資本金とは、事業規模や企業の体力をあらわすもので、企業活動の源泉となるものです。
今回は資本金の概要と、増資・減資がどういった場面で行われるのかについて解説します。税金面にも触れていきますので、自社の税務コストの分析にも活用してくださいね。
資本金とは
資本金とは、企業の設立や増資に伴う株式発行の際に、出資者である株主が払い込んだ現金や株式のことで、企業設立からしばらくの間の運転資金として使用できるものです。
資本金の金額については、以前は最低資本金額が定められていたものの、現在は特に定められておらず、企業側で自由に設定できます。
また、資本金は借入金などとは異なり、返済義務がない資金です。
そのため、企業設立後に会社の経営が安定してからは企業の体力を示す指標となります。
資本金が多いか少ないかで、金融機関、取引先、そして自社に与える影響は以下のように変わります。
資本金が多い |
資本金が少ない |
- 会社規模が大きく、経営基盤が安定している
- 取引先として信用力がある
- 融資の上限金額が上がる可能性がある
- 業種によって、許認可取得要件を満たすことができる
|
- 会社規模が小さく、柔軟な経営が実現できる
- 税務コスト(法人税、住民税など)が安くなる可能性がある
|
金融機関への影響
会社創業時は自己資金のほかに、金融機関からの融資が必要になることが多くあります。
金融機関が融資を行う際の審査でも、資本金の金額は重要な判断材料です。資本金が多ければプラス要素に働き、融資の上限金額が上がる可能性があります。
ただ、重要視されているのは金額面だけではありません。大事なのは資金計画や事業計画がきちんと立てられているかどうかです。
事業にあたって必要な設備や運転資金に借入金をいくら充当し、今後計上予定の売上から生じる利益で何年かけて返済していくのかを具体的に計画し、これらを踏まえた事業計画書を丁寧に作成するようにしましょう。
取引先への影響
資本金の額は相手先に経営体力があるかどうかを判断する基準になるため、取引先でも確認することがあります。
ただし、資本金が多いと税務コストが増加するため、あえて資本金を抑える企業が増加しているのも事実です。
そのため、近年では取引先における資本金の額はそこまで大きな影響がないともされています。
資本金の増資・減資の手続きと費用の比較
資本金は、金融機関や取引先、及び税金に与える影響を考慮して増減させることが可能です。
ただし、企業の重要な財産であることから、資本金の額を変更する際は会計処理のほかにも手続きが必要となります。
|
増資 |
減資 |
必要な手続き |
|
- 株主総会の特別決議
- 債権者保護手続(官報公告など)
- 減資の登記
|
行われる場面 |
- 現金、現物出資など株主からの追加出資
- 利益剰余金の資本組み入れ
|
- 有償減資による株主への配当
- 欠損填補、税務コスト削減などを目的とした無償減資
|
手続き費用 |
登録免許税:増加する資本金の額×0.7%(最低3万円)*
|
登録免許税:3万円
官報公告の費用:約15万円
|
*上記の費用は、株式会社を前提に記載しています。
*出資金額でなく増加する資本金の額が基準となるため、出資総額のうち資本金の額と資本準備金の額をいくら増加させるのかについては、税負担の軽減アイディアとして重要な検討ポイントです。
*官報公告の費用は株式会社を前提に記載しています。官報公告の費用は、手続きの種類(通常又は電子公告)や公告する行数によって変動します。
※出典:国税庁「登録免許税の税額表」
※出典:株式会社兵庫県官報販売所「資本金の額の減少公告・準備金の額の減少公告」
増資
企業が増資を行うのは、株主からの追加出資や、利益剰余金の資本組み入れがあったときです。資本組み入れとは利益剰余金の一部を資本金にして企業の財産基盤を強固にすることです。
増資の種類には、有償増資、無償増資、株式割り当て増資など数多くありますが、基本的には、登録免許税として増資額の0.7%(最低3万円)が必要となります。
減資
企業の減資には、株主への配当のために資金を用意する目的や、税務コストを削減する目的などがあります。
減資の種類には有償減資と無償減資があります。
有償減資は株主に金銭をはじめとした財産の払い戻し(配当)をして行う減資です。
一方で無償減資は資金の減少なしで行う減資であり、業績が悪い場合に資本金を減少させて繰越利益剰余金の赤字を補填したり(欠損填補)、その他資本剰余金に振り替えたりする場合に活用されます。
なお、減資の際は一律3万円の登録免許税のほか、債権者保護手続きとして官報公告にかかる原則約15万円の費用が発生します。
さらに、法務手続きを司法書士などに依頼する場合は別途報酬が必要ですので、増資に比べると安くない費用が伴います。実行を検討する際は慎重に判断しましょう。
資本金の金額が税金に与える影響
資本金の金額は、様々な税金にも影響します。
どのように関係してくるのか、以下で確認していきましょう。
消費税の納税義務
消費税の申告・納税については、基準期間(一般的には2年前)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は免税事業者として免除されています。
ただし、新たに法人を設立したなど基準期間がない法人の場合は、資本金の額が1,000万円以上で課税事業者となり、申告・納税が必要です。
なお、消費税については2023年10月からインボイス制度がスタートします。インボイス制度が開始すると、経過措置はあるものの、免税事業者はインボイスによる仕入税額控除が制限されてしまいますので、ご注意ください。
※参考資料:国税庁「納税義務の免除」
※関連記事:インボイス制度とは?スケジュールや懸念点、対策をかんたん解説
中小法人の法人税の税率
資本金が1億円以下の企業は、法人税において中小法人に分類されます。
中小法人の法人税率は以下の表の通り、年間所得800万円までは15%に軽減されます。
また、事業年度開始時の資本金の額が1億円以下の法人については、電子申告義務化の対象外となります。
区分 |
税率 (H31.4.1以後) |
中小法人 (資本金1億円以下の法人など) |
年800万円以下の部分 |
下記以外の法人 |
15% |
適用除外事業者 |
19% |
年800万円超の部分 |
23.2% |
上記以外(資本金1億円超)の普通法人 |
23.2% |
※資本金が1億円以下であっても、大法人(資本金の額が5億円以上である法人等一定の法人)との間に完全支配関係がある法人(親会社の資本金が5億円以上の法人)は中小法人から除かれます。
※参考資料:国税庁「法人税の税率」
法人住民税の均等割
住民税の均等割は会社の利益が赤字であっても納める必要がある税金であり、資本金額や従業員の人数などによって、税額が異なります。
例えば、東京都のみに事務所を持つ企業の場合、住民税(都民税)の均等割は、資本金等の額が1,000万円以下の企業は7万円に抑えることも可能ですが、1億円超の場合には、最大で53万円を負担することになります。
以下は東京都特別区内にのみ所在の普通法人における資本金等の額と均等割の関係の一例です。
資本金等の額 |
東京都特別区内の従業員数 |
税額 |
1,000万円以下 |
50人以下 |
70,000円 |
50人超 |
140,000円 |
1億円超~10億円以下 |
50人以下 |
290,000円 |
50人超 |
530,000円 |
※資本金等の額は、原則、事業年度末日の資本金と資本準備金の合計額となります。ただし過去に無償増減資を実施している場合には、別途調整計算が必要になります。
※参考資料:総務省「法人住民税」
なお、資本金等の額は、資本金と資本準備金の合計額となりますので、資本金だけでなく資本準備金の金額についても確認する必要がある点にご注意ください。
税負担を軽減するには
税負担を軽減するためには、融資先・取引先の理解を得られる範囲内で減資を実行するのも一案です。
また、会社を設立する際や追加出資を受けるにあたって、株主からの出資金を、総額から2分の1以下までの金額については資本金とせず、資本準備金とすることも可能です。
運転資金などの観点から自己資金は多めに用意しつつも、税負担を少なくするために資本金の額は少なくしたい場合には、出資金の一部を資本準備金への振り分けるという考え方もあります。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
**********
資本金は、企業の状態を把握するための重要指標であるため、増資・減資にあたっては様々な手続きが必要です。
企業を設立する際や増資・減資をする場合には、どういった手続きが必要で、税負担がどのように変化するのか、事前に検討したうえで実行するようにしましょう。