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業務全般制度改正 2021/05/25

スキャナ保存制度はここに注意!要件緩和の裏に隠されたリスクとは?

2021年度の税制改正により、納品書などの資料をスキャンして保存する「スキャナ保存制度」が見直され、より簡易的に導入、運用ができるようになりました。これにより、今までスキャナ保存に躊躇していた経理担当者にとって、導入の障壁も大きく下がったと言えます。
しかしルールが緩和されたとはいえ、押えておくべきポイントはしっかり把握しておかなければなりません。今回はスキャナ保存を導入するために注意すべき点を紹介します。

電子帳簿保存法の改正と要件緩和

「電子帳簿保存法」は、保存を義務付けられている紙の国税関係帳簿や書類を、デジタルデータで保存、管理することを認める法律です。「スキャナ保存制度」はこの法律で認められているデータ保存方法の1つとして2005年に導入されましたが、要件が厳しく広い普及には至りませんでした。そのためスキャナ保存制度に対する要件はこれまでも段階を踏んで緩和されており、2021年の税制改正ではさらに大きく内容が見直されています。

■スキャナ保存制度の見直し(2021年度電子帳簿保存法改正)
  • 税務署長による事前承認制度の廃止
  • 原本証明に必要なタイムスタンプ付与期間の延長
  • 改ざん防止を目的としていた適正事務処理要件の廃止
  • データの可視性を確保するための検索要件の緩和

上記で廃止、緩和された要件は、もともとデータの信頼性を確保するためのものでしたが、複雑な手順を必要とすることで逆に導入を遠ざける要因ともなっていました。税制改正後は今までより手軽にスキャナ保存制度を活用することができるようになっていますが、間違った方法で保存してしまうと改ざんや違反を疑われることにもなりかねません。このようなトラブルを避けるためには、スキャナ保存に対する正確な情報を把握する必要があります。

スキャナ保存の対象データ

電子帳簿保存法ではスキャナ保存の他に「電磁的記録による保存(電子データ保存)」も認めています。スキャナ保存が紙をスキャンしたデータを保存することに対し、電子データ保存は紙に出力することなく初めから電子データで作成されたデータを保存するものです。対象となる書類も異なり、スキャナ保存できる書類は見積書、契約書、請求書、領収書などの「取引関係書類」、電子データ保存できる書類は「決算関係書類」となります。

スキャナ保存できる取引関係書類には「一般書類」と「重要書類」の2種類があり、それぞれの対象によって、電子化できる期限が異なっています。

該当書類 電子化期限
一般書類 注文書、見積書、自身が作成した納品書などの資金や物の流れに直接連動「しない」もの 適時に電子化する(期間の制限なし)
重要書類 契約書、領収書といった資金や物の流れに直接連動「する」書類 速やかに電子化する(おおむね7営業日以内)

上記の通り、重要書類の場合は書類をスキャンする作業に期限があるため、注意してください。

スキャナ保存の際に気を付けるべき2大要件

スキャナ保存制度の要件は前述した一般書類と重要書類のほかに、過去の重要書類である「過去分重要書類」の3種類で細かく分けられています。

※参考資料:国税庁「スキャナ保存を行おうと考えていますが、どのような要件を満たさなければならないのでしょうか。」

例えば経理担当者が注意すべき要件の一つに、「大きさ情報の保存」が挙げられます。これは紙の書類自体の偽造を回避するもので、A4以上の書類に関してはスキャナ保存する際に実寸を判別できる情報を付与する必要があるというものです。

また、「タイムスタンプ」も重要な要件の一つです。タイムスタンプとは、一般社団法人日本データ通信協会が認定した事業者が提供する、時刻証明サービスによって付与される情報です。タイムスタンプが付与されることで、そのデータは「タイムスタンプが付与されてから変更を行っていない」原本として認められます。このタイムスタンプは付与期日が書類ごとに定められています。

通常 業務サイクル後すみやかに入力(おおむね67日以内にスキャンし、タイムスタンプを付与)
例外 従業員など、書類の受領者がスキャンする場合、とくに速やかに入力(3営業日以内)

なお、タイムスタンプの付与は有料です。ただし多くの会計ソフトや複合機はタイムスタンプ機能を備えており、その場合はソフトや機器の契約料にタイムスタンプの利用料も含まれています。

スキャナ保存制度をめぐるトラブル

スキャナ保存制度の要件が緩和されたのは喜ばしいことですが、一方で改ざんのリスクが高まったとも言えます。例えば領収書を使った経費精算についても以下のような不正が予想されます。

  • 1つの領収書の使いまわし
  • 領収書の画像の改ざん

また、故意に不正を行わなかったとしても、誤って同じ領収書を保存して二重申請してしまうなど、結果的に不正となってしまうケースもあります。このようなトラブルを避けるためにはスキャナ保存に対応する際の体制を整える必要があります。

■スキャナ保存は複数人で対応を行う
スキャナ保存作業については、原則、複数人で行うことが推奨されています。複数人で対応することで、改ざんを防ぐだけでなく、ミスのチェックも行うことができます。ただし小規模事業主の場合は特例によって例外も規定されています。
なお、最終工程の「検査」については税理士が必ず担当します。

■スキャン保存作業は早めに行う
領収書の場合、タイムスタンプの付与は「3日以内」と規定されていますが、納品書などタイムスタンプの期限が「67日以内」とされている書類については処理を後回しにしてしまいがちです。こういった作業を早めに行うことで二重保存などを防ぐことができます。
また、領収書の場合は受領者に改ざんの時間を与えないよう、受領即日、もしくは翌日までにスキャンしたデータを共有するなど、社内ルールを作ることもできます。ただし、これによって「月末にまとめて提出する」いった一般的な領収書対処ができなくなることもあるので、これらを考慮したバランスのよい体制を検討する必要があります。

スキャン保存制度を導入したことで結果的に業務が増えては元も子もありません。自社の事情に合わせて適切な対応を検討するのが望ましいとともに、経費精算システムを活用するという方法もあります。経費精算システムにはタイムスタンプのチェック機能や、スキャン時に領収書の署名確認を促す機能、さらに金額や日付のチェック機能などが備わっているものがあります。このような経費精算システムを導入することで、より効率的にスキャナ保存制度を活用することができます。
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「スキャナ保存制度」は要件が緩和されたことで、より多くの企業が活用しやすい制度となりました。しかし改ざんやミスを防ぐために対策が必要という点に関しては、規定として決まっていなくても注意が必要です。これから書類のスキャナ保存を取り入れてみようという人は、一般書類のみから始めてみても問題ありません。これを機に、自社にとってどのような保存方法が一番効率的なのか検討してみてください。

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