HOME 業務全般制度改正 令和6年度税制改正大綱で経理担当者がチェックすべき改正点とは
業務全般制度改正 2024/01/22

令和6年度税制改正大綱で経理担当者がチェックすべき改正点とは

毎年年末に公表される税制改正大綱は、今後1年間における日本の税制方針を定めた重要な資料です。
今回の記事では、最新となる令和6年度税制改正大綱について、概要や改正点をお伝えします。

令和6年度税制改正大綱について

2023年12月14日、令和6年度税制改正大綱が公表されました。
税制改正大綱とは、各省庁から提出された要望をまとめて翌年以降の税金にまつわる制度改正を決定したもので、毎年12月中旬に発表されます。
税制改正大綱の発表後は国会で審議が行われ、4月頃に法案として成立すると、各法律は定められた日から施行されることになります。
そのため、それぞれの改正項目が適用される時期は制度によって異なります。


令和6年度税制改正大綱の基本方針
令和6年度税制改正大綱の基本的な方針は以下の通りです。

  • 構造的な賃上げの実現
  • 資本蓄積の推進や生産性の向上による供給力を強化するための国内投資の促進
  • グローバル化を踏まえたプラットフォーム課税の導入
  • 地域経済や中堅・中小企業の活性化
上記を軸として以下の税目について改正が行われています。

  • 個人所得課税(所得税)
  • 資産課税(相続税・贈与税)
  • 法人課税(法人税)
  • 消費課税(消費税)
  • 国際課税(大規模な法人の法人税など)
  • 納税環境整備
  • 関税
企業の経理担当者は、特に青字の項目について押さえておくとよいでしょう。

法人税関係の改正点

ここからは令和6年度税制改正大綱における改正点について、重要な項目の概要を解説します。
なお、今後の国会における改正法案審議の過程において、一部項目の修正・削除・追加などが行われる可能性があります。
詳細については税制改正大綱の原文や、これからの審議の結果をチェックしてみてください。

※参考資料:総務省「令和6年度税制改正の大綱

まずは法人税について解説します。


賃上げ促進税制の見直し
賃金の増加率に対して一定の税額控除を受けられる賃上げ税制が拡大されます。
大企業、中小企業のほかに、令和6年度税制改正で新たに定義された中堅企業も含め、企業の規模に応じた賃上げ率が設定されます。

主な改正点
令和6年度税制改正大綱では、従来の大企業について、大企業と中堅企業に細分して規定されることになります。
大企業 資本金の額等が10億円以上|常時使用する従業員の数が2,000人を超えるもの
中堅企業 資本金の額等が10億円以上|常時使用する従業員の数が2,000人以下のもの
大企業については、控除要件となる賃上げ率が、従来の前年度比4%以上から7%以上に変更となります。
中堅企業、中小企業については変更なく、中堅企業は前年度比4%以上、中小企業は前年比1.5%以上の賃上げを行った場合、税額控除を受けられます。
また、女性活躍・子育て支援を後押ししている企業については、一定の要件のもとで控除率に5%上乗せする措置が追加されることになります。
これにより、大企業・中堅企業の最大控除率は改正前の30%から35%に引き上げ、中小企業の最大控除率は40%から45%に引き上げとなります。
なお、中小企業については繰越控除制度が新たに創設され、赤字の際に控除できなかった部分について5年間の繰越しが可能となります。


戦略分野国内生産促進税制の創設
今回新たに創設される戦略分野国内生産促進税制とは、国として戦略的な長期投資が特に不可欠となる電気自動車や半導体などの5分野に対して、10年にわたって法人税を減税する制度です。
要件を満たす青色申告法人が、対象となる産業競争力基盤強化商品における生産設備の新設や増設をした際に、対象期間での販売数量に応じた一定の金額の税額控除を受けることができます。
控除上限はほかの特例税制と合わせて各年度の法人税額の40%となります。

対象法人
戦略分野国内生産促進税制の対象は、以下の3つの要件を満たした法人となります。
  • 青色申告書を提出していること
  • 産業競争力強化法の改正法施行日から2027年3月31日までの間に、産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けていること
  • 事業適応計画に産業競争力基盤強化商品を生産するための設備の新設や増設に関する記載があり、その記載に沿った機械などを取得して、国内にある事業の用に供すること
対象物資
  • 電気自動車、燃料電池自動車
  • グリーンスチール
  • グリーンケミカル
  • 持続可能な航空燃料(SAF)
  • 半導体
なお、控除額は対象物資ごとに単価あたりで設定されます。
例えば、軽電動車(EV車)については、1台あたり20万円となる予定です。

措置期間
計画認定から10年間で、4年間(半導体は3年間)の税額控除の繰越期間が設けられます。


イノベーションボックス税制の創設
同じく新たに創設されるイノベーションボックス税制とは、国内企業が研究開発を行った成果として生まれた一定の知的財産から発生した所得に対して、所得の30%の損金算入を認める制度です。
例えば、特許権またはAI分野のソフトウェアに係る著作権などの知的財産に対する、国内第三者への譲渡所得や国内外の第三者からのライセンス所得が対象にあたります。
本制度の詳細については今後見直しが検討されていますが、現状公表されている内容は以下の通りです。

詳細
本制度の適用を受けることで、以下の算式で計算した合計額、または、当期の所得金額のうち、いずれか少ない金額の30%相当額を取引ごとに損金算入することができます。

その特許譲渡等取引に係る所得の金額 ×(適格研究開発費の額の合計額 ÷ 特定特許等に直接関連する研究開発の額の合計額)

対象知的財産
2024年4月1日以後に取得または製作をした特許権及びAIを活用したプログラムの著作権で一定のものとされています。

損金算入の対象となる所得の範囲
対象知的財産に対する、国内の関連者を除く第三者に対する譲渡所得と、国内外の第三者から受け取るライセンス所得が対象となります。

措置期間
適用期限は2025年4月1日から2032年3月31日までの7年間で、研究における支出時点での税優遇制度である研究開発税制と同様に、民間企業による無形資産投資を後押しするものとなります。


【中小企業】中小企業事業再編投資損失準備金制度の見直し
中小企業事業再編投資損失準備金制度とは、経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、株式取得によってM&Aを実施する際に、株式等の取得価額として計上する金額のうち準備金として積み立てた一定額を、その事業年度に損金算入できる制度です。

主な改正点
複数回のM&Aを実施する場合、その事業年度において損金算入できる金額の限度については、その株式等の取得価額に90%または100%を乗じた金額以下となります。
これは合併・事業譲渡による中小事業の生産性向上の支援を目的とした拡充とされています。

※参考資料:中小企業庁「経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について


【中小企業】交際費等の損金不算入制度の見直し
交際費等は原則として損金不算入ですが、取引先や仕入先を接待する目的で行った会食については、1人あたりの費用が5,000円以下の場合には損金算入することができます。

主な改正点
2024年4月1日以降、損金不算入となる交際費等の範囲から除外され、損金算入可能となる飲食費の金額基準については、1人当たり5,000円以下から1万円以下に引き上げられることになります。
また、接待飲食費に係る損金算入の特例、中小法人に係る損金算入の特例の適用期限について適用期限が3年延長されます。


【中小企業】中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例とは、中小企業が取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産(一定の貸付用資産を除く)を取得して事業のために使用した場合、一定の要件のもとに、1事業年度当たり300万円を上限に、取得価額相当の金額を損金算入できる制度です。

主な改正点
対象法人から、常時使用する従業員の数が300人を超えるものが除外されたうえで、適用期限が2年延長されます。

※参考資料:国税庁「No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例

消費税・その他の改正点

続いて、消費税やその他の改正点のうち、実務に密接する内容を中心に解説します。


【消費税】プラットフォーム課税の創設
今回新たに導入されるプラットフォーム課税とは、アプリなどのデジタルサービスに係る消費税について、サービスを提供する国外事業者の代わりに、一定規模のプラットフォーム事業者に納税義務を課すものです。
2025年4月1日以降、特定のプラットフォームを通じて国外事業者が対価を受けるデジタルサービスについては、国外事業者ではなくプラットフォーム事業者が消費税の納税義務を負うことになります。


【消費税】インボイス制度の見直し
自動販売機による課税仕入れや、入場券などで証票が回収される3万円未満の課税仕入れについては、帳簿に住所などの記載がなくとも仕入税額控除を受けられることになります。


【所得税・住民税】定額減税の創設
合計所得金額が1,805万円以下(給与収入で2,000万円以下)の個人について、以下の通り定額減税制度が創設されます。

特別控除額 = 以下の(1)と(2)の金額の合計額
(1)本人:所得税3万円 + 個人住民税1万円
(2)居住者である同一生計配偶者または扶養親族:所得税3万円 + 個人住民税1万円


【所得税】子育て世帯の住宅ローン減税制度
借入限度額引下げ予定の住宅ローン減税について、40歳未満の若い夫婦や19歳未満の扶養親族を持つ子育て世帯については、最大5,000万円の借入限度額が維持されることになります。


【納税環境】重加算税の対象拡大
仮装・隠蔽などに基づいて更正の請求が行われたことが発覚した場合、重加算税の賦課対象に加えられることになります。


【地方税】外形標準課税対象法人の基準見直し
法人事業税には、所得割のほかに、資本金が1億円以上の規模が大きい法人を対象に付加価値割と資本割の課税を行う外形標準課税制度があります。
この外形標準課税を逃れるために減資を行う企業への対策として、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人については、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には、資本金1億円以下となっても外形標準課税の対象とすることになります。
また、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人の100%子法人等のうち、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超える法人については、資本金が1億円以下であっても外形標準課税の対象とされます。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
**********

令和6年度税制改正大綱の内容を見ると、企業の賃上げが期待できたり、国内投資の活発化が見込まれたり、交際費の基準価格が引き上げられたりと、納税者にとって有利な内容が多い印象です。
今回の記事を参考に、今後の投資や経営企画について検討してみてくださいね。

人気記事ランキング - Popular Posts -
記事カテゴリー一覧 - Categories -
関連サイト - Related Sites -

経理ドリブンの無料メルマガに登録