業務全般スキルアップ/キャリアアップ 2018/06/19
ベテラン税理士が伝授!新米経理が今やるべきこと
この春から経理部門に配属されて数カ月、未だ戸惑いの連続という方も多いのではないでしょうか。近年の経理は、専門的な知識とスキルが必要なことに加え、IT化の波にさらされ業務自体も大きく変わろうとしています。将来を見据えたとき、今、何をやるべきか、どんな学びを実践するべきなのか。多くの新米経理が持つこの悩みについて、税理士として30余年、数多の顧問先をもち企業の経理部門とも緊密な関係を築いている岡田健二税理士に伺いました。
経理の仕事は、何よりも正確さ
ITの指南役を目指す
会計ソフトの入力も新米経理の役割ですね。
岡田 はい。ただし、入力業務はアルバイトなど非正規雇用の方にまかせる企業が増えています。入力業務だけでは、自分の価値を高めていくことは難しいでしょう。新米経理の仕事としては、請求書の発行や入金チェック、経費精算などがあげられますが、これらの業務は会計ソフト、クラウド会計、社内システムが代替する時代になっています。新米経理の仕事が著しく減っているのが現状です。大変な時代と言えます。
岡田 専門的な業務は、私のような社外の顧問税理士などが担うケースが多いでしょう。ルーティンワークはアルバイトやITに代替される傾向があります。普通の知識やスキルでは、存在していないに等しく高い価値を会社に提供することが難しい時代と言えます。あらゆる業界で同様のことが起きているのではないでしょうか。しかし、新米の時期は何もできないのが当たり前です。そんな時期にやるべきことは何なのでしょうか。
岡田 ひとつの提案なのですが、今、多くの企業で経理部門のIT化が進んでいます。なのでITの指南役を目指したらどうでしょう。社内で一番ITに精通した人間になる。年配の社員はITに疎い傾向がありますから、新米でも重宝されるはずです。様々な会計ソフトやERP、基幹システムについて調べ、会社に最適な構成を提案するわけです。経理部のIT推進委員長のようなイメージです。なるほど、一気に存在感が高まります。
岡田 これから経理部のIT化はますます進展します。ITコンサルタントと顧問契約する企業も多いぐらい、企業は自社に合ったシステムの構築を求めています。自社の業務の流れや特徴を把握した社員がこの任務を担ってくれたら非常に助かるのではないでしょうか。もちろん、最初からITコンサルタントに匹敵する存在になるのは無理があると思います。まずは、会計ソフトの各メーカー比較など、簡単なことからはじめると良いでしょう。自社の財務諸表を読む
経済や簿記の勉強も必要でしょうか。
岡田 マクロ経済や世界情勢について学ぶより、身近な数字をもとに勉強した方がスキルアップになるでしょう。そういう意味でも、自社の財務諸表を読めるようにすることが大切です。これは、経理担当だけでなくすべてのビジネスマン必須だと思います。自動車の運転免許証と同じで、これが読めないとビジネスマンとしての公道を走ることができません。財務諸表は、難しいという意見もよく聞かれます。
岡田 まずは、自分事として捉えることから始めると良いと思います。自分の販売している商品はいくらで仕入れているのか、それに対して販売価格は適正か。営業利益率はどれくらいか、自分の給料はそれに見合う金額なのか。自社の財務諸表を読むことで、自分があげている数字の意味を知ることができます。また、同業他社の財務諸表と比較することで、自社の実力を把握することも可能です。経理のようなバックオフィスは、直接売上をあげることができません。
岡田 確かにそうです。財務諸表に直接数字として表れてきません。その代わり、会社の様々な数字や秘匿情報が集まってきます。当然ですが、それらの情報は決して口外してはいけませんし、知っていても知らないふりを貫くこと。その積み重ねが社内の信用を築くのです。営業マンは、売上をつくる。経理担当は、信用を築くのが仕事です。税理士は、社長のコンサルタント
税理士の仕事や役割も変わってきているのでしょうか。
岡田 記帳代行という業務は、ほとんど価値がなくなっています。都心で開業している税理士と私のように田舎町で営む税理士では違うかもしれませんが、経理業務からコンサルティング業務に変わってきていると思います。中小企業の社長は常に孤独です。誰にも話せない悩みを抱えて苦しい思いをしているケースが非常に多いのです。そうした方々に寄り添い、じっくりと耳を傾ける。話を聞くことも大切な仕事となっています。相続税など、専門性を打ち出すべきという意見を聞いたことがあります。
岡田 それは、顧客の数が多い都心のケースでしょう。顧客が多ければ専門性を高めた方が選んでもらいやすくなります。顧客の数が少ない地方都市の場合は、専門性を高めると受注機会が単発になってしまいます。相続税に特化すると、申告書作成代行で終わってしまいますから。地方は同族会社が多いので、一族全体の一生涯のパートナーになるほうが得策です。会社の税務課題を中心に、不動産取得や事業承継の相談に乗ったりするうちに、一族の誰かが起業することになり、そちらの相談にも乗るというイメージです。ライフ・タイム・バリュー(LTV)という、顧客の生涯にわたって良い関係を継続して利益を重ねていくわけです。大変参考になるお話、ありがとうございました。
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税理士として30年以上にわたり、常に多くの顧問先を抱え多忙な日々を送っている岡田税理士。長く一線で活躍してきた方は、必ず自分の強みを活かす戦略をもっています。戦略を手に入れる第一歩は、自分の顧客を明確にすることです。企業の経理担当にとっての顧客とは、経理部の上司であり、他の部署の社員です。岡田税理士の提案にあったように、まず正確な仕事を積み重ね、顧客の信用を得ることです。自分の強みを見出し、信用を積み重ねていくことで、顧客は社員から社長に替わっていく。そんな道筋を描いてみてはいかがでしょうか。