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経理/財務消費税 2020/05/28

日税連に聞く!インボイス方式の導入が免税事業者に及ぼす影響とは

2019年10月、消費増税に併せて軽減税率が導入されました。さらに、2023年10月1日には「インボイス方式」も導入されます。この過程で、現在納税義務のない課税売上高1,000万円以下の事業者は、「課税額が増える課税事業者を選択する」か、「取引停止のリスクが高まる免税事業者のままでいる」かのどちらかを選択しなければなりません。どちらの選択肢をとるにも、現在の免税事業者にとって大きな負担になることが予想されます。そのため、日本税理士会連合会(以下、日税連)は、このインボイス方式の見直しを主張しています。
今回は、日税連の足達信一専務理事をはじめとした役員の方々に、インボイス方式に対して警鐘を鳴らす理由について伺いました。

取材先プロフィール

日本税理士会連合会
全国15の税理士会で構成されており、税理士会や税理士の指導、連絡のほか、税理士登録に関する事務などを行う組織。

取材協力:石原健次専務理事、高橋俊行専務理事、平井貴昭常務理事、末吉幹久常務理事

日税連がインボイス方式を懸念する理由

日税連ではインボイス方式をどのようにお考えですか。
足達専務理事(以下敬称略) 日税連は、消費税法改正論議で軽減税率やインボイス方式の採用が俎上に乗せられてから、一貫して単一税率の維持とインボイス方式の見直しを主張し、日税連税制改正建議書の重要項目としてきました。

その理由とは?
足達 私たちは、そもそも軽減税率制度そのものが消費増税の「逆進性の緩和策」としては非効率で不十分だと考えています。にもかかわらず、多くのメディアが取り上げているように、税率区分経理による事務負担は大きく増加しました。その上でインボイス方式が導入されると、事業者はすべての取引において、取引先がインボイス発行事業者であるかを確認する作業が必要となり、負担はさらに増えることになります。
また、免税事業者は適格請求書を発行できないため、取引先から不当な値下げを強いられる可能性もあります。そうなった場合の経営状態悪化を危惧しているのです。
税理士は、全国に500万以上いるとされる免税事業者のうち相当数の経営に深く関わっており、私たちがインボイス方式導入の見直しを要求しなければならないと考えています。
それだけでなく、インボイス方式は税務署の事務にも大きな負担が生じると考えられています。そのため税理士は、わが国唯一の税務の専門家という立場から見直しを強く主張せざるを得ないのです。

「経理ドリブン」では軽減税率やインボイス方式の導入に対する現場の意見を多く耳にしてきました。しかし、当事者のインボイス方式に対する意識の高まりは、あまり感じられていません。
足達 その大きな理由としては、インボイス方式の導入が2023年秋であること、また2029年秋までは免税事業者などからの仕入れについて特別措置が設けられていることなどが考えられます。導入まで、まだ長い準備期間があるという認識なのではないでしょうか。軽減税率の導入は税理士の注意喚起などもあり、事業者は、私たちの予想よりも落ち着いた対応でスタートしたと思います。しかし、インボイス方式の導入は消費者に直接的に関わることではないため、メディアが取り上げる機会が少ないことも、このように意識が低い一因なのかもしれません。

インボイス方式導入への意識を高めるために税理士はどのようなアドバイスをしているのでしょうか。
足達 私たち日税連が事業者に直接アドバイスすることはありません。しかし、税理士には、関与先の事業者に対してインボイス方式導入にあたっての留意事項を、具体例を示しながら正確にわかりやすく伝えてもらいたいと考えています。例えば、免税事業者については「レシートに消費税額などが表示できなくなる」、「一度、課税選択をすると、原則2年(一部3年)は変更できないため、慎重に検討しなければならない」などです。また、課税選択をしたとしても原則として税務署に登録をしなければインボイスを発行できないことも重要です。細かいことかもしれませんが、代金決済時に振込手数料を差し引いて決済したときの処理方法なども実務上、注意すべき点となります。

今後の動きや対策について

インボイス方式の導入の代替案はあるのでしょうか。
足達 まず、昨今の政府の方針である「行政手続コストの削減」の方向性に逆行することのないよう考慮する必要があります。また、免税事業者の立場が弱くなることは絶対に避けなければならないと考えています。例えば、「請求書などに一定事項を記載する」ことで、区分経理に対する対応は可能です。実際、2019年10月~2023年9月までの「インボイス経過措置期間」では、従来の請求書に追記する形式の「区分記載請求書等保存方式」などで十分に対応できています。このような意見を発信し続けることで、免税事業者の大きな壁となるインボイス方式の見直しに向けて活動を続けていきます。

その一方で、インボイス方式を迎える準備も必要かと思います。
足達 そうですね。税理士法第49条の11「建議等」において、税制・税務行政の知見を有するものとして、租税制度について建議できる権利が認められていますので、インボイス方式の見直しは発信し続けます。その一方で、税理士は法令に規定された納税義務の適正な実現を使命としており、事業者の情報源としてインボイス方式への移行についても周知しなければならないと考えています。私たち日税連と全国15の税理士会は、全国78,000人の税理士会員向けに研修などを開催して最新の情報を共有しています。免税事業者に限らずすべての事業者の方におかれましては、軽減税率やインボイス方式の導入などについての知りたいことや疑問などがありましたら、お気軽に身近な税理士に相談していただきたいと思います。みなさまにとって、必ずや正確かつ迅速な問題解決の一助になると思います。

本日は、貴重なお話ありがとうございました。

※インタビューは2020年3月24日に行われたものです。
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今回はインボイス方式導入に警鐘を鳴らす日税連の足達専務理事をはじめとする役員の方々にお話を伺いました。インボイス方式は当事者である事業者が意識的に動向を注視し、備えなければなりません。また、免税事業者はインボイスを発行できませんので、いずれ課税選択の有無を迫られることになります。税理士はインボイス方式の導入において、すべての事業者の心強い味方です。足達専務の言う通り、困ったことがあればまず身近な税理士に相談してみてください。
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