HOME 経理/財務税務(税金・節税) 経理が知っておくべき事業承継税の基礎知識
経理/財務税務(税金・節税) 2018/05/08

経理が知っておくべき事業承継税の基礎知識

この記事をシェアする

東京商工リサーチによると2017年に休廃業・解散した企業は実に2万8000社を超え、倒産件数の3倍以上となっています。また、経営者の平均年齢は前年の61.19歳から61.45歳に上昇。これから引退を迎える経営者も多く、年間3万社近くが休廃業に追い込まれる恐れがある「大廃業時代」が到来すると言われています。そうした中、事業承継税制の緩和による事業承継を後押しする動きが鮮明となっています。そこで、今回は経理担当が知っておくべき事業承継税制平成30年度改正のポイントをご紹介します。

事業承継税制とは

事業承継税制とは、中小企業における経営者から後継者への承継に対する相続税・贈与税の納税猶予及び免税に関する制度のことです。相続税・贈与税の対象となるのは、会社の非上場株式や持分会社における出資。中小企業の経営者は、自身が株式の大部分を保有するケースが多いため、後継者に引き継ぐ際は株式の承継が重要となります。

事業承継税制が生まれた背景には、先述したように経営者の高齢化による「大廃業時代」への懸念があります。言うまでもなく日本の企業は、ほとんどが中小企業です。中小企業の経営者が廃業という選択を下す大きな要因が後継者不足と、後継者がいたとしても相続税・贈与税の負担による事業承継の断念です。

こうした課題を解消するため、平成20年に「中小企業経営承継円滑法」が制定され、平成21年の税制改正において現行の事業承継税制として整備されました。しかし、この制度を利用するためにはいくつかの適用要件があるのに加えて、経済産業大臣への申請認定が必要となります。中小企業庁によると、平成28年9月末時点での認定件数は相続税959件、贈与税626件と、この制度はまだあまり活用されていないのが現状です。

現行の事業承継税制の概要

現行の事業承継税制の認定件数が少ない要因はどこにあるのでしょうか。それを浮き彫りにするために、まず『現行制度』の概要をみてみましょう。経済産業省の要望書では、事業承継税制の概要を次のように規定しています。

非上場株式についての相続税・贈与税猶予制度

「後継者が非上場会社の株式等を先代経営者から相続又は贈与により取得した場合において、都道府県知事の認定を受けたときは相続税・贈与税の納税が猶予及び免除される措置」

平成30年度税制改正に関わる経済産業省要望より抜粋



【相続税の納税猶予制度】
  • 後継者が納付すべき相続税のうち、先代経営者から相続により取得した非上場株式等(注)に係る課税価額の80%に対応する額が納税猶予される。
    (注)相続前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権総数の2/3に達するまでの部分に限る。

【贈与税の納税猶予制度】
  • 後継者が納付すべき贈与税のうち、先代経営者から贈与により取得した非上場株式等(注)に係る課税価額の全額に対応する額が納税猶予される。
    (注)贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、 発行済議決権株式総数の2/3に達するまでの部分に限る。

  • 申告期限から5年間は、以下の要件を満たして事業を継続することが必要(満たせなかった場合は、全額納付)
    • 雇用の8割以上を5年間平均で維持
    • 後継者が代表を継続
    • 先代経営者が代表者を退任
      (有給役員として残留可)
    • 同族で過半数の株式を保有
    • 後継者が同族内で筆頭株主
    • 対象株式を継続して保有
    • 上場会社、資産管理会社、風俗関連事業を行う会社に該当しないこと等

  • 5年経過後は、以下の要件を満たすことが必要。
    • 対象株式を継続して保有
      (譲渡した場合は、譲渡した株式の割合分だけ納付)
    • 資産管理会社に該当しないこと
      (満たせなかった場合は、全額納付)

平成30年度税制改正に関わる経済産業省要望より抜粋



現行の事業承継税制の課題

上記にあげた事業承継税制の概要をみると、適用要件に厳しい面があることは否めません。例えば、相続税・贈与税の納税猶予が認められた場合も、猶予の適用を受け続けるためには申告期限から5年にわたり、雇用の維持や経営者の継続、株式の保有など、長期的に同じ経営体制を維持する必要があります。5年間の要件を満たせなかった場合は全額納付になるのも厳しいという意見が聞かれます。

もともとこの税制は、大廃業時代に備え中小企業の事業承継を促進させるための制度です。平成21年に創設されて以来、要件の緩和や手続きの簡略化などの改正が重ねられてきたものの、申請認定件数は思うように伸びていません。事業承継税制の抜本的な改正が求められています。そうした中、平成30年の改正ではどのような見直しが行われたのでしょうか。改正のポイントをみてみましょう。

平成30年の主な改正ポイント

今回の改正は、平成30(2018)年1月1日から39(2027)年12月31日までの10年間における相続税・贈与税が対象の特例措置となります。

  • 納税猶予対象株式の上限を撤廃
    従来の事業承継税制では、納税猶予の対象となる株式は、相続税・贈与税とも発行済議決権株式の2/3とされていました。平成30年度の改正では、この上限が撤廃され、後継者が取得したすべての株式が納税猶予の対象となります。

  • 納税猶予税額の割合が100%に
    従来の税制では、納税猶予の割合が贈与税100%、相続税80%でしたが、平成30年度からは相続税も100%となりました。相続税、贈与税とも全額納税猶予となる大幅な改正が行われました。

  • 適用対象者の拡大
    従来では、代表権を持っていた先代経営者1f人から新たに代表者となる後継者1人への承継に限られていましたが、今回の改正で、先代経営者以外からの承継や最大3人までの後継者への承継も可能となりました。ただし、後継者は代表権を有し、10%以上の株式を保有しているなどの要件があります。

  • 雇用維持要件80%の緩和
    これまでは、相続税・贈与税の申告期限後5年平均で、従業員数の80%を維持する必要があり、これを下回ると猶予されていた税額を全額納付しなければなりませんでした。今回の改正では、都道府県に理由書を提出することで80%を下回っても、税額猶予の必要がなくなりました。雇用維持要件は事実上撤廃と言えます。

  • 税額の算出方法を改正
    これまでは、株式の売却や会社の合併・廃業した場合、納税猶予は打ち切られ、事業承継時の株価に応じた相続税額または贈与税額を納付する必要がありました。しかし、会社の合併・廃業時は株価が下がっているケースが多くみられます。今回の改正ではその点を考慮し、廃業時点の株価によって税額を算出し、承継時との差額があればその分は免除されます。

以上、主な改正ポイントをご紹介しました。政府の試算によると2025年には6割以上の中小企業で経営者が70歳を超え、このうち現時点で後継者が決まっていない中小企業は127万社もあるそうです。今回の改正には、中小企業の世代交代を後押しする明確な意志が感じられます。

※関連リンク:中小企業の事業承継を支援する「株式会社MJS M&Aパートナーズ」
**********

先日、全国の税理士が日本税理士会連合会の専用サイトを通じて、事業承継の仲介で連携するとのニュースが発表されました。日本経済新聞の報道によれば、事業承継を望む企業と買収して事業を拡大したい企業を、日本税理士会連合会に登録している税理士がマッチングするとのこと。民間のM&A仲介会社に依頼する資金のない企業を含め、多くの需要が見込まれるそうです。事業承継という社会的な課題に税理士の手腕が求められている好例と言えるでしょう。自分の強みを見極めていきたい企業の経理担当も、事業承継というジャンルは大いに注目すべきだと思います。

人気記事ランキング - Popular Posts -
記事カテゴリー一覧 - Categories -
関連サイト - Related Sites -

経理ドリブンの無料メルマガに登録