2019年4月1日、新元号「令和」が発表されました。1カ月後に迫った10連休で浮足立つ人が多い一方、元号変更の影響を大きく受けやすい印刷業界やIT業界などでは「ついに来たか」という緊張が走っているかと思います。同じように経理の現場でも、新元号への対策は欠かせません。2017年12月1日に今上天皇の譲位が公になって以降、様々なシステムや資料の元号切り替えが不安視されてきましたが、それがついに間近に迫った今、経理担当者はどのように対処していけばよいのでしょうか。そこで今回は、経理業務の中では特に影響が大きいとされる「帳票」の元号変更について対策をまとめていきます。
税務、会計、給与など、和暦を使用している帳票を洗い出す
帳票とは仕訳帳や総勘定元帳などの「帳簿」と入出金伝票や見積書といった「伝票」の両方をまとめたものです。帳票は複数の部署や取引先から発行されるため、発行元ごとに西暦・和暦の表記が混同しているケースも少なくありません。このことから、元号変更による経理業務への影響が特に大きいとされています。以下に代表的な帳票をピックアップしました。
■帳票の代表例
- 領収書
- 請求書
- 納品書(出荷伝票)
- 見積書
- 四半期報告書
- 有価証券報告書
- 給与明細
- 仕入伝票
上記でご紹介したものは、帳票のごく一部です。しかし、元号変更の対応には和暦を用いているすべての帳票を洗い出す必要があります。
さらに、ひとつの帳票の中でも、「申込日」、「契約の有効期限」、「作成年月日」、下請け業者に委託する際の「発注年月日」など、確認する箇所は様々です。作業時間が予想以上にかかってしまう可能性が高いことも考慮しておきましょう。
なお、帳票とは別に和暦の使用が多い書類として、行政関係の提出書類が挙げられます。こちらも確認が必須です。以下が代表例です。
■行政、役所の申請書など
- 法人税申告書などの税申告関連書類
- 健康保険、厚生年金保険適用関係届書、申請書
- 年末調整に関わる申告書
- 証明書など
なお、経済産業省は、行政の新元号への対応については以下のように見解を示しています。
- 行政機関の情報システムについては、改元日までの改修を基本とする
- 改元日までに情報システムの改修が間に合わなかった場合、提出するデータや文書は「平成」表記のままでも有効なものとして受け付けることを予定とする
※参考資料:
改元に伴う情報システム改修等への対応について
ただし、上記の受付期限などは現時点では不明なため、申請の直前になって慌てないためにも経理に関わる書類は事前にピックアップしておきましょう。
内部の情報共有で元号変更をスムーズに
和暦を使っている帳票を探し出した後は、元号変更の情報共有を行います。経理部で管理している帳票を改修することは簡単ですが、他の部署が発行する帳票についても変更は徹底しなければなりません。担当者に該当の帳票を直接見せるなどして、5月1日以降は新元号「令和」を使うようにと念を押しましょう。
また、今回の元号変更を機に、業務で使用する日付は和暦から西暦に統一することをおすすめします。取引先の意向や役所関係の書類などを考慮すると、和暦を完全にゼロとすることは難しいかもしれません。しかし可能な限り減らすことで、今回の元号変更に対するミスの回避だけでなく、今後の業務効率化にもつなげられます。
情報システム改修の対応例
帳票のほかに経理業務の元号変更対応に関することとして、会計ソフトの問題があります。これについては経済産業省が、会計ソフトを含む民間企業の情報システムの改修に対して、2019年3月1日に「改元に伴う情報システム改修等への対応について」という文書を発信しています。参考までに、その内容を以下でまとめました。
《新元号公表前に行う作業》
- 和暦の使用状況の調査とシステム改修計画の策定
- 他のシステムとの連携における連携先の対応方針の確認
- プログラムの修正と動作テスト
- 修正したプログラムの適用などのリリース作業のリハーサル
《新元号公表後に行う作業》
- 新元号の適用(仮元号から新元号に置き換える作業のほか、OSのアップデートなども含む)
- 印字や表示を含め、処理が適正に行われているかどうかのテスト
- 他システムとの連携のテスト(動作確認、エラー修正、再確認など)
※参考資料:
改元に伴う情報システム改修等への対応について
経理の豆知識:新元号によるソフトウエアの改修費用の仕訳項目とは
会計ソフトなど、自社でソフトウェアを構築している場合、改修費用は「修繕費」または「資本的支出」のどちらかで会計処理することが一般的です。
国税庁は2つの仕訳の基準について、以下のように見解を示しています。
ソフトウエアに係る資本的支出と修繕費
37-10の2 業務の用に供しているソフトウエアにつきプログラムの修正等を行った場合において、当該修正等が、プログラムの機能上の障害の除去、現状の効用の維持等に該当するときはその修正等に要した費用は修繕費に該当し、新たな機能の追加、機能の向上等に該当するときはその修正等に要した費用は資本的支出に該当することに留意する。
※参考資料:
資本的支出と修繕費等
つまり、元号のみ改修するケースでは「修繕費」、改修に合わせて元号以外の機能も変更する場合は「資本的支出」として処理することが求められていることになります。4月から会社のシステムを改修する会社の経理担当者は、自社の改修がどちらに当てはまるのか確認しておきましょう。
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新元号の改修に関連する経理業務についてご紹介しました。一見些細に思える日付部分ですが、見落としやすい上、後から見つけた際に致命的となるケースもあります。後発するトラブルを防げるよう、経理担当者は他の部署にも徹底して注意を促すようにしましょう。その上で、西暦への統一も働きかけてみてはいかがでしょうか。必須作業を通してプラスアルファの働きを心がけることが、デキる経理の第一歩です。