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人事/労務社会保険 2023/03/14

実務で押さえておきたい雇用保険の主要な給付内容とは?概要と手続きもチェック!

給与の源泉徴収で頻繁に登場する雇用保険ですが、給付内容についてはご存知でしょうか。
今回の記事では、雇用保険の基礎的知識に加えて、主要な給付内容についても紹介します。
各種手続きについても触れますので、チェックしてみてください。

雇用保険とは

雇用保険とは、労働者の生活・雇用の安定と就業の促進のために、労働者・事業主の双方に加入が求められている保険制度です。
雇用保険によって、労働者は働けなくなった際や、スキルアップ目的で職場を離れる際などに、給付を受けることができます。


企業における雇用保険の加入条件
労働者を1人でも雇った場合、その業種や事業規模にかかわらず雇用保険に加入する必要があります。
雇用保険は事業単位で適用されるため、支店や工場単位でも個々に対応が必要になる場合もあります。
雇用保険に加入しなかった場合、従業員は雇用保険の給付を受けることができません。


労働者における雇用保険の加入要件
雇用保険に加入した従業員を、被保険者と呼びます。
被保険者の加入要件は、基本的に以下の通りです。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 31日以上の雇用見込みがあること
  • 学生(通信制、定時制や夜間、休学者は除く)や法人の役員でないこと
パートやアルバイトなどでも、事業主や本人の意思にかかわらず加入する必要があります。


雇用保険の被保険者の種類
被保険者には、次の4つの種類があります。

一般被保険者
高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者以外のもっとも一般的な被保険者を指します。
ただし、1週間の所定労働時間が20時間未満である人、同じ事業主の適用事業で継続して31日以上の雇用が見込まれない労働者、一定の学生や法人の役員は、被保険者から除かれます。

高年齢被保険者
高年齢被保険者とは、65歳以上の被保険者で、短期雇用特例被保険者や日雇労働被保険者に該当しない人を指します。
2022年1月からは、1つの事業所で要件を満たさなくても、複数の事業所で一定の要件を満たす場合、本人の申し出があれば、特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高齢者被保険者)となる制度が創設されています。
要件は以下の通りです。

  • 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  • 2つの事業所(1つの事業所の1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  • 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

短期雇用特例被保険者
夏だけや冬だけなど季節的に雇用される労働者や、週の所定労働時間が30時間未満の短期労働者を指します。

日雇労働被保険者
日ごとに雇用される労働者、または雇用期間が30日以内の労働者を指します。

雇用保険の種類と給付内容

雇用保険には数多くの給付内容がありますが、今回はその中から失業等給付を中心に実務で重要な項目について解説します。


一般被保険者に対する求職者給付
一般被保険者に対する求職者給付のうち、もっとも基本的な給付として基本手当があります。
基本手当は、一般被保険者が離職した後、働く意思があるのに就職できない状態の際、離職日から遡って2年の間に被保険者期間が通算12カ月以上ある場合に給付を受けられます。
基本手当の受給期間は原則として離職日から1年間ですが、その間にけが、妊娠、育児などで30日以上働くことができなくなった場合は、最長3年間の延長が認められます。
そのほか、ハローワーク指定の公共職業訓練などを受けたうえで受給できる技能習得手当や寄宿手当、病気などの場合に基本手当に上乗せして受給できる傷病手当があります。
支給要件 支給額
基本手当 一般被保険者が離職後職業できない状態にある場合 基本手当日額
(原則として離職前6カ月の賃金平均の45%~80%。上限・下限有り)
技能習得手当 公共職業訓練などを受講する場合 受講手当:日額500円
(通所手当として、交通費も支給。上限あり)
寄宿手当 公共職業訓練などのために家族と別居し寄宿している場合 月額10,700円
傷病手当 離職後も病気などのために職に就くことができないと傷病認定を受けた場合 基本手当日額と同額


高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者に対する求職者給付
高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者が失業した場合、一般被保険者と生活状況が異なることを考慮した給付が支給されます。
支給対象 支給額
高年齢求職者給付金 高年齢受給資格の決定を受けた高年齢被保険者
  • 被保険者期間が1年以上:基本手当日額×50日分
  • 被保険者期間が1年未満:基本手当日額×30日分
特例一時金 特例受給資格の決定を受けた短期雇用特例被保険者 受給資格者を一般被保険者と見なして計算した基本手当の日額×30日分(当分は40日分)
日雇労働者求職者給付 要件を満たす日雇労働者 前の2カ月の印紙保険料の納付日数に応じて、4,100円、6,200円または7,500円
いずれの給付金も、支給を受けるためには、ハローワークで求職申し込みの上、受給資格の決定を受ける必要があります。


就業促進給付
就職促進給付とは、労働者の早期再就職促進を目的とした給付金です。
就業促進給付のうち、実務の場面で転職者などから質問を受けることが多いのは以下の3つです。
支給要件 支給額
就業手当 基本手当の受給資格がある人が再就職手当の支給対象とならない常用雇用など以外の形態で就業した場合で一定の要件を満たす場合 就業日×基本手当日額×30%
再就職手当 基本手当の受給資格のある人が安定した職業に就いた場合 基本手当日額×所定給付日数の支給残日数×60%または70%
就業促進定着手当 再就職手当の支給を受けた人が再就職したものの離職前の賃金より低下している場合 低下した賃金の6カ月分(基本手当の支給残日数の40%などを上限)
※いずれも1日当たりの支給額には上限があります。

上記のほか、ハローワークの認定により、その職務につくための引越しにかかる移転費や求職活動に必要な費用を補填する求職活動支援費が支給される場合もあります。


教育訓練給付
教育訓練給付とは、労働者の能力開発やキャリア形成を目的とした給付金で、国が指定した教育訓練を受講修了した際にその費用の一部が支給されるものです。
対象となる講座には主に以下のものがあります。
対象となる講座の例 支給額
一般教育訓練受講に係る教育訓練給付金
  • 簿記検定、ITパスポートなどの資格取得講座
  • 教育訓練経費の20%(上限10万円)
就業日×基本手当日額×30%
特定一般教育訓練受講に係る教育訓練給付金
  • 税理士などの業務独占資格などの取得を目標とする講座
  • ITSSレベル2以上のデジタル関係の講座
教育訓練経費の40%(上限20万円)
専門実践教育訓練受講に係る教育訓練給付金
  • 介護福祉士、調理師などの業務独占資格などの取得を目標とする講座
  • ITSSレベル3以上のデジタル関係の講座
  • 専門職大学院などの課程
  • 一定の専門学校の課程
最大で教育訓練経費の70%(1年間の支給上限額56万円・最長4年)
※支給額が4,000円を超えない場合は支給されません。
※支給額は、受講開始時期によって異なる場合があります。
※上記の給付金を支給するためには、受給資格確認の手続きを行う必要があるため注意して下さい。



高齢者雇用継続給付
高齢者雇用継続給付とは雇用継続給付の一部で、60歳以上65歳未満の被保険者が、60歳時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働いている場合に、ハローワークへの申請で支給されるものです。
支給要件 支給額
高年齢雇用継続基本給付金 雇用保険(基本手当など)を受給していない場合 賃金の低下率に応じて、支給対象月に支払われた賃金に対する一定の金額
高年齢再就職給付金 雇用保険(基本手当など)の受給中に再就職した場合
※再就職手当と上記の給付金については併給ができません。
※参考資料:厚生労働省「高年齢雇用継続給付の内容及び支給申請手続について


雇用継続給付にはほかに介護休業給付もあります。


【2022年新設】雇用保険のマルチジョブホルダー制度
2022年1月1日から、2つの事業所で働く65歳以上の労働者について「マルチジョブホルダー制度」が新設されました。
雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所に勤務する65歳以上の労働者が要件を満たす場合に、本人がハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度です。
支給要件 支給額
雇用保険マルチジョブホルダー制度の求職者給付金 マルチ高年齢被保険者であった人が失業し一定の要件を満たす場合 離職日前6カ月支払われた賃金×(50%~80%)×30日分または50日分
※2つの事業所のうち1つの事業所を離職した場合でも受給可能です。
※上記のほか、育児休業給付・介護休業給付・教育訓練給付等も対象になります。
※参考資料:厚生労働省「「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します

雇用保険の計算方法と各種手続き

雇用保険の保険料は、従業員と企業の双方が負担しています。
負担額は、毎月の賃金総額に以下の雇用保険料率を掛けて計算します。
以下は2023年4月1日から2024年3月31日までの雇用保険料率です。

労働者負担① 事業主負担② 雇用保険料率①+②
一般の事業 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業 7/1,000 10.5/1,000 17.5/1,000
建設の事業 7/1,000 11.5/1,000 18.5/1,000
※雇用安定事業・能力開発事業の保険料率は、3.5/1,000(建設の事業は4.5/1,000)で、保険料は全額事業主負担です。
※参考資料:厚生労働省「雇用保険料率について


雇用保険料率は定期的に見直しが行われており、今回も2023年3月末時点の料率から1ポイント増加しています。
実際の計算にあたっては最新の保険料率をご確認ください。


事業開始時の雇用保険関連の手続き
事業を開始して保険関係が成立した際は、成立した日の翌日から起算して10日以内に、労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。
その後、成立届の受理印控と確認書類を添えて、「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出する必要があります。


新たに被保険者を雇用した際の手続き
新たに労働者を雇い入れた際は、その都度、資格取得日の属する月の翌月10日までに、ハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
初めて資格取得届を提出する場合や、提出期限に遅れてしまった場合は、賃金台帳や労働者名簿の提出が求められる場合があります。


被保険者でなくなった場合の手続き
雇用する労働者が離職したなど、被保険者でなくなった場合には、被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に、ハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。
この手続きの際には、原則として離職証明書も併せて提出する必要があります。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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給付の種類が膨大にある雇用保険ですが、それぞれの給付内容のイメージはつきましたか。
月々に支払う雇用保険料の計算や各種手続きは、事業主が行う必要があるので漏れがないよう確実に押さえましょう。
また、シニア世代従業員がいる場合には、新設されたマルチジョブホルダー制度についても確認してくださいね。

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