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業務全般制度改正 2021/07/06

電子帳簿保存法はポイントを押さえてしっかりマスター!(新米経理の会計奮闘記 第9回)

新米経理の会計奮闘記 登場人物
  • 山本理子

    ようやく経理担当になったものの、分からないことだらけ。毎回様々な経理問題に頭を悩ます。曲がったことが大嫌い。

  • 会計仙人

    突如現れて、会計問題をわかりやすく解説してくれる謎の仙人。仏陀の会計担当だったらしい。

経理担当者であれば、電子帳簿保存法については聞いたことがあるかと思います。しかしその印象は「なんだかハードルが高そう…」というものではないでしょうか。そんな方々に朗報です。多くの企業が導入しやすいように、電子帳簿保存法のルールが変わってきているのです。
変更のポイントをしっかり理解するために、そもそも電子帳簿保存法がどんなものなのかを「新米経理の会計奮闘記」シリーズでおなじみの山本理子と一緒におさらいしてみましょう!

書類や証憑の管理は地味に大変…


「なにこれ、どうなってるの?」
イライラした様子で、何かのファイルを机に叩きつける理子。
たまたま姿を現した会計仙人は、その音にびっくりして腰を抜かす。

「なんじゃ、またヒステリーか?やれやれ…勘弁してほしいのぅ…」

「キャー!会計仙人!一体いつからいたんですか?」

「たった今じゃよ、最近どうしておるかと思って様子を見て見たら、何事じゃ」

「領収書の整理をしてたんです」

「そんな手荒に整理するヤツがおるか」

「ち、違いますよ!私だって普段はクールに仕事してます。でも見てください、これ」
理子が仙人にファイルを見せる。
そこにファイリングしてある領収書は日付や案件もバラバラで、印字されていた文字も掠れていた。

「なるほど、ずいぶん雑な管理じゃなぁ。お主らしい」

「ちょっと、よく見てください!これ5年前の領収書ですよ。私、5年前はこの会社にいなかったんですから」

「ということは別の者がこのファイルを作ったのか」

「そうです。私が担当したファイルはこっち!」
理子が仙人に差し出したファイルは中身が綺麗に整頓されている。

「このファイルを作ってるときに、ふと、前の領収書管理の仕方はどうだったのかなと思って調べてみたんです。そうしたらこの有様で…」

「なるほど、だからイライラしておったのか」

「当然ですよ!見てください、私のこの美しい管理の仕方!ちゃんとExcelのデータとも連動してるんですよ」

「素晴らしい!お主、意外と几帳面なところもあるんじゃのぅ」

「でしょ!」
仙人に褒められて、理子もすっかり気をよくしたようである。

「しかし、この管理方法はかなり時間がかかるんではないかのぅ」

「うっ…それは…時間はかかりますけれど。でも綺麗に整理しないと、後から見返すときに困るし」

「もちろん、領収書などの証憑を管理する目的の1つは『取引のエビデンスを残す』ことじゃからの。正しく管理することは大事なことじゃ。
しかしそればかりに時間を取られるわけにもいかんというのが素直なところではないかの?」

「はぁ~。そうなんです。綺麗にファイリングしようとすると、どうしても時間がかかるんですよね。もっと楽に管理できる方法があればいいのになぁ」
肩を落とす理子に向かって、仙人がおもむろに問いかける。

「なんじゃお主、『電子帳簿保存法』を知らんのか?」

「あぁ、それってアレですよね。帳簿や証憑をデータで管理できるっていうヤツ。でも色んなルールがあるみたいだし、導入したらかえって大変そう」

「ほっほっほ。お主もまだまだじゃなぁ。それでは今日は電子帳簿保存法について解説してやろう。きっと役に立つはずじゃ」

「言われてみると、難しそうっていう印象だけで、ちゃんと調べてなかったかも…。
よし、この機会に勉強してみるわ!」

電子帳簿保存法ってメリットがあるのかな?


「まず、電子帳簿保存法が、国税関係の書類を電子データで管理するための制度だということは知っているかな?」

「それはわかるわ。
これまでは紙で保存していたものを、データで保存しておくっていう趣旨の制度ですよね」

「うむ。ではまず、電子帳簿保存法のメリットについて簡単に紹介しよう。
これを見てみるがよい」

■電子帳簿保存法のメリット
  • 物理的な紛失リスクを回避できる
  • データ検索により時間と手間が削減される
  • 物理的な保存場所が必要なくなる
  • 用紙、インク代、バインダー代、キャビネットなどの諸費用を削減できる
  • ペーパーレス化を促進できる
  • 電子帳簿保存法対応システムとの連動で経理業務自体が効率化する

「改めて考えると、これが全部実現したらかなり楽になるわよね。特にデータ検索は便利そう」

「そうじゃな。急に過去の書類が必要になった際、探すのに丸一日かかった…なんて話もよく聞くしのぅ」

「それが年度末だったらって想像するとぞっとしちゃう…」

「うむ。物理的な保存場所が必要ないというのも意外と大きいぞ。多くの会社では場所が取れなくて、貸ロッカーなど会社とは別の場所に保存しておることもある。そうすると、いざ書類が必要となったときにそこまで取りにいかなくてはならないのじゃ」

「確かに。なんだか早く導入したくなってきたわ」

「先を急がせるのぅ。しかしそう慌てるでない。次はそもそも電子帳簿保存法では『なに』を『どうやって』保存すべきを定めているのかを説明するぞ」

電子帳簿保存法が適用される書類とは?


「ところで理子よ、電子帳簿保存法で保存できるのはどんな書類か知っているかな?」

「帳簿って名前が入ってるくらいなんだから、帳簿ですよね?あとは領収書とか?あれ、請求書もだったかしら…?」

「そうじゃ。そこを今から整理しよう。そのためにはまず、データの保存方法を知ることが大切じゃ。電子帳簿保存法に定められている保存方法には電磁的記録、COM保存、スキャナ保存の3種類がある。まずはそれぞれの方法を確認してみよう」

■電子帳簿保存法で決められているデータの保存方法

電磁的記録(電子データでの保存)
PCで作成した資料を、紙で出力せずにハードディスク、DVD、CD、サーバなどに保存する。

COM保存
PCで作成した資料をCOM(電子計算機出力マイクロフィルム)で保存する。

スキャナ保存
紙の書類をスキャン、もしくは撮影したものをデータ化して保存する。

「COMっていうのは何ですか?」

「ハードディスクやCDでの保存の場合、媒体自体が経年劣化することがあるじゃろう。それを防ぐために、写真などに使うフィルムの原理を利用した保存方法じゃ。これを使えばデータの長期保存ができるが、保存に手間がかかる。よって、ほとんどの企業では『電磁的記録』と『スキャナ保存』を中心に行っておるぞ」

「『電磁的記録』と『スキャナ保存』に注目してみればいいのね。
…スキャナ保存の『もしくは撮影したもの』っていうのが気になるわ」

「それはな、デジカメやスマートフォンで撮影した画像でも大丈夫ということじゃ」

「えっ、スキャナ保存って、スマホでも大丈夫なの?複合機のスキャナ保存機能を使わないといけないって意味じゃなかったんだ!」

「そうじゃ。ただし『電磁的記録』と『スキャナ保存』にはそれぞれ対象となる証憑や書類が定められておる。それを正しく把握する必要があるぞ」

■電磁的記録(電子データでの保存)ができる書類

帳簿
仕訳書、総勘定元帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など

決算書類
貸借対照表、損益計算書、棚卸表など

証憑類
見積書、注文書、契約書、請求書、領収証など

■スキャナ保存できる書類

受領した領収書、請求書、見積書、契約書、注文書、レシート、契約の申込書、納品書、検収書など

「こんなにたくさんの書類が対象になってたのね!」

「そうじゃよ。ただし、手書きで作成した主要簿や請求書の写しは対象外だから注意せんといかん」

「わかりました。主要簿を全部手書きするってことはさすがにないし、大丈夫よね」

スキャナ保存でよく聞くタイムスタンプとは


「他にもなにかルールはあるんですか?」

「そうじゃな。次はタイムスタンプの話をしようかの」

「タイムスタンプ!聞いたことはあるんだけれど、ちょっと難しそうだなと思ってたんです」

「うむ。タイムスタンプは目的さえ理解すれば複雑なものではないぞ。
ところで理子、お主は自撮りした後、自分の顔を加工することはあるかな?」

「えーと…多少、目を大きくしてみたりすることは…ってなんで今そんな話するんですか!」

「ほっほっほ。人間の目を大きくできるんじゃったら、スマホで撮影した領収書の金額をちょっと変えるくらい朝飯前じゃな」

「まぁ、画像編集とかのソフトを使えばできると思いますけれど。でもそれって犯罪ですよね。…私の目を大きくする分には誰の迷惑にもなりませんけど」

「とまぁこのように、スキャナ保存したデータには改ざんのリスクがあるというわけじゃ」

「絶対にないとは言い切れませんね」

「タイムスタンプ要件は、この改ざんを防ぐために必要なのじゃよ」

「どういうことですか?」

「電子データにタイムスタンプを付与すると、それ以降は変更を行っていないデータとして認められるんじゃ。
つまりタイムスタンプは電子データがその時間にその内容で存在したことを証明するものなんじゃよ」

「タイムスタンプ付与後に改ざんをしたら、比較されてバレちゃうってわけね」

「だからこそ、これまでは国税関係書類をスキャンした際は、受領者の自署に加えて原本作成から『3営業日以内』にタイムスタンプを付与しなければならないなど厳しい要件があったのじゃ」

「より改ざんされにくくなるように、ルールを決めているってことね。
ところで、タイムスタンプってどうやって付与するんですか?」

「特定の機関に依頼するか、その機関と連携している会計ソフトを使うという方法があるぞ」

「なんだか手間もお金もかかりそうな予感…」

「まぁそう言うな。タイムスタンプ要件は来年から緩和されることが決まっておるしの」

「それって一番大事な話じゃないですか!」

「ほっほっほ。しかもじゃ。タイムスタンプ要件だけでなく、適正事務処理要件や検索要件も緩和されるぞ。
これにより電子帳簿保存法を導入するハードルは一気に下がる」

「そんな大切なことをもったいぶるなんて、仙人も意地悪ね」

「何を言うか。ワシは順を追って話しただけじゃ。まずは基本的な知識がないと、緩和される内容だけ説明しても意味ないじゃろう」

「それはわかるんですけれど!でも私、もう時間がないんです。今から会議なの」

「おっと、そうじゃったか。ならばこの続きは次回…」

「って、もうこんな時間!?これじゃ遅刻だわ!
ごめなさい仙人、また今度!」
ファイルを放り出して走り去っていく理子は、風のように消えていった。

「やれやれ、大分、頼りがいのある経理担当者になってきたかと思ったが、ちょっと抜けているところは相変わらずか。
まだ当分ワシのサポートが必要なようじゃな」
理子の代わりにファイルを片付けてから、仙人は雲の上に戻っていくのであった。

※関連記事:スキャナ保存制度はここに注意!要件緩和の裏に隠されたリスクとは?
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電子帳簿保存法は改ざんリスクなどを回避するため、様々なルールが存在していました。そのため、導入を躊躇する企業も少なくなかったかと思います。
しかし、近年では導入のハードルを下げるために要件も緩和されてきています。正しく内容を把握できれば、大幅な業務効率化が期待できることは間違いありません。
2022年1月から適用される改正後の要件については、次回の記事でご紹介します。ぜひチェックしてみてください。

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