2021年から適用された「収益認識に関する会計基準(新収益認識基準)」の導入により、企業は「売上をいつ・いくら計上するのか」を、顧客との契約に基づいて判断することが求められるようになりました。
従来の実務から大きく見直された点も多く、5ステップモデルや本人・代理人の判定、契約資産・契約負債への対応など、経理担当者が押さえるべき論点は少なくありません。本記事では、新収益認識基準の概要から実務対応までを、事例を交えながらわかりやすく解説します。
新収益認識基準とは?導入の背景と適用対象
新収益認識基準とは、企業が商品やサービスを顧客に提供した実態に基づき、収益を計上するタイミングと金額を統一的に定めた会計ルールです。
なぜ新しい会計基準が必要になったのか
従来基準の課題と比較可能性の問題
新収益認識基準が導入された大きな理由は、従来の日本基準には「売上をいつ・いくら計上するか」を体系的に定めた包括的なルールが存在しなかったことにあります。
従来は企業会計原則に基づく実現主義の考え方により、商品の引渡しやサービス提供が行われた時点で収益を認識することが原則とされていました。
しかし、実現主義はあくまで基本原則であり、具体的な判断基準は必ずしも明確ではありませんでした。
その結果、業種や企業ごとに収益計上のタイミングや方法が異なるケースが見られ、企業間で財務諸表を比較しにくいという課題がありました。
国際基準との整合性確保
もう一つの背景は、国際会計基準(IFRS)との整合性です。
2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。
これを受け、日本の企業会計基準委員会(ASBJ)はIFRS第15号の基本原則を取り入れた「収益認識に関する会計基準」を2018年3月30日に公表し、2021年4月1日以後に開始する事業年度から原則として強制適用しています。
もっとも、日本基準には実務負担に配慮した代替的な取り扱いも設けられており、IFRSと完全に同一の内容ではありません。
新収益認識基準が適用される企業
新収益認識基準が強制適用される主な企業は以下の通りです。
- 大会社:
会社法第2条第6号に定める大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)で、会計監査人設置会社
- 上場会社及び上場準備会社:
金融商品取引法に基づき財務諸表を作成・開示する会社
この基準は、上場企業が金融商品取引法に基づいて作成する連結・個別財務諸表のほか、会計監査人を設置する大会社の財務諸表に適用されます。
中小企業の場合
中小企業については直ちに強制適用されるものではなく、従来の会計処理が認められています。
ただし、上場企業の子会社は、親会社の連結決算対応のため、実務上は新基準に基づく処理が求められるケースが一般的です。
また、強制適用の対象外であっても、取引先が上場企業である場合には、売上計上時期や契約条件の見直しを求められることがあります。
そのため、中小企業の経理担当者であっても、本基準の基本的な考え方を理解しておく必要性は高いといえます。
※参考資料:企業会計基準委員会「企業会計基準適⽤指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針」
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新収益認識基準の5ステップ
新収益認識基準では、収益を認識する際に次の5つのステップを順に検討します。
| ステップ |
内容 |
役割 |
| ステップ1 |
顧客との契約を識別する |
単位 |
| ステップ2 |
契約における履行義務を識別する |
| ステップ3 |
取引価格を算定する |
金額 |
| ステップ4 |
契約における履行義務に取引価格を配分する |
| ステップ5 |
履行義務を充足した時点、または充足するにつれて収益を認識する |
タイミング |
※参考資料:企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準」
この5つのステップは、収益を認識する「単位(何の約束か)」、「金額(いくらか)」、「タイミング(いつか)」を順に決定する手続きと整理できます。
中心となる考え方は、「顧客との約束(履行義務)を充足した時点で収益を認識する」という点にあります。
従来のように出荷日や検収日といった形式的な基準だけで判断するのではなく、契約上の義務が実質的に履行されたかどうかを基準とする点が、新収益認識基準の重要な特徴です。
【例】新収益認識基準を事例で確認
ここからは、例をもとにステップを解説していきます。
契約内容:
製造業A社が、顧客に対して「製品(単独販売価格1,000万円)と2年間の保守サービス(年間200万円)」をセット価格1,120万円(税抜)で販売する契約を締結したケース
価格設定:
- 通常価格の合計:1,400万円(製品1,000万円+2年間の保守サービス400万円)
- セット割引:通常価格より280万円値引
ステップ1:契約の識別
まず、この取引が本基準の適用対象となる「顧客との契約」に該当するかを確認します。
契約は書面に限られず、口頭合意や取引慣行に基づく場合でも、一定の要件を満たせば契約として識別されます。
本例では、契約要件を満たすものと仮定します。
ステップ2:履行義務の識別
次に、契約に含まれる「顧客への約束」を識別します。
本契約には、
- 製品を引き渡す義務
- 2年間の保守サービスを提供する義務
の2つが含まれています。
これらは、それぞれ単独でも顧客にとって価値を持ち、個別に提供され得る内容であるため、別の履行義務として識別します。
契約を履行義務ごとに分解して判断する点は、従来の実務と比べた重要な変更点の一つです。
ステップ3:取引価格の算定
続いて、企業が権利を得ると見込む対価の額を算定します。
消費税は第三者のために回収する額であるため取引価格には含めません。
本例では、税抜の1,120万円が取引価格となります。
ステップ4:取引価格の配分
1,120万円を、それぞれの履行義務に配分します。
配分は、製品1,000万円、保守400万円という独立販売価格の比率(1,000:400)に基づいて行います。
製品の配分額
1,120 × 1,000 ÷ 1,400 = 800万円
保守サービスの配分額
1,120 × 400 ÷ 1,400 = 320万円
したがって、製品に800万円、保守サービスに320万円を配分します。
ステップ5:収益の認識
最後に、各履行義務の充足時期に応じて収益を認識します。
こでいう履行義務の充足とは、顧客に対して約束した財やサービスの支配を移転した状態を指します。
製品は、引渡し時に顧客が支配を獲得すると考えられるため、その時点で800万円を一括計上します。
保守サービスは、契約期間にわたり継続的に提供されるため、320万円を期間の経過に応じて按分して認識します(通常は定額で期間配分)。
新収益認識基準が売上に与える影響
新収益認識基準の導入により、売上は計上時期だけでなく表示額も変わる可能性があります。
収益認識のタイミングの違い
ステップ5では、収益を「一時点」で認識するか、「一定期間にわたって」認識するかを判断します。
これは新収益認識基準の中でも特に重要なポイントの一つです。
一時点で認識する場合
新収益認識基準では、顧客に資産の支配が移転した時点で収益を認識します。
ここでいう「支配」とは、資産を使用し、その資産から生じる経済的利益を得ることができる状態を指します。
多くの商品販売は、この「一時点での認識」に該当します。
支配の移転を判断する際には、契約書などを基準とした法的所有権の移転、実質的な所有者変更である物理的占有の移転などを指標とします。
一定期間にわたって認識する場合
収益を一定期間にわたって認識するのは、保守サービスや建設工事など、期間の経過や工事の進捗に応じて履行義務を充足していく取引です。このような場合には、進捗度などに基づいて収益を計上します。
この考え方は、従来の工事進行基準と近いものです。顧客が企業の履行に応じて継続的に支配を獲得していく点に着目し、サービス提供や工事の進み具合に応じて収益を認識していきます。
※関連記事:工事進行基準で損益の見え方はどう変わる?工事完成基準との違いと新収益認識基準への対応【仕訳例あり】
本人・代理人の判定
これまで解説してきた収益認識のタイミングの変更は、収益を計上する事業年度が前後する可能性はあるものの、契約全体で見た対価の総額そのものを変えるものではありません。
一方で、新基準の適用により売上高の表示額自体が増減する可能性がある論点があります。
その代表例が「本人・代理人の判定」です。
新収益認識基準では、顧客に商品またはサービスを移転する前に、企業がその商品またはサービスを支配しているかどうかによって、本人か代理人かを判断します。
| サービスを支配しているのが企業本人と判定 |
顧客から受け取る対価の総額を売上として計上 |
| サービスを支配しているのが代理人と判定 |
仲介手数料などの純額のみを売上として計上 |
例えば、商社や仲介業者が在庫リスクを負わず、仕入先から顧客へ商品を直送する取引では、企業は「商品を支配していない」と判断される場合があります。
その場合、従来は商品代金の総額を売上計上していたとしても、新基準の適用により手数料相当額のみを売上として計上することになります。
このようなケースでは、利益額自体は基本的に変わらないものの、売上高は大きく減少する可能性があります。
そのため、売上規模を指標としている金融機関や取引先に対しては、会計基準変更による影響であることを適切に説明する必要があります。
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新収益認識基準の導入時に経理担当者に求められる実務対応
新収益認識基準の導入にあたっては、会計処理の理解だけでなく、契約内容の整理や社内体制の見直しなど、実務面での対応が不可欠です。
ここからは、経理担当者に求められる主な実務対応を整理します。
契約の洗い出し・業務整理
既存契約の洗い出し
まず取り組むべきは、既存契約の洗い出しです。製品とサービスのセット販売、長期保守契約、サブスクリプション型サービスなどを含め、自社が締結している契約を整理し、1つの契約に複数の履行義務が含まれていないかを確認します。
この棚卸し作業は、後続の会計処理に影響するため、慎重に行う必要があります。
業務フローと社内体制の整備
次に、業務フローと社内体制の整備です。
新収益認識基準では、契約条件に基づいて会計処理を判断するため、経理部門だけでなく、営業部門や法務部門との連携が不可欠です。
契約書の条項や取引条件がどのように定められているかを正確に把握する体制を整えることが重要です。
また、覚書の締結や口頭合意による条件変更であっても、実質的に契約内容が変更されていれば会計処理に影響します。
契約変更が生じた際に、迅速に情報が入るように連絡経路を整理しておきましょう。
契約資産や契約負債などの新たな会計科目への対応
新収益認識基準の導入により、貸借対照表の表示科目が変わる場合があります。
特に「契約資産」と「契約負債」は、従来の実務には明確に存在しなかった概念です。
契約資産
契約資産は、履行義務は既に充足しているものの、対価を受け取る権利が無条件になっていない場合に計上する科目です。
例えば複合契約において、製品を引き渡して収益を認識しているものの、契約条件上、保守サービスの提供完了まで請求できない場合には、製品引渡し時点では「売掛金」ではなく「契約資産」として計上します。
ここで重要なのは、請求書を発行したかどうかではなく、対価を無条件に請求できる状態にあるかどうかで判断する点です。
無条件の請求権が生じた時点で、契約資産は売掛金へ振り替えられます。
この考え方は、従来の「未収収益」と近い側面がありますが、契約に基づく権利関係に着目して整理されている点が特徴です。
契約負債
契約負債は、顧客から対価を受け取っているものの、まだ製品やサービスを提供しておらず、履行義務を充足していない場合に計上する科目です。
従来「前受金」として処理していたものの多くが、これに該当します。
これらの科目の区分は、貸借対照表の表示や注記情報にも影響します。
そのため、自社の会計システムが契約資産・契約負債に対応しているか、既存の科目体系や処理フローで適切に管理できるかを事前に検証しておくことが重要です。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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新収益認識基準の導入により、収益認識のタイミングや売上の表示方法、使用する会計科目は大きく見直されました。
5ステップモデルに基づく判断や本人・代理人の判定、契約資産・契約負債への対応など、実務への影響は少なくありません。
適用にあたっては、自社の契約内容を整理し、基準の考え方を踏まえたうえで会計処理への影響を事前に確認しておくことが重要です。