育児休業制度の取得は男女ともに奨励されていますが、従業員が安心して制度を利用するためには、企業側が制度への理解を深めておく必要があります。
今回は、従来ある育児休業制度と2022年に創設された出生時育児休業について解説します。
育児休業制度とは
「育児休業制度」とは、従業員が出産や育児を理由に仕事を辞めることなく、一時的に会社を休業できるよう国が定めた制度です
大企業だけでなく中小企業を含めすべての企業が対象となり、たとえ会社に個別の制度がなくても、従業員は育児介護休業法に基づいて育児休業を取得することができます。
育児休業制度の概要
対象者 |
正社員、契約社員などの雇用形態に関係なく、原則として1歳未満の子どもを養育する男女従業員。
ただし、子どもが1歳6カ月になるまでに労働契約期間が終了し更新されないことが明らかでない場合に限る。
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取得期間 |
原則、子どもが1歳になる誕生日の前日まで。
ただし、配偶者も育児休業をしている場合は、子どもが1歳2カ月になるまで、出産日・産後休業期間・育児休業期間を合計して1年以内の休業が可能(パパ・ママ育休プラス)。
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期間の延長 |
育児休業延長の要件を満たす場合は、最長2歳まで延長可能。
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申請期限 |
原則として育児休業開始日の1カ月前まで。
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対象者
育児休業取得の対象者は、原則として1歳未満の子どもを養育する一定の労働者です。
日雇いなどの場合は対象になりませんが、パート、アルバイト、派遣社員などであっても、期間の定めがない労働契約で働いている場合や、申し出時点で子どもが1歳6カ月になるまでに労働契約期間満了となることが明らかでない場合は、育児休業を取得できます。
育児休業は、配偶者が専業主婦(夫)である従業員も利用が可能です。
取得期間
育児休業の期間は、原則として、子どもが1歳になるまでのうち従業員が希望する期間となります。
例えば、子どもが2023年12月10日生まれの場合には、2024年12月9日までの間で希望する期間について、育児休業を取得することができます。
さらに、保育園に入園できないなど一定の要件を満たす場合には、子どもが1歳6カ月または2歳になるまで育児休業の期間を延長することも可能です。
パパ・ママ育休プラス
パパ・ママ育休プラスとは、両親がともに育児休業を取得する場合、子どもが1歳2カ月に達するまで育児休業可能期間が延長される制度です。
1人分の育児休業の取得期間は1年で変わりませんが、ずらして育児休業を取得すれば、全体で見て最大2カ月間、育児休業の終了を遅らせることができます。
※参考資料:厚生労働省「両親で育児休業を取得しましょう!」
育児休業期間中の保障
育児休業給付金の支給
育児休業を取得する従業員が雇用保険の被保険者で、一定の受給資格を満たす場合は、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。
この時、育児休業の最初の半年(180日)までは休業開始時の賃金の67%程度、181日目からは休業開始時の賃金の50%程度が支払われます。
休業開始時の賃金とは、休業開始前6カ月の賃金を日割りで計算した金額です。
なお、育児休業給付金は非課税なので、給付金を受け取っても所得税はかかりません。
社会保険料の免除
その月の月末が育児休業期間中である場合、またはその月中に2週間(14日)以上の育児休業を取得した場合は、月額給与の社会保険料が従業員・事業主負担分ともに免除されます。
さらに、賞与支給日の月末を含んだうえで1カ月を超える育児休業を取得している場合には、賞与の社会保険料についても免除されます。
例えば、賞与の支給月が6月、育児休業の取得期間が5月31日から7月10日の場合、5月分と6月分の月額給与の社会保険料が免除され、6月分の賞与の社会保険料についても免除されることになります。
なお、育児休業中は、支払いの免除期間においても社会保険料を支払ったものと見なされるため、将来の給付に関する不安なく負担を減らすことができます。
【2022年改正】出生時育児休業制度(産後パパ育休制度)と育児休業の分割取得について
育児・介護休業法の改正により、男性の育児休業取得促進のため、2022年に育児休業の新制度として「出生時育児休業制度(産後パパ育休制度)」が創設されました。
この制度は、通常の育児休業とは別で取得できるため、出生時育児休業を利用した後に育児休業を取得するということも可能です。
出生時育児休業制度の概要
取得可能期間 |
子どもが生まれてから8週間以内に通算4週間(28日)まで取得が可能。
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取得回数 |
2回に分割して取得することが可能。 ※ただし、1回目に2回目分もまとめて申請が必要。 |
申請期限 |
原則として休業開始日の2週間前まで。
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出生時育児休業は、出生後8週間の間に2回に分けて取得できるため、家庭や業務の都合に合わせて柔軟に利用しやすい制度であることも大きなポイントです。
なお、出生時育児休業では育児休業給付金を休業開始時の賃金の80%程度まで引き上げられる予定になっていますが、2023年9月時点では具体的な引上時期については明らかにされていません。
育児休業に関する改正内容
これまでの育児休業は1人の子どもにつき1回と決められていたため、繁忙期がある業種などでは業務に戻ったタイミングで育児休業を終了するケースも多々ありました。
しかし今回の改正で、育児休業の取得回数は同じ子どもについて原則として2回まで分割取得可能となりました。
さらに、出生時育児休業の取得回数はこの2回に含まれないため、合わせると合計で4回に分けて育児休業を取得できることになります。
また、一定の要件を満たして育児休業を延長した場合、子どもが1歳になった後の育児休業の開始日は「子どもが1歳になった日または1歳6カ月になった日」のどちらかとされていましたが、改正により、「配偶者の育児休業終了予定日の翌日」とすることも認められました。
これにより、夫婦交代であれば、子どもが1歳になった後も育児休業を取得することが可能になります。
企業担当者が行う手続き
従業員から妊娠・出産に関する申し出があったとき、企業は以下を実施することが義務付けられています。
- 育児休業制度や出生時育児休業制度に関すること、各制度の申し出先、育児休業給付に関すること、社会保険料の取り扱いなどに関して個別で周知を行うこと
- 本人が育児休業や出生時育児休業の申し出をするかどうかの意向を確認すること
担当者は、従業員に制度を理解してもらったうえで、実施するかどうかの意向を確認するようにしましょう。
従業員が育児・介護休業を希望する場合
従業員は、企業の担当者に申し出を行うことで、原則として子どもが1歳(場合によっては1歳6カ月または2歳)に達するまでの間、育児休業の取得が可能です。
企業担当者は育児休業を取得する従業員に対して、育児休業をする期間における自身の業務の引き継ぎや、休業終了後の雇用継続有無などを中心にヒアリングを行います。
それと並行して必要書類を確認し、育児休業の取得手続きを進めます。
従業員が育児休業を取得しやすくするために
従業員が育児休業の取得を希望していても、職場の雰囲気などによって申し出にくい場合があります。
特に男性の育児休業取得率は低くなりがちです。
企業は育児休業を取得しやすい雇用環境を整備するため、以下のいずれかの対策を行う必要があります。
- 育児休業・出生時育児休業に関する研修の実施
- 育児休業・出生時育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口設置など)
- 自社の労働者の育児休業・出生時育児休業取得事例の収集・提供
- 自社の労働者への育児休業制度・出生時育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
※参考資料:厚生労働省「令和4年4月1日施行 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
育児休業を取得しやすくするためには、職場全体への働きかけと本人への働きかけの2つがポイントとなります。
職場全体への働きかけとしては、上司が各従業員の状況をできる限り把握しておき、仕事の分担を調整しやすい環境を作っておくなどの工夫が考えられます。
本人への働きかけとしては、職場内での助け合いで業務が行われていることに対する理解を深めることが重要です。
従業員が復帰する際の対応
育児休業の終了予定日が近づいた際は、本人と連絡をとり、復帰日の対応や復帰後の当面の働き方について話し合いを行います。
復帰時の課題の検討
復帰後は残業や深夜勤務に対応できなくなるなど、これまでのような働き方を継続することが難しい場合があります。
こうした課題を解決するために、短時間勤務制度の活用やシフト調整など、復帰後の働き方について柔軟に対応できるようにしておくことが求められます。
復帰にあたって実施すべきこと
育児をしながら働く従業員が復帰後も活躍できる環境を作るには、他の従業員の理解と協力が欠かせません。
休業中に業務の流れやシステムの変更などがあると、従業員がスムーズに復帰できないというケースも多くあるため、サポート体制を整える必要があるでしょう。
業務量や仕事の内容についても本人の意思を確認し、復帰後しばらくの期間は相談役をつけるなどの対策が重要となります。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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現代は、業務も育児も両立することが求められる時代です。
育児休業や新しい出生時育児休業は、子どもを迎える従業員にとって大変重要な制度です。
今回の記事を参考に制度の概要を理解し、企業担当者として取り組むべき内容を整理してください。