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経理/財務税務(税金・節税) 2023/12/26

損益通算とは?赤字を節税に繋げるための手順と計算例

個人事業主の事業などで損失が生じた場合、確定申告の際に損益通算を行うことによって、負担する税額を少なくできる場合があります。
今回の記事では、損益通算の基本や計算の仕組みについて解説します。

損益通算とは

損益通算とは、一年間の利益と損失を相殺する作業のことをいいます。
所得税法ではすべての所得を10種類に分類したうえで各所得分類ごとに所得計算を行い、最終的に総所得、退職所得、山林所得として金額を算出します。
この時、総所得、退職所得、山林所得の中に赤字と黒字が混在している場合、黒字分から赤字分を差し引いてその分の税金を減らすのが損益通算です。
ただし、損益通算には一定の順序にしたがった計算を行うなどのルールがあるため、注意が必要です。

損益通算の対象となる所得とならない所得

損益通算はすべての所得を対象とできるわけではありません。
ここからは対象となる所得とならない所得を確認していきましょう。


損益通算の対象となる所得
損益通算の対象となる所得は、原則として以下のものです。

  • 不動産所得:土地や建物の貸付けなどによる所得
  • 事業所得:事業から生じる所得
  • 山林所得:山林の伐採や譲渡などによる所得
  • 譲渡所得:土地や建物などの資産などを譲渡することによる所得
※後述する損益通算できないとされている所得を除きます。
※マイホームの買い替えによる土地建物の譲渡損失、上場株式等の譲渡損失など、特定の所得間で損益通算が認められるものもあります。

損益通算をしてもなお控除しきれない損失の金額については、その年の翌年以後3年間にわたって繰越控除が可能です。


損益通算の対象とならない所得
利子所得や退職所得は損失が生じることがないため、損益通算の対象とはなりません。
配当所得、給与所得、一時所得、雑所得については計算上損失が生じることはあるものの、他の所得から控除することはできません。

また、損益通算の対象である不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得であっても、無条件で損益通算はできません。
以下のような項目については損益通算の対象から除かれています。

不動産所得
不動産所得において計算上生じた損失のうち、以下のようなものは損失が生じなかったものと見なされるため他の所得の金額から控除することはできません。
  • 別荘など、生活に通常必要でない資産の貸付けに係るもの
  • 土地などを取得するために要した負債の利子に相当するもの
譲渡所得
譲渡所得のうち、一定のマイホーム以外の土地建物等の譲渡所得において計算上生じた損失は、他の所得の金額と損益通算はできません。
逆に、土地建物等の譲渡所得以外の所得の損失も、土地建物等の譲渡所得の金額との損益通算はできません。
また、上場株式等の譲渡など、申告分離課税の株式等の譲渡による損失は、原則として、同一区分の株式等の譲渡所得以外の所得の金額と損益通算はできません。

生活に通常必要でない資産に係る所得
生活に通常必要でない資産に係る所得において計算上生じた損失は、一定の場合を除き、他の所得の金額と損益通算できません。
生活に通常必要でない資産とは、主に趣味・娯楽などの目的で所有する不動産やゴルフ会員権、競走馬などをいいます。
生活に通常必要でない資産から生じた損失は、特に税制で救済する必要もないと考えられることから損益通算の対象とされていません。

損益通算の順序と計算例

損益通算は、それぞれの所得で内部通算した後、決められた順序で行います。


内部通算
内部通算とは、同一の所得内で利益と損失を相殺する作業です。
譲渡所得のうち、短期譲渡所得(保有期間5年以下の資産の譲渡)や長期譲渡所得において計算上生じた損失の金額は、それぞれで生じた所得の金額から控除することができます。
ただし、土地などの分離課税される譲渡所得については、短期譲渡所得と長期譲渡所得で通算した金額における通算後の赤字の金額は0とされ、損益通算の対象とはなりません。


損益通算の順序
以下の表に記載の順序で損益の通算を行います。
黒字
経常所得 譲渡所得 一時所得 山林所得 退職所得
短期 長期
総合 総合
赤字 不動産所得・事業所得
譲渡所得
山林所得
※経常所得の金額とは、利子、配当、不動産、事業、給与、雑所得の金額をいいます。

①の手順
経常所得のうち不動産所得または事業所得における計算上の損失が生じた時は、まず、その損失の金額を経常所得の他の所得の金額から差し引きます。

②の手順
譲渡所得において計算上生じた損失の金額は、一時所得の金額から差し引きます。

③・④・⑤の手順
①を実施した後の経常所得の損失の金額は、②を実施した後の譲渡所得の金額と一時所得の金額から差し引きます。

⑥の手順
譲渡所得と一時所得の通算を行ってもなお赤字となった金額は、経常所得の金額の残額から差し引きます。

⑦・⑧・⑨・⑩の手順
⑥ まで行ってもまだ残った損失の金額は、まず山林所得の金額から差し引き、次に退職所得の金額から差し引きます。

⑪・⑫・⑬・⑭・⑮の手順
山林所得において計算上損失が生じた時は、⑩まで実施後の経常所得・譲渡所得・一時所得の金額から差し引き、最後に退職所得の金額から差し引きます。

これらを行ってもなお控除しきれない損失の金額は、その年の純損失の金額として、翌年以後の純損失の繰越控除の対象となります。


計算例
【前提条件】
個人事業主であるAさんの今年の各種所得の金額は、次の通りです。

  • 不動産所得の金額:300万円
  • 事業所得の金額:△120万円
  • 長期譲渡所得の金額:△100万円
  • 一時所得の金額:70万円
損益通算の結果、今年のA氏の総所得金額がいくらになるのかを計算します。

まず、順序①の通り、不動産所得の金額と事業所得の金額について損失通算を行います。

経常所得間の損益通算
300万円 - 120万円 = 180万円

また、譲渡所得でも損失が発生しているため、順序②の通り譲渡所得と一時所得の金額の損益通算を行います。

譲渡所得と一時所得間の損益通算
70万円 - 100万円 = △30万円

譲渡所得の金額でまだ損失が残ったため、順序⑥の通り、経常所得間での損益通算後の経常所得の金額と損益通算を行います。

譲渡所得の赤字の残額と経常所得間の損益通算
180万円 - 30万円 = 150万円

以上から、Aさんの今年の総所得金額は150万円と計算できます。 今回の計算結果は総所得の金額が黒字となりましたが、もし損益通算を行っても赤字の金額が残った場合は純損失の金額となり、翌年以降の計算で純損失の繰越控除が認められます。
なお、損益通算も純損失の繰越控除も、確定申告を行わない場合は適用できませんので注意が必要です。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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事業が赤字の場合、損益通算や純損失の繰越控除の適用を受けることで、税金の負担を減らせる可能性があります。
赤字となると確定申告に消極的になってしまうかと思いますが、むしろ積極的に確定申告を行う方が有利であることを覚えておきましょう。

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