今回の税制改正では、「成長と分配の好循環」の実現に向けて賃上げに係る税制措置を強化するとともに、スタートアップ企業と既存企業の協働によるオープンイノベーションの促進なども行っています。
賃上げ・投資促進税制の改正
賃上げ・投資促進税制は、雇用者に対する給与が前年と比べて増加している企業に対して、その増加率に応じて税額を控除する制度です。
毎年改正があるため、対応に手間取る税制の一つでもあります。
大企業向けと中小企業向けに分けて、それぞれの改正内容を簡単に解説します。
※なお、要件を満たせば中小企業も大企業と同様の適用が可能です。
大企業向け
改正後、賃上げや教育訓練に積極的な企業については、税額控除率がさらに上乗せされます。
また、適用判定や控除率の計算を行う際、現行は「新規」雇用者への給与支給額の増加率を使用しますが、改正後は「継続」雇用者への給与支給額の増加率を使用します。
なお、継続雇用者の定義や大企業向けのマルチステークホルダーへの対応などの内容は、財務省からの「税制改正の解説」が公表される夏前頃、明らかにされる予定です。
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現行 |
令和4年度税制改正後 |
【適用要件】 |
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給与総額の増加率 |
新規雇用者の給与総額:対前年度増加率2%以上 |
継続雇用者の給与総額:対前年度増加率3%以上 |
マルチステークホルダーへの配慮(※1) |
― |
従業員への還元や取引先への配慮を行うことを宣言していること |
【税額控除】 |
控除率最大20% |
控除率最大30% |
控除率を乗ずる対象 |
新規雇用者の給与総額 |
雇用者全体の給与総額の対前年度増加額 |
控除率 |
基本 |
15% |
15% |
上乗せ
(賃上げ) |
― |
+10% 継続雇用者の給与総額:対前年度増加率 4%以上 |
上乗せ
(教育訓練費) |
+5% 教育訓練費の対前年度増加率20%以上(※2) |
+5%(※3) 教育訓練費の対前年度増加率20%以上 |
控除上限額 |
当期の法人税額×20% |
変更なし |
※1 資本金10億円以上、かつ、常時使用従業員数1,000人以上の大企業に対する要件とし、自社のウェブサイトに宣言内容を公表したことを経済産業大臣に届出。
※2 確定申告書に教育訓練費の明細書の添付(改正案:明細書の保存)が必要。
※3 控除率10%の上乗せ措置の適用を受けない場合は、合計20%。
中小企業向け
中小企業の積極的な賃上げや人材投資を促す観点から、控除率の上乗せ要件が改正されています。
また、コロナ終息を見据えて賃上げを実施し、教育訓練費も増加した場合、税額控除枠は給与支給額の増加額の最大40%まで拡大します。
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現行 |
令和4年度税制改正後 |
適用要件 |
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給与総額の増加率 |
雇用者全体の給与総額:対前年度増加率1.5%以上 |
変更なし |
税額控除 |
控除率最大25% |
控除率最大40% |
控除率を乗ずる対象 |
雇用者全体の給与総額の対前年度増加額 |
変更なし |
控除率 |
基本 |
15% |
15% |
上乗せ
(賃上げ) |
+10%
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雇用者全体の給与総額:対前年度増加率 2.5%以上 |
+15% |
雇用者全体の給与総額:対前年度増加率 2.5%以上 |
上乗せ
(教育訓練費) |
教育訓練費増加等の要件の充足(※1) |
+10% (※2) |
教育訓練費の対前年度増加率10%以上 |
控除上限額 |
当期の法人税額×20% |
変更なし |
※1 教育訓練費増加等の要件:次のいずれかの要件
- 教育訓練費の対前年度増加率10%以上⇒確定申告書に教育訓練費の明細書の添付(改正案:明細書の保存)が必要
- 中小企業等経営強化法の認定経営力向上計画における経営力向上の証明(改正案:廃止)
※2 控除率15%の上乗せ措置の適用を受けない場合は、合計25%
オープンイノベーション促進税制の見直し
オープンイノベーション促進税制とは、要件を満たすスタートアップ企業に対して行った出資について、企業が一定額の所得控除を受けることができる制度です。
税制改正では、対象となる一定のベンチャー企業の範囲に、設立10年以上15年未満の研究開発型のスタートアップが追加され、また、適用期限も2年間延長(令和6年3月31日)されます。
少額減価償却資産における損金算入などの見直し
少額減価償却資産などの損金算入特例については、対象資産から貸付資産が除外され、適用期限が2年延長されます。
これはいわゆる「ドローン節税」などを封じるための制度と考えられます。
「ドローン節税」とは、10万円以下のドローンを購入して即費用とし、それを貸付けて収入を得るという節税スキームです。
改正後は取得年に全額を損金算入することなどが認められず、通常の減価償却資産と同様に耐用年数に応じて損金算入することになるため注意が必要です。
(ただし、リース業などの貸し付けを主要な事業として行う企業によるものを除きます)
適用内容 |
少額減価償却資産 |
一括償却資産 |
中小企業者の少額減価償却資産の特例 |
適用法人 |
全事業者 |
全事業者 |
特例対象となる中小企業者等 |
取得価額 |
10万円未満など |
20万円未満 |
30万円未満 |
年間損金算入額 |
取得価額全額 |
取得価額×1/3 |
取得価額全額 (300万円限度)
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償却期間 |
1年 |
3年 |
1年 |
大法人に対する法人事業税所得割の税率の見直し
外形標準課税対象法人(資本金1億円超の法人)の年800万円以下の所得に係る軽減税率が廃止され、標準税率が1.0%になります。
経理ドリブンでも度々取り上げてきたインボイス制度(適格請求書等保存方式)についても、適格請求書発行事業者の登録申請に関する見直しが行われます。
※関連記事:インボイス制度とは?スケジュールや懸念点、対策をかんたん解説
適格請求書発行事業者の登録申請の見直し
適格請求書発行事業者になりインボイスを発行するためには、消費税の課税事業者になる必要があります。
そのためには、原則として、課税事業者となる前事業年度までに届出書を提出しなければなりません。つまり、現在、免税事業者である場合は、インボイスを発行し始める前事業年度までに課税事業者になる必要があるのです。
しかし、インボイス制度の普及に係る導入期間の特例として、免税事業者であっても申請書を提出して登録を受けた日からすぐに適格請求書発行事業者(課税事業者)となることが可能になりました。
今回の改正では、この登録期限の特例の期限が延長されています。
なお、消費税の課税事業者は、免税事業者に戻ることを2年間制限されます。この制限は特例を受けて適格請求書発行事業者(課税事業者)になった事業者についても同様です。
- 登録期限の特例の適用期限延長
免税事業者が登録日から適格請求書発行事業者になることができる特例の期限が、令和11年9月30日の属する課税期間まで延長
- 免税事業者の2年制限
上記登録期限に係る特例を受けて、令和5年10月1日以降に適格請求書発行事業者になった場合、登録日を含む課税期間の翌課税期間から2年間は免税事業者になることができない
最後に、電子取引や自動車重量税、納税環境整備に関する変更点を解説します。
領収書、請求書などの電子保存義務化における猶予期間の付与
電子取引の取引情報に係る電子データ保存については、令和3年1月1日以降、電子データでの保存が義務付けられています。
しかし、期限までに保存体制を構築するのが困難という事業者に配慮し、いわゆる電子帳簿保存法の改正として2年間は宥恕措置が取られることになりました。宥恕とは、やむを得ない事情があれば猶予を認める、ということです。
ただし、以下の2つの要件は満たしている必要がありますので、ご注意ください。
- 要件1
税務署長が電子取引の取引情報の電子データでの保存要件に従って保存をすることができなかったことやむを得ない事情があると認めること
- 要件2
税務調査などの際には、その取引情報を調査官に提示・提出できる状態にあること
※参考資料:財務省「電子取引データの出力書面等による保存措置の廃止(令和3年度税制改正)に関する宥恕措置について」
自動車重量税のキャッシュレス納付制度の創設
自動車重量税は、自動車の車検申請などの際に納付する税金です。
納付方法は自治体によっても異なりますが、これまでは、窓口で印紙を購入して書類に貼り付けるか、口座から振り込むかのどちらかが主体でした。
しかし今回の税制改正により、2023年からは全面的にクレジットカードでの納付が可能になる予定です。
一部の自治体ではすでに導入されているところもあるため、社用車を持っている企業はチェックしてみてください。
帳簿の提出がない場合などの過少申告加算税等の加重措置の整備
帳簿を記帳・保存・提出しない納税者や、記帳内容に不備がある納税者に対して、過少申告加算税・無申告加算税の加重措置が講じられます。
これは、適正に帳簿を記帳して、申告義務を果たしている納税者との公平性の観点から整備された制度となります。
具体的には、税務調査で売上帳簿の提出の求めがあった場合に、以下の状況に該当する帳簿が対象となります。
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状況 |
追加での加重割合 |
措置A |
不記帳・不保存の場合(提出しなかった場合)、または、当該帳簿に記載すべき売上金額もしくは業務に係る収入金額のうち2分の1以上が記載されていない場合
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10%加重 |
措置B |
当該帳簿に記載すべき売上金額または業務に係る収入金額のうち3分の1以上が記載されていない場合
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5%加重 |
この制度は、令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用となります。
※災害など納税者の責めに帰すべき事由がない場合は、適用されません。
※参考資料:財務省「令和4年度税制改正の大綱(目次)」
※参考資料:財務省「電子取引データの出力書面等による保存措置の廃止(令和3年度税制改正)に関する宥恕措置について」
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。