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業務全般制度改正 2025/05/20

賃上げ促進税制で30%控除もできる?2025年3月期決算以降注目の税制改正を一気にチェック

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2025年度3月期以降の決算では、令和6年度税制改正の全面適用と令和7年度税制改正の一部先行適用が重なり、経理担当者に複雑な対応が求められる状況となっています。
今回の記事では、賃上げ促進税制や研究開発税制、インボイス制度など主要改正項目の内容と企業規模別の実務対応策を解説します。

2025年度3月期決算以降注目したい、賃上げ促進税制の拡充・延長

まずは、2025年度3月期以降の決算で注目したい内容のひとつ、賃上げ促進税制の拡充・延長について確認していきます。
賃上げ促進税制は、企業が従業員の給与を前年度より増加させた場合に、その増加額に応じて法人税の税額控除を受けられる制度です。
2024年4月1日以降開始事業年度から適用される改正では、企業区分が「全企業向け」、「中堅企業向け」、「中小企業向け」の3区分に再編され、子育て・女性活躍支援の認定取得による控除の上乗せ措置も導入されました。
賃上げによる税額控除を受けるために、企業区分の確認や要件を満たす計画の策定、書類提出などの手続きを徹底しましょう。


全企業向け賃上げ促進税制
中小企業を含む青色申告書提出法人を対象に原則の控除率が10%に引き下げられましたが、新たに設けられた上乗せ要件を満たすことで最大35%に拡大されます。

項目 改正後の内容
原則の控除額 控除対象雇用者給与等支給増加額×税額控除率10%
上乗せ要件1:
賃上げ要件
  • 継続雇用者給与等支給額が前期比4%:税額控除率+5%
  • 継続雇用者給与等支給額が前期比5%:税額控除率+10%
  • 継続雇用者給与等支給額が前期比7%以上:税額控除率+15%
上乗せ要件2:
教育訓練要件
教育訓練費が前期比+10%かつ給与の0.05%以上:税額控除率+5%
上乗せ要件3:
女性活躍・子育て支援
プラチナくるみん、またはプラチナえるぼし認定:税額控除率+5%
なお、資本金の額または出資金の額が10億円以上かつ常時使用する従業員数が1,000人以上、あるいは常時使用する従業員数が2,000人超である法人は、マルチステークホルダー方針の公表と届出が必要です。
適用事業年度終了の日までにホームページなどで公表を行い、事業年度終了後45日以内に方針を公表した旨を経済産業省に届け出ましょう。


中堅企業向け賃上げ促進税制
中堅企業とは、これまで大企業と分類されてきた企業のうち、従業員が2,000人以下の企業を指します。
中堅企業向け賃上げ税制は青色申告書を提出している中堅法人が対象です。
ただし、支配関係がある法人を含めた法人の常時使用従業員数の合計数が1万人を超える場合は除くとされています。

項目 改正後の内容
原則の控除額 控除対象雇用者給与等支給増加額×税額控除率10%
上乗せ要件1:
賃上げ要件
継続雇用者給与等支給額が前期比+4%以上:税額控除率+15%
上乗せ要件2:
教育訓練要件
教育訓練費が前期比+10%かつ給与の0.05%以上:税額控除率+5%
上乗せ要件3:
女性活躍・子育て支援
プラチナくるみん、プラチナえるぼし、またはえるぼし(3段階目)認定:税額控除率+5%
※えるぼし認定は認定を受けた事業年度のみ
また、資本金の額または出資金の額が10億円以上かつ常時使用する従業員数が1,000人以上である法人は、マルチステークホルダー方針の公表と届出が必要です。


中小企業向け賃上げ促進税制
中小企業向け賃上げ税制では、当期が赤字でも翌期以降に適用を受けられる繰越控除制度が創設されました。
対象は、青色申告書を提出している、資本金1億円以下の法人や農業組合などの中小企業者等です。

項目 改正後の内容
原則の控除額 控除対象雇用者給与等支給増加額×税額控除率15%
上乗せ要件1:
賃上げ要件
継続雇用者給与等支給額が前期比2.5%以上:税額控除率+15%
上乗せ要件2:
教育訓練要件
教育訓練費が前期比+5%かつ給与の0.05%以上:税額控除率+10%
上乗せ要件3:
女性活躍・子育て支援
プラチナくるみん、プラチナえるぼし、くるみん、またはえるぼし(2段階目以上)認定:税額控除率+5%
※くるみん認定とえるぼし認定は認定を受けた事業年度のみ

企業が取るべき税務戦略
賃上げ促進税制の控除率が拡充されている今は、従業員の賃金アップと税務メリットを結び付ける絶好の機会です。
中小企業では雇用者給与支給額が前年比2.5%以上の増加となる賃上げを行うことによって、原則の15%の税額控除率に加えて15%の上乗せ要件の適用を受けることができるので、合計で30%の税額控除を受けられるうえに、赤字でも5年間の繰越控除が可能なため、積極的に検討するとよいでしょう。
大企業については新たな上乗せ措置である、くるみん・えるぼし認定の取得状況を確認したうえで、マルチステークホルダー要件の確認を行い、事業年度終了日までにホームページなどでの公開を実施し、期限までに届出を行いましょう。
また、法人税の申告の際は賃上げ促進税制に関する計算の明細書を添付し、税務調査に備えて、賃金台帳や比較計算書など、前年・当年の給与支給額計算根拠や増加率の算定資料をきちんと保存しておくことが重要です。
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2025年度3月期決算以降、注目したいそのほかの制度

賃上げ促進税制のほかにも、以下の改正に注意しておきましょう。


研究開発税制の見直し・延長
研究開発税制は、企業が試験研究費を支出した場合に受けられる税額控除制度です。
大企業・中小企業ともに利用できます。
改正では税額控除率の下限1%が撤廃され、試験研究費が前年度より減少した場合の控除計算が見直されました。
また、試験研究費が減少すると従来より控除率が低下するほか、増加した場合の控除計算式が調整されています。

企業が取るべき税務戦略
研究開発税制を活用すれば、他社との差別化と法人税負担の軽減が可能です。
自社の試験研究費の増減状況を把握したうえで、研究開発を積極的に行う企業は、新しい控除率を踏まえた試験研究費の適切な計上と基礎資料の整備を行いましょう。
なお、賃上げ促進税制など複数の制度を併用する場合、法人税額に対する控除限度額(20~40%)にも注意が必要です。
必要に応じて顧問税理士と相談するのもよいでしょう。


消費税のインボイス制度
インボイス制度は、2023年の導入以降、免税事業者との取引について段階的な仕入税額控除の制限措置を設けています。
具体的には、インボイス未登録の免税事業者からの仕入れについて、2026年9月までは仕入税額の80%、2029年9月までは50%控除可能で、その後は控除不可となります。
自社の会計システムで控除不可額の自動計算ができるよう設定を見直すなど、時期に合わせて消費税申告書を正しく作成できるようにしましょう。

企業が取るべき税務戦略
インボイス制度については、発行側は請求書の登録番号・税率・税額などの記載を徹底したり、受領側は取引先ごとのインボイス登録状況と経過措置適用を管理する必要があったりと、多くの対応が求められます。
業務が煩雑になる場合は、会計ソフトなどを活用し、ミスの防止や業務効率化につながる対策を行いましょう。
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中小企業・大企業への法人税関連の影響

続いて、中小企業・大企業における法人税関連で影響力の高いものを紹介します。


交際費課税の特例延長による影響
改正により、交際費から除かれて損金算入可能となる飲食費の範囲が拡大され、基準額が、1人当たり税込5,000円以下から1万円以下に引き上げられました。
この変更は2024年4月1日以後に支出する飲食費に適用されています。
なお、飲食費が1万円を超えた場合には、資本金または出資金が1億円以下の中小法人を対象に、飲食費のうちの50%を損金算入とする特例と、年間800万円までは全額損金算入できる特例がありますが、これらが2027年3月31日まで3年間延長されました。

企業規模別の対応
中小法人では飲食費のうちの50%を損金算入する特例と年間800万円まで全額損金算入できる特例は、有利な方を選べるようになっています。
しっかりと試算して、メリットのある方を選びましょう。
大企業の場合は、社内規程や経費精算システムの基準額を5,000円から1万円に改定し、2024年4月以降の接待飲食費について適切に経理処理しましょう。

※関連記事:接待飲食費として損金算入できるのは1万円まで!インボイス制度も影響してくる交際費等事情とは?


外国子会社合算税制の見直し
外国子会社合算税制について、外国関係会社がペーパーカンパニーなどの特定外国関係会社に該当するか否かの判定基準となる租税負担割合の閾値が、30%から27%に引き下げられました。
また、令和7年度税制改正では事務負担軽減策の特例措置として、外国関係会社の合算時期が、その企業の事業年度終了より2カ月から4カ月に延長され、添付・保存書類も簡素化されることとなっています。

項目 改正後
合算時期の変更 外国関係会社の事業年度終了日翌日から4カ月を経過する日を含む親会社の事業年度
添付・保存書類の簡素化 租税負担割合20%未満等の一定の外国関係会社に関する書類の添付・保存
  • 貸借対照表・損益計算書
  • 本店所在地国の法人所得税の申告書
  • その他の書類(株主名簿等)
※株主資本等変動計算書及び損益金処分計算書、勘定科目内訳明細書の書類の添付・保存は不要
なお、法人税申告書作成の際は租税負担割合の基準変更も踏まえ、最新の別表を確認しましょう。
該当子会社がある場合は、合算除外の判定計算書や現地税率のエビデンスを保存することも重要です。

企業規模別の対応
海外展開をしている中小企業では、これまで、現地の税率や租税負担割合が30%前後になる国に子会社を持っていると、外国子会社合算税制の計算や書類の準備が必要でした。
今回の改正でその判断基準が27%に変更されたため、改正後の基準で合算対象になるか免除されるのかどうか、現地の税制改正も含め確認しましょう。
海外子会社を持つ大企業も、中小企業と同様に今回の見直しによって合算判定から除外されるケースが増える可能性があるため、自社グループの外国子会社の実効税率や事業実態を再チェックしましょう。
また、申告書作成時の添付書類要件が緩和された点を踏まえ、不要となった書類の整理や内部プロセスの見直しを行い、事務負担の軽減につなげましょう。


防衛特別法人税の創設による影響
令和7年度税制改正大綱において、防衛力強化の財源確保策として防衛特別法人税の新設が盛り込まれました。
防衛特別法人税は、2026年4月1日以後開始事業年度から法人税額の4%を上乗せ課税するものです。
ただし、法人税額から年500万円が控除された後の額への課税となるため、年間の法人税額が500万円以下の企業は実質的に対象外となります。
2025年現在では法人税計算への直接的影響はありませんが、税効果会計を適用している企業は2026年以降の税率変更を見据えて、将来期間の繰延税金資産・負債の金額の見積を検討する必要があります。

企業規模別の対応
中小企業でも課税所得・税額が多い場合はこの特別法人税の影響を受けることになるため、仕組みを理解しておきましょう。
適用が考えられる企業の経理・税務担当者は、必要に応じて税理士や公認会計士などの専門家の助言を受けると安心です。
大企業では2026年以降の実効税率上昇を見越して利益計画を更新しましょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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2025年3月期以降の決算では、令和6年度・7年度税制改正への対応が必要です。
賃上げ促進税制の見直しや防衛特別法人税の創設など、対応すべき内容は多岐にわたります。
自社の企業区分を正確に把握し、会計ソフトの準備と専門家の助言なども活用して、適切に対応できるようにしましょう。

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