まずは経理担当者に求められるスキルについて、整理していきましょう。
経理の実務内容は多岐にわたり、単に簿記ができるというだけではカバーしきれません。実際に経理担当者に求められるスキルには下記のようなものがあります。
■ 経理・財務スキル
経理業務を滞りなく遂行するためには、やはり会計や税務の知識が欠かせません。ポジションが上がるにつれ、知識の有無だけではなく、適切な会計処理を選択し、それを社内外に説明するための論理的な思考能力が求められる傾向があります。また、社内の意思決定に参画するためには、会計や税務だけではなく財務(ファイナンス)寄りの知識も重要となります。
■ 資料作成スキル
さまざまな場面で使用される資料を的確に作成することで、各部署の後方支援を行います。資料作成スキルはとても複合的なものであり、実際にはITツールの理解やデザインの知識、プレゼンテーション力などに分解して考える必要があります。
■ コミュニケーションスキル
黙々と数字を扱うだけでなく、経理作業に必要な書類や申請を滞りなく提供してもらうためにコミュニケーションスキルも必要とされます。特に昨今はリモートワークが浸透してきたことにより、オンライン上で業務を円滑に進めるための文章力の重要性が高まっています。
■ 分析スキル
計算結果によって得られた数字から、問題点や改善策を導き出すことができる経理になることで、どんな職場でも必要とされる人材になれることでしょう。
このように、経理担当者には非常に幅広いスキルが求められます。これらをすべて身に着けてから転職を考えるのは現実的ではないため、資格取得やスキル獲得に取り組む前に、まずは経理担当者のキャリア戦略について考えてみましょう。そのうえで優先順位をつけて行動していくことが転職を成功に導くための近道になります。
ここでは経理担当者のキャリア戦略を大きく以下の3つに分けて考えていきたいと思います。
① 管理部門のゼネラリストを目指す
1つのゴールとして、企業のCFO(最高財務責任者)や管理部門の管理職を目指してキャリアアップしていくプランです。何度か転職を行いながらポジションを上げていく方法もあれば、同じ会社内で経理から財務、財務から経営企画といった形で担当業務を少しずつ変えながらキャリアを積んでいくという道筋もあります。いずれにせよ、経理担当者のキャリアパスとしてはある種の王道と言えるものです。
② 経理知識を生かしたキャリアチェンジ
年収アップを目指す場合、経理職以外へのキャリアチェンジも有効な選択肢となりえます。特に、経理知識を活かせる職種であれば、管理部門から事業部門へと職種を大きく変えることも可能です。例えば、業務コンサルやITコンサルの業界では経理出身のコンサルタントが数多く活躍しています。
社内で職種変更を目指す方法もありますが、転職で叶うことの方が多い傾向にあります。
③ 経理業務のスペシャリストを目指す
経理職としての専門性を突き詰めていくキャリアパスです。具体的には、税理士や公認会計士としての独立、企業内税理士や企業内会計士としての活躍、または監査法人や税理士事務所への転職といったキャリアを積んでいくことになります。
実現に向けては、難関資格の取得や、そのための大学院の修了などが必要とされることが多いです。
キャリア戦略はどれか一つに絞る必要はありません。つまり、直近のキャリア戦略と中長期的なキャリア戦略は一致する必要はなく、直近は②の戦略を用いて事業部門で経験と語学力を磨き、最終的に①の戦略で外資系企業のCFOを目指す、といった戦略も考えられます。
まずは、今取るべき行動を決めるための目安として自身のキャリア戦略を考えてみましょう。
上記のキャリア戦略によって、転職に有用な資格は大きく異なります。自身が目指す方向性と合致した資格を取得し、転職市場を勝ち抜きましょう。
① 管理部門のゼネラリストを目指す場合に有効な資格
日商簿記検定
会計知識を証明するためには、やはり日商簿記は定番の資格です。最低でも3級、できれば2級を取得しておくのがよいでしょう。また、財務や経営企画などの部署を目指すのであれば、意思決定会計などファイナンスの要素を含んだ簿記1級は非常に強力な武器になります。
FASS検定
日商簿記に比べて、より実務を意識した資格です。実務経験が浅い場合に資格を活かして補完できる可能性があります。
給与計算実務能力検定
給与計算業務に特化した資格で、経理と総務の連携を強化します。特にベンチャー企業やスタートアップなどの成長途中にある企業では、経理と総務を同じ部門で担当している場合もあり、そういった企業への転職に有利になる可能性もあります。
電子会計実務検定
会計システムに深い理解をもち即戦力となる人材であることをアピールできます。これからDX化の進む企業において、頼もしい存在になれるでしょう。
ITパスポート
経理の実務において情報システムへの理解が求められる場面は案外多く、他の財務関連資格と合わせてこうしたIT関連のスキルを持っておくことは非常に価値があります。
② 経理知識を生かしたキャリアチェンジに有効な資格
TOEICやTOEFL
多くのキャリアにおいて英語力は重要です。日系企業であれば簡単なメールのやりとりができるだけでも大きなアドバンテージがあります。外資系の企業へ転職を希望する場合はさらに大きな武器になります。
中小企業診断士
経理職の次のキャリアとして、業務コンサルやM&Aなどの業界を目指す場合にはとても有効な資格です。難関資格ではありますが、働きながらの取得が十分に可能です。
情報技術者試験
IT系の企業を目指すのであれば上述のITパスポートだけでは少し心許ない部分もあり、できれば基本情報技術者試験以上の資格や、ベンダー系の資格があると安心です。
③ 経理業務のスペシャリストを目指す場合に有効な資格
公認会計士
日本において独占業務として監査が可能な、会計系資格の最高峰の1つです。働きながら取得される方もいますが、やはり難関資格であるため取得には相応の時間がかかります。
税理士
公認会計士同様、日本における会計系資格の最高峰の1つです。科目別に取得が可能なため働きながら取得される方も多く、事業会社で経理として働きながら複数科目に合格した後、税理士事務所に転職して税務の実務経験を積みながら全科目合格と独立開業を目指す、というパターンは王道の一つです。
米国公認会計士
日本の公認会計士資格と比べると比較的難易度は低いとされ、働きながらでも十分に取得が可能な資格です。近年では監査法人への転職のために取得されることも多く、英語が苦手でなければ挑戦してみる価値は十分にあります。
■ 資格やスキルがすべてではない
上記のように、キャリア戦略から資格取得やスキル開発を考えることはとても重要ですが、転職市場を攻略するためには以下のような事柄も重要です。時間投資対効果を考えながら着実なキャリアの積み上げを心がけていきましょう。
実務経験の積み重ね
実務経験以上に重宝される資格は公認会計士や税理士などの難関資格と数少ないもので、資格さえあれば簡単に転職できるわけではありません。資格取得に取り組むことも重要ですが、日々の仕事の中で社内プロジェクトへの参画や、新しいスキルの習得を積極的に行い、実務経験を積み重ねることを怠らないようにしましょう。
ネットワーキング
同業者とのコネクションを築くことはキャリア形成に大きく貢献します。積極的に情報収集を行い、セミナー参加などのアクションをとりましょう。また、転職エージェントを利用して、最新の転職に関する情報を集めておくことも重要です。
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