法人税には、ある事業年度に生じた欠損金(赤字)を、翌期以降に繰り越して将来の黒字所得と相殺することで、負担を軽減できる制度があります。
繰越欠損金とは、将来の黒字所得と相殺するために翌期以降へ繰り越される欠損金のことです。
青色申告を行っている法人であれば、原則として、その事業年度開始日前10年以内に生じた欠損金を将来の所得から控除することができます(平成30年4月1日前に開始した事業年度に生じた欠損金は9年)。
繰越欠損金は法人にとって将来の税負担を抑えられる重要な要素であり、M&Aの場面では対象会社の欠損金残高が企業価値評価にも大きく影響します。
※関連記事:欠損金は何年繰越せる?繰越控除と繰戻し還付を活用して法人税を節税しよう!
繰越欠損金の控除限度額
繰越欠損金は、中小法人等であれば所得金額の全額(100%)まで控除できますが、それ以外の法人では所得金額の50%が上限です。
M&Aなどで設けられる引継制限とは
多額の繰越欠損金を持つ法人を買収し、合併や完全子会社化を通じてその欠損金を取り込む行為は、税負担の不当な軽減につながるおそれがあります。
例えば、赤字続きで多額の繰越欠損金を持つ会社を合併してその欠損金を自社の利益と相殺するような、節税目的の欠損金の取り込みが問題とされています。
引継制限とは、このような欠損金の取り込みによる租税回避を防ぐために、一定の場合に繰越欠損金の引継ぎや利用を制限するルールです。
主に引継制限に注意が必要な場面
繰越欠損金の引継制限について特に確認が必要となる主な場面は、以下の2つです。
- M&Aによる株式取得後に行う合併(適格合併)
- グループ通算制度への加入
どちらも、欠損金を保有する法人が税計算上の特定のグループに加わる際に、その欠損金をそのまま利用できるかどうかの判定が必要となります。
複雑化する経理業務を改善する
MJSから5つのご提案
より複雑化する経理業務の負担を改善しませんか?電子化により仕訳入力やチェック業務を効率化し、生産性を向上させるためにMJSから5つのサービスを提案いたします。
M&Aでは、株式取得後に合併や会社分割などの組織再編が行われることがあります。
繰越欠損金の引継ぎを検討する際には、その組織再編が「適格」か「非適格」のどちらに該当するかを確認することが重要です。
適格か非適格かを押さえる
組織再編には合併や会社分割などがありますが、ここでは繰越欠損金の引継ぎに関係する合併を例に確認します。
- 適格合併:
グループ内再編や共同事業目的の合併として、法人税法が定める要件(完全支配関係継続要件や事業継続要件など)を満たす合併のこと。
- 非適格合併:
適格要件を満たさない合併のことで、典型例は対価として現金が交付されるケースなど。
被合併法人(吸収される会社)の繰越欠損金を合併法人(吸収する会社)へ引き継ぐことができるのは、原則として適格合併のみです。
非適格合併では被合併法人の繰越欠損金は消滅してしまいます。
そのため、M&Aで欠損金の活用を検討する場合は、まず予定している組織再編が適格要件を満たすかどうかを確認することが重要になります。
※関連記事:組織再編の税務、適格・非適格の分かれ道は?適格合併の要件と課税関係
繰越欠損金の引継制限の判定フローチャート
適格合併における繰越欠損金の引継制限の流れは、以下のように整理できます。
5年超の継続的な支配関係があるか?
適格合併であっても、M&Aなどによって支配関係が生じた日(特定支配日)から5年以内に行われる合併では、原則として繰越欠損金の引継制限が課されます。
そのため、まずは支配関係が生じてから5年が経過しているかどうかを確認する必要があります。
支配関係が5年を超えて継続している場合、または設立時から支配関係が続いている場合には、繰越欠損金の引継制限は課されません。
主要事業が関連する共同事業に該当するか?
特定支配日から5年以内に行われる合併では、原則として繰越欠損金の引継制限が課されます。
ただし、一定の共同事業性が認められる場合には例外的に引継制限は適用されません。
これは、グループ内で共同事業を行うための組織再編などについてまで制限を課すと、M&Aなどによる事業効率化を妨げてしまうためです。
この例外に該当するためには、「みなし共同事業要件」を満たす必要があります。
主な要件は以下の通りです。
- 事業関連性要件(双方の主要事業が相互に関連していること)
- 事業規模要件
- 事業規模継続要件
- 2および3を満たさない場合の特定役員引継要件
時価純資産超過額が未処理繰越欠損金以上であるか
上記のみなし共同事業要件を満たさない場合であっても、支配関係事業年度の直前事業年度末における時価純資産超過額(会社の純資産の時価が帳簿価額を上回る金額)が、支配関係が生じる前の繰越欠損金以上である場合には、繰越欠損金の引継制限は課されないケースがあります。
これは、欠損金の利用だけを目的とした買収ではなく、欠損金以外にも十分な企業価値を有する企業であることが、時価純資産超過額によって客観的に確認できるためです。
複雑化する経理業務を改善する
MJSから5つのご提案
より複雑化する経理業務の負担を改善しませんか?電子化により仕訳入力やチェック業務を効率化し、生産性を向上させるためにMJSから5つのサービスを提案いたします。
グループ通算制度とは、親会社と100%完全支配関係にある子会社について、グループ内の損益を通算して法人税を計算する制度です(2022年4月から開始)。
グループ内で黒字の会社と赤字の会社がある場合には、その損益を通算することで、グループ全体の税負担を軽減することができます。
例えば、P社(親会社)が黒字で子会社S社が赤字の場合、グループ通算制度を適用すれば、P社の黒字とS社の赤字を通算して法人税を計算できます。
ただし、欠損金の取り扱いについては、グループ加入前から保有していた欠損金かどうかによってルールが大きく異なります。
加入前の繰越欠損金の取り扱い
M&Aで取得した子会社をグループ通算制度に加入させる場合、その子会社が以前から持っていた繰越欠損金は、原則として加入のタイミングで切り捨てられ、使えなくなります。
ただし、時価評価対象外法人については、一定の場合に「特定欠損金」として引き継がれ、その法人自身の所得を限度として利用することが認められています。
時価評価対象外法人とは、支配関係が5年を超えて継続している法人や、共同事業性が認められる法人など、一定の要件を満たし時価評価の対象とならない法人をいいます。
特定欠損金と非特定欠損金
特定欠損金は「その欠損金が生じた会社自身の所得」に対してしか使用できず、グループ通算加入後もグループ内の他の会社の黒字とは相殺できません。
一方、グループ通算制度への加入後に発生した欠損金は「非特定欠損金」として取り扱われます。
非特定欠損金については、時価評価対象外法人で支配関係が5年以下、かつ共同事業性がない特定のケースを除き、原則としてグループ内での損益通算が認められます。
| 種類 |
どんな欠損金か |
損金算入できる範囲 |
| 特定欠損金 |
グループ通算制度開始前または加入前に生じた欠損金 |
その法人自身の所得金額を限度に使用可能 |
| 非特定欠損金 |
グループ通算制度の適用中に生じた欠損金 |
グループ全体の所得と通算可能 |
多額の繰越欠損金を抱えた子会社をグループ通算制度に加入させても、加入前から保有していた欠損金(特定欠損金)はその子会社自身が黒字になったときにしか利用できません。
一方で、加入後に発生した欠損金(非特定欠損金)は、原則としてグループ内で通算することができます。
同一事業年度において特定欠損金額と非特定欠損金額の両方がある場合には、特定欠損金額から優先して控除に充てます。
繰越欠損金を利用した損益通算の計算イメージ
グループ通算制度での繰越欠損金の損金算入について、具体的な例で確認してみましょう。
中小企業以外の大法人であるP社(親会社)とS社(子会社)の2社がグループ通算制度を採用しているケースを想定します。
※単位は百万円とします。
| 前提条件 |
P社(親会社) |
S社(子会社) |
当期の所得金額 (欠損金控除前) |
200 |
100 |
| 繰越欠損金の残高 |
0 |
120 |
うち特定欠損金 (加入前から持っていた欠損金) |
— |
80 |
うち非特定欠損金 (通算制度適用後に生じた欠損金)
|
— |
40 |
この前提をもとに、欠損金の損金算入額を順番に計算します。
【ステップ1】特定欠損金の損金算入額を計算する
特定欠損金は、その法人自身の所得にのみ使用できます。
S社の損金算入限度額は所得金額の50%ですので、100×50%=50が上限です。
S社の特定欠損金合計は80ですが、限度額50の範囲でしか使えないため、当期に損金算入できるのは50です。
残りの30はP社の所得とは相殺できず、この期には使えません。
|
P社 |
S社 |
損金算入限度額 (所得×50%) |
200×50%=100 |
100×50%=50 |
特定欠損金の損金算入額 (限度額の範囲内) |
— |
△50(80のうち上限50まで) |
| 特定欠損金算入後の限度額残高 |
100 |
50△50=0 |
【ステップ2】非特定欠損金の損金算入額を計算する
次に非特定欠損金(S社:40)をグループ全体で通算します。
グループ全体の限度額残高はP社の100+S社の0=100です。
S社の非特定欠損金40をP社の限度額残高100の範囲で算入します。
非特定欠損金はグループ全体の限度額残高に対して各社の割合で配分されますが、今回はP社の限度額残高100の方がS社の非特定欠損金40の残高より多いため、40全額を算入できます。
|
P社 |
S社 |
合計 |
非特定欠損金 (通算対象) |
— |
40 |
40 |
| グループ全体の限度額残高 |
100 |
0 |
100 |
非特定欠損金の損金算入額 (P社で損金算入) |
△40 |
0 |
40 |
【ステップ3】最終的な損金算入額と控除後の所得を算定する
上記で計算してきた損金算入額を各社の所得から差し引くと、控除後の所得は以下の通りになります。
S社の特定欠損金は80あるので、当期に使用した50を控除した残額30は翌期以降に繰り越されることになります。
|
P社 |
S社 |
グループ合計 |
所得金額 (欠損金控除前) |
200 |
100 |
300 |
| 繰越欠損金の損金算入額 |
△40(非特定欠損金) |
△50(特定欠損金) |
△90 |
| 控除後の所得金額 |
200△40=160 |
100△50=50 |
210 |
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
複雑化する経理業務を改善する
MJSから5つのご提案
より複雑化する経理業務の負担を改善しませんか?電子化により仕訳入力やチェック業務を効率化し、生産性を向上させるためにMJSから5つのサービスを提案いたします。