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経理/財務税務(税金・節税) 2025/07/01

相互関税で日本に24%上乗せ?トランプ関税と併せて見直したい関税の経理実務

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海外との取引において関税は無視できない税金です。
第2次トランプ政権による唐突な関税導入(いわゆるトランプ関税)で、2025年は関税を取り巻く世界の状況が大きく変動しています。
今回の記事では、経理担当者として押さえておきたい関税の基礎知識と、相互関税をはじめとするトランプ関税の内容について解説します。

関税とトランプ関税の基礎知識

関税とは、国境を通過する輸入貨物に対して課される税金のことです。
日本では関税法により輸入者が納税義務を負うと定められており、原則として仕入書または船荷証券に記載された荷受人が納税義務者となります。
関税の主な目的は外国で生産された製品との競争から国内産業を保護することです。
納付すべき関税額の計算は以下の通りです。

納付すべき関税額 = 課税価格 × 関税率

課税価格とは、取引価格(現実支払価格)を基礎に、取引価格に含まれていない仲介料、ロイヤリティ、運賃などの一定の加算要素を加えた価格のことです。
また、関税率には以下のように様々な種類があります。

  • 物品と原産地によって細かく設定される基本税率
  • WTO加盟国に適用されるWTO協定税率など、通商協定上の関税率
  • 特定の国と国の間で通常より低い関税率に減免した関税率を定めたFTA特恵税率
  • 二国間交渉による税率

トランプ政権による関税への追加措置
2025年、第2次トランプ政権が関税に関する追加措置を行いました。
これは通称「トランプ関税」とも呼ばれ、注目を集めています。
この背景には、トランプ政権が採用するアメリカ・ファーストの経済政策があります。
従来の多国間貿易協定による安定した関税体系ではなく、二国間交渉による変動的な関税体系を採用することで、アメリカに有利な貿易条件の獲得を目指しています。


トランプ関税における重要な措置
第2次トランプ政権が導入した関税措置の中で、特に重要なものは以下の通りです。

【ベースライン関税(一律10%)】全輸入国・全商品への追加課税
米国では、2025年4月からすべての国の全輸入品に対して一律に10%の追加関税を課すことになりました。
これは国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく措置であり、品目や原産国を問わず一律に適用されます。
重要なのは、この10%が追加関税である点です。
従来適用されている関税率への上乗せとなるため、米国以外の企業の関税負担が大幅に増加します。
また、従来は関税が課されていなかった品目にも一律10%の関税負担が発生することになります。

【相互関税(日本24%、90日間停止中※2025年7月現在)】国ごとの関税における不利の是正
ベースライン課税に加えて、各国に課される上乗せ関税も導入されます。
これは、米国の立場で不利となる関税措置を対等な水準に設定するために相互主義で対応することを目的とした措置で、相互関税と呼ばれています。
相互関税の税率は国によって異なり、例えばEUは20%、日本は24%です。
この税率は独自の手法で計算されており、各国の貿易黒字額、実効関税率、非関税障壁の総合的評価により決定したとされています。
しかし、相互関税案の発表直後から世界の金融市場は大きく動揺し、日本でも多くの製造業の株価が下落しました。
この市場混乱を受けて、トランプ政権は市場の安定化を理由に相互関税の90日間停止を決定しました。
これにより日本でも2025年4月から7月までは適用が停止されており、2025年7月現在では相互関税は発動されていません。
ただし、90日間停止は政策の見直しではなく一時的な執行猶予であることが明確にされているため、企業担当者は間近に迫る発動に備え、相互関税24%を前提とした財務計画の策定や、業績への影響確認などの準備を行っておく必要があります。

なお、これらの関税に関する変更は、通常の法改正を踏まない大統領令によるものであることから、今後も頻繁に改正・適用停止などが起こることが予想されます。
正しい対応を行うために、最新情報を随時チェックしておきましょう。
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関税に係る会計処理のポイント

実務におけるトランプ関税の影響を最小限にするために、企業担当者は基本的な関税への理解を深めておく必要があります。
ここからは、関税に関する会計処理のポイントをお伝えします。


関税の勘定科目と仕訳
輸入商品に直接関連する関税は、その商品の取得原価の一部として処理することが原則となっています。

仕訳例
商品100万円、関税24万円の場合。
借方 金額 貸方 金額
商品 124万円 現金預金 124万円

関税の負担が増加した場合の在庫評価
関税による原価上昇は、在庫評価に直接的な影響を与えます。
特に、関税が増えたことで関税込みの原価が正味実現可能価額を下回る場合は、会計上商品評価損が計上される可能性があります。
正味実現可能価額とは、商品・製品の販売価格から販売にかかる費用等を差し引いて、最終的に手元に残ると見込まれる金額のことです。


原価100万円の商品が2つあり、商品Aは関税込み原価110万円、商品Bは124万円とする。
正味実現可能価額115万円のとき、評価損は以下の通り。

商品A:関税込み原価110万円 < 正味実現可能価額115万円 → 評価損計上なし

商品B:関税込み原価124万円 > 正味実現可能価額115万円 → 評価損9万円

このように、商品自体の原価は同じ100万円であるのに、関税を考慮すると商品Aは評価損が計上されず、関税負担が多い商品Bは評価損が計上されることになります。


関税の認識時点
関税債務は輸入許可時点で債務が確定するため、実際の支払い前であっても、会計上は費用として認識する必要があります。
そのため、商品代金・関税の支払いが期を跨ぐ場合、会計上の認識時期を誤らないように注意が必要です。
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関税に関連する税務処理のポイント

続いて関税に関連する税務処理のポイントをお伝えします。


関税における原産地規則
関税を考える際は輸出入する物品の原産地を決定する必要があります。
原産地規則とは、この場合に対象の物品がどこの国に属するものなのかを決めるためのルールのことです。
原産地規則の3大構成要素は以下の通りです。

実体的要件 原産地基準 相手国で特恵待遇を受けるための必要な生産が行われていること。
  • 完全生産品:生産が1つの国で完結する物品。
  • 原産材料のみから生産される物品:主な材料が1つの国で完結しているもの。
  • 実質的変更基準を満たす物品:最後に実質的な変更を加える加工や製造を実施した国を原産地とする。関税分類番号(HSコード)が変更になった場合に適用あり。
積送基準 運送途上で上記の原産地基準が失われていないこと。
手続的要件 手続的要件 実体的要件を満たしていることを現地税関で証明していること。
単純に1つの国で生産された完全生産品であれば関税の考え方における原産地を決定するのは簡単ですが、自動車やコンピューターなどのように複数の国から材料の調達や製造が行われているものは原産地の決定も複雑になります。
この場合、実質的変更基準を利用して、関税分類番号に変更があるような加工などが行われたかどうかという基準でその国における関税を計算することになります。
例えば、中国で製造したパソコンを日本で最終検査・パッケージングのみ行う場合、検査工程が製品の本質的特性を変更するものでなければ、日本原産として認められない可能性があります。
このように、原産地規則の規定は関税を考えるうえで重要な要素です。
特にサプライチェーンが複雑化している最近の商品の関税計算は一筋縄ではいかないことが多いため、注意しましょう。


移転価格税制
移転価格税制とは、多国籍企業が海外の関連会社との取引などを通じて所得を移転することを防ぐための制度です。
第三者との取引時の適切な金額を判断基準とし、関連会社との取引などで設定した価格が逸脱している場合には、適切な価格の取引で発生する税額との差額を課税します。
第三者ではない関連企業との国際取引について取引金額の変更を行う際は、移転価格税制上のリスクを伴うため、関税込みでいくらの金額で取引するのが妥当であるかを慎重に検討する必要があります。
さらに、取引規模が大きい取引については、企業自身が国際取引の機能・リスクなどを分析し、その価格が妥当であることを示す文書化が必要となります。
移転価格税制の対策は資料が多く求められるほか、専門的な知識も必要となることから、専門家のアドバイスを受けながら対策を進めることが推奨されます。


付加価値税(消費税)
付加価値税とは、日本における消費税のことです。
関税の税額を考える際に使用する課税価格は、消費税を計算する際の課税標準と多くの場合で同じ要素となるため、関税は消費税の計算の基礎と似た考え方となります。
なお、海外から輸入した商品を日本で購入する場合の消費税の課税標準は関税込みとなります。
そのため、関税の増減は消費税の増減にも大きな影響を及ぼすことになります。

輸入商品に係る消費税 =(取引価格 + 取引価格 × 関税率)× 消費税率

日本ではインボイス制度によって、インボイスを登録していない外国法人に支払った消費税については、仕入税額控除に制限が生じます。
関税の増加により輸入コストが上昇する中、消費税の仕入税額控除が制限されることで、実質的な税負担はさらに重くなります。
そのため、新たに海外の企業と取引を始める場合は、関税、消費税などを総合的に検討したうえで、取引金額の設定をするようにしましょう。

※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
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トランプ関税は日本企業の取引にも大きな影響を与えることになります。
企業担当者として、改正情報を継続的に収集し、改正に柔軟に対応できる体制を構築しておくことが重要です。

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