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人事/労務労務管理 2022/11/01

キャリアアップ助成金はどのコースで申請する?全コースを解説!【2022年の改正対応】

キャリアアップ助成金は、企業内での非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に対する取り組みを実施した事業主に対して助成金を支給する制度です。
2022年の改正では、非正規雇用労働者の定義や正社員化コースの要件に変更がありました。
今回はキャリアアップ助成金がどのような制度なのか解説します!

キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金とは、企業内の非正規雇用労働者のキャリアアップを目的として、事業主が正社員化や処遇改善の取り組みを実施する際に助成を受けることができる制度です。
具体的に以下の制度があります。

正社員化を支援するもの 正社員化コース
障害者正社員化コース
処遇改善を支援するもの 賃金規定等改定コース
賃金規定等共通化コース
賞与・退職金制度導入コース
短時間労働者労働時間延長コース
※選択的適用拡大導入時処遇改善コースは2022年9月末で廃止されています。

支給対象となる事業主の条件は以下の通りです。

  • 雇用保険適用事業所の「事業主」である
  • 事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている(複数の事業所や労働者代表との兼任は不可)
  • 事業所ごとにキャリアアップ計画を作成して労働局長から受給資格の認定を受けており、記載内容から変更があった際は変更届を提出している
  • 対象となる労働者の労働条件、勤務状況、賃金の支払い状況などが明記された書類を整備しており、賃金の算出方法を明らかにしている
  • 計画期間内にキャリアアップに取り組んでいる
「事業主」には、民間企業だけでなく、公益法人、NPO法人、医療法人、社会福祉法人なども含まれます。
ただし、次のいずれかに該当する場合は、助成金の受給はできないので注意しましょう。

  • 支給申請した年度の前年度より前のいずれかの保険年度の労働保険料を納入していない
  • 支給申請日の前日から過去1年間に、労働関係法令の違反を行っている
  • 性風俗関連営業、接待を伴う飲食等営業またはこれらの営業の一部を受託する営業を行っている
  • 暴力団と関わりがある
  • 暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れがある団体等に属している
  • 支給申請日、または支給決定日の時点で倒産している
  • 雇用保険被保険者数が0人の場合や事業所が廃止されている場合など、支給決定時に雇用保険適用事業所の事業主ではなくなっている


中小企業(事業主)の範囲
キャリアアップ助成金は、大企業と中小企業で助成額が異なる場合や、コースによって中小企業のみ加算措置が定められている場合があります。
ただし、中小企業は法人税での中小企業の定義(資本金等の額が1億円以下)とは異なる判定の仕方をしますので、注意が必要です。
キャリアアップ助成金における中小企業の範囲は以下の通りです。

業種 資本金の額・出資の総額
を使用する場合
常時雇用する労働者の数
を使用する場合
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下
※資本金等がない事業主は、常時雇用する労働者の数で判定します。
※常時雇用する労働者の数とは、2カ月超の契約期間で、週当たりの所定労働時間が、通常の労働者と概ね同等な者をいいます。



キャリアアップ助成金で押さえておきたい用語
次の章以降で、キャリアアップ助成金の各コースについて解説しますが、その前に特有の専門用語を確認しておきましょう。
専門用語を理解することで、制度そのものもわかりやすくなります。
有期雇用労働者 期間の定めがある労働契約を締結している労働者(短時間労働者・派遣労働者を含む)。
無期雇用労働者 期間の定めがない労働契約を締結する労働者(短時間労働者・派遣労働者を含む)のうち、通常の労働者(正規雇用労働者、勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員)に適用される労働条件が適用されていない労働者。
【2022年改正】
非正規雇用労働者
賃金の額または計算方法に、6カ月以上「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されている有期雇用労働者または無期雇用労働者。

※2022年10月以降に正規雇用労働者への転換を実施する場合、上記の「正社員と異なる雇用区分の就業規則」が規定されていることが必要です。
【2022年改正】
正規雇用労働者(正社員)
次のイからホまでのすべてに該当する労働者。
  • イ)期間の定めがない労働契約を締結していること
  • ロ)派遣労働者でないこと
  • ハ)勤務地限定正社員、職務限定正社員でないこと
  • ニ)短時間正社員でないこと
  • ホ)就業規則等に、長期雇用を前提として賞与または退職金制度の実施および昇給の実施が規定されており、それが適用されていること(正社員化コースでは、試用期間中の者は、正規雇用労働者から除く)
※2022年10月以降に正規雇用への転換を実施する場合、上記の「賞与または退職金制度の実施および昇給の実施が規定され、実施されていること」の条件が必要です。これまでにはなかった要件ですので、十分に注意しましょう。
キャリアアップ管理者 有期雇用労働者等のキャリアアップに取り組むために必要な知識・経験を有していると認められる者。

※キャリアアップ管理者は1事業所に1人以上置くことになっており、複数の事業所での兼務や、労働者代表の職との地位と兼務することはできません。
キャリアアップ計画 労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるために、今後のおおまかな取り組みのイメージを、事業主が記載したもの。
※参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金パンフレット(令和4年度)

キャリアアップ助成金の各コースの支給要件と支給額

それぞれのコースについて、簡単に支給条件と支給額を解説します。


正社員コース
就業規則または労働協約などで、「有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する」または「直接雇用した場合に助成を受けることができる」コースです。
中小企業 大企業
①有期雇用労働者を正規雇用労働者に転換した場合 57万円
<72万円>
42万7,500円
<54万円>
②無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換した場合 28万5,000円
<36万円>
21万3,750円
<27万円>
※<>は生産性の向上が認められる場合の支給額です。
※①と②で合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は20人までです。


上記のほかに、派遣労働者を派遣先で正規雇用労働者として直接雇用する場合や、人材開発支援助成金の特定の訓練終了後に正規雇用労働者へ転換した場合など、要件に応じて加算措置があります。
また、これまでは有期雇用労働者を無期雇用労働者へ転換した場合にも助成金の支給がありましたが、2022年の改正では廃止されているためご注意ください。


障害者正社員化コース
事業主が、障害者の雇用を促進し職場定着を図るために、「有期雇用労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換する」または「無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する措置を継続的に講じた場合に助成を受けることができる」制度です。

支給対象者が重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者のとき
中小企業 大企業
有期雇用から正規雇用への転換 120万円 90万円
有期雇用から無期雇用への転換 60万円 45万円
無期雇用から正規雇用への転換 60万円 45万円

支給対象者が重度以外の身体障害者、重度以外の知的障害者、発達障害者、難病患者、高次脳機能障害と診断された者のとき
中小企業 大企業
有期雇用から正規雇用への転換 90万円 67万5,000円
有期雇用から無期雇用への転換 45万円 33万円
無期雇用から正規雇用への転換 45万円 33万円
※支給対象者1人あたり1年間で上記の額の合計(支給時期は2回)が支給されます。
※支給額については、対象となる労働者の賃金を上限額となります。
※参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)のご案内



賃金規程等改定コース
事業主が、雇用形態別や職種別などで、有期雇用労働者等の基本給を2%以上増額改定し、昇給させる場合に助成される制度です。
中小企業 大企業
①対象者が1~5人 3万2,000円
<4万円>
2万1,000円
<2万6,250円>
②対象者が6人以上 2万8,500円
<3万6,000円>
1万9,000円
<2万4,000円>
※<>は生産性の向上が認められる場合の支給額です。
※1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は100人、申請回数は1年度1回のみとなります。


上記のほかに、中小企業で3%以上増額改定した場合や、職能評価の手法などで賃金改定を増額改定した場合など要件に応じて、加算措置があります。
職能評価とは、業務内容や責任の程度によって労働者の賃金を評価することです。
なお、賃金規程等改定コース、賃金規程等共通化コース、賞与・退職金制度導入コースでは、就業規則の規定を単に変更するだけでなく、実際にその制度が運用されている(その制度に基づいて賃金が支給されている)ことも必要になりますので、注意しましょう。

※参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金Q&A(令和4年度)Q-8


賃金規程等共通化コース
事業主が、就業規則または労働協約で、有期雇用労働者等と正規雇用労働者において共通する職務などに応じた賃金規定等を新たに作成し、適用した場合に助成される制度です。
中小企業 大企業
1事業所当たり57万円
<72万円>
1事業所当たり42万7,500円
<54万円>
※<>は生産性の向上が認められる場合の支給額です。
※1事業所当たりの申請回数は1回のみとなります。



賞与・退職金制度導入コース
事業主が就業規則または労働協約で、有期雇用労働者等について賞与や退職金制度を新たに設け、支給または支給のための積立てを実施した場合に助成される制度です。
中小企業 大企業
1事業所当たり38万円
<48万円>
1事業所当たり28万5,000円
<36万円>
※<>は生産性の向上が認められる場合の支給額です。
※1事業所当たりの申請回数は1回のみとなります。


上記のほかに、賞与制度と退職金制度を同時に導入した場合には、一定の加算措置があります。


短時間労働者労働時間延長コース
事業主が、短時間労働者に対して「週所定労働時間を3時間以上延長」または「週所定労働時間を1時間以上3時間未満延長」した場合や、「手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長して昇給」した場合で、新たに社会保険の被保険者とした場合に助成される制度です。
中小企業 大企業
①短時間労働者の週所定労働時間を3時間以上延長し新たに社会保険に適用した場合 1人当たり22万5,000円
<28万4,000円>
1人当たり16万9,000円
<21万3,000円>
②手取り収入が減少しないように週所定労働時間を延長し、基本給を昇給し、新たに社会保険に適用した場合 1時間以上2時間未満 1人当たり5万5,000円
<7万円>
1人当たり4万1,000円
<5万2,000円>
2時間以上3時間未満 1人当たり11万円
<14万円>
1人当たり8万3,000円
<10万5,000円>
※<>は生産性の向上が認められる場合の支給額です。
※延長後6カ月の週所定労働時間と延長前6カ月の週当たりの平均実労働時間の差が3時間以上である場合に加え、延長前後の6カ月の週所定労働時間の差が3時間以上で、延長前後の平均実労働時間の差が3時間以上である場合も含みます。
※②は延長時間数に応じて、以下の通り、延長時に基本給を昇給することで、手取り収入が減少していないと判断します。
1時間以上2時間未満:10%以上昇給
2時間以上3時間未満:6%以上昇給
※①と②を合わせて、1年度1事業所当たりの支給申請上限人数は45人までです。

キャリアアップ助成金の申請手続きの流れとポイント

キャリアアップ助成金は、コースごとに取り組むべき内容は異なるものの、申請の流れは基本的に同じです。


キャリアアップ助成金の申請手続きの流れの例
正社員化コースと賃金規程等改定コースの流れは以下の通りです。
流れ 詳細 期限
キャリアアップ管理者の配置とキャリアアップ計画の提出 【共通】
  • 事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置
  • キャリアアップ計画を作成し、労働局の認定を受ける
転換・直接雇用・賃金規程等を改定する前日まで
申請する助成金の内容に基づいたキャリアアップ施策を実施 【共通】
  • 転換後の雇用契約書などを対象労働者に交付する
  • 転換後の就業規則等に基づいて給与等を支給する

【正社員化コース】
  • 労働基準監督署に改定後の就業規則または一定の労働協約を届け出る

【賃金規程等改定コース】
  • 賃金規程等の増額改定を実施
キャリアアップ計画提出後
改定後の賃金支給 【正社員化コース】
  • 転換後6カ月分の賃金を支給する

【賃金規程等改定コース】
  • 増額改定後6カ月分の賃金を支給する
支給申請 【共通】
  • キャリアアップ助成金の支給申請
転換・直接雇用・増額改定後、6カ月分の賃金を支給した後2カ月以内
審査後、助成金が支給される


キャリアアップ計画の事前作成と提出
キャリアアップ計画とは、労働者のキャリアアップに向けた取り組みを計画的に進めるため、事業主が今後のおおまかな取り組みのイメージを記載するものです。
キャリアアップ助成金の支給を受けるためには、遅くとも各コース実施日の前日までに、「キャリアアップ計画書」を労働局に提出する必要があります。
キャリアアップ計画の計画期間は3年以上と長期にわたります。
そのため、必要に応じて内容を変更することも可能です。変更があった場合には、労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出します。
変更届の提出がない場合、助成金を受給できないこともあるため、内容に変更が生じた際は速やかに変更届を提出しましょう。


就業規則や労働契約などの作成
従業員数が10人未満の事業所では、就業規則の作成義務はありません。
ただし、キャリアアップ助成金を受給するためには、こうした事業所であっても、就業規則または労働契約を作成する必要があります。
また、2022年10月以降、キャリアアップ助成金の正社員化支援を受けるためには、就業規則等に、賞与または退職金制度の実施と昇給の実施を規定することが必要になりました。
改正で追加された賞与や昇給の記載は以下の通りです。

賞与制度の規定
就業規則等の規定(例) 改正後のキャリアアップ助成金
例1 賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。
例2 賞与は支給しない。業績によっては支給することがある。 ×
(原則不支給となっているため)
例3 賞与の支給は会社の業績による。 ×
(原則として賞与が支給されるか明確でないため)

昇給の規定
就業規則等の規定(例) 改正後のキャリアアップ助成金
例1 毎年1回、各等級の役割遂行度を評価し、基本給の増額又は減額改定を行う。
(賃金据え置きの規定はあるが、客観的な基準に基づく)
例2 会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。 ×
(賃金据え置きの規定が客観的な基準ではない)
いずれもこれまでの要件にはなかったものですが、制度改正後のキャリアアップ助成金の支給にあたっては必要になりますので、押さえておきましょう。

※参考資料:厚生労働省「キャリアアップ助成金パンフレット(令和4年度)
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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キャリアアップ助成金には様々なコースがあるため、活用できそうなものがあればどんどん活用してみてください。
なお、助成金制度については、今後も要件が変更になる場合があります。実施の際は最新の要件について事前に管轄の労働局などに問い合わせるとよいでしょう。

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