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経営事業計画/経営計画 2018/09/04

経理が起こす経営改革ストーリー 第1回「製造100年の老舗メーカーを変えた数字の力」

会社の客観的なデータである数字をまとめ、説得力のある資料をつくれるのは経理しかいません。それにも関わらず、会社内での存在は今ひとつ希薄です。そこで、実際に経理の力で業績を改善させた事例を紹介し、会社の土台としての経理の存在の大きさをクローズアップしていく新シリーズ。第1回目は、製造100年に迫るとある老舗メーカーの改善事例です。

ベテラン社員との軋轢

A社は、創業100年の老舗メーカー。大手ではできないニッチで高品質な製品を土台に高成長を遂げ、かつては売上50億円、従業員も200名ほど在籍していました。しかし、リーマンショックの頃から低価格競争に巻き込まれるなど、売上が低迷。赤字に陥る中で人員削減やコスト削減を繰り返し、生き延びてきました。

現在は、経常利益1億円〜2億円で推移。社長は5代目から6代目へと代替わりの最中です。従業員の高齢化が顕著で、若い6代目の指示に従ってくれないのが最大の悩み。6代目の推進する業務改革が進まず、新規事業や設備投資にも予算が回らない状況。何とか黒字を死守していますが、ちょっとした外的・内的要因で赤字転落の可能性をはらんだ危うい経営が続いています。

6代目次期社長は、会社全体を俯瞰できる管理部長の座にいます。同年代の経理課長とは馬が合い、改革を推進する同志的な関係となっています。そのため、管理部門は若返りが進んでいるものの、そのことがかえって他部門のベテラン社員との溝を深くしています。

ベテラン社員は、常に最高利益の時代を忘れられずにいるようです。自分たちがこの会社の屋台骨を築いてきたという意識が強く、そう簡単に改革に応じられない。しかし、製造業はこれまでのやり方を踏襲していては、確実に衰退していきます。早晩、社内改革に着手したい。そのためにどうベテラン社員たちを説得すればいいのか。それが6代目以下、管理部門のテーマでした。

経理部主体に資料作成

6代目と社内改革チームは、経理部が主体ということもあり、まず業務改善の必要性を説く資料を作成することにしました。日本全体、製造業全体の会社数、労働者数、年収の推移、同業他社の売上、利益などをまとめることで、製造業全体の趨勢と今後の見通しを可視化しました。

さらに、自社の過去からの売上、利益の推移とその外的要因・内的要因の分析。それを踏まえて、自社がどのような数字的改善を目標にすべきかを明確化していきます。そして、目標を達成するためにはどんな行動が必要か。経理を中心とした管理セクション、営業、製造担当の各部署の具体的なアクションプランを提示しました。

資料をもとにした6代目から5代目へのプレゼンテーションが行われ、フィードバックとブラッシュアップを繰り返し、内容の精度と濃度を高めていきます。そして、全社会議でのプレゼン。6代目社長として、なぜ改革が必要なのか、それは必ず社員一人ひとりのためであることを力説したのです。

社員のモチベーションが上がる

結果は上々でした。ベテラン社員からは「いつも自分たちの世代が悪いと責められているようで不快だったが、そうではないことがわかった」「新しいことをやって失敗したらリストラされると思っていた。そうではないとわかったので今後は協力したい」などの声が上がりました。中堅・若手社員からも「同じことを考えていたが、ベテラン社員の目を気にして自重していた」「何も変わらない会社だとあきらめていたが、会社が変わるかもしれないという希望が見えた」など、好意的でした。

これを機に経理を主体とした管理部門に対する他部門の眼差しにも変化が見られました。これまでは、「経理部は6代目の小間使い」という見方もあったようですが、会社の業務改善、数字改善のためには必須な部署という認識が広がりました。その結果、会社の情報が経理部に集約されるようになり、全社的な情報共有のスピードも上がります。

こうして、経理部を起点とした業務改善はスタートし、古い備品や設備を買い替える資金が確保され、社員のモチベーションも上がっていきます。新規事業への意欲も高まり、予算も見積もれるようになっていきました。改革はまだ道半ばですが、社内には明るい兆しが差し込んでいます。

※「経営を強くする戦略経理」よりアレンジを加えて作成しました。
経営を強くする戦略経理
日本能率協会マネジメントセンター
著者:前田康二郎、高橋和徳、近藤仁

関連リンク(Amazon):経営を強くする戦略経理

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経営者は、社内を俯瞰で見わたす鳥の目をもっています。しかし、社員は、それぞれ「自分の立場」で、見ている方が大半です。営業社員と総務社員では、見方や視点が違うのです。従って、業務改善という大きなテーマのもとで、意思統一を図るのは容易なことではありません。事例でもあったように、まずは客観的な数字的資料とシナリオを準備することが大切です。今回はたまたま次期社長が管理部長として、旗振り役を担ったわけですが、社内の数字データをまとめる経理部門が改革のリーダーとして、または参謀としてプロジェクトを牽引するケースも増えてくるでしょう。そのために、必要なスキルを今から身につけていきたいところです。

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