多様な働き方が認められるようになった昨今、多くの企業が従業員の副業を許可する動きを見せています。
従業員は副業をする場合、企業で行う年末調整のほかに、個人で行う確定申告が必要になることがあります。
今回の記事では、企業の経理担当者が最低限押さえておきたい副業で発生した雑所得の取り扱いについてまとめます。
副業の概要と所得区分
副業とは、本業以外で収入を得る活動を指します。
これまで、厚生労働省の『モデル就業規則』には「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という記載があり、一般的に企業は副業を禁止する傾向にありました。
しかし2018年に厚生労働省がこの一文を削除し、副業・兼業についての規定を新設したことから、多くの企業が副業を解禁する動きを見せています。
副業を解禁した企業では、従業員がどのような活動を行っているかを事前に把握し、自社への影響を確認する必要があります。
また、従業員へ税務上の適切なアドバイスを行うことも重要となります。
副業の所得区分
所得税法上、副業から得られる所得は、主に給与所得、不動産所得、事業所得、雑所得のいずれかに分類されます。
給与所得
給与所得とは、企業との雇用関係を結んで得る所得のことです。
例えば、休日に他の会社でアルバイトやパートとして働いた場合はこれに該当します。
不動産所得
不動産所得とは、不動産収入で得た所得のことです。
例えば、自宅の一部を賃貸に出して得た収入などがこれに該当します。
事業所得
事業所得とは、個人事業主がその事業で得た所得のことです。
ただし、事業として認められるには、一定の規模で反復・継続して商売を行う必要があるので、副業の範囲内で事業所得が発生することは稀です。
雑所得
雑所得は、他の所得区分に分類されない所得と定義されており、多くの副業収入が分類されます。
例えば、ネットオークションやフリマアプリでの販売や、フリーランスとしての業務委託などで得た所得も雑所得に該当します。
所得区分は、確定申告の際、それぞれの区分で計算方法や控除額が異なります。
例えば、給与所得から必要経費は控除できませんが、雑所得からは必要経費を控除することができます。
企業には、副業の内容や規模によって適切な所得区分があることを従業員に伝えるとともに、従業員が適切に確定申告を行えるようサポートすることが求められます。
副業における雑所得の確定申告
副業から生じる所得として最もメジャーな雑所得に関する確定申告について確認していきます。
雑所得となる副業の例
まずは、雑所得となる副業を確認していきます。
代表的な例は以下の通りです。
原稿料、講演料、コンサルティング料
原稿を書く、講演を行う、コンサルティングをするなどの副業で得た収入や必要経費は雑所得となります。
なお、これらの所得については、支払いのタイミングで源泉徴収が行われます。
物販
ネットオークションやフリマアプリでの販売で得た収入や必要経費は雑所得に該当します。
アフィリエイト
動画配信やブログ、SNSなどを通じ特定の商品を紹介して報酬を得るアフィリエイトで得た収入や必要経費は、事業所得となる場合を除き、原則として雑所得として扱われます。
雑所得となる副業で確定申告が必要になる基準
副業から生じる所得は年末調整の範囲外となるため、一定の金額を超える場合には確定申告が必要になります。
雑所得となる副業の場合は、以下の基準を超えると確定申告が必要です。
本業が会社員(給与所得)の場合
給与所得がある会社員の場合、副業による所得の合計額が年間20万円を超えると確定申告が必要になります。
本業が個人事業主の場合
所得金額の合計が基礎控除額である48万円を超える場合に確定申告が必要になります。
確定申告は従業員本人が行う必要があるため、企業はこの基準を従業員が理解しているかどうかを確認することが重要です。
従業員が申告漏れを起こさないよう、積極的に情報提供を行うようにしましょう。
副業の所得がある場合に確定申告を行うメリット
給与所得について年末調整を行っている場合、副業をしていても、基準を満たしていない従業員については確定申告は不要です。
ただし、不要な場合でも所得控除や税額控除の適用で税負担を軽減できるケースがあります。
例えば以下の通りです。
所得控除
雑損控除、医療費控除、寄附金控除(ふるさと納税)などを行うことができます。
なお、ふるさと納税は、寄付先の自治体が年間5つ以内で、ワンストップ特例制度を適用している場合には確定申告は不要です。
税額控除
住宅ローンを組んでマイホームを購入した際に受けられる住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)については、初年度のみ確定申告を行う必要があります。
また、配当控除を行うこともできます。
ほかに、確定申告を行うことで源泉徴収されすぎていた税金の還付を受けることもできます。
こうした情報についても、企業側が積極的に従業員に情報開示することが重要です。
確定申告の概要
副業における雑所得を例に、確定申告の流れと計算方法を解説します。
確定申告の流れ
1. 必要書類を準備する
確定申告書、本人確認書類、所得証明書類、所得控除などに関する書類などを揃えます。
2. 年間の所得金額を計算する
副業について作成した帳簿の収入から、必要経費を差し引いて所得を計算します。
必要経費には、業務に関連するすべての支出が含まれます。
なお、入金時に源泉徴収されている場合は、その分支払う税金が少なくなりますので、忘れずに含めるようにしましょう。
また、給与所得や年末調整済の所得控除に関する情報は、源泉徴収票を確認します。
3. 確定申告書の作成と提出を行う
計算した所得をもとに申告書を作成し、税務署に提出します。
申告期間は通常、翌年の2月16日から3月15日までです。
申告後は税金を納付するか、還付を受け取ります。
これらの申告・納付手続きはe-Taxを利用することで素早く行うことができます。
金額の計算方法
雑所得の金額を計算する際は、以下の流れで収入から必要経費を差し引きます。
1. 副業の総収入の算出
副業から得た収入の合計を計算します。
2. 必要経費の計算
副業に伴い発生した必要経費を集計します。
経費と認められるものの例は以下の通りです。
- 備品
業務に使用するパソコン、タブレット、カメラ、文房具、印刷用紙などの消耗品の購入費用は、全額経費計上が可能です。
- 交通費
取材や打ち合わせなど、業務のための移動に関する交通費は全額を経費として計上できます。
- 固定資産の減価償却費
一定金額以上の固定資産を副業のために取得して使用している場合は、法定耐用年数に従って分割して経費計上する減価償却が認められます。
- 仕事部屋の家賃や光熱費、インターネット接続料などの一部
自宅の一部を事務所代わりに使用している場合、副業で使用する時間などに沿った一定の割合に応じて家賃や光熱費、インターネット接続料などを経費にできる場合があります。
計上した経費の内容を明確に説明できるよう、領収書などの証憑書類を適切に保管しておくことも重要です。
3. 雑所得の計算
1の副業収入から2の必要経費を差し引くことで、雑所得を計算できます。
雑所得 = 副業の総収入 ― 必要経費
算式の通り、収入に対応する経費を計上することで、課税所得を減らすことができます。
ただし、雑所得については所得がマイナスになったとしても、ほかの所得とマイナス分を相殺する損益通算を利用することはできません。
企業の経理担当者は従業員から質問を受けた際に対応できるよう、基本的な情報として上記の内容を押さえておきましょう。
さらに詳細な手続きの内容については、国税庁のホームページなどの最新の情報を参照するようにしてください。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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企業担当者は、副業を行う従業員に税金上のポイントを適切に伝え、確実に手続きが行われるようサポートすることが求められます。
既に副業を解禁している企業はもちろん、これから副業解禁を検討している企業も、しっかりと体制を作っていくことが重要です。