この記事のポイント
- 安全性分析とは、企業の支払能力や財務の健全性を確認し、資金不足などのリスクを早期に把握するための財務分析である。
- 流動比率と当座比率は短期的な支払能力を測る指標で、特に当座比率は棚卸資産などを除いた換金性の高い資産から、より厳格に安全性を評価できる。
- 固定比率と固定長期適合率は長期的な資金のバランスを測る指標で、固定長期適合率は100%以下が望ましく、固定資産を長期資金で賄えているかを確認できる。
企業の将来を見据えた意思決定において、客観的な財務数値による裏付けは欠かせません。
中でも安全性分析は、企業の支払能力や財務の健全性を確認し、資金不足による黒字倒産などのリスクを早期に把握するための重要な財務分析です。
今回は、手元流動性比率や流動比率、当座比率、固定比率、固定長期適合率など、短期・長期の安全性を測る代表的な指標について、計算例を交えながらわかりやすく解説します。
安全性分析の目的と手元流動性
財務諸表分析において、利益を生み出す力を確認する収益性分析と並んで重要なのが、企業の支払能力や財務の健全性を確認する安全性分析です。
どれほど売上が伸びて営業利益が出ていても、手元の現金が不足して支払期日に間に合わなくなれば、黒字倒産に陥る可能性があります。
また、財務体質が悪化すれば外部からの資金調達力も低下し、さらなる資金ショートの危険性を高めるという悪循環を招きます。
安全性分析の目的は、このようなリスクを早期に察知して予防することです。
※関連記事:基礎から知っておきたい財務諸表分析とは?(財務諸表分析からわかる企業価値評価 第1回)
短期安全性と長期安全性
安全性分析は、短期と長期に分類して行います。
短期的な支払能力の分析(1年以内)
企業の目先の資金繰り状況を評価する分析です。
1年以内に支払期限が到来する負債に対して、同期間内に換金できる流動性の高い資産がどの程度あるかを測定します。
代表的な指標として、流動比率や当座比率が挙げられます。
長期的な資金のバランス分析(1年超)
中長期的なスパンにおける投資と調達の安全性を評価する分析です。
建物や機械装置など、資金回収に数年以上の期間を要する固定資産に対し、その購入原資が返済不要の自己資本や、返済期限に猶予がある長期の負債(固定負債)によって適切に賄われているかをチェックします。
代表的な指標に、固定比率や固定長期適合率があります。
手元流動性比率
手元流動性比率は、実務で手軽かつ直感的に自社の資金余力を把握できる、安全性分析の基本的な指標です。
現預金や換金性の高い有価証券など、すぐに活用できる資金が、月平均の売上高(月商)の何カ月分に相当するかを示します。
算式は以下の通りです。
手元流動性比率 =(現金 + 預金 + 換金性の高い有価証券など)÷ 平均月商
一般的には、2以上(月商の2カ月分)が、突発的な売上減少や景気変動に備えるための一つの目安とされています。
回収に時間を要する売掛金や、そのままでは支払いに充てられない在庫などを含めないことで、手元資金の余力をより明確に把握できます。
※関連記事:手元流動性比率はチェックしてる?財務分析初心者も確認すべき財務指標
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【短期の安全性】流動比率と当座比率
手元流動性比率で当面の資金余力を確認したら、次に見ておきたいのが、短期的な支払能力です。
企業が1年以内に支払う必要のある負債に対して、どの程度の資産を確保できているかを確認する代表的な指標には、流動比率と当座比率があります。
流動比率とは
流動比率とは、1年以内に支払う必要のある流動負債に対し、同期間内に現金化できる流動資産をどれだけ保有しているかを示す指標です。
計算式は以下の通りです。
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
一般に200%以上あれば安全とされていますが、実際の目安は業界の特性や資金サイクルによって大きく左右されます。
例えば、売掛金などの流動資産が多く、短期的な支払いが比較的少ない企業では、流動比率は高くなりやすい一方で、仕入れに伴う買掛金などの流動負債が多い企業では、流動比率が低くなることがあります。
自社のビジネスモデルや支払サイトに照らし合わせ、無理のない適正水準をキープすることがポイントとなります。
当座比率とは
当座比率とは、流動資産から棚卸資産などを除外し、換金性の高い当座資産を用いて、短期の支払能力をより厳格に評価する指標です。
流動資産の中には、現預金だけでなく、現金化までに時間のかかる商品や仕掛品といった棚卸資産が含まれています。
これらは販売後に現金が回収されて初めて現預金となるため、それまでは売れ残りによる陳腐化や価値下落のリスクを含んでいます。
そのため、当座比率では棚卸資産を計算対象から除外します。
計算式は以下の通りです。
当座比率 = 当座資産(現預金 + 売上債権 + 短期保有の有価証券)÷ 流動負債 × 100
実務上、100%以上が安定水準の目安とされており、100%を下回る場合は、急な売上減少や取引先からの回収遅延が起きた際の支払能力に注意が必要です。
流動比率と当座比率の計算例
ここからは、とある中小企業の財務データ例をもとに、実際に流動比率と当座比率を計算してみましょう。
K社の貸借対照表データ
| 流動資産 |
現預金 |
300万円 |
| 受取手形 |
300万円 |
| 売掛金 |
500万円 |
| 棚卸資産 |
500万円 |
| 貸倒引当金 |
-100万円 |
| 流動負債 |
800万円 |
| 固定資産 |
1,200万円 |
| 固定負債 |
900万円 |
| 自己資本(純資産) |
1,000万円 |
流動比率の計算
流動比率 = 流動資産1,500万円 ÷ 流動負債800万円 × 100 = 187.5%
流動比率は187.5%となり、一般的な目安とされる200%には届かないものの、一定の支払能力があるように見えます。
当座比率の計算
まずは、換金性の高い当座資産を求めます。
現預金300万円と、回収リスクを見積もった正味売上債権(受取手形300万円+売掛金500万円-貸倒引当金100万円=700万円)を合計すると、当座資産は1,000万円となります。
当座比率 = 当座資産1,000万円 ÷ 流動負債800万円 × 100 = 125.0%
当座比率は125.0%となり、安定水準の目安とされる100%を上回っています。
棚卸資産を除いた換金性の高い資産で流動負債をカバーできる水準にあり、短期的な支払能力は比較的良好と評価できます。
流動比率と当座比率の間に乖離がある場合
流動比率と当座比率の間に大きな乖離がある場合、流動資産の多くが棚卸資産(在庫)に偏っている可能性があります。
このような兆候が見られた場合、経理担当者は単に数値を追うだけでなく、不良在庫の早期売却による現金化や滞留債権の回収管理、適正な仕入計画への見直しなど、具体的な財務改善につなげることが重要です。
なお、比率の見栄えを良くすることだけを目的に、手元資金を使って短期借入金を前倒しで返済するなどの対応には注意が必要です。
短期借入金の返済によって流動比率が改善する場合もありますが、同時に現預金も減少します。
比率だけで判断するのではなく、実際の手元資金や今後の資金繰りとのバランスを確認することが重要です。
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【長期の安全性】固定比率と固定長期適合率
長期的な資金のバランスも重要です。
建物や機械装置などの固定資産は長期間にわたって使用するため、その投資をどのような資金で賄っているかが、企業の長期的な財務の安定性を左右します。
こうした固定資産と調達資金のバランスを確認する代表的な指標が、固定比率と固定長期適合率です。
固定比率とは
固定比率とは、固定資産が、返済の必要がない自己資本(純資産)でどれだけカバーされているかを確認するための指標です。
建物、車両、機械装置といった固定資産は、長期間にわたって使用され、複数年の事業活動を通じて徐々に投資額を回収していく資産です。
このような資金が何年にもわたって固定化される投資に対し、短期借入金などの流動負債を調達原資として充てると、資金調達のミスマッチが生じ、資金繰り上のリスクが高まります。
固定比率では、こうした運用と調達の長期的なバランスを測定します。
計算式は以下の通りです。
固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
目安は100%以下が望ましいとされますが、設備投資が不可欠な製造業や店舗展開が求められる小売業などでは、自己資本だけで全額を賄うことは難しく、100%を超えるケースもあります。
実務上は、150%程度を超える場合が、外部の調達資金への依存度が高まっているかを判断する一つの目安となります。
固定長期適合率とは
固定長期適合率は、実際の調達資金構造により即したかたちで財務状況を評価するために用いられる指標です。
自己資本だけで賄いきれない固定資産については、少なくとも固定負債などの長期資金で調達することが望ましい、という考え方に基づいたものであり、計算式は以下の通りです。
固定長期適合率 = 固定資産 ÷(自己資本 + 固定負債)× 100
基本的には100%以下を維持することが望ましいとされます。
100%を超えている場合、固定資産の一部を流動負債などの短期資金で賄っていることを示すため、資金繰りへの影響に注意が必要です。
固定比率と固定長期適合率の計算例
先ほどのK社の財務データを用いて、長期の安全性指標を算出してみましょう。
固定比率の計算
固定資産1,200万円 ÷ 自己資本1,000万円 × 100 = 120.0%
固定比率は100%を超えているものの、警戒の目安となる150%は下回っています。
ただし、この数値だけで安全性を判断するのではなく、固定長期適合率もあわせて確認することが重要です。
固定長期適合率の計算
固定資産1,200万円 ÷(自己資本1,000万円 + 固定負債900万円)× 100 = 63.2%
固定長期適合率は63.2%となり、目安とされる100%に収まっています。
固定資産を自己資本と固定負債の範囲内で賄えていることから、長期的な資金調達のバランスは比較的良好と評価できます。
固定資産の変動確認と設備投資前のシミュレーション
固定資産は流動資産に比べて、月ごとの残高変動が頻繁に発生するものではありません。
そのため、特定の月に残高が大きく変動した場合は、資産計上の誤りや、古い設備の処分にともなう除却処理の漏れなどがないか、経理部門で変動要因を確認しておくことが重要です。
また、実務では、高額な投資を行う計画段階で、調達手段が流動比率や固定長期適合率などの財務安全性にどのような影響を与えるか、あらかじめ試算しておくことが大切です。
調達を短期資金で賄うと流動比率や固定長期適合率が悪化する可能性がある一方で、返済期間が長い借入金などを適切に組み合わせることで、短期的な資金繰りへの負担を抑え、固定長期適合率を適正な水準に保ちやすくなります。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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財務諸表分析は、過去の数値実績を整理するためだけのものではありません。
手元流動性比率や流動比率、当座比率から短期的な資金余力や支払能力を確認し、固定比率や固定長期適合率から長期的な資金のバランスを確認することで、自社の財務状況を多面的に把握できます。
また、これらの指標を定期的に算出して推移を確認することで、資金繰りの悪化を早期に察知し、設備投資や資金調達などの判断にも役立てることができます。
今回の計算例を参考に、自社の最新の決算書から各指標を算出し、財務の安全性を確認してみましょう。