をしたのかを聞いてみる
・心当たりのない請求書が届いたことはないか、あったとすればどんな対応をしたか聞いてみる
・同じ請求書がダブって届いたらどんな対応をするか聞いてみる

なお、実際の取引記録から何件かサンプルを取って、担当者から得た回答どおりに行われているか、請求書その他の資料をチェックしてみるなど、回答の裏付けも取るようにします。
ミスが許されない監査現場では、「クライアントの担当者がそういったから」では済みません。会計士は担当者の「はい!」という回答を鵜呑みにはせず、その回答は信頼できるという裏付けを取ることを意識して、さらに質問を重ねていきます。このような質問の仕方のことを、単なる質問とは区別して「確証的質問」と呼んでいました。
【シーン2】のように、会計士は、確証的質問という手段を使うことによって、“確証を得るところまで深掘りする”、そうすることで問題の見落としなどがないかチェックしていたのです。

(2)決算日当日、監査法人の事務所から公認会計士がいなくなる!? ~棚卸立会・実査~
会計士の監査では、クライアントの帳簿類(財務会計データ)に目をとおす機会が多くあります。しかしそれだけでは、クライアントの処理間違いや意図的な操作を見落とし、重大な監査のミスにつながるおそれがあります。
ここでは、3月31日という特別な日の様子を例に挙げて説明しましょう。

3月31日、これは監査業務を行う会計士にとっては特別な日です。3月31日というのは数多くある監査法人のクライアントの中でも圧倒的に多い3月決算企業の決算日当日です。普段は監査法人の事務所内で業務を行う会計士もそれなりにいますが、この日ばかりは事務所内からすっかり人影が消えてしまう、そんな日です。
この日に会計士たちは一体何をしているのかと言うと、「棚卸立会」といわれる業務に駆り出されているのです。
商品や製品の在庫を保有している企業の多くは、期末日に在庫の数量を実際にカウントする「実地棚卸」を行います。そして、会計士も総出でクライアントの実地棚卸の現場に立ち会うのです。行くだけで何時間もかかる場所に工場があれば棚卸立会に出向くものも大変です。中には夜中に棚卸が行われることもあり、会計士も夜中に立ち会わなければならないことだってあります。

このように、たとえ場所が遠かろうと夜中であろうと、なぜわざわざ棚卸に立ち会う必要があるのでしょうか?
会計士は決算書をチェックすることが仕事なのだから、帳簿さえしっかり見ておけば大丈夫なのではないかとお思いになる方もいるかもしれません。しかし、決してそんなことはないのです。帳簿はあくまでも帳簿。本来帳簿というのは現物の動きをきっちりと映したものであるはずなのですが、担当者が間違えて、あるいは意図的な操作が行われたことによって、現物と合致しない帳簿になっていることは十分にあり得ます。
企業の処理誤りや不正を見落とすなどの監査上のミスをしないために、帳簿を鵜呑みにせず、現物自体という別の観点からもチェックしているといって良いでしょう。一見遠回りで手間暇がかかるようですが、この方が監査上のミスも起こりにくくなり、結果的に業務の効率向上にもつながるのです。

棚卸立会だけでなく、会計士は「実査」も重視しています。クライアントが保有している現金、小切手、預金証書、手形、株式といったものについても、帳簿の記録を見るだけでなく、本当に現物があるのかをきっちりと確かめます。

このように、現物を見ると、単に帳簿を見ているだけでは気付かないことにもいろいろと気付くことができます。在庫の保管状況が悪いとか、ほこりをかぶった不動在庫の山があるとか、売ったはずの商品が倉庫に保管されたままになっているとか……。こうした問題点は帳簿だけを見ていたら気付きません。観点を変えて“現物”から見てみることで見落としを防いでいるのです。

3.「念には念を」で問題を見落とさない

ここまで「確証的質問」・「棚卸立会」・「実査」など、ミスをしないために公認会計士が行っている“念には念を入れる”仕事術について紹介してきました。
ポイントをおさらいしておくと、

①確証を得るところまで深掘りすることで、問題がないかチェックする(=確証的質問)
②観点を変えて問題がないかチェックする(=棚卸立会・実査)
ということになります。
当たり前のことではありますが、問題を見落とさないためには、問題がないか何重にもチェックを重ねることが必要です。そして、それを組織として確実に行っていくためには、チェックする仕組み自体を作ることが大事です。
読者の皆さんも、ご自身の職場などでミスを少なくしたいという課題がある場合には、深掘りしてみたり、観点を変えてみたりといった“問題を見落としていないかチェックする仕組みを作る”ことを是非検討して頂ければ幸いです。

(提供:税経システム研究所)
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いかがでしたでしょうか。今回は自身が現場でミスをしないようにするための仕事術についてお届けしました。
次回は誰が担当になってもミスを起こしにくくする仕事術をお届けします。
なお、このコラムの提供元である税経システム研究所については下記をご参照ください。

税経システム研究所
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