「優良な電子帳簿」の要件を満たす場合には、過少申告加算税や青色申告特別控除額について優遇措置が認められています。
では、「優良な電子帳簿」とは一体なにを指すのでしょうか?
電子帳簿保存法の改正で変更された書類の電子保存の要件と併せて、この記事で確認していきましょう!
- 投稿日:2022/02/22
- 更新日:2023/10/03
国税関係の帳簿書類を電子データで保存する
電子帳簿保存法は、事業者の経理業務や取引における書類について、電子データでやりとり・保存する際のルールを定めた法律です。
電子帳簿保存法の対象となる書類は国税関係帳簿、国税関係書類、電子取引データの3つであり、それぞれ扱いが異なっています。
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内容 |
紙での保存 |
電子データでの保存 |
国税関係帳簿 |
取引の際に企業が作成する仕訳帳や総勘定元帳などの帳簿 |
認められる |
認められる |
国税関係書類 |
決算に必要な貸借対照表や損益計算書などの決算関係書類、
取引相手から受領する契約書や領収書などの書類 |
認められる |
認められる |
電子取引データ |
国税関係書類のうち、発行から受領まで電子データでやり取りされるもの
※原則として電子帳簿保存法に従った保存が必要 |
認められない |
義務 |
上記の通り、発行から受領まで電子データでやり取りされている書類は紙で保存することはできず、電子帳簿保存法の要件に従って電子データで保存する必要があります。
電子帳簿の保存要件
企業が会計ソフトなどを使用して作成した国税関係帳簿について、電子帳簿として保存するためには以下の要件を満たす必要があります。
電子帳簿が満たすべき一般的な要件
- 記録など最初の段階から一貫してコンピュータを使用して作成していること
- 使用したシステムに関する概要書や取扱説明書など、操作に関する説明書の備付けがあること
- ディスプレイやプリンタなどの見読可能装置を備付け、記録事項を整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに画面または書面に出力できること
- (原則として)税務職員によりダウンロードが求められた際は応じること
上記の要件を満たす帳簿については電子データのままで保存が認められます。
ただし、要件を満たさない場合はたとえ会計ソフトを使用して作成した帳簿であっても紙に出力して保存する必要があります。
帳簿書類を電子データで保存するメリット
国税関係帳簿の電子データ保存には、以下のようなメリットがあります。
- 保存場所の確保やファイリング作業が不要となる
- PC上でデータ検索できるため、必要な書類がすぐに見つかる
- ネットワーク上でやりとりできるため、テレワークでの業務も可能になる
- 優良な電子帳簿の要件を満たす場合、青色申告特別控除などにおいて優遇措置がある
法律上は、国税関係帳簿を紙で保存するかデータで保存するかについては企業の任意とされていますが、実務では会計システムを使って帳簿を作成している企業が多いのではないでしょうか。
一般的な電子帳簿の要件はそこまで難解ではないため、電子データでの保存を選ぶことで業務効率化にもつなげることができるでしょう。
優良な電子帳簿とは
電子帳簿保存法には、電子帳簿が特定の要件を満たしていれば税務上の優遇措置を認めるという制度があります。
この時、要件を満たした電子帳簿のことを優良な電子帳簿といいます。
優良な電子帳簿を作成することにより、過少申告加算税や青色申告特別控除額について優遇措置が認められます。
優良な電子帳簿の対象となる帳簿
所得税・法人税(令和5年度税制改正)
その他必要な帳簿の対象は、以下の表に記載されているものに限定されます。
記載事項 |
帳簿の具体例 |
売上げ(加工その他の役務の給付等売上と同様の性質を有するものを含む。)その他収入に関する事項 |
売上帳 |
仕入れ、その他の経費(法人税は、賃金・給料・法定福利費・厚生費を除く。)にかかる事項 |
仕入帳、経費帳、<所得税のみ>賃金台帳 |
売掛金(未収加工料その他売掛金と同様の性質を有するものを含む)に関する事項 |
売掛帳 |
買掛金(未払加工料その他買掛金と同様の性質を有するものを含む。)に関する事項 |
買掛帳 |
手形(融通手形を除く。)上の債権債務に関する事項 |
受取手形記入帳、支払手形記入帳 |
その他の債権債務に関する事項(当座預金を除く。) |
貸付帳、借入帳、未決済項目に係る帳簿 |
<法人税のみ>有価証券(商品であるものを除く。)に関する事項 |
<法人税のみ>有価証券受払い簿 |
減価償却資産に関する事項 |
固定資産台帳 |
繰延資産に関する事項 |
繰延資産台帳 |
※参考:国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」
消費税
消費税法上の事業者が保存すべき以下の帳簿が該当します。
- 課税仕入れの税額の控除に係る帳簿
- 特定課税仕入れの税額の控除に係る帳簿
- 売上対価の返還等に係る帳簿
- 特定課税仕入れの対価の返還等に係る帳簿
- (輸出入取引を行う場合)課税貨物の引取りの税額の控除に係る帳簿
- (輸出入取引を行う場合)資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物の保税地域からの引取りに関する事項に係る帳簿
優良な電子帳簿の要件
優良な電子帳簿として優遇措置を受けるためには、電子帳簿が満たすべき一般的な要件に加えて、以下の要件を満たしたうえであらかじめ届出書を提出する必要があります。
訂正・削除履歴の確保要件
電子データで入力して記録したものに対して訂正や削除を行った場合は、その内容を履歴で確認できるようにしておく必要があります。
基本的には、電子データ入力業務にかかる通常の期間(一般的には2カ月程度)を超えた後に訂正や削除を行った際は、確認できる履歴を用意しておかなくてはなりません。
もしくは、訂正・削除そのものができないようなシステムを利用するなど、後からデータを変更できないようにしておくことが求められます。
相互関連性要件
電子データの記録事項について、関連する他の帳簿の記録事項との関係性を相互に確認できるようにしておく必要があります。
例えば、記帳の際に仕訳番号を付与し、その番号を総勘定元帳にも引き継ぐことによって、相互に関連性を確認できるようにしておくことなどが求められます。
検索要件
電子データを検索機能の確保要件に基づいて検索できる状態にして、検索結果をディスプレイ表示などで確認できるようにしておく必要があります。
検索機能の確保要件は以下の通りです。
- 取引年月日、取引金額、取引先で検索できる
- 日付または金額の範囲指定で検索できる
- 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索ができる
税務調査などで税務職員からデータのダウンロードを求められた際に応じられるようにしている場合、上記の2と3は不要となり、「取引年月日」、「取引金額」、「取引先」のみで検索できれば要件を満たしていると見なされます。
※参考:国税庁「優良な電子帳簿の要件」
優良な電子帳簿を適用した場合のインセンティブ
過少申告加算税の軽減措置について
では、「優良な電子帳簿」の備付け・保存を行っている事業者についてはどのようなメリットがあるのでしょうか。
その1つ目が過少申告加算税の軽減措置です。
これは、所得税・法人税または消費税に係る修正申告などがあった場合、申告漏れに課される過少申告加算税が軽減される措置です。通常は10%~15%で課される過少申告加算税の税率が5%軽減されます。
税金の計算は複雑で、正しく計算したつもりでも、税務調査などで思わぬ申告漏れを指摘されるケースは多くあります。この場合に、本来払うべき税額に加えて課されるペナルティが過少申告加算税ですが、この税率が5%軽減されることは、申告漏れとなった税額によっては大きなメリットといえます。
例:法人税の税務調査で申告漏れが発覚。20万円の税額を追加で納付することになった場合
優良な電子帳簿が適用されていない事業者
(もしくは電子帳簿を利用していない事業者)
20万円 × 10% = 2万円
優良な電子帳簿が適用されている事業者
20万円 × 5% = 1万円
ただし、隠蔽仮装行為などがあった場合には、この軽減措置の適用はありません。
また、適用を受けるためには届出書を事前に税務署へ提出する必要があります。
青色申告特別控除額の増額
個人事業主が、「優良な電子帳簿」の備付け・保存を⾏っている場合には、所得税の⻘⾊申告特別控除額が優遇されます。
青色申告特別控除は、青色申告の承認を受けて一定の要件を満たしている場合に、所得税の控除を受けられる制度です。優良な電子帳簿の要件を満たす帳簿書類を作成・保存している場合には、この控除額が通常の55万円から65万円になるため、10万円多く控除を受けることができます。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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日々のやりとりを電子化するだけでも管理上のメリットがありますが、そのうえで、「優良な電子帳簿」の要件も満たすことができれば、万が一の場合の過少申告加算税の軽減や、青色申告特別控除額の増額など税務上のメリットもあります。今回の記事を参考に、一歩進んだ、電子帳簿の管理を実践してみてくださいね。