この記事のポイント
- 2026年12月1日施行の改正公益通報者保護法では、通報を理由とする解雇・懲戒処分への刑事罰の新設や、一定期間内の処分に関する推定規定の導入により、通報者の保護が強化される。
- 公益通報者の保護対象にフリーランスや契約終了後1年以内の元フリーランスが追加され、正当な理由のない通報妨害・通報者探索も禁止される。
- 企業には、公益通報対応業務従事者の適切な指定・管理や通報者の秘密保持、社内規程の見直しなど、実効性のある内部通報体制の整備・運用が求められる。
2026年12月1日に施行される改正公益通報者保護法では、公益通報を理由とする解雇・懲戒処分への刑事罰の新設や、一定期間内の解雇・懲戒処分に関する推定規定の導入など、通報者の保護が強化されます。
また、フリーランスへの保護対象の拡大や通報妨害・探索の禁止など、企業が見直すべき事項も少なくありません。
今回の記事では、改正公益通報者保護法の主な変更点と、経理・管理部門が押さえておきたい内部通報体制の整備や実務対応について解説します。
2026年12月施行 改正公益通報者保護法の全体像と主要改正ポイント
公益通報者保護法とは、企業などの事業者における法令違反行為を通報した労働者等を、不利益な取り扱いから保護するための法律です。
通報を理由とする解雇の無効や不利益な取り扱いの禁止などを定めるとともに、一定の事業者に対して内部通報体制の整備を義務付けています。
公益通報者保護法改正の背景
公益通報者保護法の改正法は2025年6月に成立・公布され、2026年12月1日に施行されます。
2022年施行の前回改正では、従業員301人以上の事業者に対して内部通報体制の整備が義務化されましたが、今回の改正では、制度の実効性をさらに高め、通報者の保護を強化するための見直しが行われました。
消費者庁が掲げる改正の大きな柱は以下の4つです。
- 体制整備の徹底と実効性の向上
- 公益通報者の範囲拡大
- 公益通報を阻害する要因への対処
- 不利益な取り扱いの抑止・救済の強化
企業には、単に内部通報窓口を設置するだけでなく、窓口が適切に機能し、通報者が報復や不利益な取り扱いを受けない体制づくりが求められます。
改正前後における主要な論点
今回の改正による主な変更点を、改正前と比較して整理しました。
| 論点 |
改正前(現行) |
改正後(2026年12月1日施行) |
| 体制整備の強制力 |
従事者指定義務違反は指導・助言・勧告まで。 |
勧告に従わない場合は是正命令、命令違反は30万円以下の罰金(両罰規定)。立入検査権を新設。 |
| 解雇・懲戒処分 |
通報を理由とする解雇は無効、懲戒も無効となり得る。 |
刑事罰を新設(個人:6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人:3,000万円以下の罰金)。一定期間内の処分について推定規定を追加。 |
| 公益通報者の範囲 |
労働者(正社員・パート・派遣等)、役員、退職後1年以内の退職者。 |
特定受託業務従事者(フリーランス)、契約終了後1年以内の元フリーランスを追加。 |
| 通報妨害・探索 |
法律上の直接的な禁止規定なし。 |
正当な理由のない通報妨害・通報者探索を禁止。不通報合意等は無効。 |
保護対象者の拡大と通報妨害・探索の禁止
公益通報者保護法の保護対象者として、これまで対象とされていた労働者や役員、退職者に加え、特定受託業務従事者(フリーランス)と、契約終了後1年以内の元フリーランスが追加されました。
通報を行ったフリーランスに対して、業務委託契約の解除、取引数量の削減、取引の停止、報酬の減額などの不利益な取り扱いを行うことは、法律で明確に禁止されます。
今回の保護対象の拡大は、企業とフリーランスの双方に影響するため、企業は業務委託契約書の内容を確認し、公益通報を妨げる条項などが含まれていないか見直すことが重要です。
また、公益通報をしないよう求めたり、通報した場合の不利益な取り扱いを示唆したりするなど、正当な理由なく公益通報を妨げる行為が禁止されます。
公益通報をしない旨の合意等も無効となります。
さらに、正当な理由なく通報者が誰であるかを特定しようとする通報者探索も禁止されます。
体制整備義務違反や不利益な取り扱いに対する罰則の強化
常時使用する労働者が301人以上の事業者は、内部公益通報に対応する「公益通報対応業務従事者(従事者)」を指定する法的義務を負っています。
これまで、従事者指定義務違反への行政措置は指導・助言・勧告までにとどまっていましたが、改正後は勧告に従わない場合に命令が出され、命令違反には30万円以下の罰金(両罰規定)が科されます。
さらに、消費者庁による立入検査権が新設され、虚偽報告や検査拒否にも刑事罰が適用されます。
また、不利益な取り扱いの抑止として、通報を理由に解雇または懲戒処分(戒告・けん責等を含む)を行った行為者個人には6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人には3,000万円以下の罰金という直接の刑事罰が新設されました。
加えて、内部通報から1年以内(外部通報の場合は、事業者が通報の事実を知った日から1年以内)に行われた解雇や懲戒は、原則として「通報を理由としたもの」と法律上推定されます。
これにより、民事訴訟では立証責任が企業側へ転換されるため、企業は解雇や懲戒処分が通報を理由とするものではないことを証明する必要があります。
迫り来る40年に1度の大改正に向け備えましょう
労働基準法改正
今、検討されている労働基準法の見直しは、40年に1度の大改正です。施行された場合、企業の労務管理には大きな影響が及びます。今回の先送りを準備期間と捉え、労務管理を見直し、法改正に備えましょう。
2026年12月に向けて企業が整備すべき内部体制
それでは、企業は改正公益通報者保護法の施行に向けて、具体的にどのような対応を進める必要があるのでしょうか。
公益通報対応業務従事者の指定と管理
公益通報に関する情報には、関係者の個人情報など機密性の高い内容が含まれます。
そのため、内部通報体制を整備する際には、法令に基づいて「公益通報対応業務従事者(従事者)」を指定し、適切に管理することが重要です。
従事者とは
「従事者」とは、内部公益通報の受付、調査、是正に必要な措置の全部または一部を主体的に行う者や、その重要部分に関与する者のうち、通報者を特定させる情報(氏名や社員番号など)を取り扱う者を指します。
従事者に該当するかどうかは、部署名や役職名ではなく、実際に担当する業務によって判断されます。
そのため、窓口担当者だけでなく、調査報告を受けて是正指示を出す取締役や内部監査担当者、是正措置を実行する部署の責任者なども、業務への関与の程度や通報者を特定できる情報の取り扱いによっては、従事者として指定する必要が生じる場合があります。
従事者を指定する手順
従事者を指定する場合は、「従事者指定書」などの書面を交付するなど、本人が指定されたことを明確に認識できる方法で行う必要があります。
また、刑事罰を伴う守秘義務(違反時は30万円以下の罰金)が課されることも、本人に明確に伝えなければなりません。
さらに、社内での人事異動の際には、従事者の指定状況を確認し、必要に応じて再指定や守秘義務の再確認を行うルールを定めておくことが重要です。
※参考資料:消費者庁「はじめての公益通報者保護法」
通報窓口の独立性確保と匿名通報環境の整備
通報の対象となる事案に、役員や経営陣が関与するケースもあります。
その場合、通報内容が当該役員などに伝わってしまうと、公正な調査や是正措置に支障が生じるおそれがあります。
そのため、経営陣から独立した通報対応の仕組みを確保することが重要です。具体的には、社外取締役や監査役・監査委員会への報告ルートを設ける方法などが考えられます。
また、役員に限らず、通報の対象者や事案に利害関係を持つ者を調査・是正担当から除外することも重要です。
さらに、通報者が安心して声を上げられるよう、匿名で通報できるメールシステムや、社外弁護士などが対応する外部窓口を設けるなど、通報者が特定されることへの不安を軽減し、安心して利用できる環境を整えることが求められます。
就業規則の改訂
今回の改正を機に、懲戒事由に「内部通報の妨害行為」や「通報者探索行為」を追加するなど、就業規則の改訂が必要になる場合があります。
また、既存の「情報漏洩禁止」や「会社に対する誹謗中傷禁止」といった条項についても、「ただし、正当な公益通報に当たる場合はこの限りではない」といった除外規定を設けるなど、公益通報を不当に制限する内容になっていないか確認することが重要です。
フリーランスなど、保護対象への周知徹底
今回の改正では、正社員や役員などの従来の対象者に加え、フリーランスや契約終了後1年以内の元フリーランスも公益通報者の保護対象に加わります。
そのため、企業はこれらの対象者も内部通報制度を利用できるよう、窓口の連絡先や不利益な取り扱いの禁止、通報後の対応手順などについて、周知方法を見直すことが重要です。
フリーランスへの周知方法としては、業務委託契約の締結時に通報窓口の案内を添える方法などが考えられます。
新たに保護対象となるフリーランスなどへの案内漏れを防ぐためにも、経理・法務部門だけでなく、発注・支払実務を担う部門との連携が求められます。
迫り来る40年に1度の大改正に向け備えましょう
労働基準法改正
今、検討されている労働基準法の見直しは、40年に1度の大改正です。施行された場合、企業の労務管理には大きな影響が及びます。今回の先送りを準備期間と捉え、労務管理を見直し、法改正に備えましょう。
経理・コンプライアンス部門の実務対応
最後に、実務におけるリスクとその対応について解説します。
体制整備を怠るリスク
消費者庁の「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」によると、不正発見のきっかけとして最も多かったのは「従業員等からの内部通報(68.4%)」であり、「上司による日常的な業務のチェック等(44.8%)」や「内部監査(41.9%)」を上回っています(複数回答)。
不正行為を放置すると、発覚時に取引先や消費者からの信用を失い、場合によっては事業の継続に重大な影響を及ぼすおそれがあります。
常時使用する労働者が301人以上の事業者には内部通報体制の整備が義務付けられており、300人以下の事業者は努力義務とされています。
しかし、法的義務がないからといって、自社には関係ないと考えるべきではありません。
不利益な取り扱いの禁止や解雇・懲戒に対する刑事罰、一定期間内の解雇・懲戒に関する推定規定などは、企業規模を問わず適用されます。
そのため、中小企業であっても内部通報体制の整備や適切な運用を怠れば、重大な法的・経営的リスクを負う可能性があります。
※参考資料:消費者庁「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査 報告書」
経理部門が意識すべき会計不正リスクと証拠保全
では、経理部門では具体的にどのような対策を進めるべきでしょうか。
証拠データの即時保全
着服・横領、経費の不正精算、粉飾決算といった会計不正の痕跡は、日常的に数字や証憑を扱う経理部門に集まりやすいと考えられます。
会計不正に関する通報や相談を受けた場合は、まず証拠データを速やかに保全することが重要です。
会計システム上の仕訳ログ、承認履歴、電子証憑、銀行振込データなどを適切に保全し、改ざんや消去を防ぐための対応を実施します。
アクセス権限の最小化と管理
関連するデータについては、アクセス権限を必要最小限に制限し、適切に管理することも重要です。
通報対応に関する情報や調査資料を閲覧できる者を、従事者など業務上必要な関係者に限定し、可能な限りアクセスログを記録できる体制を整えます。
これにより、業務上必要のない者への情報共有や情報漏洩を防ぎます。
推定規定への備え
改正後は、解雇・懲戒に関する推定規定への備えも欠かせません。
通報後の解雇・懲戒や人事評価について、通報への報復と疑われないよう、評価シートや会議録などの客観的根拠を文書で保管し、通報の事実が不当に人事判断へ影響しない体制を整えることが重要です。
国の導入支援ツールと公式相談ダイヤルの活用
消費者庁では、企業の内部通報制度の円滑な導入・見直しを支援するため、ウェブサイト「はじめての公益通報者保護法」で「内部通報制度導入支援キット」を公表しています。
支援キットでは、民間事業者向けの内部規程サンプル、対応マニュアル、通報受付票の例、役員・一般従業員向けおよび従事者向けの研修動画などが無償で提供されており、内部通報体制の整備に活用できます。
公式相談窓口
| 窓口名称 |
消費者庁 公益通報者保護制度相談ダイヤル |
| 電話番号 |
03-3507-9262 |
| 受付時間 |
平日 9:30~12:30、13:30~17:30 (土日祝日・年末年始を除く) |
※個別の通報を受け付ける窓口ではなく、公益通報者保護法の解釈や制度、通報先などに関する相談に対応しています。
※参考資料:消費者庁「はじめての公益通報者保護法」
なお、内部通報窓口への通報が1件もないからといって、不正がないとは限りません。
従業員が、通報内容が社内に漏れて不利益を受けるのではないかと不安を感じている可能性もあります。
そのため、経営トップが通報者の保護を約束し、安心して通報できることを定期的に発信することも重要です。
また、通報件数や是正措置の実施状況など、運用実績の概要を個人が特定されない範囲で定期的に社内共有し、制度に対する信頼性を高めることも有効です。
※本記事の内容は掲載日時点での情報です。
迫り来る40年に1度の大改正に向け備えましょう
労働基準法改正
今、検討されている労働基準法の見直しは、40年に1度の大改正です。施行された場合、企業の労務管理には大きな影響が及びます。今回の先送りを準備期間と捉え、労務管理を見直し、法改正に備えましょう。
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今回の公益通報者保護法の改正では、通報者の保護強化や罰則の新設などにより、企業には内部通報体制の適切な整備・運用が一層求められます。
単に通報窓口を設置するだけでなく、従事者の指定・管理や通報者の秘密保持、フリーランスを含む関係者への周知など、実効性のある体制づくりが重要です。
2026年12月1日の施行に向けて、消費者庁が公表している資料や支援キットも活用しながら、社内体制の点検と必要な見直しを進めましょう。