経理としてスキルアップしたいが、理論や知識の習得だけではつまらない。そんな方も多いことでしょう。そこで、実務に近い形の演習問題を出題し、皆さんにチャレンジしてもらうのがこの企画です。自分なりに考えることが大事ですので、すぐに答えを見ず、まずは問題と格闘してみてください。出題は、「経営を強くする戦略経理(前田康二郎・高橋和徳・近藤仁)著」の中からピックアップしてアレンジを加えています。
経営を強くする戦略経理
日本能率協会マネジメントセンター
著者:前田康二郎、高橋和徳、近藤仁
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経営を強くする戦略経理
問題:
以下のような会社の赤字事業や店舗は廃止すべき?
|
卸売り |
店舗 |
本社 |
合計 |
売上高 |
1,000 |
1,000 |
|
2,000 |
変動費(原価) |
800 |
600 |
|
1,400 |
粗利 |
200 |
400 |
|
600 |
固定費(経費) |
100 |
370 |
100 |
570 |
直接利益(本社費負担前) |
100 |
30 |
−100 |
30 |
本社費負担金 |
50 |
50 |
−100 |
0 |
本社費負担後利益 |
50 |
−20 |
0 |
30 |
(単位:万円)
A社は卸売りと店舗を経営する会社です。事業が複数にまたがると、どの部門が利益を出してどの部門が業績不振なのかを把握するために、部門別
損益計算書を作成することになります。部門別の数値が明確になると、赤字事業は即撤廃…そんな経営判断を下す経営者もいるかと思いますが、さて、上記の場合、赤字を抱えている店舗は廃止すべきなのでしょうか。
本社費とは
その前に、上記の表に見慣れない項目があるのに気づきましたか?そう、「本社費負担金」です。この「本社費」とはいったい何のことなのでしょうか。
部門別損益計算書を作成する上で問題となるのが本社の経費です。役員報酬、総務や経理などバックオフィス系の社員の給与、本社の家賃、光熱費、リース料など、売上を生まない本社の経費をどうするのか。そこで、これらを各部門に適正に配賦したのが本社費です。
どのような基準で配賦するのかは、部門別売上高の比率、部門別人件費の比率、店舗別売り場面積の比率など、会社によってまちまちです。しかし、基準をどうするかより、本社費の配賦を行うと、経営の実態が見えづらくなると言う課題があります。
このことを踏まえ、再度考えてみてください。
気になる答えは…
答え
店舗は廃止すべきではない
店舗は確かに赤字事業ですが、本社費負担前は30万円の利益が出ています。これが会社全体の利益にもなっているので、仮に店舗を畳んだ場合、会社全体の利益が0になってしまいます。店舗は本社費を負担することで赤字になっていたのであり、本社費を一部吸収しているとも言えるのです。
このように、損益計算書は、単純に赤字か黒字かなどの表面的なことだけでなく、そこに潜在する様々な課題を探し出し、改善につなげていくためのツールです。そのためには、経理の目を養う必要があります。
では、今回のケースでは、どこに着目する必要があるのでしょうか。
経理の目でチェック!
店舗は廃止すべきではありませんが、本社費負担前の利益率は3%(利益30万円÷売上1,000万円)となっており、卸売りの10%(利益100万円÷売上1,000万円)に比べてかなり低いと言えます。この原因は何か、下記の観点でさらに詳細な数字を検証していく必要があります。
- 固定費が多すぎないか?
固定費を構成する販売費及び一般管理費の数値構成の正確さの確認
- 粗利率40%(粗利400万円÷売上1,000万円)は妥当か?
原価と売価の適正、商品力向上の余地、同業他社との比較などの検討
- 固定費に比べて売上は少なすぎないか?
同業他社との比較、なぜ売上が少ないかの検証
- 本社費負担金100万円(卸売り+店舗)は妥当か?
そもそもなぜこの金額になったのかを紐解く
それぞれの数値の時系列の比較、同業他社との比較、固定費を構成する販売費及び一般管理費の数値の調査などを行い、3%と言う低い利益率の要因を探り、改善策を見出していく。それが、経営層に信頼を寄せられる経理の仕事です。
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損益計算書は、ある一定期間に会社が出した成績を数値化してまとめたもの。そこには、様々な課題が潜んでいます。単に数値を作るだけでなく、それぞれを分析し課題を発見する経理の目を養ってください。そのためには、知識を詰め込むだけでなく、より実践に近い形で熟考すること。演習問題は有効な勉強のひとつです。上場企業の財務諸表は、誰でも簡単に見ることができます。日頃から気になる会社の財務諸表を分析する習慣を付けると良いでしょう。