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人事/労務働き方改革 2018/05/22

働き方改革の切り札、テレワークの実態

働き方改革は、政府が掲げた「1億総活躍社会」を実現するために、労働人口の減少や労働生産性の向上を目指した一大改革です。その働き方改革を推進するための重要な施策として注目されているのがテレワーク。「Tele=離れたところで」「Work=働く」を合わせた造語で、自宅によるテレワーク、移動中や出張先で行うモバイルワーク、サテライトオフィスでの勤務など、働く場所によって区分けされています。現在、日本でもテレワーク導入企業が急増中ですが、その実態はどうなのでしょう。一般社団法人日本テレワーク協会主席研究員の今泉千明氏に伺いました。

テレワークとは

テレワークをどう定義されていますか。
今泉氏(以下敬称略) 日本テレワーク協会では、テレワークを「情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方」と定義しています。その上で、働く場所によって「①自宅利用型のテレワーク」、「②外出先や移動中に作業するモバイルワーク」、「③コワーキングスペースなどの施設を活用するサテライトオフィス勤務」に分けられます。さらに、企業に雇用されている方の雇用型テレワークとフリーランスや自営業などの自営型テレワークと、就業形態による区分があります。

テレワークの導入は、いつ頃から始まったのでしょうか。
今泉 日本テレワーク協会の前身である日本サテライトオフィス協会の設立は、1991年になります。当時は、都心の地価高騰により郊外にサテライトオフィスをつくる動きがあり、それに呼応する形でテレワークという考え方が生まれました。日本テレワーク協会の設立は2000年で、当時は移動中や出張先のホテルで仕事をするモバイルワークが注目され、その普及推進が活動の目的でした。現在では在宅勤務という形態が加わり、先述した3つの就業形態となっています。

導入企業が増えたきっかけは、やはり働き方改革の提唱ですか。
今泉 それ以前から増えていましたが、注目されるようになったのは政府による働き方改革の取り組みです。その背景には、生産年齢人口の減少、高齢化率の増加、さらに日本の労働生産性の低さがあります。よく知られたデータですが、日本の労働生産性はOECD(経済協力開発機構)参加国の中で21位。先進7カ国の中では最下位です。こうした課題を解消するためには、現役社員の生産性を向上させるか、まだ労働市場に参加していない女性や高齢者に労働市場への参加を促す必要があります。そのための手段としてテレワークが有効との認識が広がったのでしょう。

■生産年齢人口の推移と高齢化
出典:平成28年版厚生労働白書

■労働生産性の国際比較
出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較2017年版」2017年12月

テレワーカーの実態

テレワーカー人口は、どれ程になりますか。
今泉 2015年の国土交通省の調査によると、テレワーカー人口は1100万人。そのうち雇用型のテレワーカーが790万人、自営型のテレワーカーは310万人となっています。企業のテレワーク導入率をみると、制度としてテレワークを導入している企業は13.3%と、まだまだ高いとは言えません。金融・保険業や情報通信業など、パソコン一つでどこでも仕事ができる業種・職種は導入しやすいようです。中小企業より従業員数の多い企業の導入率が高いというデータもあります。

■従業員規模別企業のテレワーク導入率
出典:総務省「平成28年通信利用動向調査」2017年7月

日本のテレワーカー人口は1100万人ということですが、世界の国々と比較してどうなのでしょうか。
今泉 かなり遅れています。柔軟な勤務形態で働いている人の比率を示したデータがあるのですが、日本は20%と世界各国と比べて見劣りします。中国では、客先への直行や直帰があたり前、家で資料をまとめるのも定着しているそうです。日本では、労働基準法が厳しい上、人事評価も時間労働制を基準にしているので、直行直帰すら難しい面があります。成果報酬型を基本とする諸外国に比べるとどうしても遅れてしまう傾向があります。

■柔軟な勤務形態の実施比率
出典:Policom社「Work Anywhere Global Survey」2017年

やはり、評価制度が導入の壁になっているのでしょうか。
今泉 一つの要因と言えます。評価制度だけでなく、労務管理をどう変えればいいかわからないという声が多いです。部下が目の前にいないと不安という声も聞かれます。日本の職場には「おい、ちょっと文化」というものがあり、上司が部下に「おい、ちょっと」と何でも頼んでしまうので、部下が目の前にいないと仕事ができないのだそうです(笑)。諸外国のように業務の範囲を明確に決めることも大事です。それからICT機器やシステムとの親和性も重要です。テレワークの推進にICT機器の活用やペーパーレス化は必須です。

テレワークの効果

どのような効果があがっていますか。
今泉 最も顕著なのは、業務生産性の向上です。例えば、客先で社内のサーバにアクセスし、顧客情報を営業トークに活かしたり、移動時間に資料をまとめたりするなどです。客先で営業マンでは対応できない専門的な質問を受け、その場で社内のSEを呼び出し、担当者も交えてWeb会議を行ったという例もあります。営業社員の多い企業では、テレワークによって会社にいる従業員の数が大幅に減ります。そこで、社内をフリーアドレス制にしてスペースの削減を図ったケース、直行直帰によって地方営業所をなくし、大幅なコスト削減を実現した企業もあります。

実際の導入事例で顕著な例はありますか。
今泉 日産自動車は、2006年に育児期・介護期の従業員を対象に在宅勤務制度を導入し、2014年に利用上限を拡充。現在は5000名を超える制度利用者がいます。男性社員の育児・家事の参加促進や育児・介護との両立がスムーズになったとの声も聞かれます。カルビーでは、週3日以上の在宅勤務が可能な先進的な取り組みを行っていますが、テレワーク導入以来、入社希望者が30%も増加しました。リクルートに大きな効果があることは多くの企業の事例で明らかになっています。

■企業アンケートによるテレワークの効果
1位 人材確保・育成
2位 業務プロセスの革新
3位 事業運営コストの削減
4位 非常時の事業継続対策(BCP)における体制整備
5位 環境負担の軽減
6位 海外拠点の事業拡大、連携・コミュニケーション強化
7位 マーケティングの強化
8位 新規事業の開発、新商品・新サービスの開発
9位 企業の社会的責任活動の強化
10位 コンプライアンスの強化
出典:平成26年度厚生労働省テレワークモデル実証事業「企業アンケート」より作成

その他、特筆すべき事例があればご教示ください。
今泉 東京江東区にあるNTTデータだいちという企業は、北は北海道から南は沖縄まで全国24都道府県の障がい者をWeb制作者として雇用しています。障がい者雇用という面でもテレワークは大きな可能性を開いたと考えています。

最後に、経理社員のテレワークについて伺いたいと思います。
今泉 経理社員のテレワーク事例もけっこうあります。経理部門は、紙資料が多いのでいかに効率よく電子化できるかが重要なテーマです。在宅勤務の日にどんな業務を行うかを明確にすることも大切。エクセルの大きなシートを扱うことが多い業務なので、ディスプレイを増やすか、大きめのものを用意すると在宅時の仕事も行いやすいと思います。

本日は、貴重なお話しありがとうございました。

※関連リンク:MJSが提案する「働き方改革ソリューション」!
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働き方改革を推進するための重要な施策として注目されるテレワーク。その実態と効果、事例について日本テレワーク協会の今泉さんに伺いました。今泉さんは1993年に富士ゼロックスのテレワーク導入プロジェクトのリーダーとしてその重責を担って以来、25年もの長きにわたり日本のテレワークの様々な事例を目の当たりにしてきた方です。経理社員もテレワークを駆使して子育てや介護と両立する時代が到来しているいま、参考になるお話が多々あったのではないでしょうか。
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