「お金の動き」を示すキャッシュフローは、企業の財務を語るうえで欠かせないものです。
たとえ利益が出ていても、手元の現金が不足すれば経営は立ち行きません。
こうしたリスクに備え、企業の真の資金力を見極めるカギとなるのが、ネットキャッシュフロー(NCF)です。
今回の記事では、キャッシュフロー分析の基礎となるネットキャッシュフローについて、その意味や仕組み、活用方法を解説します。
ネットキャッシュフロー(NCF)の基礎知識
キャッシュフローとは、企業におけるお金の流れ、つまり「お金が入ってくる動き」と「出ていく動き」を指します。
このキャッシュフローの全体的な増減を表すのがネットキャッシュフローです。
ここでは、ネットキャッシュフローがどのようなものなのか、その基本的な意味と仕組みを確認していきます。
ネットキャッシュフロー(NCF)とは
ネットキャッシュフロー(Net Cash Flow=NCF)とは、簡単にいえば「入ってくるお金から出ていくお金を差し引いたもの」であり、一定期間(通常は1年間)における企業全体の現金(および現金同等物)の増減を示す指標です。
ネットキャッシュフローがプラスであれば手元の現金が増加したことを、マイナスであれば減少したことを意味します。
単純な例でいえば、期首の現金が1,000万円、期末の現金が1,200万円であれば、ネットキャッシュフローは+200万円となります。
一般的に、ネットキャッシュフローが大きいほど、企業が自ら資金を生み出す力が強く、財務の健全性が高いと評価されます。
一方で、ネットキャッシュフローがマイナスの場合は、資金繰りの悪化などに注意が必要です。
ネットキャッシュフローを把握することで、企業が本業でしっかり現金を生み出しているか、投資や資金調達のバランスが適切かなど、企業の実質的な資金力や経営の安定性をより正確に判断することができます。
※関連記事:フリーキャッシュフローとは?キャッシュフロー計算書(CS)の基礎を理解して経営計画への活用法をつかむ
ネットキャッシュフローを構成する3つの要素
ネットキャッシュフローは、企業のキャッシュフロー計算書の中で、「営業活動」、「投資活動」、「財務活動」の3つの活動から構成されています。
この3つのキャッシュフローを合計したものが、企業全体のネットキャッシュフロー(当期の現金増減額)です。
| 区分 |
内容 |
代表的な項目 |
意味するもの |
営業活動によるキャッシュフロー (営業CF) |
本業による現金の収支 |
売上による入金、仕入れ・人件費などの支出など |
企業の「稼ぐ力」を示す。 プラスなら本業でキャッシュを生み出している。 |
投資活動によるキャッシュフロー (投資CF) |
設備投資や資産売買などによる現金の収支 |
固定資産・有価証券の取得や売却など |
将来の成長に向けた投資活動。 成長投資を行う企業では、投資CFはマイナスになるのが一般的。 |
財務活動によるキャッシュフロー (財務CF) |
資金調達や返済に関する現金の収支 |
借入金・社債の発行や返済、配当金の支払いなど |
出資者や金融機関とのやり取りを示す。 資金繰りや配当方針の反映。 |
「黒字倒産」を防ぐにはキャッシュフローの把握が不可欠
損益計算書上で利益(黒字)が出ていても、手元の現金が不足すれば企業は倒産(黒字倒産)する可能性があります。
そのため、利益だけでなく現金の動きを示すキャッシュフロー、特にネットキャッシュフローの動きを正確に把握することが重要です。
売上が発生しても、代金が回収されるまで(売掛金)は現金が入ってきません。
一方で、仕入れや経費の支払いは発生するため、利益と現金の動きにはタイムラグが生じます。
例えば、1,000万円の商品を掛けで販売した場合、損益計算書上は1,000万円の売上が計上されますが、入金が2カ月後であれば、その間は手元の現金は増えません。
この間に多額の支払いが重なると、資金がショート(資金不足)を起こすリスクがあります。
したがって、企業経営では利益の大小だけでなく、現金の流れ=キャッシュフローの管理が欠かせません。
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ネットキャッシュフローと営業キャッシュフローの計算方法
ネットキャッシュフローの中でも営業キャッシュフロー(営業CF)は、企業の「稼ぐ力」を示す指標であり、企業が本業でどれだけ現金を生み出しているかを反映します。
そのため、企業の健全な成長を判断するうえで重要な手がかりとなります。
そこで今回は、ネットキャッシュフローと営業キャッシュフローに焦点を当て、具体例を交えながらその計算方法を解説します。
ネットキャッシュフローの計算方法
ネットキャッシュフローは、「営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)」、「投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)」、「財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)」の3つを合計することで算出できます。
ネットキャッシュフロー(当期)= 営業CF + 投資CF + 財務CF
例は以下の通りです。
- 営業CF:+500万円
- 投資CF:−300万円
- 財務CF:+100万円
この場合
NCF = 500 − 300 + 100 = +300万円
となります。
営業キャッシュフロー(営業CF)の計算方法(直接法・間接法)
営業キャッシュフローの算出には、以下の 2つの方法があります。
| 方法 |
概要 |
特徴 |
| 直接法 |
実際の現金の出入りをすべて集計して計算する方法 |
現金の流れが明確にわかる |
| 間接法 |
当期純利益からスタートし、現金の増減に影響しない項目を調整して計算する方法 |
多くの企業が採用 |
1.直接法
直接法での営業キャッシュフローは、以下の式で求められます。
営業CF = 現金収入(売上入金など)− 現金支出(仕入れ・人件費・経費など)
具体例で見てみましょう。
- 売上の現金入金:1,000万円
- 仕入れの支出:600万円
- 人件費・経費などの支出:200万円
この場合
営業CF = 1,000 − 600−200 = +200万円
つまり、本業の活動によって200万円の現金を生み出したことを意味します。
2.間接法
間接法での営業キャッシュフローは、以下の式で求められます。
営業CF = 当期純利益+非現金費用(減価償却費など)± 運転資本の増減(売掛金・在庫・買掛金など)
「非現金費用」とは、現金の支出を伴わない費用のことです。
代表例は減価償却費で、機械や建物などの固定資産の価値が時間とともに減る分を会計上費用として計上します。
ただし、実際に現金が出ていくわけではなく、利益計算には含まれても現金の流れには影響しないため、営業キャッシュフローを求める際は加算して調整します。
間接法の計算を具体例で見てみましょう。
- 当期純利益:+300万円
- 減価償却費:+100万円(非現金費用なのでプラス)
- 売掛金増加:−50万円(現金未回収分なのでマイナス)
- 買掛金増加:+80万円(支払いを先送りした分なのでプラス)
この場合
営業CF = 300 + 100 − 50 + 80 = +430万円
つまり、本業の活動によって430万円の現金を生み出したことを意味します。
ネットキャッシュフローを活用した経営状況の分析例
営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの動きを分析することで、企業の経営状況や成長段階を把握することもできます。
以下のパターンは、企業の経営状態を示す代表的な例です。
| パターン |
内容 |
| 健全成長型 |
本業での安定した収益を基に、自己資金で積極的に投資を行い、健全な財務状態を維持している企業です。
資金余力があれば、必ずしも財務CFがマイナスでなくてもよい場合があります。 |
| 成長投資型 |
外部資金を活用して積極的に投資を行う企業です。
成長のために一時的にキャッシュフローが不安定な場合もありますが、投資の回収に向けた成果が期待されます。 |
| 再建型・資金繰り依存型 |
本業が赤字で、資産売却や借入で現金を確保している企業です。
短期的にキャッシュフローがプラスになることがあっても、持続可能な成長には課題が残る状態です。 |
| 収縮・衰退型 |
投資を抑え、資産売却を通じて現金を増やしている企業です。
短期的には現金が増加しても、成長性や持続可能性に対するリスクが高まるため、長期的には注意が必要です。 |
ネットキャッシュフローは、単なる「現金の増減額」ではなく、企業の資金創出力・投資姿勢・財務体質を総合的に映し出す鏡です。
各キャッシュフローのバランスを読み解くことで、企業の「稼ぐ力」と「成長の持続性」を的確に評価することができます。
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ネットキャッシュフローを財務分析で活用する際のポイント
ネットキャッシュフローを分析する際は、単に最終的な数値のプラス・マイナスを見るだけでなく、「営業キャッシュフローの内訳」、「複数年度の推移」、「同業他社との比較」という3つの視点から総合的に捉えることが重要です。
1. 営業キャッシュフローの内訳を確認する
ネットキャッシュフローがプラスでも、営業キャッシュフローがマイナスの場合は注意が必要です。
本業で十分な現金を生み出せず、資産売却や借入で補っている可能性があり、財務健全性の悪化を示すサインとなることがあります。
2. 複数年度の推移で評価する
キャッシュフローは一時的な要因で大きく変動するため、単年度ではなく3~5年程度の推移を確認することが重要です。
3. 同業他社と比較して位置づけを把握する
同じ業界の他社と比較することで、自社の収益性・投資戦略の効率性を客観的に評価できます。
業界平均と比べて過剰投資や資金繰りのリスクがないかを確認する視点が重要です。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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ネットキャッシュフローを把握することで、企業が本業で安定的に現金を生み出しているか、投資や資金調達のバランスが適切かを見極めることができます。
重要なのは、営業キャッシュフローで本業の収益力を確認し、投資・財務キャッシュフローと合わせて企業全体の経営ステージや戦略を読み解くことです。
今回の記事で紹介したポイントを活かし、キャッシュフロー計算書から企業の実質的な資金力と経営の健全性をより正確に把握し、的確な経営判断につなげましょう。