この記事のポイント
- 中小受託取引適正化法とは、2025年の下請法改正に伴い名称が変更され、2026年から施行されている法律であり、適用対象の拡大や規制内容の見直しを通じて企業間取引の適正化を図る制度である。
- 取適法では、支払期日は受領後60日以内とされ、振込手数料の控除は原則として減額に該当するため認められず、不当な価格決定や支払遅延などが規制されている。
- 経理実務では、支払フローの見直し(60日ルール対応)、手数料負担の整理、価格交渉記録の保存など、内部統制の整備が重要となる。
2026年、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」へと改正されました。
今回の改正は名称変更にとどまらず、適用対象の拡大や規制内容の見直しなど、実務への影響が大きい内容となっています。
特に経理部門では、支払条件や振込手数料の取り扱いなど、日常業務の見直しが求められます。
本記事では、取適法の基本から、経理実務における対応ポイントまでを整理して解説します。
中小受託取引適正化法とは
中小受託取引適正化法とは、下請法の改正に伴い名称が変更されたもので、2026年から施行されています。
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」であり、略称として「中小受託取引適正化法」または「取適法(とりてきほう)」と呼ばれます。
今回の改正は単なる名称変更にとどまらず、適用対象の拡大や禁止行為の追加などを含む制度見直しが行われており、実務への影響は広範囲に及びます。
※参考資料:公正取引委員会「取適法・振興法」
従来の下請法から変わった4つのポイント
改正の中でも重要な変更点は、以下の4つに整理できます。
| 改正のポイント |
変更内容 |
| 用語・名称の見直し |
以下を変更。
- 「親事業者」→「委託事業者」
- 「下請事業者」→「中小受託事業者」
|
| 適用対象の拡大 |
従来の資本金基準に加え、従業員基準を導入し、特定運送委託を対象に追加。 |
| 禁止行為の追加 |
不当な代金決定(買いたたき)の規制強化や、手形払いに関する規制の強化を規定。 |
| 執行体制の強化 |
所管省庁の関与を拡大し、指導・助言機能を強化。 |
特に「適用対象の拡大」と「禁止行為の追加」は、経理実務に直結する重要な変更点です。
従業員基準の追加は、資本金の調整による法適用回避への対策として設けられたものであり、手形払いに関する規制強化は、従来の商慣行の見直しを促す改正といえます。
取適法とフリーランス法の違い
フリーランス法とは、個人で業務を受託するフリーランスの取引環境の適正化や就業環境の整備を目的とした法律です。
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」であり、「フリーランス・事業者間取引適正化等法」や「フリーランス法」と呼ばれています。
受注者側の保護という点で取適法と共通しているため、両者は混同されやすい傾向がありますが、適用対象や規制内容は異なります。
| 項目 |
取適法 |
フリーランス法 |
| 施行時期 |
2026年1月1日 |
2024年11月1日 |
| 主な対象 |
資本金・従業員数の基準を満たす企業間取引 |
従業員を雇用していない個人事業主との取引 |
| 所管 |
公正取引委員会・中小企業庁 |
公正取引委員会・厚生労働省 |
※施行時期は制度により段階的に適用される場合があります。
最大の違いは適用対象であり、取適法は企業間取引を対象とするのに対し、フリーランス法は個人事業主との取引を対象としています。
なお、いずれの法律にも違反する行為については、取引内容に応じて適用関係を整理する必要があります。
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自社は対象?委託事業者が守るべき義務と禁止行為
ここでは、適用対象の確認方法と、委託事業者に課される義務・禁止行為について解説します。
自社の適用対象を資本金と従業員数で確認する方法
取適法の適用対象かどうかは、取引の内容に加え、資本金および従業員数の基準によって判定されます。
一般的には、まず資本金基準で確認し、該当しない場合に従業員基準で判定します。
資本金基準
| 取引の種類 |
委託事業者(発注側) |
受託事業者(受注側) |
| 製造委託・修理委託・特定運送委託・プログラム作成など |
資本金3億円超 |
資本金3億円以下 |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 |
資本金5千万円超 |
資本金5千万円以下 |
※資本金1千万円超の区分など、詳細な基準も存在します。詳細は公正取引委員会の資料をご参照ください。
従業員基準(資本金基準に該当しない場合のみ)
| 取引の種類 |
委託事業者(発注側) |
受託事業者(受注側) |
| 製造委託・修理委託・特定運送委託・プログラム作成など |
従業員300人超 |
従業員300人以下 |
| 上記以外の情報成果物作成委託・役務提供委託 |
従業員100人超 |
従業員100人以下 |
※委託をした時点の従業員数で判断します。
従業員基準は、資本金の調整によって法適用を回避するケースへの対応として、今回の改正で新たに導入された基準です。
なお、「常時使用する従業員」には、正社員・契約社員・パートタイマー・アルバイトのほか、1カ月を超えて継続して使用される日雇い労働者も含まれます。
委託事業者が守るべき4つの義務
適用対象に該当する委託事業者には、次の4つの義務が課されます。
| 義務 |
内容 |
| 1.発注内容等の明示 |
給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法を書面または電子メールなどの電磁的方法で明示する
※電磁的方法の場合は法令上の要件を満たす必要があります。受託事業者から書面交付を求められた場合は書面での交付が必要です。
|
| 2.書類等の作成・保存 |
取引完了後、給付内容・代金の額など取引に関する記録を作成し、書類または電磁的記録として2年間保存する |
| 3.支払期日の設定 |
物品等を受領した日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める |
| 4.遅延利息の支払い |
支払遅延・不当な減額などが行われた場合、遅延日数や不足額に応じて年率14.6%の遅延利息を支払う |
従来、遅延利息の対象は主に支払遅延でしたが、今回の改正では、不当な減額により本来支払われるべき代金が不足した場合の取り扱いについても整理・明確化されています。
これにより、発注後の一方的な減額によって受託事業者への支払いが不足した場合には、その不足分について年率14.6%の遅延利息の支払い対象となる可能性があります。
経理実務に直結する禁止行為5選
上記の義務に加え、委託事業者には11の禁止行為が定められています。
ここでは、経理担当者が特に押さえておくべきものを5つに絞って解説します。
※残りの禁止行為については、公正取引委員会が公表しているガイドブックをご確認ください。
※参考資料:公正取引委員会「中小受託取引適正化法ガイドブック」
1. 代金の支払遅延の禁止
支払期日までに代金を支払わないことは禁止されています。
検収に時間がかかる場合でも、受領後60日以内に支払期日が来るよう設定する必要があります。
また、今回の改正では、手形払いに関する規制が強化され、条件によっては長期の手形による支払いなどが支払遅延に該当する可能性があることが明確化されています。
電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金相当額の満額を確保できない条件の場合には問題となる可能性があります。
2. 代金の不当な減額の禁止
受託事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に決定した代金を発注後に減額することは禁止されています。
協賛金の徴収や原材料価格の下落など、名目や方法を問わずあらゆる減額行為が対象となります。
振込手数料を代金から差し引くことも、減額に該当します。
3. 不当な低価格設定である買いたたきの禁止
発注する物品や役務について、通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定めることは禁止されています。
代金は受託事業者と事前に協議したうえで決定する必要があります。
4. 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
委託事業者が自己のために、受託事業者に金銭や役務などを不当に提供させることは禁止されています。
代金の支払いとは別に行われる協賛金の要求や従業員の派遣などが該当します。
5. 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして一方的に代金を決定することは禁止されています。
今回の改正で新設された規定です。
明示的に協議を拒否する場合だけでなく、協議の実施を繰り返し先延ばしにする場合も該当します。
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取適法で経理担当者が押さえておくべき実務の注意点
経理担当者は、取適法の施行に伴い、支払フローの見直し・振込手数料の負担ルールの変更・価格交渉の記録管理の3つに特に注意を払う必要があります。
ここでは、それぞれ具体的に何をどう変えるべきかを確認します。
1.買掛金の支払フローを60日ルールに合わせて見直す
| 支払い手段 |
取適法施行後の扱い |
| 銀行振込(60日以内) |
問題なし |
| 手形払い |
規制強化(長期手形などは支払遅延に該当する可能性あり) |
| 電子記録債権(満額受取可能) |
問題なし |
| 電子記録債権(実質的に満額受領できない条件) |
問題となる可能性あり |
| ファクタリング(満額受取困難な条件) |
問題となる可能性あり |
月末締め翌々月払いなど、受領から支払いまでが60日を超える取引先がないかを確認します。
手形払いについては規制が強化されているため、長期手形など不適切と評価される条件については見直しが必要です。
現在も手形を利用している場合は、銀行振込などへの切り替えを検討する必要があります。
また、電子記録債権の割引手数料を受託事業者が負担している場合には、その条件が不利益と評価される可能性があるため、必要に応じて見直しや補填の検討が求められます。
2.振込手数料は原則として委託事業者が負担する
振込手数料を代金から差し引く慣行は、取適法上の「減額」に該当する可能性があり、原則として認められません。
実務上の対応は2通りあります。
- 委託事業者が振込手数料を全額負担する方法
支払金額をそのままにして、手数料は別途委託事業者が負担します。
- 発注時に振込手数料の負担について明示的に合意し、その金額をあらかじめ代金に反映させる方法
ただし、この場合でも代金決定後に一方的に差し引くことは減額に該当するため注意が必要です。
経理システムで振込手数料を自動控除している場合は、設定の見直しを進めてください。
3.価格交渉の経緯は書面やデータで記録を残す
取適法では、「協議に応じない一方的な代金決定」が禁止されています。
受託事業者から価格協議の求めがあった場合には、協議に応じ、適切な説明を行うことが求められます。
経理担当者が実務で押さえるべきポイントは、価格交渉の経緯を記録として残すことです。
口頭でのやりとりは記録に残らないため、メール・チャット・議事録などを活用し、協議の日時・内容・結論が確認できる形で保存しておきます。
また、発注内容などの明示義務として、代金の額・支払期日・支払方法を書面または電磁的方法で明示する必要があります。
口頭で発注した後に書面を交付していないケースがある場合は、発注フローの見直しが必要です。
取適法施行後の経理部門が優先して整備すべき3つの対応策
取適法の施行に伴い、経理部門が優先して着手すべき対応を、支払条件・契約書の見直し、システム改修、証跡管理の3つに分けて整理します。
支払条件・契約書の見直しチェックリスト
まず取引先ごとの支払条件を洗い出します。
確認すべき項目は次の通りです。
- 受領から支払期日までが60日を超えていないか
- 手形払いや割引手数料が受託事業者負担となる電子記録債権を使用していないか
- 振込手数料を代金から差し引く設定になっていないか
- 発注書に代金の額・支払期日・支払方法が明示されているか
基本取引契約書に手形払いを認める条項や、振込手数料を受託事業者負担とする条項が残っている場合は、見直しを検討する必要があります。
契約書の改定が完了するまでの間は、個別の発注書や覚書で取引条件を明示する対応が現実的です。
社内システム・経理ソフトの改修ポイント
支払処理フローで手形払いや振込手数料の自動控除を用いている場合は、取適法の対象取引について運用の見直しを検討します。
手形払いについて
手形払いについては規制が強化されているため、長期手形など不適切と評価される条件がないかを確認し、必要に応じて銀行振込や電子記録債権(でんさい)などへの切り替えを検討します。
でんさいを利用する場合は、支払期日までに代金相当額の満額を受け取れる設計かを確認しましょう。
振込手数料の自動控除について
振込手数料の自動控除についても、対象取引かどうか、発注時の合意の有無を取引先ごとに整理したうえで、必要な範囲で見直すとよいでしょう。
受領日からの経過日数を自動計算・管理できる仕組みを整備できると、60日ルールの管理が運用しやすくなります。
取引書類について
取引書類については、取引完了後2年間の保存が必要とされているため、発注書・納品書・検収書・支払明細を一元管理できる体制を整えることが重要です。
保存方法としては電磁的記録での保存も認められているため、紙書類のスキャン管理でも対応できます。
監査・調査に備えた証跡管理の準備
公正取引委員会等は、委託事業者に対して定期的に調査・立入検査を実施しています。
調査で提示を求められる可能性がある書類は、あらかじめ取引先ごとに整理しておきます。
特に価格交渉の記録は、協議に応じない一方的な代金決定の禁止に関する調査で確認される可能性があります。
交渉の日時・参加者・協議内容・結論を記録したファイルを取引先単位で保存しておくことが重要です。
取適法に違反した場合、委託事業者である法人と違反行為をした個人の両方に罰金が科せられる可能性があります。
意図しない場合であっても問題となることがあるため、担当者レベルでの理解が不可欠です。
経理部門内で取適法の内容を共有し、日常業務のどの場面でリスクが生じるかを確認しておきましょう。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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取適法の施行により、経理部門が対応すべき変更点は、支払条件の見直しや振込手数料の取り扱い、価格協議の記録管理など多岐にわたります。
まずは自社の支払条件や契約書の内容を確認し、影響の大きい箇所から順に見直しを進めていきましょう。