建設業の経理を担当する中で、「工事進行基準とは何か」「工事完成基準とどう違うのか」と疑問を感じる方は多いでしょう。
工事進行基準は建設業特有の会計処理方法であり、一般的な売上計上とは考え方が異なるため、初めて触れると難しく感じやすいのが特徴です。
現在、工事進行基準は新収益認識基準の適用により、進捗度に応じて収益を認識する考え方として引き継がれています。
本記事では、工事進行基準と工事完成基準の違いを整理したうえで、新収益認識基準との関係、計算方法や仕訳例までをわかりやすく解説します。
工事進行基準とは?工事進行基準の会計処理
工事進行基準とは、工事の進捗度に応じて、売上(収益)と費用を段階的に計上していく会計処理方法です。
完成までに長期間を要する土木・建築・建設業や、ソフトウェアの受注制作などのプロジェクト型ビジネスで用いられます。
例えば、工期が3年の建設工事において、初年度の進捗度が30%であれば、請負金額の30%を当期の売上として認識します。
工事完了時まで売上を計上しないのではなく、進捗に応じて収益を認識するため、期間ごとの業績や財務状況を実態に即して把握できる点が特徴です。
日本では、2009年4月1日以後に開始する事業年度から「工事契約に関する会計基準」が適用され、原則として工事進行基準による会計処理が行われてきました。
ただし、すべての工事に無条件で適用されるわけではありません。
同基準では、工事原価総額、収益総額、進捗度などについて信頼性をもって見積もることができるかどうかが、適用判断の重要なポイントとされています。
これらの見積もりが合理的に算定できる場合には、工事進行基準を適用します。
一方、原価や進捗の見積もりに不確実性が高く、信頼性をもって算定できない工事については、「工事完成基準」を採用することになります。
工事進行基準の適用要件
工事進行基準の適用には、会計上のルールと税務上のルールがあり、それぞれ考え方や適用要件が異なります。
会計上の適用要件
会計基準では、工事の進捗状況を財務諸表に適切に反映させる観点から、見積もりの信頼性が重視されます。
以下の3項目について合理的な見積もりが可能である場合、原則として工事進行基準を適用します。
- 工事収益総額:請負金額が確定している、または合理的に見積もれること
- 工事原価総額:完成までに必要な原価の総額を見積もれること
- 決算日における工事進捗度:現時点での進捗度を客観的に測定できること
これらの見積もりについて信頼性が確保できない場合には、工事完成基準を適用します。
税務上の適用要件
法人税法では、課税の公平性を確保する観点から、一定規模以上の工事を「長期大規模工事」として定義しています。
長期大規模工事に該当する場合、企業の選択にかかわらず、工事進行基準の適用が義務付けられます。
具体的には、法人税法施行令第129条に基づき、次の3要件をすべて満たす工事が対象となります。
- 工事の着手日から引渡し日までの期間が1年以上であること
- 請負金額が10億円以上であること
- 請負金額の2分の1以上が、引渡しから1年以上経過した後に支払われる契約であること
※参考資料:e-Gov法令検索「法人税法施行令 第百二十九条」
工事進行基準と工事完成基準の違い
工事完成基準とは、工事が完成して引渡しを行った時点で売上(収益)と費用を一括計上する会計処理方法です。
工事進行基準との違いは、収益を認識するタイミングにあります。
例えば、工期3年・請負金額15億円の工事を受注した場合、それぞれの基準で以下のように収益計上のタイミングが異なります。
|
工事進行基準 |
工事完成基準 |
| 収益計上タイミング |
進捗度に応じて毎期計上 |
完成・引渡時に一括計上 |
| 1年目(進捗30%) |
4.5億円を売上計上 |
売上計上なし |
| 2年目(進捗70%) |
6億円を売上計上 |
売上計上なし |
| 3年目(完成) |
4.5億円を売上計上 |
15億円を売上計上 |
工事完成基準のメリットは、完成・引渡時点で収益と費用が確定するため、会計処理がシンプルで確実性が高い点にあります。
一方でデメリットとして、工事期間中の収支状況が見えにくい点が挙げられます。
仕様変更や追加工事が発生してもその影響額を正確に把握しにくく、赤字が判明するのは完成時になるため、受注側の負担が膨らみやすい側面があるのです。
なお、これらの基準は、工事の内容や契約条件に応じて判断されます。
ただし、税務上は一度採用した処理について継続適用が求められるため、恣意的に案件ごとに変更することは認められません。
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工事進行基準と新収益認識基準との関係
2021年4月1日以後に開始する会計年度から、上場企業などを対象に「収益認識に関する会計基準(新収益認識基準)」が強制適用されました。
これに伴い、従来の「工事進行基準」及び「工事完成基準」という名称は、会計基準上は廃止されています。
ただし、工事進行基準の考え方自体が否定されたわけではありません。
実務上は、説明の便宜や理解のしやすさから、現在も「工事進行基準」という呼称が広く用いられています。
新収益認識基準では、契約に基づく履行義務が「一定の期間にわたり充足されるのか」、「一時点で充足されるのか」によって、収益認識のタイミングを判断します。
建設工事の多くは前者の「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当するため、進捗度に応じて収益を認識する処理となります。
この場合、会計処理の実態は、従来の工事進行基準と同様の考え方が引き継がれているといえます。
新収益認識基準が強制適用されるのは、次の企業です。
- 大会社:
会社法第2条に定める、資本金5億円以上または負債200億円以上の会社
- 上場会社及び上場準備会社:
それぞれの子会社・関連会社を含む
一方、非上場かつ大会社に該当しない中小企業については、新収益認識基準の適用は任意とされています。
そのため、引き続き工事進行基準または、工事完成基準に基づく会計処理を継続することが可能です。
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工事進行基準における進捗度の計算方法と仕訳例
ここからは、工事進行基準の具体的な仕訳例を解説します。
工事進捗度の計算方法
工事進行基準を適用する際、収益と費用を計上するためには工事進捗度を算出する必要があります。
工事進捗度の計算方法には主に「原価比例法(インプット法)」と「出来高比例法(アウトプット法)」の2種類がありますが、建設業では原価比例法が広く採用されています。
原価比例法を使用した計算式
工事進捗度 = 決算日までの発生原価累計額 ÷ 工事原価総額(見積もり)
進捗度を用いた収益認識の計算式
当期売上高 = 請負金額 × 工事進捗度
例えば、工事原価総額の見積もりが1億円で、決算日までに4,000万円の原価が発生していれば、工事進捗度は40%となります。
このとき、請負金額が1億5,000万円であれば、1億5,000万円 × 40% = 6,000万円を当期の売上として計上します。
工事進行基準の仕訳例
原価比例法を適用した場合の仕訳例を、以下の条件で初年度から3年目まで解説します。
| 工事収益総額 |
1億円 |
| 工事原価総額 |
8,000万円 |
| 工事期間 |
3年 |
1年目(発生原価:2,000万円)
発生した原価2,000万円を売上原価として計上します。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 売上原価 |
20,000,000 |
普通預金 |
20,000,000 |
次に、当期の売上を計上します。
売上の計上には「工事未収入金」という勘定科目を使用するのが一般的です。
建設業版の売掛金と考えればわかりやすく、売上を計上しているものの、代金は未回収という状態を表します。
工事進捗度 = 2,000万円 ÷ 8,000万円 = 25%
当期の売上計上額 = 1億円 × 25% - 0円 = 2,500万円
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 工事未収入金 |
25,000,000 |
売上高 |
25,000,000 |
2年目(発生原価:4,000万円)
発生した原価4,000万円を売上原価として計上します。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 売上原価 |
40,000,000 |
普通預金 |
40,000,000 |
次に、売上を計上します。
進捗度は累計の発生原価を基に算出します。
工事進捗度 =(2,000万円 + 4,000万円)÷ 8,000万円 = 75%
当期の売上計上額 = 1億円 × 75% - 2,500万円 = 5,000万円
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 工事未収入金 |
50,000,000 |
売上高 |
50,000,000 |
3年目(発生原価:2,000万円/工事完成)
発生した原価2,000万円を売上原価として計上します。
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 売上原価 |
20,000,000 |
普通預金 |
20,000,000 |
最終年度の売上は、工事収益総額から過去2年間の売上計上額を差し引いて算出します。
当期の売上計上額 = 1億円 -(2,500万円 + 5,000万円)= 2,500万円
| 借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
| 工事未収入金 |
25,000,000 |
売上高 |
25,000,000 |
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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工事進行基準と工事完成基準のどちらを採用するかによって、各期の損益や税負担のタイミングが大きく変わります。
また、工事進行基準を適用する場合は進捗度を正確に把握する仕組みづくりも欠かせません。
まずは自社が手がける工事が強制適用の対象かどうかを確認したうえで、経営状況や管理体制に適した会計処理を選択しましょう。