福利厚生費は、従業員へのサービスなどに関する支出を経費計上できる勘定科目です。
ただし、要件を満たしていないと課税対象となることもあります。
今回は、法定福利費と福利厚生費の違いや、福利厚生費として計上できる3つの要件などの基礎知識のほか、具体的な支出項目の条件から例外となるケースなどを解説します。
福利厚生費とは
法定福利厚生と法定外福利厚生の違い
福利厚生とは、従業員の生活や健康の安定を目的に、給与や賞与以外で企業が提供する報酬やサービスのことです。
福利厚生には、法律で定められた「法定福利厚生」と、企業が任意で取り入れている「法定外福利厚生」の2種類が存在します。
法定福利厚生
5名以上の従業員を雇っている個人事業主と法人は、社会保険料の全額もしくは一部を負担する義務があると法律で定められています。これが「法定福利厚生」です。
法定福利厚生は「法定福利費」として費用計上可能です。
該当するものは以下となります。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
- 介護保険
- 子ども・子育て拠出金
法定外福利厚生
「法定外福利厚生」は、法律に関係なく、企業が独自で実施している福利厚生のことを指します。
家賃補助や食事補助など、取り入れるものは企業によって様々です。
一例としては以下の通りです。
- 住宅、通勤関連
社宅、家賃補助、交通費
- 医療、健康関連
健康診断や人間ドックの補助、運動施設の利用補助
- 慶弔、災害関連
弔慰金、結婚や出産の祝い金、災害見舞金
- 育児や介護支援関連
託児所やベビーシッターにかかる費用負担
- 財産形成関連
持株会、財形貯蓄、社内預金
- 職場環境関連
社員食堂、社用携帯の支給
- 自己啓発関連
資格所得への支援、自己啓発プログラムの提供
- 休暇関連
夏季特別休暇、年末年始特別休暇、リフレッシュ休暇
- 体育、レクリエーション関連
企業主催の運動会、社員旅行、交流会の補助
法定外福利厚生は主に「福利厚生費」として費用計上します。
ただし、要件を満たしていないと福利厚生費と認められず、他の勘定科目に分類されて課税対象となる場合もあります。
福利厚生費として経費計上する要件
福利厚生費は全額を経費に計上でき、法人税が損金扱いされません。
また、計上する金額の上限や範囲がないため、様々な支出を非課税対象にすることが可能です。
ただし、基本的に以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 給与としての支給ではない
- 対象が全従業員である
- 社会通念上、金額が妥当な範囲内である
上記の3つの要件から外れた場合は、福利厚生費として処理できないため、課税対象となります。
例えば、従業員を対象に行った食事会の費用は福利厚生費になりますが、社外の人と接待目的で行った食事会の費用は交際費としての処理となります。
※参考資料:国税庁「交際費等と福利厚生費との区分」
福利厚生費として計上するための項目別条件
3つの要件を満たしていても、場合によっては福利厚生費として認められないということがあります。
例えば以下のケースでは、福利厚生費として計上する際に税法に基づいた条件を満たす必要があります。
社宅貸与の条件
企業が賃料を払っている家を従業員に貸している場合、企業側で家賃の全額を負担すると給与扱いとなりますが、従業員が一部を負担すると、福利厚生費として計上できます。
このとき従業員が支払う金額を「賃貸料相当額」といい、以下の合計をさします。
- [その年度における建物の固定資産税の課税標準額]×0.2%
- 12円×[建物の総床面積(㎡)/3.3(㎡)]
- [その年度における敷地の固定資産税の課税標準額]×0.22%
※従業員の場合、賃貸料相当額の50%以上を徴収すれば差額が給与として課税されることはありません。
なお、貸し出す対象が役員であっても福利厚生費とすることはできますが、役員の場合は住宅の規模によって賃貸料相当額の計算方法が変わります。
法定耐用年数や床面積によって小規模な住宅と判断されたものは、上記の従業員の賃貸料相当額と同様の計算を行いますが、それ以外の社宅は算出方法などが異なるためご注意ください。
※出典:国税庁「使用人に社宅や寮などを貸したとき」
※出典:国税庁「役員に社宅などを貸したとき」
通勤手当の条件
従業員に対して支払う通勤手当は、正社員やアルバイトなどの雇用形態に関わらず、限度額以内であれば非課税対象となります。
区分別に見た1カ月あたりの非課税限度額は以下の通りです。
区分 |
課税されない金額 |
公共交通機関(バスや電車)または有料道路を利用する場合 |
150,000円 |
自動車もしくは自転車を利用する場合 |
片道55km以上 |
31,600円 |
片道45km以上55km未満 |
28,000円 |
片道35km以上45km未満 |
24,400円 |
片道25km以上35km未満 |
18,700円 |
片道15km以上25km未満 |
12,900円 |
片道10km以上15km未満 |
7,100円 |
片道2km以上10km未満 |
4,200円 |
片道2km未満 |
全額課税 |
非課税限度額を超えていたり、合理的でない道順で通勤したりする場合は課税対象となります。
なお、非課税内での仕訳の際は旅費交通費として計上するのが一般的です。
※出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
社員旅行の条件
レクリエーションや研修目的で社員旅行をする場合の費用は、福利厚生費として計上できます。
ただし、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 旅行期間が4泊5日以内であること
※海外旅行の場合、外国での滞在日数が4泊5日以内であること
- 旅行に参加した人数が、全従業員数の50%以上であること
※工場や支店ごとでの旅行に関しては、それぞれの職場ごとの人数の50%以上の人が参加すること
しかし、上記の条件は満たしていても、旅費が高額と見なされた場合は福利厚生費の対象とはなりません。
金額の上限は明確に決まっているわけではありませんが、「国税庁の所得税基本通達(36-30)」には「社会通念上一般的」という記載があり、これは判例に基づくと一人あたり10万円程度とされています。
また、役員だけの旅行や取引先に対する接待旅行なども対象外となりますので、ご注意ください。
※出典:国税庁「従業員レクリエーション旅行や研修旅行」
※出典:国税庁「国税庁の所得税基本通達(36-30)」
慶弔見舞金の条件
慶弔見舞金も福利厚生費として経費計上できるものです。
ただし国税庁では明確な額を公開していないため、企業ごとに慶弔見舞金支給規定の作成が必要です。
規定に定められている場合は、従業員だけなく、その家族が結婚や死亡した際にも支給されることがあります。
現時点での一般的な慶弔見舞金の種類と相場は以下が目安となります。
種類 |
相場 |
死亡弔慰金 |
10,000~100,000円 |
結婚祝い金 |
10,000~30,000円 |
出産祝い金 |
10,000~30,000円 |
災害見舞金 |
20,000~100,000円 |
傷病見舞金 |
10,000~30,000円 |
福利厚生費で計上できないケース
以下のようなケースは福利厚生費と見なされない可能性があります。
商品券
従業員への商品券の支給は給与として見なされるため、従業員側に所得税が課税されてしまいます。
企業の記念品と一緒に商品券を渡すケースなどでは、記念品自体はおおむね5年以上ごとの期間があいていれば非課税とされるものであっても、商品券に関しては課税対象となります。
※参考資料:国税庁「創業50周年を記念して従業員に支給した商品券」
新年会や忘年会の二次会、三次会
全従業員を対象として行う新年会や忘年会は、福利厚生費として計上できます。
しかし、二次会や三次会など、一部の従業員だけが参加する場合が多いものは対象外となります。
低金利・無利子での貸付
従業員貸付制度を取り入れている企業では、従業員に対して企業からお金の貸付が可能です。
その中でも、従業員が災害にあったり、病気になったりした際に資金が必要な場合は、低金利や無利子で貸付できます。
この場合の通常の利息の差額分は給与として処理されるため、福利厚生費の対象とはなりません。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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福利厚生費は、条件を満たさないと経費計上できません。
法定外福利厚生の導入は企業の任意であり、どの項目を取り入れているかは企業によって様々です。しかし中には対象外になってしまうものもあるため、福利厚生費として処理する前に対象となるのかどうかをしっかりと確認しましょう。