近年注目されているコーポレートガバナンス。企業のリスク管理というイメージが強いかもしれませんが、国際化が進む最近では、日本企業の競争力など攻めのガバナンスも重視されています。
しかし必要性や実施方法についてはよくわからない…という方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、コーポレートガバナンスの強化が日本企業に必要な理由と、実務対応で最初に取り組む内容を解説します。
これからの日本企業で求められるコーポレートガバナンスとは?
攻め・守りのバランスがとれたコーポレートガバナンス
コーポレートガバナンスとは、企業が、株主や顧客などの関係者に対して、公正で迅速な経営を行っていることを担保する仕組みのことです。
コーポレートガバナンスと聞くと、大企業が不正を防止する仕組みをイメージする方も多いかと思いますが、こうした仕組みは「守りのガバナンス」と呼ばれます。守りのガバナンスは、企業のリスク管理・対応の観点から重要な機能として以前から日本企業でも取り組まれてきました。
一方で、今後、日本企業が競争力を高めるために必要とされているのが「攻めのガバナンス」です。
攻めのガバナンスでは、株主・銀行などへの責務は果たしながらも、時代の流れに沿うスピーディーな経営に重きがおかれます。
守りのガバナンスに加え、攻めのガバナンスも取り入れることで、企業は持続的な成長と中長期的な経営価値向上の双方を目指すことが期待できます。
上場企業以外でもコーポレートガバナンスは必要?
コーポレートガバナンスを強化するといっても、どのように実践すればよいか悩む方もいると思います。
上場企業では、金融庁と東京証券取引所が主な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」により、コーポレートガバナンスの実現が求められています。
非上場の中小企業の場合はコーポレートガバナンス・コードの対象外であるものの、経営陣と株主が一体となった企業も多く、外部の利害関係者からのガバナンスが効きにくい状況であることも指摘されています。長期的な経営の目線においては、非上場企業にとってもコーポレートガバナンス・コードは重用な内容です。
中小企業におけるコーポレートガバナンス強化で期待される効果
- 金融機関との円滑な取引、顧客の信頼獲得など、利害関係者との関係改善
- 社長や取締役会の監督機能・意思決定機能の強化など、企業の経営体制の強化
- 中長期的な経営成果の改善
コーポレートガバナンスが強化された企業は、取引先や金融機関からの信頼を得やすく、より安定した経営が見込めます。
企業の経営体制の強化や、中長期的な経営成果の改善も期待できます。
これからの日本企業がコーポレートガバナンスで強化すべきところ
2017年、経済産業省は「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を策定しました。
これはコーポレートガバナンス・コードの実務対応にあたって、企業が取り組むべきポイントや具体的な行動をまとめたものです。
2018年には、公表後の企業への調査に基づいてガイドラインが改訂されており、特に以下の項目が改正・追記されています。
CGSガイドラインでの主な改定・追記事項
- 企業や人材の多様性に応じた取り組み
- 取締役会の強化・多様性
- 経営陣幹部に適切なインセンティブが付与できる報酬設計・業績評価など
- 社外取締役などの社外人材の活用と環境整備
次章以降では、追記事項について、どのようなことを検討すべきか具体的に解説していきます。
※参考資料:経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」
戦略の中心!取締役会の機能と強化
取締役会の役割とは
取締役会は、企業戦略や報酬額など、企業経営に関する様々な内容が議論されるべき場です。
しかし、日本企業の取締役会は形式的なものも多く、本来であれば取締役会が持つべき機能が十分に発揮されないこともありました。
CGSガイドラインでは、取締役会が果たすべき役割として以下を例にあげています。
取締役会の機能
- 基本的な経営戦略や経営計画を決定する(経営戦略・決定機能)
- 経営陣の指名や報酬の決定で業務執行を評価することによる監督を行う機能(監督機能)
- 個別の業務執行の具体的な意思決定を行う機能(意思決定機能)
取締役会の位置づけと強化すべき機能
自社の取締役会でどのような機能強化をすべきか確認する際、まずは取締役会の現状について把握します。
例えば、「経営戦略・計画」の決定頻度が多いか少ないかを基準にすると、頻度が少ない場合は、主に監督機能が重要視されていることになり、頻度が多い場合は、監督機能に加えて意思決定機能も重視されていると判断できます。
状況が把握できたら、いずれの場合でも、取締役会が経営戦略機能を正しく発揮できているかを確認し、議事録だけの形式的なものとなってしまっている場合は改善を行います。
さらに、意思決定機能が弱い場合は強化できる改善案を検討します。
監督機能についても、常により一層強化することを目指しましょう。
そのほか、具体的な機能強化については、コーポレートガバナンスのどの機能に重点をおくかで変化しますが、状況の把握は常に重要となります。
定期的に状況を分析し、自社の取締役会は今どの機能が優先されており、今後はどのような機能を発揮する必要があるかを常に意識しておきましょう。
取締役会での「経営戦略・計画」の決定頻度 |
多い |
少ない |
取締役会の現状 |
意思決定機能>監督機能 |
意思決定機能<監督機能 |
要検討事項1 |
経営戦略機能の強化
(取締役会を形式的にしない、社外取締役の活用など)
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要検討事項2 |
監督機能の強化 |
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経営陣の人事と報酬も効率的に!後継者計画と報酬体系
経営陣の後継者計画を策定する
日本企業では、後継者の指名を現社長が主導で行うことが多くありましたが、後継者指名の客観性を高めるためには、取締役会などが主導となって「後継者計画」を作成し、経営陣の交代の時期にあわせて段階的に実行できる仕組みづくりが大切です。
CGSガイドラインでも、日本企業が取り組むべき中長期的な取り組みとして、企業経営で中心的な役割を果たす社長やCEOなどが適切に交代できることが重要であるとされています。
※出典:経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」
上記が一般的な後継者計画のタイムラインですが、実際に策定する際は、将来の変化や不測の事態に対応できるよう、様々なシナリオを想定する必要があります。
特に、社長やCEOの権限が大きい集約型の企業は、緊急事態にも対応できるよう、短期での後継者計画を策定しておくと安心でしょう。
また、経営者候補は、外部人材も視野に入れた幅広い候補者層から検討するということも重要なポイントとなります。
取締役の報酬とインセンティブ(業績連動報酬、自社株報酬)
企業の長期的な経営判断を行うのは、主に社長や取締役などの経営陣です。
優秀な人材を確保するためには、業績連動報酬や自社株報酬の導入などを視野にいれた、適切な報酬政策を設定をすることも大切です。
コーポレートガバナンスの観点からは、順序立てて報酬を決定することが重要となります。
※出典:経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGS ガイドライン)」
まず、企業の中長期的な視点も視野に入れた経営戦略を立て、それを踏まえて、具体的な目標である経営指標(KPI)を設定します。
さらにKPIを達成するためにはどのような報酬政策を設定するのが良いか検討するといった流れです。
報酬は金額だけではなく、どのような形態で支給すれば最も効果的にインセンティブを与えることができるかについても検討することが大切です。
※関連記事:「役員報酬とは?税務上の取り扱いを知って適切な支給形態や報酬水準を探る」
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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コーポレートガバナンスはどのような規模であっても企業にとって重要なものです。
今回紹介した取締役会や経営陣の人事・報酬についての強化は、特に大事な要素になりますのでしっかり把握しておきましょう。
さらに、実際に自社の取締役会の状況を確認したり、経営陣がよりインセンティブをもって活躍できるような検討を行ったりするなど、一歩進んだ実践を行ってみると、より理解を深めることができますよ。