2027年4月から新しいリース会計基準が強制適用されます。
適用対象企業では、これまでオフバランス処理されていたリース取引も原則としてオンバランス化され、会計・税務処理に大きな変更が求められます。
今回の記事では、新リース会計基準の概要、主要な変更点、実務対応のポイントを解説します。
新リース会計基準の概要
新リース会計基準として、企業会計基準第43号「リース会計に関する会計基準」が導入されます。
この改正は、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」との整合性を図るためのものです。
日本のリース基準は、1993年に最初の会計基準が公表されるまで、法的形式に従って賃貸借処理が行われてきました。
その後、1993年に公表された会計基準では、原則としてファイナンス・リース取引に売買処理を求める一方で、所有権移転外ファイナンス・リース取引には賃貸借処理も認められていました。
2007年の改正では、所有権移転外ファイナンス・リース取引を含むすべてのファイナンス・リース取引について売買処理を原則とする形に変更されましたが、オペレーティング・リース取引については、依然として賃貸借処理が認められていました。
今回の新リース会計基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区別が撤廃され、ほぼすべてのリース取引が資産・負債としてオンバランス化、つまり貸借対照表に計上されることになります。
主要な変更点
新リース会計基準の主要な変更点は、以下のように整理できます。
リース取引の区分廃止とオンバランス処理の原則化
現行基準ではファイナンス・リースとオペレーティング・リースという区分が設けられていましたが、新リース会計基準では、短期リースや少額資産リースといった限定的な例外を除き、すべてのリース取引について使用権資産とリース負債の財務諸表での両建て計上が求められることとなります。
財務報告における表示と開示の改正
新リース会計基準では、これまで単純な費用処理として販売費及び一般管理費に計上されていたオペレーティング・リース取引の支払リース料が、ファイナンス・リース取引と同様に、使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息費用として計上されることとなります。
これにより、損益に影響が生じることとなるほか、貸借対照表の資産・負債が増加することになります。
リースの定義と識別方法の見直し
新リース会計基準では、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約または契約の一部分」と定義しており、契約にリースが含まれるかどうかの判断を重視しています。
その結果、契約書上で「リース」という文言を使用していなくてもリース取引として認識される可能性が出てきました。
従来はリースとして認識されていなかったレンタル契約や不動産賃貸借契約も、新リース会計基準のもとではリース取引に該当する可能性があるため、既存の契約についても改めて確認が必要となります。
新リース会計基準の適用対象と適用範囲
新リース会計基準は、上場企業や会計監査人を設置する企業が対象となっており、中小企業には適用されません。
適用範囲は契約の名称や法的形式にかかわらずすべてのリース取引に及びますが、短期リースや少額資産リースについては簡便的な処理が可能です。
適用時期
新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの強制適用となります。
ただし、2025年4月からの早期適用も認められています。
適用対象企業は、早ければ2025年中に、遅くとも2027年までには会計システムなどの改正対応を完了させておく必要があります。
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2024年9月に公表された「リースに関する会計基準」の改正内容について、改正に至るまでの背景や考え方、具体的な処理について解説します。
新リース会計基準における借手の具体的な会計処理
ここからは借手側における新リース会計基準での会計処理について説明します。
旧リース会計基準では、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの2分類の取引がありました。
新リース会計基準では、これらの区別はなく、原則としてすべてのリースについて使用権資産及びリース負債を計上することになります。
|
旧リース会計基準 |
新リース会計基準 |
ファイナンス・リース |
リース資産とリース債務を貸借対照表に計上し、減価償却費や支払利息を損益計算書に計上 |
使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上し、減価償却費や支払利息を損益計算書に計上 |
オペレーティング・リース |
通常の賃貸借取引としてリース料を損益計算書に計上 |
新リース会計基準における取引開始時の会計処理
借手側が取引を開始した際の会計処理では、使用権資産とリース負債を計上します。
使用権資産とはリースを使用する権利であり、リース負債とは権利に対して発生する支払義務を指します。
リース負債は、リース開始日時点で未払いのリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除した現在価値により算定します。
現在価値とは将来受け取る価額を現時点の価値に計算し直した金額のことです。
使用権資産は、リース負債の計上額にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用などを加算して算定します。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
使用権資産 |
XX |
リース負債 |
XX |
新リース会計基準における期中・決算時における会計処理
期中・決算時の会計処理では、主にリース料の支払い、使用権資産の減価償却などの処理を行います。
リース料の支払い
リース料の支払いにおける仕訳では、支払額を、利息部分とリース負債の返済部分に区分して行う必要があります。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
リース負債 |
XX |
現金預金 |
XX |
支払利息 |
XX |
|
|
使用権資産の減価償却
使用権資産の減価償却については、通常の固定資産と同様の考え方で会計処理を行います。
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
減価償却費 |
XX |
使用権資産 |
XX |
なお、使用権資産について収益性が低下している場合には、減損会計の対象にもなるため注意が必要です。
新リース会計基準における税務処理について【令和7年度税制改正】
令和7年度税制改正大綱により、新リース会計基準における税務上の取り扱いが明らかになりました。
これによると、会計上の取り扱いと異なり、税務上は従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が存続し、オペレーティング・リース取引については賃貸借処理が継続されることとなります。
そのため、以下の通り、新リース会計基準と税務上で求められる処理が一部異なる可能性があります。
新リース会計基準 |
法人税法 |
リース取引 |
オンバランス |
税務上のリース取引 ※税務上のファイナンス・リース取引 |
売買処理(オンバランス) |
税務上のリース取引以外の賃貸借取引 ※税務上のオペレーティング・リース取引 |
賃貸借処理(オフバランス) |
リース取引以外 |
オフバランス |
リース取引以外 |
このような処理の違いにより、新リース会計基準を適用する企業では、税務申告書における調整が必要となることが予想されます。
特にオペレーティング・リース取引については、会計上は改正によるオンバランス処理が求められる一方、税務上は従来通りの賃貸借処理となるため、リース期間を通じてその差異を法人税申告書上で調整する別表調整が必要となります。
そのため、オペレーティング・リースに係る減価償却費や支払利息については、他の取引と区分して把握できる会計・税務上の仕組みを整備することが重要です。
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2024年9月に公表された「リースに関する会計基準」の改正内容について、改正に至るまでの背景や考え方、具体的な処理について解説します。
新リース会計基準に対する企業担当者の実務対応
新リース会計基準の適用に向けた実務では、まず準備体制を構築することが重要です。
既存リース契約の棚卸しを行い、適用対象となる契約を特定しましょう。
そのうえで財務諸表への影響を確認し、経営層への報告や対応方針の決定資料を作成します。
また、契約管理の方法や、該当の取引がリースに該当するかどうかの判断など、新リース会計基準の適用により変化が起こる部分を把握して対策を考える必要があります。
会計システムの対応
新リース会計基準にスムーズに対応するためにはシステム選定も重要です。
2027年4月の強制適用開始だけでなく、その後の改正も見据える場合は、クラウド型の会計システムを利用するのが望ましいでしょう。
クラウド型の会計システムは、会計基準の改正に応じて随時アップデートされるため、将来的な制度変更にも柔軟に対応することができます。
そのうえで、リース契約の管理、会計処理、税務調整、開示資料作成といった一連の処理を効率的に行える機能があると便利です。
監査対応
新リース会計基準適用初年度は特に慎重な対応が求められるため、早い段階から監査法人との協議を開始し、会計方針や実務上の判断について認識を合わせておきましょう。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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新リース会計基準に対応するためには、会計処理の変更に限らず、契約書の見直しやシステム対応など、様々な準備が必要です。
できる限り早く準備体制を整えて、滞りなく実務を進められるようにしましょう。