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経理/財務会計処理 2021/01/12

「収益認識に関する会計基準」がすべての企業で適用に。処理のポイントは?

2021年4月から大企業の会計処理に大きく変化があります。日本の会計基準を設定している企業会計基準委員会(ASBJ)が2018年3月に公開した「収益認識に関する会計基準」が、原則としてすべての企業に適用となるためです。
これに伴い、売上計上の際は「履行義務」という新しい概念のもとで処理を行う必要があります。今回は、「収益認識に関する会計基準」の概要と「履行義務」の基本となる5つの手順を紹介します。

収益認識に関する会計基準とは

「収益認識に関する会計基準」は日本の会計基準を国際的な会計基準に合わせることで、国内外の企業間における財務諸表の比較を可能にする目的を持っています。では「収益認識に関する会計基準」が適用になるにあたって影響を受けるのは、どのような企業でしょうか。
■新会計基準の適用対象(抜粋) 連結財務諸表及び個別財務諸表の両方ともに、同一の会計処理を適用 中小企業(監査対象法人以外)については、引き続き企業会計原則に則った会計処理も可能

※出典:国税庁「「収益認識に関する会計基準」への対応について~法人税関係~」

上記によると、中小企業(監査対象法人以外)は従来通りの会計処理が認められるため、これに該当しない大企業が「収益認識に関する会計基準」の適用対象となります。
また、連結会計基準第17項によって連結会社間の会計基準は統一することが求められることから、大企業の連結子会社も「収益認識に関する会計基準」に対応する必要があります。ただし、連結子会社の個別財務諸表から新基準適用のための修正仕訳を入れることも認められます。

※出典:企業会計基準委員会「連結財務諸表に関する会計基準」

新基準の収益処理の5つの手順

従来の日本の企業会計における収益の計上基準は、財務諸表等規則で「売上高は、実現主義の原則に従い、商品などの販売または役務の給付によって実現したものに限る」と定められているのみで、細かなルールは決まっていませんでした。そのため、企業ごとに収益の計上タイミングが異なり、複数の会社の財務諸表を見比べても適正に比較できないという事態が起こっていました。

たとえば、3月にスポーツクラブに入会した会員の「入会金+年間利用料で7万円」という取引を計上するときに、以下のような違いが生じることがあります。

  • Aスポーツクラブ…3月に7万円全額を売上計上する。
  • Bスポーツクラブ…入会金1万円と、年間利用料部分の6万円を分離。さらに年間利用料を12カ月で分割し、3月は入会金1万円+月額利用料1カ月分の計1万5,000円を計上する。

上記の場合、3月末の決算において会員1名につき売上金額に5万5,000円の差が発生します。すべての3月入会の会員にこの処理を行えば、財務諸表上はより大きな金額になるでしょう。これでは適正な比較は難しいと言わざるを得ません。 「収益認識に関する会計基準」は、この収益の計上タイミングを明確にルール化するもので、従来の企業会計原則より優先して適用される会計基準になります。

「収益認識に関する会計基準」では、収益の計上単位、計上時期、及び計上額は「履行義務」という概念をベースにして処理を行います。

履行義務とは、取引時の契約に含まれる「顧客に提供する約束」のことを指します。つまり上記のスポーツクラブの例では「会員登録」や「施設利用」が履行義務にあたります。会計処理においては、一括で受け取った年間利用料を月ごとの履行義務に分割して計上するBスポーツクラブの処理方法をとることになります。

収益認識の基本原則は5つのステップで定められています。2021年4月以降、「収益認識に関する会計基準」の適用対象企業では以下のように収益計上の処理を行います。

ステップ1:契約の識別
顧客との間にどんな商品やサービスを売買する契約が発生したかを確認します。例えば「Aさんから、スポーツクラブの入会金と年間利用料として7万円を受け取った」というものです。

ステップ2:履行義務の識別
契約における履行義務(収益認識の単位)を識別します。
スポーツクラブの例では、Aさんに対して以下のような履行義務があるとします。
  • スポーツクラブの会員登録の履行義務
  • 1年間、施設利用を可能とする履行義務

ステップ3:取引価格の算定
契約の取引価格を計算します。値引、返金、取引の対価に変動性のある金額が含まれる場合は、その変動部分の金額を加味して取引価格を算定します。
スポーツクラブの例では、2つの履行義務を合算して7万円の取引をしたので、各履行義務について独立販売価格をもとに金額を算定します。
  • スポーツクラブの会員登録の対価として入会金1万円
  • 月ごとの施設利用料金の12ヶ月分として年間利用料6万円

ステップ4:履行義務への取引価格の配分
契約における履行義務に取引価格を配分します。
スポーツクラブの会員登録であれば、登録にかかる事務手続きに対して1万円全額を配分します。
年間利用料はスポーツクラブの月ごとの施設利用料金の前払いであることから、1年分6万円を12ヶ月で分割し、1カ月あたりの収益は5,000円と算定します。

ステップ5:履行義務の充足による収益の認識
履行義務を果たした時点で収益を認識します。
入会金は、会員登録が完了した時点で収益計上します。
分割した年間利用料は、毎月決まったタイミング(月末、月初、毎月20日など)で5,000円ずつ収益計上を行います。

影響大。セット販売時の計上例

「収益認識に関する会計基準」の適用で大きな影響を受けるのが、「商品とサービスのセット販売」です。 従来の会計処理では、一般的にサービス料金も含めて商品の売上代金としてまとめて計上することが多くありましたが、新基準では「商品代金」と「サービス料金」は別のものとしてしか扱えなくなります。そのため、収益の計上タイミングが変わる取引も発生します。
前項の収益処理の5つの手順に沿って、「顧客Bさんに5万2,000円で2年間の無料保証サービスがついたエアコンを売る」という例をもとに解説します。

ステップ1:契約の識別
顧客との間にどんな商品やサービスを売買する契約が発生したかを確認します。今回の場合は、顧客Bさんに「2年間の無料保証サービスがついたエアコン」を販売する契約が発生した、という事実確認です。

ステップ2:履行義務の識別
「商品(エアコン)を売り渡す義務」及び「無料保証サービスを2年間提供する義務」が別々にあると認識します。 売上計上するタイミングは、商品(エアコン)を売り渡した時点と、無料保証サービスを履行した時点の2つあることになります。

ステップ3:取引価格の算定
商品(エアコン)販売、及び2年間の無料保証サービスの提供に対する取引価格を5万2,000円と算定します。

ステップ4:履行義務への取引価格の配分
取引価格5万2,000円を各履行義務に配分します。
  • 商品(エアコン)本体の販売に対する価格…5万円
  • 2年間の無料保証サービスに対する価格…2,000円

ステップ5:履行義務の充足による収益の認識
履行義務を果たした時点で収益を計上します。
商品(エアコン)を売り渡す義務を果たした時点で5万円を収益計上し、2年間の無料保証サービス分は1年ごとに1,000円を収益計上することになります。
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新基準の適用は2021年4月から始まるため、既に対応を進めている企業も多いことでしょう。多くの企業で、経理部門だけではなく契約管理部門や営業部門、IT部門の業務にも影響が出るはずです。トラブルの低減とスムーズな処理方法の移行のためにも、経理部門が中心となって社内横断的な業務分析を行い、既存システムの改修や新規システム導入を視野にいれた対応をしていきましょう。

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